【事故物件告知の解釈に決定打】人の死の告知に関するガイドラインを解説

説明や調査を誤ればすぐに大きなトラブルに発展する、人の死が絡む「事故物件」は、不動産業者においてある種の鬼門とされ、「積極的に関わらない」が定説となっていました。

背景には、心理的な瑕疵についての告知方法や調査の範囲が定められておらず、そのためにトラブルを回避する手段として、調査情報の信憑性や確度に関わらず、人の死に関する事案についてはすべて告知するなどの方法を採択するなど、宅地建物取引業者の負担が過大であることも原因でした。

取り決めがないのなら、「知りえた情報はすべて告知してしまった方が安全」というスタンスです。

実際に筆者も、事故物件の取引をおこなう場合には情報の確度を上げるため、インターネットによる調査や近隣への聞き込み調査などを自発的に実施していました。

そのような事故物件の取り扱いに長けた業者は、その特異のスキルにより認知度を深め、寡占的な状態でした。

ですが、そのような業者は全国的に数も少ないことから全国における事故物件を一手に引き受けることなどできません。

そのために不慣れな業者が事故物件を手掛けたことによるトラブルが多発し、更にそのような話を耳にした不動産業者が「やっぱり事故物件は手を出さないでおこう」と、調査に関しての手間やリスクが高いのに仲介手数料は同じであるなら、可能な限り手を出さないと考えるのに至ります。

これらすべての原因は、適切な調査や告知に関する判断基準が示されておらず、不動産業者の見解にすべてを委ねていることでした。

このような判断基準の曖昧さから、円滑な流通に阻害が生じていることを重く見た国交省は、「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」を組織して、令和2年2月以降7回に渡り議論を重ねてきましたが、本年5~6月に実施されたパブリックコメントを踏まえ、令和3年10月8日に「人の死の告知に関するガイドライン」が制定されました。

これにより、私たち不動産業者の調査・告知方法に関しての範囲が明確となり、ガイドラインを遵守して適正に業務をおこなえば、不要なトラブルに発展する可能性を、ある程度は回避できるようになりました。

今回は制定されたガイドラインに基づき、曖昧な表現内容については文中で注釈を挟み、その解釈も含めて解説します。

ガイドラインの基本内容を理解する

まず、基本として理解しておきたい事項です。

ガイドラインでは、宅地建物取引主任者がその定めによる対応をおこなわなかった場合に、そのことだけをもって直ちに宅地建物取引業法違反になるものではないとしています。

つまり宅地建物取引業法上ではガイドラインの遵守を「義務」ではなく、あくまでも「任意」としているということです。

その後において「ただし」と補足し、宅地建物取引業者がその対応によるトラブルを生じさせ、行政庁における監督処分の対象となった場合においては、行政庁は本ガイドラインを参考にするとしています。

このことから義務とまではいえないまでも、ガイドラインを遵守して事案を取り扱うことが、トラブルの回避に有効であると判断できます。

これらを踏まえたうえで下記のように、ガイドラインは適用範囲を定めています。

① ガイドラインは、取引の対象となる不動産において生じた「人の死に関する事案」を取り扱う。

② 適用は居住用不動産に限定する(オフィスや店舗等は含まれない)

③ 人に死に関する事案が、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、死亡原因や経過期間を問わずこれを告げなければならない。

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この原則については解釈に疑義が生じやすいところですが、通常は「人の死」が、購入もしくは賃借の購入や入居の判断において、その動機を決定づける重要な要素であると考えられますが、だからといって無制限に、いつまでも告知義務が欠かせられるのでは従前と変わりません。

実際に裁判判例でも、期間経過によりその影響は希釈されたとして告知義務を否定しているケースもある訳ですが、ガイドラインにおいても、判断基準としては非常に曖昧な表現がされています。

そのような判断については後ほど解説するとして、「告げなくてもよいケース」として定められた事案を確認してみましょう。

事故物件,ガイドライン

自然死・日常生活における転倒事故などによる不慮の死は、事案発覚からの経過期間の定めなく告げなくてよいとされました。

また、賃貸借取引限定ではありますが、集合住宅などにおいて日常使用される共用部分(廊下など)において、自然死や不慮の事故死以外の死亡(殺人など)が発生した場合については、発覚時点、もしくは発見が遅れたなどの状況下においては、特殊清掃がおこなわれた時点を発覚時として、概ね3年経過すれば告げなくてよいとしています。

さらに賃貸・売買の集合住宅に共通する判断として、隣接住戸における自然死や不慮の事故死以外の死亡(殺人など)もしくは通常では使用されていない共用部(ボイラー室など)については、経過期間の定めなく「告げなくてよい」とされました。

これらの取り決め事項によりある程度の判断はできるのですが、但し書で上記のような「告げなくてもよい」ケースでも、事件性・周知性・社会に与えた影響が特に高い事案や、不動産業者が、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には告げる必要があるとしています。

