【顧客とのトラブルを防ぐ鍵はコレ!】理解しておきたい、打ち合わせ記録の重要性と反論力

「言った言わないは決着がつかない」-これは営業マンに限らず、社会全般で広く理解されている概念です。

このようなトラブルが生じた際、相手方がよく口にするのが「疑うなら証拠を見せてみろ」との主張です。具体的な証拠を提示できれば良いのですが、証拠がない場合、立場が強く発言力のある方が有利になることが多く、カスタマーハラスメントなどはその典型だと言えるでしょう。

司法の場でも、証拠の有無は極めて重要です。検察が起訴するかを判断する際、状況証拠と供述の両方を重視します。特に供述が得られると、公判を維持する上で有利になるため、その重要性が高いのです。

日本の司法裁判において有罪率は99.9%(否認事件は97.3%)となっています。このように他国と比較して高い数値であるのは、公判が維持できないと判断される事件が不起訴とされるからです。

不起訴には「嫌疑なし」、「嫌疑不十分」、「起訴猶予」の3種類がありますが、大半の報道では「不起訴処分とした」とのみ報じられ、具体的な理由が明かされることはほとんどありません。大概は「地検は理由をあきらかにしていない」とだけ報じられます。

しかし、「嫌疑なし」と「起訴猶予」には大きな違いがあります。起訴猶予は、公判を維持できるだけの証拠が揃えられない、もしくは供述が得られていない場合に、捜査官の心象が真っ黒であっても起訴が見送られる状態です。一方で、「嫌疑なし」は犯人でないことが明らかな場合、もしくは犯罪を証明する証拠のないことが明らかな場合であり、その差は天と地ほどの違いがあるのです。

近年では、事件の約7割が不起訴処分とされているとのデータもあり、これが日本の高い有罪率が維持する要因の一つとなっています。

もっとも、私たちは司法のように供述を重視する必要ありません。顧客から根拠なき理由で詰め寄られた場合、事実でないことを証明するか、書面で説明していることを示すエビデンス(この場合、反論内容の信憑性を担保するための証拠)を提示できれば、問題の解決も早まります。

そのために有効なのが、「打合せ記録」です。

今回は、記録があったことでトラブルを回避できた裁判例を紹介し、なぜ徹底して記録を残す必要があるのかを解説します。

売主にたいし、マンション駐車場の確認をしたとの主張が否定された事例

東京地裁で令和4年2月に判決された裁判例を紹介します。この事件は、新築分譲マンションの購入契約をした買主(原告)が、新たに自動車を購入するにあたり、営業担当者に、駐車できるかどうかを確認したところ可能であるとの回答を得たものの、実際には駐車できなかったことにより、錯誤による売買契約の無効と手付金の返還を売主に求めた事案です。

これは新築分譲マンションに限らず、中古マンションでも多く見られる、機械式駐車場の車両サイズに関するトラブルです。

原告はマンションモデルルームに訪れた際、営業担当者から機械式駐車場の規格等が記載された案内書面を受領しました。購入申込時には、原告が当時乗っていた自動車の車検証を提示しています。その後、原告は自動車を買い替え、納車待ちの状態でしたが、物件が竣工し、駐車場の抽選申込み及び内覧会の案内文章が送付されてきた時点で、買い替えた自動車が駐車できないことに気付きます。

そこで物件担当者と、「購入した自動車を駐車させられることが、契約の前提条件であった」などのメールをやり取りしますが折り合いがつかず、原告はメールで売買契約の解除意思を表示しました。

しかし被告(分譲会社)はそれを認めず、所有権移転登記手続きなど引渡の準備を進めると同時に、残金の支払いを催促しました。そこで原告は、「新自動車が駐車できるとの回答を得たから売買契約を締結したが、実際には駐車できなかった。したがって、契約は錯誤により無効である」と主張して提訴したのです。

これに対して被告は、「申込登録時点で自動車を乗り換える話しがされたこと、及び新たに購入した自動車が駐車できるかどうかの確認が依頼され、それに対して担当営業が可能であると回答した事実は存在しない」と、真っ向から反論しました。

