【改正民法施行後の私道問題】通行権と掘削権の実務的対応法

建築基準法第43条第1項(敷地等と道路との関係)では、建築物の敷地は、道路に2m以上接していなければならないと規定されています。これは一般に「接道要件」として知られています。

道路の定義については、建築基準法第42条において規定されています。原則として、幅員が4m以上の道路が「道路」とされています。しかし、古くからの市街地では、道路が4m未満である場合も少なくありません。そこで、特定行政庁が指定した場合には、道路の中心線から2mの範囲を道路の境界線とみなすことができます。これが、道路法第42条2項で規定された「位置指定道路」です。

新人研修を行うと、位置指定道路と私道との関係で混乱が生じることも多いのですが、私道という大きな枠組みの中に、特定行政庁が指定した位置指定道路が含まれていると理解すれば良いでしょう。

建築基準法上では、位置指定道路は正式な道路と見なされるため、再建築に支障はありません。

しかし、道路の所有者が法人や私人であるため、通行や掘削に関する問題が発生する可能性があります。そのため、位置指定道路に接する土地や建物を媒介する場合には、あらかじめ道路所有者全員から通行・掘削同意書を取得しておくのが原則です。これを怠ると、後々トラブルの生じる可能性が高まるからです。

しかし、所有者によっては承諾を得ることが困難な場合や、過剰な費用、いわゆるハンコ代を請求されることもあります。

従来は応じるほかなかったのですが、令和5年4月1日に施行された「民法等の一部を改正する法律」により、私道所有者の承諾が無くても通行権は保証され、かつ必要な範囲内で設備を設置できることが明文化されました。

新民法の規定により、私道所有者の承諾は不要となったのです。しかし、トラブルを避けるには、工事を開始する前に声をかけ納得を得ておく必要があります。

そこで、知己の不動産業者が工事の開始を、私道所有者に説明へ出向くと次のような対応をされました。

新民法が施行されて間もない時期でしたから、理解が及んでいないせいもあったのでしょう。このケースでは筆者が仲裁に入り、新民法が施行されたこと、必要ならADR(裁判外調停)による仲裁や提訴による解決を図っても良いと時間をかけて説得し、了解してもらいました。

新民法の規定に基づき、工事を行う権利はあります。しかし、強硬に工事を進めることで工事車両に対する通行妨害やその他の問題が発生する可能性があるため、慎重な対応が求められるのです。位置指定道路は一般の通行を許容することが前提ですが、車両の通行を許容する義務については個別に判断されます。私道所有者との対立を避け、消費者が入居後に不利益を被むことがないように配慮することが求められるのです。

このように、位置指定道路に接する物件については、媒介業者が様々な問題を予見して、あらかじめ対応する必要があります。しかし、実際には、「位置指定道路ですから再建築も問題ありません」といった表面的な説明だけで取引を進めた結果、トラブルに発展しているケースも少なくありません。

今回の記事では、新民法の規定を再確認するとともに、位置指定道路について整理したいと思います。

車両の通行禁止が認められるか

「私道につき通り抜け禁止」と書かれた看板が、道路の真ん中に設置されているのを見かけることがあります。明らかな敷地内であれば問題ありませんが、通り抜けできる道路にこのような看板が設置されていると、誰しも違和感を覚えるでしょう。このような行為は認められるのでしょうか。

位置指定道路は、一般の通行を許容することが前提とされています。したがって、私道であっても通行を妨げることは原則として許されません。しかし、制限に関してはその限りではありません。

例えば、平成23年6月29日に東京地裁で下された判決では、私道への自動車の乗り入れを制限することが認められた事例があります。

この判決では、徒歩や自転車などの通行は制限できないとしつつも、位置指定道路の趣旨や法令の規定に反しない限り、道路の利用を自治的に定めることができるとされました。ただし、この道路は総延長約37mで、かつ通り抜けできない道路であった点に留意が必要です。裁判においても、車両の通行や駐停車が行われることで他の道路利用者の利便性が著しく損なう可能性が高いとされ、車両の乗り入れを制限するのもやむを得ないと判示されたのです。

この裁判例のように、条件によっては私道への車両通行制限が認められる場合もあるのです。しかし、すべてのケースに当てはまるわけではなく、具体的な状況や道路の利用形態によって判断が異なるため、一概に通行禁止が認められるわけではありません。

したがって、私道に設置された「通り抜け禁止」の看板が直ちに権利濫用にあたるかどうかについては、軽率に判断できません。個別の事例に応じて慎重に検討する必要があるのです。

