
相続した不動産が築年数も古くて立地も悪く、遠方にあるため管理が難しいというケースが多々あります。不動産業者に相談しても、需要がないとして引き受けてはもらえないことが多く、このような状況が特定空き家や所有者不明土地の増加を招く一因となっています。これを防止するため2023年4月に施行されたのが、「相続土地国庫帰属制度」です。
筆者が調査した限り、本制度は申請が受理されれば承認される可能性が極めて高いものの、要件は厳しく、多くの人が申請に至る前に断念しているのが現実です。不動産を持て余している人の多くは、無料でも、あるいは相応の費用負担が発生しても処分したいという強い意向を持っています。
このような背景から、近年、有償で不動産の引取を行う民間事業者が増加しています。しかし、実態を調査すると、無資格者が高額な引取費用を請求した事例や、引取費用を前払いさせ、引き取らずに行方をくらますといった詐欺的なケースが確認されました。そもそも、民間引取事業者の多くは独自のルールで活動しており、法人格を持たず、ホームページを開設していない場合も少なくありません。また、連絡先が携帯電話のみで事業実態が不透明なケースも散見されるのです。
2025年2月14日に国土交通省で開催された有識者を交えての不動産部会では、不動産有料引取サービス事業が議題として取り上げられました。遊休不動産や所有者不明の増加を防止する手段として期待できるとの好意的な意見がある一方、宅地建物取引業では管理できない新しいビジネス形態である点や、前述のような問題が発生していることから、注意喚起が必要であるとの意見も多く出されました。
実際に2019年の政府広報では、不動産の処分に難儀している消費者の弱みにつけこみ、金銭を搾取する詐欺グループについて注意喚起されています。いわゆる「第二の原野商法」に関する提言です。
こうした悪質な行為は許されるものではありません。しかし、正しい知識と適切な情報提供を行い、引取後の管理方針や活用方法をあらかじめ計画し、社会貢献につながる形で事業を展開するのであれば、有益な取組みとなり得ます。
本稿では、不動産有料引取サービスに関連するトラブル事例を紹介するとともに、自社が新たなビジネスとして事業展開する際の注意点について解説します。
トラブル件数は沈静化していない
原野商法の二次被害トラブルだけを参考にはできませんが、国民生活センターは2017年度の相談件数は1,196件となり、前年同期と比較して1.8倍に増加したことを公表しています。
本稿執筆時点で、国民生活センターの公表から7年が経過していますが、詐欺被害は依然として続いています。しかし、警視庁からは、具体的な事件の件数は公表されていません。その理由としては、民事不介入の原則や立件の難しさが影響していると思われます。しかし、都道府県が運営するホームページを確認すると、2024~2025年にも「原野商法の二次被害に関する注意喚起」が更新されています。この事実から、詐欺被害が沈静化していないことが窺えます。
さらに、被害は原野商法にとどまりません。所有者不明土地の増加を防ぐため、政府は相続登記の義務化や管理不全空き家に対する罰則強化など、矢継ぎ早に対策を講じました。その結果、これまで具体的な対策をとらなかった所有者が、慌てて処分や活用方法を模索し始めました。こうした状況につけこんで詐欺的行為を行う不動産有料引取サービス事業者が暗躍しているのです。実際の逮捕事例を見ると、匿名・流動型犯罪グループ(いわゆる「トクリュウ」)が関与していた事例も確認されています。
具体的なトラブル事例
トラブル事例の多くは、不動産有料引取サービス事業者からのアプローチです。管理が行き届いていない遊休地などの所有者を調査して、「所有されている土地を欲しがっている人がいる」、「弊社が有償で引き取っても良い」などと連絡を取ってくるのです。所有者は、「負動産」の管理負担から解放されるので、願ってもない話のように感じるかもしれません。
ところが、前者の場合は、「売却にあたっては事前の整地や地積調査が必要」と説明して調査費用を請求し、後者においては高額な引取費用を請求する、あるいは引取費用を振り込んだ途端、事業者と連絡がつかなくなるほか、市場価格で売却可能であるにもかかわらず、引取サービスに回されたなどのケースが確認されています。
近年におけるこれらの手口は巧妙で複雑な手法であり、直ちに犯罪行為と断定できないケースも多いのです。そのため、国民生活センターや国土交通省は、安易に応じないよう注意を促しています。
不動産有料引取サービスに宅建免許は必要ない
不動産有料引取サービス事業者には、宅地建物取引業免許の登録は必要ありません。
免許の登録は、宅地又は建物について自ら売買又は交換を行う、あるいは宅地又は建物の売買・交換・賃貸に関して代理もしくは媒介を行う場合に義務とされます。したがって、買取事業のみを行うのであれば免許は不要なのです。
とはいえ、不動産を引き取った後に活用や転用など、何らかの策を講じる必要があるため、一般的には宅地建物取引業が担うイメージがあります。実際に、宅地建物取引業者が不動産有料引取サービスを展開しているケースもあります。
しかし、トラブルの大半は、免許を持たない不動産有料引取サービス事業者によって引き起こされています。
