
空き地をはじめとする低未利用地や、所有者不明あるいは管理不全の空家は増加の一途を辿っており、その解消は喫緊の課題となっています。
特に、高度経済成長期に大量開発されながらも売れ残った宅地や、バブル期に散見された虫食い状の空家郡は、平成初期より政策的な対応が求められてきました。
近年では、少子高齢化に伴う人口減少が拍車をかけ、低未利用地や空家問題は一層深刻化しています。
政府は、この問題を打開すべく、令和5年12月に「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家対策特別措置法)」を施行し、さらに相続登記、氏名・名称変更登記、住所移転登記を罰則つきで義務化する法整備を進めています。
しかしながら、これらの対策をもってしても、空き地や空き家の増加傾向に歯止めはかかっていません。
その理由の一つとして、管理不全地や空家が存在しても、住民から通報が無い限り、市区町村はその実態を把握できていないという点が挙げられます。
国土交通省は令和6年2月に全1,741市町村を対象に実施したアンケート調査と、その結果を踏まえ解決策を検討した「空地の適正管理及び利活用のガイドライン」を、令和7年4月に公開しました。
それによると空き地等の実態調査を行った市町村は少数に留まり、およそ7割は「調査を行ったことはなく、行う予定もない」と回答しています。
調査を実施していない市町村は危機感を抱きながらも、人員や予算の制約から対応が困難な状況にあるのです。
法改正により、相続登記等の義務化と住民基本台帳ネットワークを通じた市町村との情報共有が進むことで、所有者不明問題の収束には期待できますが、依然として人的資源を必要とする現地調査は喫緊の課題です。
法整備がなされたものの、措置命令や公表、罰則、代執行の実施が限定的である背景には、所有者の規範意識や協力意識の低さ、遠方地居住、規制認知度の不足、管理水準の線引の難しさなどが考えられます。
しかし、より本質的な要因として、利活用や売却を含む総合的な解決策を提案できる専門家との連携体制が十分に構築されていない点が挙げられるでしょう。
多様な課題に対し一元的に対応し、状況に応じて各専門家との役割分担を調整できるのは、不動産業者です。
私たち不動産業者は、空き地や空き家の増加という喫緊の課題を解決できる専門家としての自負を持ち、積極的にこの問題に取り組む責務があるのです。
今回は、「空地の適正管理及び利活用のガイドライン」を紹介するとともに、不動産業者が果たすべき重要な役割について解説します。
条例を規定しても実施は困難
アンケート調査の結果、1,741市町村のうち約3割にあたる471市町村が、管理や利活用に関する条例を制定していることが明らかになりました。
しかしながら、その規制内容は行政指導、勧告、措置命令に留まるものが大半であり、公表、罰則、行政代執行といったより強制的な措置を規定している市町村は少数です。
条例による規制の実効性を阻害する要因として、所有者の規範意識の低さや協力体制の欠如が指摘されています。
もっとも、これらの点は、意識が高ければ問題も生じていないと考えられるため、むしろ、規制の周知方法や対象範囲の曖昧さなど、執行体制やノウハウ不足が規制の形骸化を招いている主要因と推察されます。
このような状況に対し、有効な手段の一つとして、市町村が把握した空き家や空き地の所有者と購入・賃貸希望者を結ぶマッチングサイト、いわゆる「空き家バンク」の活用が挙げられます。
公募により選定された株式会社ライフルとアットホーム株式会社がそれぞれ運用する「全国版空き家・空き地バンク」への登録自治体は、令和7年3月時点で全市町村の63%(1,103市町村)に達したとされています。
しかしながら、「全国版空き家・空き地バンク」は、自治体を跨いだ物件検索を可能とするプラットフォームに過ぎず、登録基準が一律ではないという課題を抱えています。
空き家バンクへの登録要件は市町村によって異なり、物件の状態に加え、新耐震基準の適合性、境界の確定状況、再建築の可否などが問われる場合があります。
さらに、宅地建物取引業者との媒介契約を必須とする市町村が36.8%存在する一方で、媒介契約締結済みの物件を対象外とする市町村が16.7%に及ぶなど、登録要件に顕著な差異が見られます。
特筆すべきは、宅地建物取引業者の媒介を認めない市町村においては、インスペクション補助や住宅ローン相談には応じないとしているケースが多く、それが物件の成約を妨げる要因となっている点が確認されます。
特に、市街化調整地域においては、既存住宅要件の充足など専門的な知見が不可欠ですが、必ずしも市町村の担当者がそのような知識を有しているとは限らず、それが更なる障壁となっている事例も散見されます。
適正管理と利活用の関係性
空き家や空き地の発生要因は、地理的な条件に加えて、住宅需要が見込まれる地域においても、接道要件の不備や狭小地であることに起因する再建築の困難さが挙げられます。
特に、これらの物件を相続により取得した場合、売却を希望しても買い手がみつからず、結果として放置され、管理不全に陥るケースが少なくありません。
管理不全の空き家や土地に対する罰則強化、相続登記の義務化等は、一定の抑制効果をもたらすと予測されるものの、根本的な問題解決には至らないでしょう。
真に重要なのは、多様な利活用策を講じることです。