また経過期間や死因に関わらず、買主・借主から事案の有無について尋ねられた場合ですが、不動産業者が、契約当事者が把握しておくべき特段の事情があると認識する場合には、告げる必要があるとされました。

このような「人の死」に関しての事案発生が、意思決定に重要であるかどうかは、受け取る側に個人差もあることから、私たち不動産業者に推し量れるものではありません。

そこで筆者の個人的な考え方ではありますが、懸念がある場合には「ガイドラインにより告知義務は不要とされていますが……」と前置きしたうえで、「物件状況報告書に記載されている事案がありました」と、重く受け止められないように配慮しながら説明しておくのが無難だと思います。

調査方法と告知内容

前項によりある程度、告知にかんしての判断基準が示されました。

次は告知する内容です。

ガイドラインでは、下記の内容を盛り込むこととしています。

1.事案の発生時期
2.場所
3.死因
4.特殊清掃等の有無(実施された場合には告知する)

これらを踏まえたうえで、調査方法として売主もしくは貸主からの告知書によるとしています。

この場合における告知書とは、物件状況報告書もしくはそれに準ずる書類とされ、それらを総括してガイドラインでは告知書としています。

この告知書に、事案の有無ついての記載を求めることにより、調査義務を果たしたとする考え方です。

この場合に心配されるのは売主・貸主の不実告知ですが、これについては明確な判断基準が示されました。

後日この告知書に記載されていない事案が判明しても、宅地建物取引業者に重大な過失が存在しない限りにおいて人の死に関する調査義務は適正になされていると明示されているからです。

この考え方についてガイドラインでは、宅地建物取引業者の販売活動などに伴う、一般的な情報収集の義務を認めつつも、反面で人の死に関する事案が発生しているかどうかを自発的に調査すべき義務までは追っていないとしているからです。

理解しておきたい留意事項

告知書の形式を満たして説明すれば、宅地建物取引業者が調査義務を果たしたとする判断を明確にしたことが、ガイドラインの最大の功績です。

ただし「個々の不動産取引において、人の死の告知に関し紛争が生じた場合の民事上の責任については、取引当事者からの依頼内容、締結される契約の内容等によって個別に判断されるべきものであり、宅地建物取引業者が本ガイドラインに基づく対応を行った場合であっても、当該宅地建物取引業者が民事上の責任を回避できるものではない」として、何とも不安になる注意喚起を挙げています。

ですが、民事訴訟は防ぎきれるものではありませんから心配してもしょうがありません。

私たち不動産業者としては、ガイドラインの内容を理解して対応するしか方法がないからです。

そのためにも、告知書に記載してもらう際には必ず「事案の存在について故意に告知しなかった場合には、民事上の責任を問われる可能性がある」と、一言添えることが大切です。

これは口頭だと、後日「聞いていない」などの紛争に発展する可能性がありますので、告知書にその旨を記載しておくのが望ましいでしょう。

また告知義務違反における裁判判例などを見ると、売主・貸主が故意に事案の発生を告げなかった場合において、その真偽を疑う事情が存在している場合には、宅地建物取引業者にはその存在の有無を確認すると必要があると解される事例も存在していることから、「疑わしい場合には、念を押して確認する」ことが大切です。

これについてはガイドラインにおいても推奨している記述が見受けられます。

またガイドラインの範囲は建物が存在する場合に限られており、事案発生後に建物が取り壊された土地や、転落事故における転落開始地点の取り扱いに関し

では、妥当に判断ができる裁判例の蓄積等に欠けるとして、今後、適時にガイドラインに追記していくとしています。

上記のような事案に関してはガイドラインを遵守しつつも、告知しておくのが無難です。

また告知内容の「死因」については詳細な内容、つまり具体的な死の態様や発見された状態を詳しく告知する必要はありません。

興味本位で聞かれても「確度の低い情報をお伝えすることは、ガイドラインに定められておりません」と、毅然とした態度で対応しましょう。

「事件による死亡」や「一定期間を経て発見された病死」など、余計な憶測を与えないように配慮しつつ、事実だけを告知するようにしたいものです。

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まとめ

ガイドラインの制定により、私たち不動産業者が「人の死に関して」告知する場合における告知内容や調査、また告知を必要とする基準について一定の目途がたちました。

ただし文中で解説したように、重要であると判断するための基準や、表現として曖昧な部分が残されています。

とくに告知書の形式について具体的な言及がなく、一般的な物件状況報告書への記載で大丈夫なのか判断に悩みます。

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不動産業者の皆様が通常で使用している書式は、各社で異なると思いますが、一般的には上記のような書式を利用しているでしょう。

告知が「無」もしくは「不明」の場合にはこの形式でも足りるかと思いますが、事案の告知がある場合、及び「事案の存在について故意に告知しなかった場合には、民事上の責任を問われる可能性がある」ことを、伝達したという事実を記録するには、いささか心もとない形式です。

このような注意喚起までを含めて考えれば、別紙で用意しておくことを検討しておく必要があるかも知れません。

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