宅地建物取引士の有資格者数は、2023年度末(2024年3月)時点で118万3,307人に達すると、国土交通省から公表されています。
ただし、有資格者のすべてが不動産業務に従事しているわけではありません。最近の資格ブームの影響で、試験に合格はしたものの、不動産業務に携っていない人も少なくありません。また、資格を持っているからといって、不動産実務に精通しているとは限りません。一方で、長年不動産実務に従事してきた無資格者が、豊富な知識や経験を持ち、高い実務能力を発揮しているケースも多々あります。
重要事項の説明は、宅地建物取引士の専従業務です。この業務は、実務経験の有無を問わず、有資格者しか行うことはできません。国家資格は、特定の職業に従事するための能力や知識を法律に基づいて証明する制度です。そのため、有資格者は「一定の能力や知識がある」とみなされ、その責任は重いといえます。
ただし、物件調査や契約書、重要事項説明書の作成は、宅地建物取引士の専従業務ではありません。取引士の役割は、これらの書類に記載された内容を精査し、その正確性を保障するため署名(記名)を行い、説明を行うことです。
この業務形態ゆえに、契約の際や締結後に記載内容の誤りに気付いて慌てることもあります。契約の段階であれば、正しい説明を行い書面を訂正すれば問題ありませんが、締結後に誤りが判明した場合、どのように対応すべきでしょうか。
今回は、宅地建物取引士になりたての方を対象に、よくある質問や注意点について解説します。
記載内容の誤りに気がついた場合
契約締結後に契約書や重要事項説明書の記載内容に誤りが見つかった場合は、速やかに契約当事者に連絡し、同意を得た上で次の手順を講じる必要があります。
①書面(原本)の訂正を行う。
誤った箇所を二重線で削除し、その上部に正しい内容を記載したうえで訂正印を押します。訂正印は削除した二重線に押印するのが基本です。また、空きスペースに「◯文字削除、△文字追加」と記載します。
②訂正した箇所の説明を改めて行う。
契約締結時であれば訂正と同時に正しい説明を行えば問題ありませんが、締結後に発覚した場合には正しく説明を行った証が必要となります。そのため、別紙で確認書などを準備する必要があります。
③別紙で説明を行った日付、訂正した箇所を記載して署名捺印を求める。
別紙の書式に定めはありませんが、その趣旨から「合意書」、「確認書」などの表題で作成するのが望ましいでしょう。
④別紙には記載ミスによる損害(債権債務)がない旨を盛り込む。
具体的には、「本件記載ミスによる債権債務がないことを確認した」などの条項です。
なお、重要事項説明は購入者に対して行うことが義務付けられていますが、売主に対して説明する法的な義務はありません。ただし、書式には売主の署名捺印欄が設けられ、実務上も売主に記載内容を確認してもらうことが推奨されています。これは購入者への説明の前提として、売主の同意を得ることで取引の透明性を確保するためです。
したがって契約書と重要事項説明書いずれを訂正する場合には、売主と買主双方が所有する原本の訂正が必要とされる点に注意が必要です。
土地は現況に注意
契約書及び重要事項説明書の不動産表示欄には、取引物件を特定するために必要な項目が設けられています。その際、登記簿上の地目だけでなく、現況を正確に記載することが求められます。
例えば、登記簿上の地目が「宅地」であっても、現況が「畑」であれば「地目:宅地(現況:畑)」と記載しなければなりません。
宅地建物取引業法第2条第1号では、宅地を「建物の敷地に供せられる用途地域内のその他の土地」と定義しています。このため、現況が農地やその他の状態である場合には、現況主義に基づきその旨を明示する必要があるのです。また、現況が農地の場合には、農業委員会への許可や届出が必要となる場合がある点にも注意が必要です。
14条地図は確定測量図ではない
「14条地図は地籍調査後に作製されるので、確定測量図と解釈して良いのですか?」という質問を受けることがあります。しかし、14条地図は公図であり、確定測量図ではありません。
ただし、14条地図の作製に基づく地積調査成果図面は、隣地所有者の立会のもとで境界を確定している図面であるため、確定測量図に該当します。この点を混同しないよう注意が必要です。
なお、地積調査図面は、地籍調査を実施した市区町村で保管されています。法務局ではなく、市区町村の担当部署で閲覧や有償公布が可能です。必要な場合は事前に担当部署を確認しておきましょう。
取り壊し予定の古屋でも、記載や説明が必要なのですか?
老朽化した古家が存在する宅地は、現状有姿渡しで取引され、引き渡し後に購入者が解体する場合や、売主による解体、つまり「更地渡し」を条件として契約する場合もあります。
このような場合、当事者間では建物を売買対象と認識していないことが一般的です。しかし、引き渡し時に建物が現存する場合は、当事者の認識にかかわらず建物は売買対象とみなされます。したがって、建物について記載や説明が必要です。
一方で、「更地渡し」の場合は建物が売買対象外となるため記載や説明は不要です。
ただし、解体が履行できない場合に備え、備考欄に解体予定の建物が存在していること、及びその構造、面積、規模を記載して説明することを推奨します。
登記記録欄に収まらりきらない場合
重要事項説明書の登記記録記載事項欄は、少人数の所有者を想定しています。そのため、所有者が多数いる場合には全員の情報を記載しきれないことがあります。
このような場合には、「詳細は別添の登記事項証明書を参照」と記載し、宅地建物取引業法第35条第1項第1号の規定に基づき、登記簿に記載された所有者全員の住所・氏名を説明します。
オーナーチェンジ物件の場合、賃貸借契約(写し)の添付は必須ですか?
