【負動産の発生防止に秘策あり!】覚えておきたい、エンディングノート活用術

日本で少子高齢化が進行する中、出生率の低下ばかりが注目されがちですが、例えば令和5年の死亡者数が157万5936人と過去最高を記録している点はあまり注目されていません。

高齢者のうち75歳以上の割合が上昇する「多死化」が進行しており、今後も増加傾向が進むと予想されています。

このような背景から、より良い最後を迎えるための「終活」が2010年頃からブームとなりました。かつて、出生率が高い時代には親の介護や死後の手続きなどについては複数の兄弟や親戚などが分担して行うのが一般的でしたが、少子化により個々の負担が重くなり、このような協力関係を望むこと事態が難しくなりました。

介護ビジネスが盛況なのも、この傾向が反映されているからでしょう。

また、住まいに関しても親が地方、子が都市部に居住しているケースが増えています。このような場合、相続した土地や家屋が管理されず放置されることが多く、地方を中心に管理不全空家が増加する一因となっています、

空家問題の抑制に向け、法整備の強化だけではなく、金融機関と自治体が連携したリバースモーゲージ型住宅ローンの取組や、官民連携による空家バンクの拡充を通じた売買マッチングの最適化、さらには政府による相続土地国庫帰属制度の改善など、様々な対策が実施されています。

私たち不動産業者への相談も増加しており、最近では単なる相続問題だけではなく、終活に関する相談も増加傾向にあります。適切に対応するためには、相続や生前贈与に関する法律や税に関する知識に加え、自筆証書遺言や公正証書遺言の作成に関する知識など、幅広い専門知識が不可欠です。

すでに実務として相続相談等に応じている方ならお気づきのように、被相続人と相続人の間で適切な話し合いが行われていない場合、その調整に時間がかかります。被相続人が健在なうちに所有する不動産の内容を整理し、処分や運用方針が明確にされている状態が理想です。

このような話し合いの際に役立つのが、国土交通省や自治体が提供している「住まいのエンディングノート」です。

筆者も不動産相続や終活相続に応じる際にエンディングノートを提供し、必要事項を記入してもらうようにしています。これにより、「負動産」となる危険性の多くは回避できます。

不動産業者としては、「住まいのエンディングノート」は大いに活用したいものです。

そこで今回は、エンディングノートとその活用方法について解説します。

エンディングノートとは

国土交通省が提供している「住まいのエンディングノート」は、下記URLからダウンロードできます。

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr3_000054.html

エンディングノートの活用を同業他社に推奨すると、「エンディングノートは『死』を連想させるので、顧客に提案するのはどうも……」と躊躇される方もいます。しかし、この認識は誤りです。

エンディングノートは被相続人の人生を整理し、相続トラブルを未然に防止するために有効なツールです。相続で揉める主な原因は、故人の意思が明確にされないまま、法定遺留分に基づく権利が主張されるからです。特に、法的に有効な遺言書が存在していない場合、この問題は顕著に現れます。「遺恨を残さないために必要な対策として提案している」という意図を、私たちはしっかりと伝える必要があるのです。

「住まいのエンディングノート」は、国土交通省以外にも法務省や各自治体から提供されています。これらを比較し、最も使い易いものを選んで利用すると良いでしょう。基本的には、どのエンディングノートも以下の必要情報が記載できるようになっていますので、どれを採用しても問題はありません。

個人情報等
◯氏名
◯生年月日
◯住所
◯本籍:相続相談に応じる際、特に重要なの事項なので書き漏らしに注意
◯電話番号
◯メールアドレス
◯緊急連絡先:関係性(親類、友人、担当医など)が重要

不動産情報
◯所在地
◯共有者・持分
◯賃貸者の場合、貸主・借主に関する情報。賃貸借契約書の保管場所
◯引継事項:隣地境界や越境物、道路関係などの申合せ事項など
◯希望する方針:売却、賃貸運用など

これらの情報がしっかりと記載されていれば、基本的には問題ありませんが、さらに詳しい情報として家系図の記載も求めておくと良いでしょう。

弁護士や司法書士とは異なり、私たち不動産業者は宅地建物取引士の資格を有していても職務上の戸籍謄本取得請求権(職務上請求)はありません。そのため、配偶者や直系血族に取得してもらうしかないのです。この協力が得られない場合、法定遺留分に関する情報を正確に把握することができず、相続相談に十分に対応できない可能性が生じます。そのため、できる限りエンディングノートに家系図情報も記載してもらうことが大切です。

終活相談に応じる際、あらかじめ「住まいのエンディングノート」を渡し、必要事項を記載してもらうことで、相続人との関係性や法定遺留分を把握しやすくなり、相談がスムーズに進行します。

また、エンディングノートには、相続に関する知識を広げるのに役立つ情報が豊富に掲載されています。ノートの内容は提供元の自治体や機関によって変わりますが、例えば神奈川県が公開しているエンディングノートは、「民事信託」、「生前贈与」、「任意後見制度」、「死後事務委任契約」、「自筆証書遺言保管制度」など相続に関連する情報や解説が充実しており、私たち不動産業者も参考になるレベルのものです。

不動産業者の役割

相続に関する問題が裁判でしか解決できない場合には、弁護士への相談が必須となりますが、その前段階では行政相談窓口、司法書士、税理士、行政書士、そして私たち不動産業者など、様々な方々が相談に応じています。これは、相談者が「問題を根本的に解決するには誰に相談すべききか」を理解していない、つまり、問題が正確に把握されていないためです。