理解を深めておきたい改正民法のポイント

令和5年4月1日に施行された改正民法は、主に所有者不明土地問題の解決を目的としています。つまり、所有者不明土地の発生を予防し、土地利用の円滑化を促進するために法律が整備されたのです。

民法は私人間の権利義務関係を規律する法律です。そのため、私道や相隣関係のトラブルを回避するため確実に抑えておきたい改正点は以下の3つです。

1. 隣地使用権

改正民法第209条では、所定の目的を達成するために必要な範囲内で隣地を使用できる権利が具体的に明文化されました。これにより、隣地所有者の承諾を得ることなく、所定の目的を達成するために隣地を使用することが可能となったのです。

ただし、権利を行使するにあたっては、原則として使用する目的、日時、場所、方法を隣地所有者に事前通知(事案にもよるが、緊急性のない場合は2週間程度)する必要があります。ただし、あらかじめ通知することが困難な場合(隣地所有者やその居所が不明の場合など)には利用後、遅滞なく通知すれば足ります(民法第209条3)。

想定される利用目的には、障壁や建物の築造、収去、修繕、境界標の調査、測量、越境した枝の切り取りなどがあります(民法第209条第1~3項)。なお、これらは例示のため、これ以外の利用について制限する趣旨ではありません。

B. ライフライン設備の設置・使用

改正民法第213条の2により、他人の土地に設備を設置する、あるいは他人が所有する設備を利用しなければ電気、ガス、水道などのライフラインに関し、継続的な給付を受けることができない場合には、隣地所有者の承諾を得ず、必要な範囲内で他人の土地に設備を設置、あるいは他人が使用する設備を利用できることが規定されました。

ただし、承諾は不要でも、事前に通知が必要であることには留意が必要です。また、設備の設置や利用により損害が発生した場合や、設備を設置したことで他の所有者が土地を継続的に利用できなくなった場合には、「償金」を支払う義務が生じます。

C. 越境した竹木の切り取り

旧法でも、越境している根については相手方の承諾を得ず切り取ることが可能でした。しかし、枝が越境している場合には、相手方に切除を求めることまでしか認められていませんでした。

改正民法では、所有者に枝を切除するように求めるという原則は維持しつつ、次の場合に限り、承諾なしで切り取ることを可能にしました(民法第233条第3項1~3号)。

①催告しても相当の期間内(2週間程度)に切除しないとき
②所有者、あるいはその居所が不明の場合
③急迫の事情がある場合

私道に関する実務的なアドバイス

改正民法により、私道を通行する権利や掘削権が保証され、事前通知を行えば、原則として私道所有者の承諾は不要となりました。しかし、通知のみで使用を開始すると心情的なトラブルが生じる可能性があります。そのため、可能な限り対面で挨拶をし、円滑な関係を築いておくのが無難です。

また、水道管などのインフラ設備を敷設する際も、私道所有者への通知で足りますが、敷設方法や時期、場所などについては、損害が最も少ない方法を選択する必要があります。工事前に立会を要請し、問題のない場所に設備を敷設する配慮が必要です。

改正民法の施行により、私道に接する土地取引時の通行・掘削同意書は必須でなくなりました。しかし、将来的なトラブルを避けるためには、書面で同意を得ておくのが賢明です。

また、通行・掘削同意書の取得時にハンコ代は不要と解されますが、損害を発生させた場合には償金を支払うことが規定されています。したがって、ハンコ代という名目ではなく、損害賠償金として償金が請求される可能性があるため、注意が必要です。

不動産業者は、私道に接する土地の取引時には償金額や支払い方法について十分に理解し、備えておくことが求められます。

まとめ

改正民法により、私道に関する権利関係が大きく整理され、実務における対応がより明確になりました。しかし、その適用には個別のケースに応じた慎重な判断と配慮が求められます。

依然として、私道に接する土地家屋の取引は難易度が高いと言えるでしょう。特に、私道の所有者が改正民法を認知していないケースが多く、通行・掘削同意を求めると、旧法を根拠に自身の権利を主張してくる場合もあります。

改正民法により、同意は不要とされているため、私道所有者の無理な要求に応じる必要はありません。しかし、消費者が購入して入居するのですから、今後のトラブルを避ける配慮は必要です。

そのためには、改正民法に関する理解を深め、私道所有者に対して、時間をかけて理解を促進することが重要です。無論、この活動は不動産業者の義務ではありませんが、取引を円滑に進めるための行動は、不動産業者の社会的な存在意義の一つです。

円滑化を実現するためには、改正民法の理解を含めた実務上の工夫が不可欠です。実際の取引時には、慎重に法の枠組みを守りつつ、当事者間の理解を促進することが、トラブル防止の鍵となるのです。

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