原則として、賃貸借契約書の写しの添付が必要です。例外は、特別の事情がある場合のみです。
借地権(使用貸借件)付き土地・建物の売買については、国土交通省の「宅地建物取引業法の運用・解釈の考えかた」においても「権利関係の重要性に鑑み説明が必要」とされています。これに基づき、賃貸借契約書の添付はもちろん、敷金や保証金の額、その取り扱いについても明確にしておく必要があるのです。
第三者が所有する私道についての注意点
原則として、建築基準法第43条但し書き道路(第43第2項第2項)は、建築基準法上の道路には該当しません。しかし、建築基準法第43条第2項第1号の要件を満たしている場合や、建築審査会の同意が得られた場合には、建築基準法上の接道義務を満たす道路とされます。
このような規定が存在するため、短絡的に「再建築が可能です」と説明することは避けるべきです。特に道路の所有者が個人である場合、以下の点について調査が必要です。
- 私道の種類と内容
- 私道の位置
- 私道の所有者
- 通行料の有無と金額
- 存続期間
- 私道の登記の有無
- その他の使用条件
特に通行料については、従前の所有者が無償であったとしても、新たな所有者に対しては請求される場合があります。また、「今後は車の通行を認めない」といった従来とは異なる条件が付される可能性もあります。
第43第2項第2項の道路は建築基準法上の道路とみなされ、建築は可能ですが、私道に上下水道・ガス管などを敷設する場合には私道所有者の承諾が必要です。さらに私道の所有者が建築工事車両の通行を妨害することでトラブルが発生するケースも裁判例で確認できます。
私道所有者の承諾が得られなければ、問題が生じる可能性は高いため、事前の調査を徹底すると同時に、通行掘削同意書の取得は必須といえます。
嫌悪施設までの距離と記載、説明義務
物件周辺に嫌悪施設(騒音、臭気、環境的もしくは心象的に悪影響を及ぼす施設)がある場合、購入動機に影響を与える可能性があるため、説明義務が生じます。しかし、具体的な距離については法的に定められておらず、あくまで個別判断となります。
そのため、近隣に嫌悪施設が確認された場合には、以下の手順を踏むことが推奨されます。
1. 情報提供と現地確認の促し
購入者に施設の存在を説明し、必要に応じて現地で確認してもらう。
2. 契約書や確認書への明記
可能な限り購入者と現地を確認したうえで、確認書もしくは契約書に以下の条項を盛り込むことでトラブルを未然に防げます。
「買主は、本件取引物件の近隣に存在する嫌悪施設を現地で確認し、その存在について売主・媒介業者に異議・苦情を申し述べないことを確認した」
こうした対応は、売主や媒介業者と購入者のトラブルを避ける方法として有効です。
マンションとアパートの区分けに、法的な定義は存在しますか?
結論として、法的な定義はありません。
ただし、「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則」では、第3条において以下のように広告上の区分を定めています。
つまり、鉄筋コンクリート造りなどの堅固な建物で、建物構造上共有部分を除き数個の住居に区分されているものがマンション。それ以外はアパートに区分されているのです。
この区分はあくまで広告のための基準であり、法的な定義ではありません。しかし、広告規制に準じた形で重要事項説明書に記載することで、購入者に誤解を与えない説明が可能となります。
なお、公正競争規約ではそれ以外にも、新築分譲住宅と新築住宅、小規模団地の定義が設けられています。これらの基準に従うことで、広告と説明時の一貫性を保つことが可能になります。
まとめ
今回は、筆者が実務でよく受ける質問の中から、特に重要で押さえておくべきポイントを選び、解説しました。これらの内容は一見すると定型的に見えますが、契約当事者の事情や物件の特性によって対応が異なる場合があります。そのため、基礎知識に加え、特約条項の適用や記載例など、事案ごとの対応力を磨く必要があります。
特に多種多様な事例に対応するには、次の3つが重要です。
1. 経験の積み重ね
実務を通じて得られる知見は、複雑な事案への適切な対応に直結します。
2. 記載例の収集と分析
過去の事例や判例を参考に、適切な記載例を収集し、その背景や意図を理解することで、より的確な対応が可能になります。
3. 学び続ける姿勢
法改正や社会的なニーズの変化に応じて、最新情報を学び続けることで、常に適切な対応ができるようになります。
最終的には、契約当事者の信頼を得るためにも、正確な知識と柔軟な対応力が求められます。これらを日々の実務で意識し続けることが、不動産業務におけるプロフェッショナルとしての成長につながるのです。