現代社会において、住宅に関する「エコ化」はサステナビリティの観点からも重要な課題とされています。
例えば、中古住宅を販売する際に「エコ住宅」と表記すれば、環境に配慮した住宅であるとして顧客から注目されるでしょう。しかし、根拠なくこの表記をしてはなりません。
不動産業者には、「エコ住宅と省エネ住宅は名称が違うだけで同じもの。どちらも断熱性や気密性を高め、エネルギー消費量を抑えた住宅」と誤解している方が多いのです。そのため、省エネ基準に適合しているに過ぎない中古住宅が、「エコ住宅」と広告されているケースが見受けられるのです。
私たち不動産業者は、「エコ住宅」と「省エネ住宅」の違いを正確に理解しておく必要があります。
まず、正式な意味での「エコ住宅」は、環境省が定義する以下8つの基本性能を満たしている必要があります。
②気密
③日射遮蔽
④日射導入
⑤蓄熱
⑥通風
⑦換気
⑧自然素材
さらに、環境省エコハウスモデル事業(21世紀型環境共生型住宅のモデル整備による建設促進事業)においては、住宅の基本性能のみならず建設材料の運搬や製造、建物解体時の廃棄方法に至るまで、LCCM(ライフサイクルカーボン・マイナス)に配慮した計画が求められます。つまり、エネルギー効率だけではなく、環境への影響を最小限に抑えることが求められるのです。
一方で「省エネ住宅」は国土交通省が管轄する住宅の定義で、エネルギー消費量を抑えることに重点が置かれ、具体的には断熱性、日射遮蔽、気密性の3点が重視されます。
したがって、「エコ住宅」は広範囲な環境配慮を含む省エネ住宅の上位概念だと言えるのです。このような観点から、中古住宅の販売時に根拠なく「エコ住宅」と広告するのは許されないのです。
不動産業者は土地や建物の売買、賃貸に精通していますが、建築に関する専門知識を有するわけではありません。しかし、顧客はしばしば不動産営業と建築営業の違いを理解せず、エコ住宅や省エネ住宅に関する質問を投げかけてきます。
「私たち不動産業者は建築のプロではないので、回答は差し控えさせていただきます」と返事するのは正直な対応ですが、顧客によっては知識のない担当営業だと受け取られる可能性があります。
不動産業者には、知識の範囲内で適切に回答することが求められます。さらに、建築基準法の改正による住宅性能の引き上げなどを背景に、住宅性能やサステナビリティが重要視されるようになった現代においては今後の市場性まで見据えた知識の取得が不可欠です。
そこで今回は、エコ住宅とサステナビリティ、これらに関連し不動産業者が理解しておくべき基本と、それによる需要の変化について解説します。
目的はカーボンニュートラルの削減
日本は2020年10月26日、菅内閣総理大臣が「西暦2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と所信表明を行った以降、その実現に向けた取組が受け継がれています。
この目標は、地球規模の課題である気候変動問題の解決に向け、2015年に採択された「パリ協定」に基づき策定されました。しかし、温室効果ガスの削減に向けた国際的な取組は、必ずしも足並みが揃っているとは言い難いのが現状です。
温室効果ガスの主要な原因である二酸化炭素排出量は、中国、アメリカ、インド、ロシアの4カ国、そして欧州連合(EU)加盟国がその大部分を占めています。しかし、カーボンニュートラル化を加速させるための国際的なハイレベルフォーラム、例えば「気候クラブ」には、中国、インドが参加しておらず、アメリカの新大統領がトランプ氏に代わったことで脱退が懸念されています。
参加を表明しない国の大半は、その理由を「温室効果ガスが発生する原因は二酸化炭素によるものではない」としていますが、実際には化石燃料の依存度が高く、削減により国内経済が影響を受けるからです。
しかし、温暖化に関する学術的な研究では、97%以上の論文が人間活動による二酸化炭素排出量の増加が原因とする見解を支持しています。実際、20世紀半ば以降における世界平均気温上昇の半分以上が人為起源の要因による可能性が高いとされており、これを覆えせるほどの根拠は存在していません。
日本における気温の変化についても、2024年の基準値(1991~2020年平均値)に対する偏差は+1.48度であったことが報告されています。
このまま温暖化が進行すればさらに平均気温が上昇し、猛暑日や山火事、洪水、豪雨、大雪、干ばつなど、深刻な環境問題が一層顕在化することが予想されます。
日本の二酸化炭素排出量において、家庭部門の割合は比較的小さいものの、住宅性能の向上やエコ設備の導入は、間接的にエネルギー転換部門の二酸化炭素排出量削減に貢献できます。
さらに、エネルギー消費の削減は、電気代やガス代といった個人のコス削減にも繋がります。
「二酸化炭素排出量の削減は世界的な課題ですから、エコ住宅を選ぶことが重要です」と説明しても、顧客が納得する可能性は低いかもしれません。しかし、「エコ住宅は電気代やガス代が抑えられるため家計に優しく、さらに温度変化も少ないため快適な住環境が実現できます」と説明すれば、より理解が得られやすいでしょう。
