
2026年3月5日、一般社団法人 不動産有料引取業協議会(東京都千代田区、以下「協議会」と表記)は「不動産有料引取業ガイドライン(2026年2月改訂版、以下「ガイドライン」と表記)」を公開しました。
ガイドラインは
(1)一般消費者向けの安全性チェックリスト
(2)協議会加盟事業者の遵守事項
(3)有料引取事業者の安全基準
で構成されており、このうち安全基準は次のような内容となっています。

協議会がガイドラインを公開した背景には、2025年2月14日に国土交通省で開催された第42回不動産部会において、不動産有料引取サービス(以下、「引取サービス」と表記)を提供する事業者に対して期待すること、および留意すべき点についての指針が示されたためです。

ご存じのように引取サービスは、空家等の増加に伴い、所有者がその管理や流通に要する期間等の負担を回避するため金銭を支払い、事業者が不動産を引き取るなど、通常の売買取引に必ずしも当てはまるとは限らず、宅地建物取引業による規制が及びません。
所有権移転と金銭授受が円滑に行われる限りにおいては民法上も特段の問題が生じないため、宅地建物取引業免許を有していない事業者であっても営むことができる事業形態となっています。
しかしながら、その一方で所有者が引取料を支払ったにもかかわらず所有権移転が履行されない、あるいは引取後の適切な管理が確保されないなどの問題が発生する懸念も指摘されています。
このようなリスクについては不動産会社のミカタに『【確実に理解しておきたい】不動産有料引取サービスの現状とリスクについて』との記事を寄稿しておりますので、興味があればご覧ください。
もっとも、引取サービスが注目される背景には、日本の不動産市場が直面している構造的な問題があります。
総務省の住宅・土地統計調査によれば、空家等対策特別措置法の改正や各自治体による空家対策が進められているにもかかわらず、全国の空家は約900万戸(2023年住宅統計)に達し、さらに増加を続けています。
特に地方部では流通市場に乗らない不動産が年々増加しています。
こうした不動産の中には、立地条件や建物の著しい老朽化、再建築不可や接道要件などの問題により、一般の売買市場では買主が見つからないものも少なくありません。
また、相続の発生に伴い取得した不動産について「利用する予定がない」「遠方で管理できない」といった理由から、所有者にとって負担のみが残るケースも増えています。
相続登記の義務化や管理不全空家を巡る法整備の厳格化が、さらに負担を増加させているとも言えるでしょう。
このような状況の中で、一定の費用を支払ってでも不動産を処分したいというニーズが顕在化し、それに応える形で引取サービスという新しい事業形態が生まれたのです。
一方で、このビジネスモデルは必ずしも単純なものではありません。
不動産を引き取るということは、同時にその管理責任や税負担、さらには将来的な処分リスクを引き受けることを意味します。
したがって、事業として成立させるためには、単に「引き取る」だけでなく、その後の活用や再流通も含めた出口戦略をあらかじめ設計しておくことが不可欠です。
本稿では前回記事と視点を変え、引取サービスを単なるリスクのある取引として捉えるのではなく、新たな不動産ビジネスの一つとして位置づけた場合にどのような可能性があるのかという視点から整理してみたいと思います。
具体的には、不動産事業者が引取サービスの取扱いを検討する際に留意すべきポイント、事業を成立させるための案件選別の考え方、そして収益化に向けた実務上のノウハウについて検証していきます。
空家時代の「第三の出口」
引取サービスが注目される背景には、日本の不動産市場における構造的な変化があります。
その象徴が、いわゆる「空家問題」です。
総務省の住宅・土地統計調査によれば、直近の調査で全国の空家数は約900万戸に達しています。
これは住宅ストック数の約13%に相当し、言い換えれば、日本に存在する住宅の約7軒に1軒が空家ということです。

さらに問題なのは、その多くが市場で流通していない「その他空家」に分類されている点にあります。
賃貸や売却の予定がある空家とは異なり、「その他空家」は利用予定がなく、管理も十分に行われていないケースが多いとされています。
こうした不動産は時間の経過とともに老朽化が進み、結果として売却がさらに難しくなるという悪循環に陥ります。
特に地方部では、不動産市場の流動性が大きく低下しており、媒介業者が販売活動を行っても買主が見つからないケースも珍しくありません。
建物の老朽化に加え、接道条件を満たさない再建築不可物件や、用途地域の制限、インフラ未整備などの問題を抱える空家も多く、一般の不動産市場では実質的に流通が成立しない状況が生まれています。
また、空家ほど注目度は高くないものの、管理不全土地(所有者不明土地を含む)も増加しています。
国土交通省の地籍調査等に基づく推計によれば、所有者不明土地の割合は筆数ベースで約20.3%に達し、その面積は約410万haと、九州の面積(約367万ha)を上回る規模になると推計されています。