例えば、隣接地所有者への無償貸与、農園、緑地、広場への転換といった活用方法を、私たち不動産業者が積極的に提案することで、問題を解決に貢献できる可能性があります。
具体的な事例として、公道に接しない私道沿いの連棟住宅は、単独での建て替えは不可であっても、連棟住宅全体として建て替えるならば再建築が可能となります。
このようなケースでは、連棟連棟住宅の他の所有者へ購入を働きかけたり、建て替えに向けた合意形成を支援したりするなどの対応が有効です。
また、建築基準法第43条の但し書き申請(再建築不可物件の救済措置)の適用可否を検討することも、再建築不可物件の有効な救済策になり得ます。
これらの方法は煩雑さを伴いますが、多角的な視点から利活用を促進することは、まさに不動産業者の専門領域と言えるでしょう。
高度なコンサルテイング業務においては、たとえ販売や賃貸斡旋といった直接的な媒介取引に繋がらない場合でも、専門的な労力の提供に応じた適切な報酬を得られる可能性があります。
令和6年6月に改正された「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」では、不動産コンサルティング業務を適切に受任することで、媒介業務とは別に報酬を受領できることが明確に示されています。
近年、不動産業法人数の増加傾向にある一方で、既存住宅流通量は微増に留まっています。
この状況は、業界内の競争激化と、一社あたりの媒介取引件数の減少を示唆しています。
このような背景を踏まえると、2005年に日本で大きな反響を呼んだ、INSEAD(欧州経営大学院)教授のW・チャン・キムとレネ・モボルニュによるブルー・オーシャン戦略の理論は示唆に富んでいます。
同戦略は、競争が激化する既存市場での消耗戦を避け、競争のない未開拓市場、すなわちブルー・オーシャンを創造することの重要性を説いています。
必要な知識や専門性に基づき実施する、空き家や空き地の利活用等に関する不動産コンサルティング業務は、まさにブルー・オーシャンとなりうる潜在的な市場といえるでしょう。
地域属性は多岐に渡る
一般的に、空き地や空き家は郊外に偏在し、駅周辺や市街地には少ないという認識が広範に存在します。
しかしながら、先のアンケート結果が示すように、中心市街地においても空き地等に起因する問題は顕在化しているのです。
特筆すべきは、問題となっている空き地等の多くが小規模であるという点です。
空き家や空き地を潜在的なビジネスチャンスと捉える視点を持つことで、これまで見過ごしてきた市街地の風景は一変します。
実際に市街地を注意深く観察すれば、管理不全の空き地や空き家が多数存在することに気づかされるはずです。
これらの管理不全空き地等の多くに対して、近隣住民が市町村に苦情を申し立てている実態があり、アンケート調査によれば、その割合は8割に達すると報告されています。
当然、苦情が寄せられれば市町村は迅速に対応するものと想定されがちですが、現実には実態調査を実施している自治体は少数に留まります。
問題意識は共有されているものの、前述の通り、専門知識や経験を有する人材の不足、制定した条例の限界といった要因から、対応に苦慮しているのが現状です。
このような状況を踏まえれば、私たち不動産業者が主体的に取り組むべき行動が明確になります。
例えば、市街地において空き地や空き家を発見した際には、地図上に記録し、登記情報提供サービスを通じて所有者を特定したうえで、電話または書面によって積極的に利活用を提案するのです。
実際、所有する不動産の扱いに困窮している層は少なからず存在し、具体的な利活用の相談に応じることで、新たなビジネスチャンスを創出できる可能性は大いにあります。
まとめ
不動産領域において、管轄省である国土交通省をはじめ、総務省、経済産業省、法務省など複数の省庁から多岐に渡るガイドラインが提供されています。
しかしながら、これらの貴重な情報を積極的に渉猟し、業務に活かしている不動産業者は多くありません。
実際、多くのガイドラインは、現状に関する詳細なデータ提供はもとより、関係者が遵守すべき行動規範を明確にし、成功事例を提示することで、問題解決に向けた具体的な道筋を示唆しているのです。
換言すれば、ガイドラインには問題の所在、その具体的な内容、そして解決するための羅針盤となる情報が網羅されているのです。
事業の発展は、まず問題の本質を深く理解し、その解決策を具現化することで社会に認知され、それにより実現可能となります。
その基盤となる現状認識の深化に、問題提起から状況分析までを精緻に提供してくれるガイドラインの精読は、極めて有益といえるでしょう。
本稿で取り上げた「空地の適正管理及び利活用のガイドライン」も例外ではありません。
自治体が講じるべき個別法制度の活用、民事的手続きによる解決策に加え、利活用を推進し、支援措置において顕著な成果を上げた自治体の事例が豊富に紹介されています。
このガイドラインを読み解くことで、管理不全が具体的にどのような状況(例えば、衛生、火災予防、交通障害、健康被害など)を指すのかを明確に理解でき、その知識を顧客への説明に活用することで、より説得力のある提案が可能となるのです。
無料で詳細な情報が提供されている各種ガイドラインを、活用しない手はありません。
これらの情報を積極的に取り入れ、専門知識と実践力を高めることが、今後の不動産業界における競争優位性を確立する上で不可欠と言えるのです。