【媒介報酬改正後の注意点】上限請求に関する誤解と適切な対応

2024年7月1日に宅地建物取引業者の報酬規定が改正され、800万円以下の低廉な住宅に対する媒介報酬の上限が最大で33万円に引き上げられました。報酬規定の改正は6年ぶりで、売買特例の拡充に加え、長期間、空家状態である賃貸にたいしての報酬も引き上げられました。

しかし、この改正以降、筆者のもとには「媒介報酬の引き上げが義務化されたと言われ、200万円の物件の媒介報酬として33万円請求されたが、媒介契約書にそのような金額の記載はされていない。応じる必要はあるのか?」という相談が数多く寄せられています。

これは、「低廉な空家等の特例」を利用できる条件と、媒介契約の更新に関する規定が正確に理解されていないことが原因と考えられます。

まず媒介契約の種別によらず、契約を更新する場合には以下の要件を満たす必要があります。

①当事者双方が合意していること。
②有効期間を更新する際は、媒介業者が文書等で依頼者に対しその旨を申し出ていること。

上記要件を満たしたうえで、媒介契約の内容に別段の合意(本体価格、媒介報酬の額など)が示されない場合、従前の契約と同一内容の契約が成立したとみなされるのです。

重要なのは、媒介契約の種別にかかわらず、媒介報酬の額が変更された場合には原則として媒介契約書を締結し直す必要があるということです。

「低廉な空家等の特例」を利用するためには、媒介契約の締結に際し、あらかじめ上限の範囲内で報酬額について説明し、依頼者の合意を得る必要があります。

そのため、媒介契約の締結もしくは更新の際に、あらかじめ依頼者に対して「低廉な空家等の特例」に基づき上限額を請求する旨の説明を行い、合意を受け、その具体的な額を媒介契約書に記載した場合に限り、媒介業者はその額を請求できるのです。

したがって、適切な手続きを経ていない支払いの請求に依頼者は応じる必要はないのです。

トラブルの原因としては、媒介報酬上限額の引き上げという言葉ばかりが先行し、媒介契約の更新要件や報酬額の変更に関する理解不足があると考えられます。また、「正直に説明すれば断られる」との思い込みから、「上限額が引き上げられたので、それに基づき請求します」といった請求方法にも問題があるのかも知れません。

そこで今回は、おさらいの意味もかねて媒介報酬の請求権と上限について検証していきます。

低廉な空家の定義

改正法において「低廉な空家等」とは、売買に係る代金の額、または交換に係る宅地または建物の価格が800万円以下の宅地または建物と定義されています。

定義には、空家だけではなく居住中の家屋や宅地、更地も含まれる点が特徴です。

特に留意すべきは、「低廉な空家」の定義や適用対象となる媒介について、従前と改正後で大きな変更があった点です。

改正前は通常の売買物件等と比較して、現地調査等の費用を要する特定物件であることが要件とされていましたが、改正後は広範な不動産が対象となり、特例の適用範囲が拡大しています。

中でも、売主と買主双方から受ける報酬の額が引き上げられたことは大きな変更点です。

しかし、そこで問題となるのは「あらかじめ報酬の額について依頼者に説明し、合意を得ることが条件」とされている点です。売主に対しては、売り出しを開始する前に媒介契約の締結が不可欠ですから、その点について問題とならいでしょう。しかし、買い依頼については、媒介契約の締結時期に悩むことがあります。初顔合わせの際に媒介契約を締結するのが理想ですが、いきなり契約書を提示し署名を求めると、「貴方のところで購入すると決めたわけではないのに」と拒否される可能性があります。

媒介契約の趣旨と、業者の義務と責任について説明し了解を得た場合においても、他の業者に重ねて依頼できることを想定して一般媒介で締結するのが一般的です。しかし、その際には依頼者の予算をしっかりと把握し、低廉な空家等に該当する場合には、媒介報酬について事前に説明する必要があります。

多くの依頼者は、媒介報酬は契約額に基づいて計算されるという基礎的な知識を持っています。そのため、100万円の物件と600万円の物件に対して同じ報酬額が請求されると説明しても、納得を得るのは難しいでしょう。そのため、先述したように「法律が改正されたので33万円が報酬額となります」という言い回しが行われているのかも知れません。

しかし、規定された媒介報酬額はあくまで上限であり、当事者間で協議し調整できることについては、多くの方が理解しています。

そのため、事前に報酬額について説明せずに上限額を請求すれば、トラブルが生じる可能性があるのです。

諾成・不要式との関係性

民法において、媒介契約は依頼者と宅地建物取引業者の口頭により成立する、諾成・不要式の契約方式とされています。諾成契約とは、双方が合意した時点で成立する契約であり、書面による契約締結は必須とされていません。