物件の売買や賃貸運用に関しての相談であれば私たちの専門分野ですが、実際はその前段階の問題が解決されていないケースが多い。

例えば、相続不動産を売却したいのか、それとも賃貸物件として活用したいのかもはっきりしておらず、相続人間での意見調整もできていない。相談者自身が漠然とした状態で、何から相談して良いのか分からないケースです。以下はその例です。

「将来的に親が暮らす遠方の不動産を相続する予定ですが、兄とは疎遠で、親は私に全て相続させたいと言っています。将来、揉めないようにするにはどのような手続きが必要でしょうか。また、相続後に不動産を所有したままが良いのか、売却した方が良いのか迷っています。どうすれば良いですか?」。

このケースでは、被相続人が存命であり、相続は発生していません。しかも、被相続人が「全て相続させたい」と述べた意図も不明確であり、相談者は疎遠な兄との関係に不安を抱えています。さらに、相続後における方向性についても悩んでいる状態です。

まず明確にすべきは、被相続人の真意です。もし本当に長男を相続人から排除したいのであれば、民法892条に基づいて家庭裁判所に「相続排除」を申立る必要があります。この申立は被相続人本人のみが行えるもので、次のような排除条件が家庭裁判所に認められなければなりません。

◯推定相続人による肉体的、精神的虐待行為が常態化している。
◯日常的な暴言や侮辱行為が確認できる。
◯被相続人の財産を、相続人の承諾なしに処分した。
◯被相続人が多額の借金をして、相続人にそれを肩代わりさせた。

単に疎遠であるとの理由では、認められることがないのです。また、兄に子がいれば、「代襲相続」の問題も考慮する必要があります。

兄に「遺留分放棄」してもらう方法はありますが、これも兄自身が家庭裁判所に申立てる必要があります。つまり、相談者が1人で悩んでも、問題は解決しないのです。

そもそも、被相続人自身の意向がはっきりしていない状態では、進展しないでしょう。

この場合、相談者と被相続人全てが立ち会った上で、それぞれの意見を確認し、相続財産の棚卸しを行い遺産分割協議書を作成するなど、段階的に問題解決を図る必要があります。

最終的に、目的が明確ではない相談の場合、内容を整理し、適切な助言を行うことが私たちの役割となるのです。

エンディングノートを活用するのに必要な知見

「相続相談に適切に対応するには、どのような知識が必要ですか?」これは、よく耳にする質問です。確かに相続相談には、税法、民法、不動産登記法など、幅広い知識が必要ですが、それだけでは不十分です。適切に対応するためには、知識に加えて以下のようなスキルが欠かせません。

◯質問力・理解力・共感力
◯分析力・予測能力
◯計画立案力
◯実行支援力

まず、被相続人や相続人の抱える問題や要望をヒアリングする必要があります。この段階で求められのが、適切な質問を投げかける能力、回答を正しく理解する能力、そして問題に共感し、相談者との信頼関係を築く力です。この際に「住まいのエンディングノート」を活用することで、より具体的な情報を引き出せます。

次に、ヒアリングで得た情報を基に、資産の評価や相続税に関する分析を行い、相続時に発生し得る問題点を予測します。予測されるリスクを排除するために、必要な対策を検討することが重要です。この段階では、法的な知識や実務に精通していることが求められます。

次の段階が、具体的な計画立案です。例えば、被相続人に認知機能の低下が懸念される場合には、専門士業と連携し、「成年後見」、「任意後見」制度の利用を計画する必要があるでしょう。また、被相続人が故人である場合、遺言書の有無に応じた対応が求められます。

最終段階では、実行支援が求められます。通常は、弁護士や税理士などの専門士業とチームを組み、それぞれの分野に応じた業務を遂行してもらいます。私たち不動産業者は、不動産の売却や管理などの実務を担当すると同時に、全体の行程やスケジュール調整を行います。

このように、相続相談に適切に対応するためには、知識だけではなく、幅広い視点に基づくスキルが必要です。これらは一朝一夕で身につくものではなく、日頃の学びと経験の積み重ねが重要なのです。

まとめ

不動産業者、とくに媒介業務を主とする業者にとって、売買や賃貸、管理業務が主要な業務であることは間違いありません。しかし、令和6年(2024年)7月1日に施行された「宅建業者が売買等に関して受けることができる報酬告示及び運用ガイドライン」では、空家相談や管理、コンサルティング業務が正式に明記されました。これにより、不動産業者には従来の媒介業務を超えた役割が期待されるようになってきています。

相続問題に関するコンサルティング業務も、その新たな役割の一環です。私たち不動産業者は「売る・買う」といった従来の業務にとどまらず、不動産に関連する多様な問題解決に対応する能力が求められているのです。

現在、日本の不動産取引は全体的に減少傾向にある一方、宅地建物取引業者の数は増加しています。将来的には、資格の要件がより厳格化される可能性もありますが、最も大切なのはどれだけの実力を有しているかという点です。

今後は、顧客のニーズに応じて、これまで以上に不動産に関する幅広い問題解決を求められる時代が到来するでしょう。それに備えるためにも、相続問題にとどまらず、幅広く不動産関連の知識を学ぶと同時に、実践的なスキルを磨くことが重要になるのです。

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