エコ住宅は種類が多すぎる
二酸化炭素排出量削減と住宅の関連性について説明すると、「重要性は理解できますが、種類が多すぎてよく分からない」と言った声をよく聞きます。
確かに、概念的なエコ住宅にはさまざまな種類があります。例えば、長期優良住宅、認定低炭素住宅、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、GX志向型住宅、LCCM住宅(ライフサイクルカーボン・マイナス住宅)、スマートハウスなどが挙げられます。
これらの住宅は、いずれも住宅性能を向上させ、エコ設備を導入することによって二酸化炭素排出量を削減するという共通の目的を持っています。しかし、求められる住宅性能や設備、創エネシステム、蓄電池、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の導入条件は、細かな点で異なります。
特に、建築営業であっても、これらの住宅に関する適用条件の違いを正確に理解し、適切に説明できる人は少数派です。日頃建築に直接関与していない不動産営業が、すべてを理解するのは難しいのも理解できます。しかし、2025年4月からはすべての新築住宅に「省エネ基準適合」が義務化され、さらに2030年には「ZEH水準」が最低ラインとなる予定です。
したがって、最低限の知識を持っておく必要があります。
エコ住宅には様々な区分もありますが、性能面に関する基準は「ZEH水準」が基本です。この基準を正確に理解しておけば、後はそれより高いか低いか、さらには省エネ設備の導入がどの程度必要か、創エネシステムの設置は必須か、それ以外に必要とされる要件があるかを把握すれば良いのです。
例えばLCCM住宅の場合、ZEH要件に加えて、住宅のライフサイクル(建築時から廃棄時)における二酸化炭素排出量がマイナスとすることが求められます。
また、GX志向型住宅では、7段階ある等級区分に対してZEH水準(等級5)を超える「等級6」以上が必須とされ、さらに創エネ設備を設置してエネルギー消費量を実質ゼロ以下に抑えることが求められます。
このように、「ZEH水準とは何か」を正確に理解しておけば、その基準に付加される条件を理解するだけで、様々な住宅区分を把握できるようになります。
今後の市場動向の変化
既存住宅市場は、今後、省エネ基準やZEH水準を満たす住宅と、それ以下の住宅とに大別されるようになります。もちろん、建築基準法が改正されたからといって、性能基準を満たさない家が違法建築とされるわけではありません。
したがって、売買時には即座に問題が生じることはありませんが、2025年の建築基準法の改正(4号特例縮小)により、建築確認申請を必要とする一定規模以上の改修工事を行う際には、構造関係規定等が審査され、増築部分には省エネ基準に適合が求められます。
このような改正点は、既築住宅を購入する顧客にとって、判断に影響を与える要因となるでしょう。
宅地建物取引業法では、新築住宅が「住宅性能評価を受けた場合」に第35条書面(重要事項説明書)での説明を義務けています。しかし、それ以外の住宅に対して、性能についての説明義務は規定されていません。従って、性能面で既存不適格に該当するとの説明を怠った場合でも、直ちに説明義務違反を問われる可能性は低いと考えられます。
とはいえ、消費者契約法では「不確実な事項につき断定的判断を提供すること」や、「消費者の不利益となる事実を故意又は重過失によって告げないこと」を禁じています。そのため、住宅の性能について説明を適切に行わなかった場合、これに抵触する可能性があります。
さらに、築年数が同一であっても性能により流通性は変化しますから、査定額にも影響を与えます。「再販時には不利益となる可能性がある」といった点にも説明が必要でしょう。
そのため、私たち不動産業者が性能基準を満たしていない住宅を販売する際には、事前に顧客に対して適切な説明を行い、顧客がその内容を理解したかどうかを確認したうえで契約を進める必要があるのです。
まとめ
「不動産営業に建築関連知識は必要ない」と割り切るのも一つの考え方かもしれません。確かに、宅地建物取引業法は高度な説明責任を求めていません。しかし、これからの時代、不動産営業に求められる理想像は「真のプロフェッショナル」であり、広範な分野に精通し、顧客に対して適切な説明責任を果たすことです。
特にエコ住宅に関しては、税制優遇や補助金、住宅ローン金利の優遇といった支援策があり、要件を満たさない住宅との差別化が進んでいます。このような施策は、性能面に優れた住宅で占有率を高めることを目的としており、言わば「真綿で首を絞める」ような形で進んでいます。
その背景には、世界的規模での二酸化炭素排出量削減という目標があります。
私たち不動産業者がエコ住宅に関する知識を深め、顧客に対して価値のある提案ができるようになれば、社会全体のカーボンニュートラル達成に貢献でき、同時に顧客満足の向上にも繋がります。これを理解して、学び続けることが求められるのです。