【連帯保証人の責任は、契約更新時に署名しなくても継続される】覚えておきたい、最高裁判断について

最近では賃貸契約時において、家賃債務保証会社を利用することが一般的になりました。

それに伴い、連帯保証人が求めるケースは減少しています。

しかし、賃借人の属性によっては、保証会社と連帯保証人の両方を求められるケースもあります。

国土交通省が令和3年に公開した資料では、家賃債務保証の利用率は約8割でした。

しかし、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が定期的に発信している情報を見る限り、利用率は9割を超えていると見られます。

家賃債務保証業

家賃債務保証会社は主に家賃回収などの「お金」に特化しています。

当初は、連帯保証人を用意できない方向けの代替手段として機能していました。

そのため、家賃債務保証会社を利用すれば連帯保証人を不要としているケースが大半でした。

しかし最近では、心理的抑止力を目的として、保証会社の利用と併せて連帯保証人を求めるケースも見られます。

賃貸住宅の斡旋時に、賃借人から「なぜ保証会社と連帯保証人の両方が必要なのか」と詳しい説明を求められるケースもあります。

しかし、その部屋を借りたいのであれば提示された条件に従うしかありません。

嫌なら他を探すしかないからです。

連帯保証人は保証人とは異なり、催告・検索の抗弁権を有しません。

そのため、依頼する側も責任の範囲を理解する必要があり、引き受ける側もリスクを覚悟する必要があります。

通常は親や兄弟、親戚などの身内に頼むのが一般的です。

しかし実務上、トラブルが発生して契約書を見ると、借主と連帯保証人の筆跡が同じで、印鑑も三文判で押されていることが少なくありません。

連帯保証人に連絡しても、「覚えがない」と言われることも多いのです。

保証と連帯保証の違いについては、宅地建物取引士試験に出題されることも多いので、基本は理解されていると思います。

しかし、令和2年4月1日に改正民法が施行され、賃貸契約の保証人が個人の場合には、文章で極度額(責任を負う上限額)を定めることが義務付けられています。

それにより旧法と改正法の違いについては正確に理解しておく必要が生じ、さらに連帯保証人の責任範囲や賃貸契約更新時の取り扱い方についても同様に理解を深める必要が生じたのです。

今回は裁判例を紹介しつつ、連帯保証について改めて学んでいきたいと思います。

覚えておきたい根保証契約の範囲

保証人の責任については民法第446条第1項で、「保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う」と定められています。

つまり、保証人を立てる契約の全てが「保証契約」となるのです。

したがって連帯保証契約も保証契約の一環です。

ただし連帯保証契約は催告・検索の抗弁権がない、つまり主債務者に財産があるかどうかに拘らず支払いが求められたり、財産が差し押さえられたりする点で違いがあります。

保証契約とは

連帯保証契約の基本は「根保証契約」です。

つまり、一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約なのです。

複数ヶ月滞納された賃料はもとより、介護施設の入居費用や施設内で事故が発生した場合の賠償金など、連帯保証引き受け時に想定していなかった主債務の全てについて、主たる債務者と同様の責任を負うのです。

根保証契約

将来的な主債務の額など予想できるわけがありません。

それにも拘らず、一定の範囲に属する不特定の債務の全てを保証しなければならないのが、根保証、つまり連帯保証契約なのです。

これでは連帯保証人の責任が重すぎるという観点もあり、極度額(上限額)の定めがない個人の根保証は「無効」とする改正法が、2020年4月1日に施行されました。

極度額の定めのない個人の根保証契約は無効

改正法では、個人が保証人となる根保証契約において、保証人が破産したときや、主債務者又は保証人が死亡した場合については、その後に発生した主債務は保証対象外とすることが定められています。

もっとも、改正前に締結された根保証契約については適用されないので注意が必要です。

契約更新時に連帯保証人の署名・捺印は必要か

賃貸契約の期間は2年が一般的です。これは、契約方式のほとんどが「普通借家」であることも関係しています。

普通借家契約では、当事者の協議により契約を更新できるとしたものが大半です。

また、更新を「自動」としているケースも多く、その場合、賃貸人または管理会社から1ヶ月以上前に申出がない場合、もしくは賃借人から同一時期までに解約の申出がされなかった場合は契約が自動更新されます。

それでは契約書に、契約更新時における連帯保証人の責務等が記載されていない場合、もしくは更新契約書に連帯保証人の署名・捺印がされていない場合、保証責務は継続されるのでしょうか。