こうした不動産は、所有者にとって紛れもない「負動産」と化しており、固定資産税や管理費用は継続して発生する一方で、資産価値はほとんどなく売却も活用も困難という状態です。
近年はこうした負動産の存在が広く認識されるようになり、所有者間では「売ることができないなら、せめて手放したい」とのニーズが急速に高まっているのです。
この問題をさらに複雑にしているのが、相続の増加です。相続件数の推計は困難ですが、年間の死亡者数と概ね比例します。
その観点から国立社会保障・人口問題研究所の推計を見ていくと、1989年当時は一日あたり約2,200人であった死亡者数は、2040年に約4,600人まで増加すると予測されています。

内閣府によれば65歳以上の住宅所有率は8割以上とされていますから、その不動産が今後、死亡者数の増加と連動して相続されていくのです。
しかし、相続されるすべての不動産が有効活用できるとは限りません。
相続人が遠方に居住している場合や利活用に多額の修繕費が必要となる場合、さらには利用予定がない不動産などについては、管理負担だけが相続人に課せられる結果となります。
2024年には相続登記の義務化が施行され、相続した不動産の登記を放置することが難しくなりました。
また、空家対策特別措置法の改正により、管理不全空家に対する行政の関与も強化されています。
これにより、不動産を持ち続けることのコストは、従来より確実に高くなっていると言えるでしょう。
こうした状況を背景に国は、2023年に「相続土地国庫帰属制度」を創設しました。
これは一定の条件を満たした土地について、国が引き取りを行う制度ですが、建物を解体して更地にしなければならないなど利用条件の厳しさや審査上のハードル、さらには10年分の管理費相当額(原則20万円。ただし市街化調整区域等については面積に応じて算定)を負担金として納付する必要があるなど、制度利用にあたっては費用対効果を慎重に検討する必要があり、かつ必ずしも承認されるとは限らないといった問題もあるのです。
結果として、売買もできず国の制度でも処理できない不動産が依然として残ることになります。
ここに、民間ビジネスとして不動産有料引取サービスの登場する余地が生まれたのです。
従来の不動産取引では、所有者が売主となり、買主から代金を受け取るのが基本でした。
しかし、引取サービスではその関係が逆転し、所有者が費用を支払って不動産を引き取ってもらう取引形態となります。
これは、一見すると特殊な取引のようにも思えますが、所有者にとっては「将来にわたり発生する管理コストや税負担を一括して処理できる」という意味を持ちます。
つまり、費用を負担してでも手放したいというニーズが成立するのです。
しかし、このビジネスモデルは単純に見えて実際には高度な判断が求められます。
なぜなら、事業者が不動産を引き取れば、当然に納税義務や管理責任が発生するため、建物や土地の管理はもちろんのこと、近隣トラブルへの対応など、様々なリスクをも引き受けることになるからです。
そのため事業者には、引取後の不動産をどのように処分するか、あるいは利活用するかといった出口戦略の構築が不可欠です。
言い換えれば、これは単なる「引き取るビジネス」ではなく、「引き取った不動産をいかに処理・活用するか」という点に本質があるビジネスだと言えるでしょう。
理解を深めたい3つの収益モデル
前章で述べたように、不動産有料引取サービスは「引き取ること」そのものがビジネスではありません。
重要なのは、引き取った不動産をどのように処理し、どのように価値化していくかという点にあります。
実務上の観点から調査・考察していくと、不動産有料引取ビジネスにはいくつかの典型的な事業モデルが存在することが分かります。
すでに事業を展開している業者によって違いはありますが、大きく整理すると次の三つに分類できます。
1. 再流通型モデル
最も基本的なモデルが、引き取った不動産を整備したうえで再び市場に還流させるタイプです。
このモデルは所有者から引取料を受領して不動産を取得した後、必要に応じて建物の解体や最低限の修繕、境界確認等の作業を行い、土地(古家付土地含む)や中古住宅として再販売します。
また、売主として他の媒介業者に販売協力を仰ぐケースも散見されます。
ただし、売主である事業者が宅建業者の場合、契約不適合責任を完全に免責できないという問題がつきまといます。
そのため、詳細に劣化状況や不具合を確認して事前に告知し、買主の承諾を得たうえで契約を締結する配慮が不可欠です。
もっとも、それ以前に引取料と再販価格を合わせることで一定の収益を確保する必要があるため、地域の需要状況や特性を十分に把握することは不可欠です。
再販売の見込みがない物件を安易に引き取ってしまうと、ビジネスモデル自体が破綻してしまうからです。
そのため、案件選別が重要だと言えるでしょう。
2. 利活用モデル
二つ目は引き取った不動産を収益化して活用するモデルです。
具体的には、空家を手直しして賃貸転用したり、簡易宿泊施設やシェアハウスとして活用するなどの方法が考えられます。
都心部近郊の土地であれば、駐車場や資材置場、家庭菜園場として活用できるでしょう。
このモデルの特徴は、引取料に加えて継続的な収益を生み出す資産へ転換する点にあります。
特に立地条件が一定程度確保されている不動産の場合、転売よりも収益性を確保できるといった利点があります。
ただし転用には、修繕費を始めとする初期費用が発生するため慎重に事業計画を検討する必要があります。
