【マンション標準管理事務委託契約書の改正】虚実を見抜くプロの眼力が必須に

分譲マンションの媒介実務において、私たち媒介業者に課された重要事項説明時の義務は、共有部分に関する規約等の「要点」説明に留まります。

そのため、実務上は管理規約や使用細則等の写しを引き渡し「詳細については添付資料をご参照ください」と添えるのが通例です。

しかし、「マンションは管理を買え」との不動産格言が、今ほど重みを増している時代はありません。

資材価格や人件費の高騰による管理費・修繕積立金の急騰は、もはや日常的なリスクとなり、管理組合の運営実態が成約の可能性や出口戦略を左右する決定的な因子となっています。

特に注視すべきは、役員の担い手不足という構造的課題を背景に近年急増する『管理業者管理方式(第三者管理方式)』の台頭です。

この方式は、管理業者が管理事務担当者を兼ねるため、組合員の負担軽減とマンションの資産価値保全を実現する一助となる反面、利益相反や不正リスクを内包する「諸刃の剣」となり得ます。

令和7年12月12日、国土交通省はこのような不利益の発生を防止するため、管理業者管理方式を導入する際に見直すべき管理規約の規定例を示すと同時に、「マンション標準管理事務委託契約書」と同コメントの改正を行いました。

媒介業者には物件取引に留まらない、広範な専門領域をカバーするコンサルタントとしての役割が期待されています。

そのため、「管理業者管理方式」を始めとする外部委託方式の説明を求められた際、もはや「重要事項説明書の記載事項ではないから」という言い訳は通用しません。

顧客から管理体制の是非について質問された際、プロフェッショナルが沈黙、あるいは無知を晒すことは、信頼の放棄に等しいのです。

本稿では、実務者がアップデートしておくべき改正の要諦と、現場でのコンサルティング・ポイントについて詳述します。

管理不全時代の救世主か、あるいは火種となるか

日本の分譲マンションストック数は2024年現在で700万戸を突破し、今後さらなる増加が見込まれています。

物件によっては高経年化と高齢化という「二つの老い」が深刻化し、従来型の「区分所有者が率先して役員を引き受け、ボランティア精神で管理運営を行う」というモデルは限界を迎えています。

そこで注目されているのが、管理業者が組合の管理事務担当者を兼ねる『管理業者管理方式』です。

●メリット:プロによる迅速な改善提案、役員就任の心理的ハードル低下、専門知識に基づく長期修繕計画の適正化など。

●デメリット:区分所有者の参画意識のさらなる低下、工事発注時における不透明なコストの上乗せ(利益相反)、チェック機能の形骸化、および管理コストの上昇。

私たち媒介業者は、管理業者管理方式を採用している物件を内見する際、「役員を押し付けられることがない楽なマンションですよ」と表面的なメリットのみを強調するのではなく、スキームの健全性を評価する眼力と知見を持たなければなりません。

令和の改正が求める「透明性」の正体

国土交通省が公開した改正標準管理事務委託契約書および同コメントは、管理業者管理方式の導入拡大に対し、適切な「楔」を打ちこむ目的があります。

改正版では以下の内容を盛り込むことで、運営の透明性と適正化を求めています。

●管理業者の業務体制(第5条)
管理者事務担当者(管理組合の意思決定をサポートする権限を有する者)と管理事務担当者(清掃や設備保守を担う実務担当者)は、別の部門に所属する者が務める体制を整備することを規定。
これにより、同一社内における相互監視機能を担保します。

●印鑑等の保管(第6条):原則として管理者事務担当者が、管理組合名義の保管口座に係る印鑑や通帳を預からないことを規定。例外的にあずかる場合は、口座保管金額以上の保証契約を締結するなど、施行規則で定められた要件を完遂する必要があります。

●資格要件(第7条):管理者事務担当者は管理組合の意思決定に影響を及ぼす重要な役割を担うため、マンション管理士や管理業務主任者など、高度な専門知識を持つ有資格者の選任を強く推奨しています。

●管理者事務の報酬(第10条):管理事務の報酬と混在させず、管理者事務の報酬については別個の契約として明示することを規定しています。

●契約の解除等に関する事項(第21条、第23条、第24条):途中解除や更新拒絶の際には、予定日の3ヶ月前までに書面で通知する旨を定めると同時に、時期管理者への円滑な措置を規定しています。