免許業者であれば宅地建物取引業法の規定に基づいて事業を展開しており、国土交通省が公開している管轄事業者の行政処分履歴を確認すれば、適切に業務を実施しているかどうかをある程度判断できます。
不動産業者として顧客から「不動産有料引取サービス事業者に引き取りをしてもらおうと思っているが」と相談を受けた際には、法人格を有し事業所が間違いなく存在するかを確認し、適切にアドバイスを行う必要があります。
不動産有料引取サービスはどのような業務を行っているか
報道によれば、2025年2月14日に国土交通省が開催した不動産部会において、不動産有料引取事業者は日本全国で59社程度と認識されています。しかし、この数字はホームページを持つ事業者数に基づいており、SNSなどで広告している事業者を含めると、実際の数は少なくともその倍以上になると考えられます。特に、SNSのみを活用して広告を展開している不動産有料引取サービス事業者の多くは、詐欺的業者であると指摘されています。
不動産有料引取事業者の主な業務は、空き家や不要土地の引取りおよびその後の管理です。
引取料は物件によって異なりますが、一般的には10万円から500万円が請求されているようです。
金銭的な負担があっても、負動産の管理から解放されるという価値を消費者が感じることは理解できます。しかし、引き取られる物件の多くは、売却を試みても販売できない遊休地がほとんどです。
そのため、引き取った不動産を有効活用して収益を生み出すシステムが構築されていない場合、引取料のみが事業者の主な収入源となります。引き取る物件の数が多いほど収入は増えますが、その反面、管理負担も増加します。したがって、独自のノウハウがないかぎり、いずれ事業が破綻するリスクを抱えることになります。
適切に事業を運営している不動産有料引取事業者は、引き取った不動産を有効活用するための独自のシステムを構築していることでしょう。しかし、そのような事業者は少数派です。現在、不動産有料引取事業者を管掌する省庁は存在せず、事業を始めえるために必要な登録免許もありません。そのため、事務所や施設が整備されていなくても、また売買や管理に関する専門知識がなくても、誰でも容易に事業を始められるのです。
このような背景から、問題が生じることは避けられません。
実際、詐欺的業者が多数を占めています。しかし、全ての事業者が詐欺的であるわけではありません。取引の安全性を確保し、適正な価格での取引機会を提供し、引取った不動産を適正に管理することを明確にして事業を展開している企業も存在しています。例えば、株式会社KLCは、信頼性の高いサービスを提供しています。
不動産有償取引サービスの利用を検討する際の注意点
顧客が不動産有償取引サービスの利用を検討している場合、注視すべきポイントは以下の通りです。これは、私たちが相談を受けて調査する際の判断材料としても活用できます。
●営業実態が確認できる事務所の所在地や連絡先が、ホームページなどで公開されている。
●相談を希望した場合、対面やオンライン会議で面談を行う体制が整っている。
●引取後における契約不適合責任について、適切に説明されており、契約書や案内書面にもその旨が記載されている。
●弁護士や税理士など、セカンドオピニオンを受けることが推奨されている。
●契約を急がせず、依頼者が冷静に検討し判断できる十分な猶予が与えられている。
●司法書士が所有権移転手続きを行う体制が、確実に整備されている。
●引取料金の支払いは、所有権移転登記申請後となっており、調査や着手金などの名目で前払い費用が請求されない。
●しつこい営業勧誘が行われない。
●引取後の管理状況や活用、転売などの事例がホームページなどで確認できる。
これらのポイントを事前に確認することで、不動産有償取引サービス事業者の安全性をある程度把握できます。
まとめ
冒頭で触れたように、相続土地国庫帰属制度は負動産の所有者にとって、悩みを解消できる素晴らしい制度です。ただし、利用するためには申請要件を満たす必要があります。
求められる申請要件は無理難題ではありません。むしろ、国が引取後に適切に管理するためには、必要最低限の条件だと言えるでしょう。しかし、建物が存在している場合は解体が必須となりますが、例えば所有地が急勾配で道路整備がされていない場合、重機が入れず手作業での解体が必要となり、その結果解体費用が高額になる可能性があります。
さらに、事前に解体しても申請が確実に受理される保証はありません(ただし、不利益を防止する観点から、法務局に相談する段階では建物の解体は必須とはされていません)。
消費者は、可能な限り余計な手間や費用をかけずに負動産を処分することを望んでいます。そうしたニーズに応えるため、現状のままで引取が可能な有償取引サービスの利用を、消費者は検討するのです。
相続土地国庫帰属制度の限界と消費者ニーズのギャップを埋めるシステムとして、不動産有償取引サービスは将来性のある事業であり、社会貢献にも繋がる素晴らしい取組と言えるでしょう。しかし、引き取った不動産を有効活用し、収益を得るためには高度なノウハウが必須です。
この分野は、不動産事業の未経験者が安易に手を出して成功できるものではありません。
私たち不動産業者が適切に介入すれば、これはブルーオーシャンとも言える先進的事業となり得ますが、現状では多くの詐欺的業者が跋扈している状況です。そのため、問題点を把握し、どのような事業として実現できるかを模索する必要があるのです。