結論から言えば、裁判所は原告の主張を棄却しました。

裁判所は、原告が主張した①モデルルームを訪れた際、物件担当者に対し、買い替えた車が駐車場に駐車可能かを確認するよう依頼した、②買い替えるので無意味だと主張したが受け入れられず、車検証を提示した、③電話で新車が駐車可能であるとの回答を得たとの供述及び陳述書について、いずれもそれを裏付ける客観的かつ的確な証拠はないと判断したのです。

また、メールのやり取りについても、「同サイズの車種に乗り換え」と記載されており、車体サイズの違いについて言及されていない点を指摘しています。そもそも原告自身が同サイズと認識していたからこそ、物件担当者は買い替え前の自動車の車検証について提示を求めたのであり、そうでなければそのような要求自体、合理性に欠けるからです。

裁判所は、原告が車体サイズの違いに気付いた後、売買契約の解除及び手付金の回収を意図して、従前のやり取りにつき、徐々に車体サイズの違いやその確認を当初から行っていたと主張するようになったと推察しました。

この事案では、メールのやり取りが保存されていたことにより、原告の主張を退けることができました。もし証拠がなければ、原告が勝訴していた可能性は否定できません。

解説するまでもなく、消費者と供給側では、消費者保護の観点から供給側に不利な判断が下される場合が多くあります。したがって、契約当事者の要望等について調査し、回答する場合には、後日発生するトラブルを防止する観点から、メールやSNS等のやり取りはもちろん、打ち合わせ記録や営業日報などにより、ことの経緯や回答内容を記録・保存しておくことが重要なのです。

打合せ記録を作成する際、抑えておきたいポイント

字が下手だからとか、文書を書くのが苦手だからとかの理由で打ち合わせ記録を作成しない営業マンは多いものです。しかし、人間の記憶は、自身が思うほど優秀ではありません。

ドイツの心理学者であるヘルマン・エビングハウスが提唱した「忘却曲線」によれば、人間は20分で42%を忘れ、1時間後に56%、1日後には74%忘れてしまうとされています。さらに、1週間後は77%、1月後には79%忘れてしまうとされているのです。

無論、年齢や個人差もあるのでしょうが、米国ブラウン大学の認知心理学者スティーブ・スローマン教授の説によれば、人間の記憶容量はせいぜい「1GB」、つまり1,000円未満で販売されているUSBメモリの1/32程度しかないのです。したがって、記憶力を過信せず、記録することが重要です。

例え記憶が確かでも、相手から「証拠を見せてみろ」と言われた際には、記録がなければ証明のしようがないため、トラブルの発生を未然に防止する方法として記録に勝るものはありません。

記録方法として、携帯電話などのメモ機能を利用することはあまりお勧めできません。個人の覚書としては有効ですが、自由に改ざんできるため証拠能力が乏しいからです。メールやSNSの履歴であれば日付をはじめ内容も記録されるため問題ありませんが、それ以外の場合は、手書きを優先しましょう。

打ち合わせ記録を手書きで残す場合、記載内容を読み上げて確認を求め、さらに署名をしてもらい控えを渡す配慮が必要です。

以下は、手書きで打ち合わせ記録を残す際のポイントです。

①記録用紙は複写式を利用する。

手書きした打ち合わせ記録をコピーすることも可能ですが、顧客宅で交渉する際は現実的ではありません。プリンターのある家庭なら、それを借りて複写することも可能ですが、準備不足を指摘される恐れがあります。

市販の便箋にカーボン用紙を挟んで使うことも可能ですが、カーボン不要の専用打合せ記録用紙が様々な文具メーカーから販売されており、一冊、500~700円程度で購入できます。営業マンの常備品として備えておきたいものです。

②簡潔・順番・丁寧さを意識する。

打合せ記録は作文ではありません。ましてや、感動を与えるような比喩的表現も不要です。必要なのは、打合せ内容が簡潔に記載されていることです。以下の項目が確実に記載されていれば、要件を満たします。

