不動産価格が、需要と供給のバランスで変動することについて異論はないでしょう。
大型店舗の誘致などは人口におけるカバー率を勘案し、出店計画をおこないます。
鶏と卵の話ではありませんが、大型店舗の誘致に触発され、その利便性から徒歩圏内の住宅地を求める需要が増加して地価があがります。
また新規の大型団地造成計画の場合には、区画割の段階から大型店舗誘致を同時進行で盛り込む場合も珍しくはありません。
大規模な団地造成工事などのプロジェクトに、一般的な仲介業者が計画段階から参入できるケースは多くありませんが、基本的な市場原理として理解を深めておきたいところです。
大型店舗の誘致に限らず、コンビニなど小規模店舗の出店計画も、この人口カバー率に基づき計画されています。
参考図面_三井トラスト_コンビニ人口カバー率公開資料より
大型店舗の誘致に限らず、コンビニなどの小規模店舗でも出店により利便性などのメリットが増加することにより、不動産価格の査定価格に影響を与えるほか購入検討時にも、動機に影響を与える重要な要素の一つになります。
そのような誘致計画が検討されるエリアであるかどうかの「先読み」は、人口変動やその増減理由を分析することにより見えてくるものです。
そのような観点から土地や中古住宅を斡旋する場合にも、たんに顧客が要望するエリアをレインズで検索して資料を渡すといった一般的な手法ではなく、近隣の人口変動率なども提示し、人口増減による土地価格の変動予測などから勘案される将来的な資産性など、顧客とはことなる観点から説明することにより、不動産のプロとして一目置かれる可能性も高くなるでしょう。
人口増減率などは各地方自治体のホームページなどでも公開されていますので、そちらから調べることもできますが、見栄えしない数字やグラフなどで構成されていることが多く、おせじにもビジュアル的に映えるものではありません。
そのような観点から一味違う情報ツールとして、紹介したいのが2021年7月16日から日本経済新聞が「日経ビジュアルデータ」として公開している「ふるさとクリニック_地図で見る人口」です。
「日経ビジュアルデータ」とは?
日経ビジュアルデータとは、日本経済新聞が独自に収集した様々な情報を分析し、ビジュアル的に表現することにより、注目されるニュースを理解しやすくすることを目的として公開されています。
データ解析力や情報の信憑性の確かさから、筆者も不動産調査や記事執筆のための情報ソースとして愛用しているデータです。
トップページへは、下記リンク先から開くことができます。
https://vdata.nikkei.com/
コラムで紹介する「ふるさとクリニック_地図で見る人口」も、この数多くある「日経ビジュアルデータ」の一つですが、私たち不動産業界の人間にも役立つ情報として、様々なビジュアルデータが公開されています。
例えば下記のような解析データですが、これらビジュアルデータは組み合わせにより、売買・賃貸物件の動機付けにも影響を与えるものして活用できます。
●ふるさとクリニック_地図で見る個人住民税
●ふるさとクリニック_地図で見る出生率
●ふるさとクリニック_地図で見る高齢者の医療費
●ふるさとクリニック_地図で見る管理職の女性割合
具体的な確認方法
「ふるさとクリニック_地図で見る人口」は、下記のURLから確認することができます。
https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/regional-regeneration/population-map/
アクセスすると、色付けされた全体日本地図が表示されます。
それぞれの色は過去5年間に増減した人口率をビジュアル化しており、赤などの暖色系が増加、青系の寒色系が減少を表しています。
人口増減率は1985年~2020年までの期間における推移を、5年間隔で確認することができます。
参考までに東京周辺部の人口増減率を、確認してみましょう。
1985年
1900年
1995年
2000年
2005年
2010年
2015年
2021年
数字として人口増減率数を確認しなくても、ビジュアルによる色の変化により視覚的に確認することができます。
得られた情報をどう使う?
このようにビジュアル的に変化を確認できる情報を、どのように不動産ビジネスに活用するかはアイディア次第です。
顧客に提案する資料に盛り込んで、補足説明資料として活用するのもその一つですし、そのほかのビジュアル情報である「ふるさとクリニック_地図で見る個人住民税」と併せて、エリア情報として活用するなどです。
人口変動率をビジュアルで確認すれば、たとえば東京都でも人口が増加している地域は東京都中央区・千代田区など局所的だと分かります。
全体を俯瞰して、増減理由を詳細に調査すれば優れた資料が作成できますし、将来的な人口増(もしくは減)を予測する補足情報としても活用できるでしょう。
そのような視点で都道府県の県庁所在地を中心に人口変動率を確認すると、必ずしもその周辺部の人口が増加していないことに気が付きます。
この地図は、場所を指定してクリックすると1985年以降の人口変動率をグラフで表示する機能を有しています。
一般的に県庁所在地などは都心の中心部に位置しており、その利便性から土地価格も安定し資産価値も見込まれることからマンション業者が血眼で土地を探し、分譲が開始されれば成約率も高く安定して人口率が増加するように考えられることから一局集中的に増加し続けるような印象を持ってしまいますが、必ずしもそうではありませんでした。
たとえば大分県や長崎県のほか複数で県庁所在地周辺人口が減少していました。
人口変動率の根本原因まで調査していませんので、市街地形成計画や供給される土地総量など様々な原因が考えられますが、いずれにしても都道府県により大きくばらつきがあることが確認できました。
またそのような減少している県庁所在地の行政区に、時折、局所的に人口が増加している市町村が見受けられます。
人口増加の要因を調べてみると、地方自治体が独自性のあるまちづくりを標榜して若い世代が興味を示すような情報を発信するなど、移住に興味を示すような独自施策を行っているようです。
移住を検討される方などに情報を提示する場合などには、それらの情報も加味して提案することにより地域制や、必要とされる住宅などについても提案材料とすることができるでしょう。
まとめ
優秀な不動産営業には不動産知識や営業力など様々なスキルが必要とされますが、情報収集や分析力もまた必要な能力です。
とくにインターネットの普及により、情報入手が容易になり一昔前のような情報格差はなくなりました。
ほとんどの不動産関連情報は、一般の方でも簡単に入手できます。
そのような情報格差が少ない時代においてプロを自認するには、単純に情報の入手先を増やすのも一つの方法ですが、得られた情報を、経験や独自の知見により分析して理解しやすく伝える能力がより必要とされます。
そのような意味あいから、今回ご紹介した人口増減率に限らず「日経ビジュアルデータ」で公開されている分析データは、機会があるごとに最新データを確認して、自身の不動産ビジネスに生かしていく材料として活用できるでしょう。