例えば、「所有物件を売ってください」や「あの物件を購入したいのですが」といった口頭の依頼に対して、宅地建物取引業者が承諾すれば媒介契約が成立したことになります。

しかし、媒介契約書の作成が成立要件ではなくても、将来的なトラブルを防ぐためには契約書を作成することが必須です。そもそも、宅地建物取引業法第34条2では、「媒介契約を締結したときは遅滞なく書面を作成して記名押印し、依頼者に交付しなければならない」と規定されています。

よく、一般法である民法と、宅地建物取引業法などの「特別法」どちらが優先されるかという質問を受けることがあります。一般法と特別法が競合する場合、特別法が優先されるという原則があります。「特別法は一般法に優先する」という法格言があるように、法律の世界でもその考えが広く受け入れられています。

では、消費者契約法と宅地建物取引業法のように、両方が特別法である場合はどうでしょうか。その場合、消費者契約法が優先されます。これは、「後法優先の原則」が働くためです。

後法優先の原則とは、先に施行された法律に規定されていない、あるいは競合する規定が存在する場合、後法を優先することが立法者の意図にそうだろうという考えかた、つまり「法適用順位の判断手法」によるものです。

宅地建物取引業法の施行が1952年(昭和27年)8月1日であるのに対し、消費者契約法は2001年(平成13年)4月1日ですから、法適用順位において消費者契約法が優先される理由がお分かりいただけるでしょう。

宅地建物取引業法は、媒介業務を業として行う者を規制し、それによる取引の円滑化を目的としていますが、消費者契約法は事業者と消費者との契約全般に適用されます。そのため、たとえ民法や宅地建物取引業法で禁止されていない行為であっても、消費者契約法の規定に反するとして、不当な契約条項や不適切な勧誘行為は無効とされる可能性があるのです。

この理解を踏まえて、媒介報酬について考えてみましょう。媒介報酬は宅地建物取引業法第46条で定められています。具体的には、以下のように規定されています。

第46条

宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる。

2 宅地建物取引業者は、前項の額をこえて報酬を受けてはならない。

3 国土交通大臣は、第一項の報酬の額を定めたときは、これを告示しなければならない。

4 宅地建物取引業者は、その事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、第一項の規定により国土交通大臣が定めた報酬の額を掲示しなければならない。

「低廉な空家等の特例」は国土交通大臣の定めですから、説明の有無によらず請求権があると誤解されがちです。しかし、この規定は、宅地建物取引の仲介報酬契約のうち、報酬告示所定の額を超える部分について効力を否定し、その範囲を規定することで、一般大衆を保護する趣旨の条項です。

しかも、宅地建物取引業者が受領できる報酬の上限が定められているだけであり、「当然に最高額の請求ができる」と規定しているわけでもありません。

「低廉な空家等の特例」に基づく報酬を請求する場合には、事前に承諾を得ることが不可欠なのです。さらに、承諾を証するため媒介報酬の額については、その具体的な金額が記載された媒介契約書(更新・変更の場合は合意を証した書面でも可)を作成し、署名(あるいは記名)・捺印することが必要です。

法改正により上限が引き上げられていても、適切な手順を踏まずに請求した場合、宅地建物取引業法違反を問われる可能性があるのです。

まとめ

媒介報酬改正前に実施されたパブリックコメントにおいて、報酬引き上げに反対する意見が多数見受けられました。反対意見の趣旨としては、「宅建業者の既得権益を強めるのみであり、空家等の流通は促進されない」といった内容が多く、また一部では「800万円が低廉な住宅といえるのか」という、上限額についての疑問も呈されていました。

これに対し国土交通省は、担い手の偏在を解消し低廉な空家の流通を促進するためには報酬上限を見直しが不可欠であると説明したうえで、「特例に基づく報酬を受ける場合には、媒介契約の締結に際しあらかじめ、依頼者に報酬額の範囲を説明し、合意する必要があることに留意するよう、注意喚起をおこなっていく」と回答しています。

このような背景を踏まえて改正された宅地建物取引業法において、事前に説明をせず特例に基づく媒介報酬を請求してトラブルになった場合には、厳格な措置が講じられる可能性があります。

特例に基づく報酬の上限を請求すること自体に問題はありませんが、トラブルを回避するためにも、適切な手順を踏んで堂々と請求できるよう、十分に配慮することが重要です。

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