◯作成日
◯場所(打合せを行った場所)
◯参加者
◯議題
◯決定事項
例:◯区◯番地の中古物件を、現行価格から100万円減額した額で買い付けることにした(A様)
例:売主から減額の了承が得られなくても、遅滞なくA様に連絡して判断を仰ぐ(弊社)
例:手付金は300万円とする(A様)
例:融資については〇〇銀行を利用する。そのため、ローンセンターにたいし事前審査を行う(A
例:融資必要書類については、◯日の◯時にA様邸に訪問して受領する(弊社)

◯議論・保留・懸案事項
例:契約前にインスペクションの実施を希望するが、売主の協力が必要なため買付証明にその旨を記載するに留める。ただし、決済後にインスペクション実施を検討するかどうかは再度検討する(A様・弊社)
例:減額が容認されなかった場合、契約をどうするか(A様)
例:売主の承諾が得られない場合、決済後のインスペクション実施を検討する(A様)
例:担当者は速やかにインスペクション実施費用の見積もりを取得し、A様に提示する(弊社)

◯次回商談予定日

③打合せ記録は時系列で、顧客ファイルで保管する。

コクヨが2022年に行ったアンケート調査によれば、一日に「探し物」に充てる時間は平均13.5分とされています。これは年間に換算すると54時間にもなります。

時間を無駄にしないためにも、整理整頓が大切です。クリアファイルでの保管は有効ですが、不動産業務の場合、契約書や重要事項説明書を始めとして紙の保管量が多いため、簿冊式やバーチカルタイプ(挟み込みスタイル)、蛇腹ファイルなどで整理する方が多いでしょう。

また、持ち歩きの困難さや紛失による情報漏えいを防止するため、業務に必要な書類だけをクリアファイルに入れて活用する方が多いでしょう。しかし、一日に複数件の業務を並行してこなすのが一般的ですから、クリアファイルの中身が混じったり、クリアファイル自体を置き忘れたりしてヒヤリとした経験がある方も多いのではないでしょうか。

そのため、打合せ記録などをスキャンしてデータ保存しておくことが重要です。最近では顧客管理アプリの機能も充実していますし、たとえば不動産会社のミカタからも、「不動産会社におすすめの顧客管理システム15選」といったコンテンツが提供されています。

不動産会社におすすめの顧客管理システム15選まとめ

優れた機能を有しているアプリを採用しても、使いこなせなければ意味がありません。記録を残すメリットは、トラブル防止だけではないからです。

具体的には以下のようなメリットが得られる必要があります。

◯情報共有:チームメンバーや上司との情報共有
◯業務効率化:過去の交渉履歴を、迅速に検索できる
◯証拠能力:トラブルが発生した際、証拠として提示できる

これらを踏まえたうえで現状の業務内容や保管方法なども吟味し、使い勝手の良いアプリの採用を検討すると良いでしょう。

まとめ

今回は、打合せ記録の重要性と、その管理方法について解説しました。今後、紙資料での保管はさらに減少する傾向にあるでしょう。

しかし、どれだけDX化が進んでも、手書き書類やその他のアナログ手法との共存は不可避です。これは、顧客の大半が個人であり、商談が必ずしも事務所内で行われるとは限らないためです。

デジタル化を進めることで、ある程度まで紙資料の持ち歩きを削減することは可能ですが、完全に移行するには時間がかかります。

また、最近ではクレームがLINEやその他のSNSを通じて寄せられることが増えていますが、SNSでのやり取りは時に感情を逆撫でし、それにより解決が困難になる場合も少なくありません。

そのため、重要な交渉事ほど対面で行うのが効果的なのです。対面での交渉時においては、その内容を端的に記載し、当時者双方がその履歴を保有することで勘違いや、後日紛争を未然に防止することが可能になります。

「記憶より記録」、これを念頭に業務を遂行していきたいものです。

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