
国土交通省道路局は、令和7年5月12日より「道路データプラットフォーム」の一般公開を開始しました。
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001888449.pdf
(出典:国土交通省 道路局企画課/令和7年5月12日/「道路データプラットフォーム」を公開します)
本プラットフォームは、これまで道路管理者間で共有されてきた交通量やETC2.0の速度データ等を集約したものです。
これらを活用することで、移動時の渋滞発生箇所情報、数時間先の渋滞予測、さらには都市全体のリアルタイムな交通状況を可視化することが可能となります。
一見すると不動産業者とは直接的な関連性が薄いように見受けられますが、実務においては、顧客から「車通勤を予定しているのですが、通勤時間帯に物件から都市中心部までどれくらいの時間を想定すれば良いですか」といった具体的な質問や、「便利な場所であるのは承知していますが、交通騒音はどの程度でしょうか」といった懸念が示される場合があります。
このような際、単なる推測に基づいて回答した場合、後日、現実との乖離を指摘される可能性が生じかねません。
そこで、この道路データプラットフォームが提供する日別・時間帯別交通量データや常時観測交通量などの具体的な根拠に基づき、詳細な情報を提供することで、競合他社との明確な差別化を図ることが可能となります。
本稿では、「道路データプラットフォーム」の機能構成に加え、不動産業者ならではの具体的な活用方法について詳述します。
道路データプラットフォームの概要
「道路データプラットフォーム」は、道路関係の基礎データを集約し、多様なデータを作成・活用できる点が特徴です。
このプラットフォームは厳密には「ポータルサイト」と「道路データビューア」の二つの機能で構成されています。
このうち、ポータルサイトからはETC2.0ブローブ情報、常時観測交通量、ODゾーン間交通量、断面交通量データ、重要物流道路といった多岐にわたるデータが提供されています。
これらのデータは活用次第で多大な恩恵をもたらしますが、その多くは数値データとして公開されています。
そのため、これらを最大限活用するには、調査概要や区間といった基本情報への深い理解に加え、CSVデータを利用した編集、分析、統計処理といった専門的なスキルが不可欠であり、これらの知識・スキルがなければその活用は困難です。
一方で、「道路データビューア」は直感的な地図インターフェースで利用でき、基本的な操作方法と提供されるデータの意味を理解するだけで十分に活用が可能です。
いずれの機能もその有用性は明白ですが、本稿ではポータルサイトの専門性に対し、「道路データビューア」のアクセシビリティが高いという観点から、後者を中心に解説を進めてまいります。
道路データビューアの機能と利点
道路データビューアは、多様な交通関連データを地図上で一元的に表示し、重ね合わせて分析できるウエブマップツールです。
このビューアで閲覧可能なデータは多岐にわたり、具体的には以下の情報が確認できます。
●リアルタイム交通量データ:全国約2,600箇所で観測されている最新の交通量をデータ
●ETC2.0平均旅行速度データ:毎月更新されている過去1年分のETC2.0車載器から収集されたデータ
●ODデータ:令和3年に実施された全国道路・街路交通情勢調査における自動車起終点調査結果
●道路属性:重要物流道路として指定された道路に関するデータ
●DRM-DB:主要道路の位置、接続の状況、基本属性を網羅した全国デジタル道路地図データ
一般に広く利用され、不動産業者にも愛用されているGoogleマップでは、自動車による目的地までの移動目安時間を確認できます。
しかし、この目安時間は標準的な交通量を基準としており、交通量の増減による影響は十分に考慮されていません。
また、JARTIC(公共財団法人日本交通情報センター)などが提供するアプリケーションで渋滞情報を確認することは可能ですが、具体的な交通台数は表示されず、異なるデータを重ねて分析することも、時間帯による交通量の変化を詳細に確認することも困難です。
そのため、これまでの不動産実務では、顧客からの「車通勤を予定しているのですが、通勤時間帯に物件から都市中心部までどれくらいの時間を想定すれば良いですか」といった質問や、「便利な場所であるのは承知していますが、交通騒音はどの程度でしょうか」といった具体的な問いに対し、「通勤時間帯には渋滞傾向が見受けられます」といった抽象的な回答に留まらざるを得ない状況でした。
しかし、道路データビューアを活用すれば、選択した地点の具体的な交通量を数値で確認できるため、より具体的な根拠に基づいた明確な回答が可能となります。
特にETC2.0データは、ETC2.0車載器を搭載した車両が走行する際に、路側のITSスポットや車載器自身で収集・記録された走行履歴(位置、速度、走行時間)や挙動履歴(急ブレーキや急ハンドルなど)を含みますから、これらを活用することで、渋滞や事故発生の頻度といった多角的な情報を得られます。