これについては、平成9年11月13日の判例が参考になります。

この裁判は、更新時に連帯保証人の署名・捺印はもちろん、保証意思の確認も行われておらず、かつ明示的に連帯保証人を引き受けることに了承していなかった連帯保証人にたいし、請求された滞納賃料の支払い義務があるかについて争そわれた事件です。

原告である賃貸人は、「更新契約に署名・捺印したか否かは関係ない」と主張しました。

これに対し被告(連帯保証人)は、「当初の契約にしか署名・捺印しておらず、かつ更新前の契約と更新後の契約との間には法的同一性はない。また更新に際して保証意思を問い合わされたことも、継続して保証人になることについて明示的に了承したこともなかったのであるから、賃料不払いについて責任を負う必要はない」と反論しました。

平成9年11月13日,判例

さらに被告(連帯保証人)は、「仮に責任を負うにしても、長期間にわたり賃料の不払いを放置している状態について連絡されていない。その結果、滞納額が増大しているのだから、請求は信義則に反する」とも主張しました。

一審の神戸地裁は「更新前の契約と更新後の契約との間には法的同一性はない」との被告の主張を認め、特段の事情がない限り更新後の契約に及ぼないとしました。

しかし、二審の大阪高裁で判断が覆り、被告(連帯保証人)に支払の責任があると判決されました。

事件は最高裁に持ち込まれますが、最高裁判所は二審判決を支持し、滞納賃料の支払いを認めました。

判決における論旨は以下のとおりです。

①建物の賃貸借は、期間の定めの有無にかかわらず、相当の長期間にわたる存続が予定された継続的な契約関係である。

②期間の定めがある賃貸借契約においても、貸主は正当事由がない限り更新を拒絶できない。したがって契約が更新されるのは普通であるから、保証人は当然に継続が予測できる。

③保証責任について特段の定めがされていない場合であっても、反対の趣旨を伺わせるような特段の事情がない限り、更新後の賃貸借から生じる債務についても保証の責を負う趣旨で保証契約したものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致する。

以上の判断から被告(連帯保証人)には、滞納家賃の支払いが命じられたのです。

ただし最高裁は、「借主が継続的に賃料の支払いを怠っているにもかかわらず、貸主が、保証人に連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させている場合には、信義則に反するとして否定される場合もある」と釘を指しています。

この最高裁判決が不動産業界に与えた影響は大きく、現在では不動産保証協会等から提供されている居住用建物賃貸借契約書には、約款でその旨が記載されています。

連帯保証人

さらに先述したように、2020年4月1日からは極度額(上限額)の定めがない個人の根保証は「無効」とする改正法が施行されています。最新の契約書ではその旨も盛り込まれています。

連帯保証人,極度額

しかし改正前に賃貸借契約が締結され、現在まで更新されている契約についてこの定めは適用されません。

したがって更新契約書に極度額を記載する必要はないのです。

連帯保証人の責任は署名・捺印の有無によらず存続され、上限のない保証契約、つまり改正前の定めが有効となるのです。

まとめ

民法改正により連帯保証人にたいする極度額が定められましたが、これは改正後に締結された賃貸借契約のみに適用されます。改正前の賃貸契約にまで適用されません。

改正前に締結された賃貸契約の連帯保証人にたいしては、従来どおり上限のない保証責務が継続します。

一般の方は、保証と連帯保証の違いについて正確に理解しているとは限りません。

実務上では、賃借人にたいし「連帯保証人が必要なので、お身内の方などに頼んで署名・捺印をもらってきてください。それと、連帯保証人の印鑑証明もお忘れなく」と依頼することが多く、保証内容について詳しく説明していないケースが散見されます。

しかし、保証の趣旨を勘案すれば、詳しい説明が必要なのは当然です。

また、極度額についても注意が必要です。

一般的には賃料の2年前後で設定されていますが、上限について具体的な定めはありません。

しかし、あまりにも高額にした場合、公序良俗に反するとして無効とされる可能性があります。

さらに最高裁は「保証人に連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させている場合には、信義則に反するとして否定される場合もある」と示唆しています。

したがって、家賃未払が発生した場合には、滞納が続いて高額とならないよう、こまめに連帯保証人へ連絡する必要があります。

いずれにしても、私たちは保証責務について問題が生じないないよう備える必要があるのです。

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