●利益相反取引の制限(第26条)
自己取引や利益相反の抵触が懸念される取引を検討する場合、あらかじめ重要な事実を開示し、総会承認を得なければ契約締結できない旨を規定。
また、役務の提供を伴わない紹介料等の受領も禁止されています。

これらの規定が盛り込まれた背景には、管理業者が管理者事務を兼ねる際、自社やグループ会社の利便を優先する懸念を払拭できないという実情があります。

しかし、「事前承認」や「見積取得のルール化」が盛り込まれていても、組合員の無関心に乗じて形骸化するリスクは残ります。

そのため、プロフェッショナルとして助言する際には以下の視点が不可欠です。

1. 利益相反取引の防止徹底

自社やグループ会社への優先発注やリベート受領は、民法上の自己契約・双方代理の原則に抵触し、組合員に経済的不利益を及ぼします。

このため、改正標準管理者事務委託契約書では厳格に制限しているのです。

しかし、これはあくまで「指針(雛形)」に過ぎず、強行規定ではありません。

対象物件で締結された管理者事務委託契約書が、これらの規定を正確に反映し、マンション管理適正化法の趣旨を汲み取り適切に運営されているか。

これを正確に見極めることが、媒介業者の配慮義務として求められるのです。

これは、管理業者管理方式の採用を検討しているマンションにおいても同様です。

2. 外部監査の重要性

管理業者が管理者事務を兼任している場合、他の理事が業者寄りの人間であれば、適切なチェックに期待できません。

改正では、外部専門家(マンション管理士や公認会計士など)による監査や、担当部門の分離を規定していますが、これらは契約上の規定であり、別個の規定を設けることが制限されているわけではありません。

このため、外部監査に関する規定が実効性を持って盛り込まれているか否かが、最重要のチェックポイントとなります。

3. 開示情報の精査

区分所有法第43条に基づく事務報告は強行規定であり、毎年一回、一定の時期に総会で報告することが義務付けられています。

しかし、報告は総会で行えば足りるとされ、各組合員が個別に詳細な報告を求める権利はなく、組合側にも応じる義務はないと解されています。

このため、理事会の機能不全は致命的な問題に直結する危険性があるのです。

報告は会計(収支)状況、管理状況、修繕の実施状況、規約や使用細則の運用状況など管理組合の運営全般にわたる事項とされていますが、管理規約で一定程度自由に決定できるとされているため、報告を裏付ける「エビデンス(裏付け書類)」が適切に提示・保管されているかを見極める眼力が、不動産のプロフェッショナルには求められるのです。

媒介業者に求められるコンサルティング能力

これからの媒介業者は、管理規約の条文をなぞるだけでは不十分です。

その規定が「各組合員の利益を守るために機能しているか」を洞察する能力が問われているからです。

顧客に対し、「このマンションは管理業者管理方式を採用しているため、管理組合の理事を押し付けられる懸念はありません」などとメリット説明に終始するのではなく、管理規約や標準管理者事務委託契約書を精査したうえで、以下のような説明を行う必要があるのです。

「このマンションは管理業者管理方式を採用しており、役員就任の負担はありません。しかし、規約を精査したところ、工事発注時の承認プロセスが簡略化されています。利益相反取引が恣意的に行われる余地があるため、根拠不明な管理費の増額や修繕積立金の不足などが懸念されます。追加情報の開示を求め、それに基づき検証することは可能ですが、保守的な判断をされるなら購入を見合わせた方が無難かもしれません」

このように情報の非対称性を解消し、デメリットをも適正に言語化することこそが、真の信頼を勝ち取る道となるのです。

まとめ

分譲マンションは、一度購入すればその多くが終の棲家となり、数十年続く生活拠点となります。

その資産価値を支えるのは、立地や利便性、間取りといったハード面だけでなく、適正に運用される「管理の仕組み」も含まれます。

今回の標準管理事務委託契約書の改正は、2025年に改正(施行は2026年4月1日)されたマンション管理適正化法の趣旨を、実務レベルで具現化するための重要な措置です。

これにより、私たち媒介業者には、売買・賃貸といった枠組みを超えた「管理に関するプロの知見」が不可欠となりました。

管理業者管理方式の是非について問われた際、安易な回答は禁物です。

管理事務委託契約書と管理規約、さらには総会報告の内容を精査し、「リスクとベネフィット」を論理的に提示する。

これこそが、激動の不動産市場で生き残り、顧客から選ばれ続ける「プロフェッショナル」の姿勢と言えるでしょう。

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