例えば、平日の8時00分から9時00分に自家用車で通勤する場合、道路データビューアでETC2.0データを表示すると、地図上に各道路区間の平均旅行速度が色分けで可視化されます。
これにより、どの時間帯にどの区間で低速走行が発生しているのかを具体的に把握できるのです。
このようなデータを分析することで、時間帯によっては迂回路を選択したほうがスムーズに目的地へ到着できるといった具体的な予測を立てることが可能となり、顧客に対する提案力が格段に向上するのです。
具体的な活用事例
前項で触れた活用事例に加え、この項では不動産実務における具体的なシナリオに基いた道路ビューアの活用方法を詳述します。
1. 移動時間帯の渋滞予測と迂回路の提案
顧客から特定の物件から勤務先までの車による移動時間について尋ねられた際には、道路データビューアを利用することで、以下のような客観的な根拠を提供することが可能となります。
①時間帯設定とデータ提示:道路データビューアで、移動を予定する時間帯(例:平日午前7時~9時)におけるETC2.0平均旅行速度データを表示します。
②低速走行区間の特定:地図上に赤やオレンジで色分けされた低速走行区間を特定し、その具体的な平均旅行速度を確認します。これにより、どの区間で渋滞が発生しやすいかを視覚的に把握できます。
③複数ルートの比較検討:Googleマップ等の地図サービスと連携させ、混雑箇所を避けた複数の通勤ルートを比較検討します。
④具体的な提案:時間帯によっては迂回路を利用したほうがスムーズに目的地へ到達できることを、具体的な速度データに基づいて提案します。
これにより、客観的な通勤時間帯情報に加え、潜在的な渋滞回避策も提供できます。
2. 交通騒音の評価と物件選定のアドバイス
物件周辺道路の混雑や、それによる交通騒音は住み心地を大きく左右する要因です。
道路データビューアを活用することで、懸念に対する具体的なデータを提供し、判断を促すことが可能となります。
①交通量データの確認:一般交通量調査結果WEBマップ(道路データビューアの可視化ツールの一つ)を利用し、物件周辺の近接道路における常時観測交通量データや断面交通量データを確認します。
これにより、12時間・24時間あたりの具体的な交通台数を把握できます。
②騒音レベルの予測:24時間交通量データから大型車の台数も把握できるため、そのデータを基にある程度の騒音レベルを予測できます。
必要に応じて、時間帯別の騒音状態を騒音測定アプリや機器で確認することも有効です。
③具体的な説明とアドバイス:収集・分析したデータに基づき、顧客に騒音の程度を具体的に説明し、物件選定における客観的なアドバイスが提供できます。
3. 事業者や投資家からの質問
事業者や投資家は、物件の交通利便性や将来的なアクセスの変動を重視します。
道路データビューアを活用することで、投資判断に即した情報を提供できます。
①物流動線の確認:xROAD(道路データプラットフォーム)のビューア機能から重要物流道路データやDRM-DBを活用し、主要な交通網や物流の要衝にどれだけアクセスしやすいかを確認します。
数値データを活用する方法もありますが、一般交通量調査結果WEBマップ(可視化ツール)を利用する方が直感的に確認しやすいでしょう。
②事業価値の検討:物件から重要物流道路に合流するまでの区間について、時間帯別の混雑状況を把握します。
また、Googleマップ等の地図サービスと連携させ、混雑箇所を避けた迂回ルートを検討することで、その事業的な価値を評価できます。
③将来的な交通量の予測:OD交通量データ(ゾーン間における自動車の移動台数)を活用し、特定エリアからの人流出入状況を把握します。
これに周辺の交通インフラ整備計画(道路拡幅・新規道路建設など)を組み合わせることで、将来的な交通量の変化を予測し、長期的な試算価値の評価に繋げられます。
まとめ
今回取り上げた「道路データプラットフォーム」は、本来、道路システムのデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、道路調査や維持管理の効率化・高度化を図る目的で公開されました。
そのために、道路に関する多岐にわたる基礎データが一元的に集約されています。
しかし、本稿で詳述したように、このプラットフォームから提供される多様な情報は、単なる渋滞状況の把握に留まらない、幅広い応用が可能です。
例えば、時間帯別の移動速度や道路の利用台数を分析することで交通騒音の程度を予測したり、都市開発計画と組み合わせることで、将来的な不動産の資産性を予測したりすることも可能です。
まさに、アイディア次第でその価値は無限に広がると言えるでしょう。
確かに、使いこなすにはある程度の習熟が必要かもしれません。
しかし、これほど有益なデータが無償で提供されている現状において、不動産業者がこのツールを活用しない手はありません。
道路データプラットフォームは、従来における提案時に見られがちだった「勘や経験」に依拠した情報提供を、明確なデータドリブン(ビジネスの意思決定や戦略立案において、データに基づき判断や行動を行うこと)へと進化させます。
これにより、顧客満足度の向上、競合他社との確固たる差別化、そして業界全体への信頼性向上に大きく貢献することでしょう。