地域によっては賃貸需要そのものが乏しく、利活用できないケースも多々見受けられます。
そのため、このモデルを採用する事業者の多くは、徹底してリサーチを行うとともに、特定エリアに事業を集中させ市場リスクを抑えるといった戦略をとっています。
これにより、安定した運用を実現できるからです。
3. 処分・整理型モデル
このモデルは引き取った不動産を売却あるいは利活用することを端から考えず、建物を解体する、あるいは境界問題などを整理したうえで処分することを想定しています。
この場合、主な収益の源泉は所有者から受領する引取料のみです。
例えば、解体すれば隣地所有者が引き取ってくれるか事前にあたりを付けておく、あるいは公共事業用地として引き取ってくれる可能性があるかを事前に確認するなど、様々な戦略が考えられます。
また、立地条件によっては農地転用や用途変更によって利用価値が見いだせる可能性もあるでしょう。
このモデルは、一見すると単なる「処分業」に近い印象を受けるかもしれませんが、実務においては事前に入念な調査や検討が必要とされ、さらには解体費用や管理コストが発生することから、高度な収益構造の検討が不可欠で、目利きはもちろんコスト管理能力が求められるビジネスモデルです。
以上のように、不動産有料引取ビジネスにはいくつかの事業モデルはありますが、実務においてはどれか一つのモデルに固執することなく徹底したリサーチを行い、案件選別すると同時に出口戦略を見出すことが重要です。
そして、この出口戦略こそが事業の成否を大きく左右すると言っても過言ではありません。
つまり、不動産有料引取業は不動産の将来価値を見極める投資ビジネスだと言えるのです。
新規参入前に理解を深めておきたい事業リスク
前章では、不動産有料引取ビジネスの代表的な収益モデルについて整理しました。
しかし、このビジネスを実務として成立させるためには、収益構造だけでなく潜在的なリスクについても十分に理解しておくことが不可欠です。
不動産を引き取ることは、単に資産を取得するという意味ではなく、様々な法的・実務的責任を引き受けることを意味するからです。
1. 長期保有リスク
これは、最も基本的なリスクです。
売却や利活用などの出口戦略が何ら見いだせない場合、事業者がこの「負動産」を、長期的に保有・管理しなければなりません。
当然、固定資産税や維持管理費用などのコストが継続的に発生し、事業収益を圧迫する要因となります。
引取料が主な原資であるビジネスモデルにおいては、長期保有物件が増加するほど収益構造全体に影響を及ぼします。
特に人口減少が進む地方部では不動産需要自体が縮小しているため、一度取得した不動産が長期間市場で流通しないケースも珍しくありません。
2. 管理責任リスク
不動産を取得すれば、その管理責任は当然事業者に帰属します。
例えば、建物の老朽化による倒壊リスクや、敷地内の雑草繁茂、害虫発生、不法投棄などに適切な対応をしなければ、近隣住民との間でトラブルが発生するばかりか、行政に管理不全空家とみなされる可能性があります。
また、建物の一部が落下する、あるいは擁壁や塀が倒壊して第三者に損害を与えた場合には、所有者として損害賠償責任を負います。
このため、適切な管理体制の構築は不可欠です。
3. 契約・法務リスク
不動産有料引取ビジネスは必ずしも宅地建物取引業法による規制を受けるわけではありませんが、だからといって法的リスクが存在しないわけではありません。
前述した管理責任等はもとより、所有者との契約内容が不明確であった場合、契約条件を巡るトラブルが発生する可能性があります。
特に、引取料の支払い時期や所有権移転の履行時期、引取後の責任範囲については、契約書に具体的に明記し、かつ十分な説明責任を果たしておく必要があります。
また、多くのケースでは所有者が高齢のため、意思能力に懸念があるケースもあります。
その場合、後日親族との紛争が生じる可能性も否定できません。
そのため、通常の不動産取引以上に慎重な手続きや確認作業が求められるのです。
4. 想定外のコスト
不動産を引き取った後に、想定外のリスクが発生してコストが必要となったケースを耳にします。
例えば、建物の解体を見越して引取料を算出していたところ、引取後建物にアスベストが含まれていたことが発覚し、費用が大幅に増加したケースです。
また、土地の境界問題が当初の想定以上に根深く複雑で、過分な費用が発生したなどです。
また、長年放置された土地で不法投棄の撤去費用が想定以上に膨らんだ、あるいは土中から瓦礫が発見され処分費が必要になったケースも確認されます。
事前調査を十分に実施することである程度のリスクは排除できますが、すべてを完全に予測することは困難です。
そのため、事業者は一定のリスクを織り込んだうえで引取料の設定や案件選別を行う必要があるものの、それが理由で所有者との交渉が難航するケースもあるのです。
5. 事業者の信用リスク
意外にも見落とされがちなのが、事業者自身の信用に関わるリスクです。
そもそも、不動産有料引取ビジネス自体が新しいビジネスモデルであり、業界全体としてのルールや慣行が十分に確立・浸透していません。
そのため、引取後に管理が適切に行われないケースや、所有権移転を行わないなどのケースが発生しているのです。
これは、宅地建物取引業者でなくとも自由に新規参入できる事業形態であることが根本的な問題だと言われています。
このような問題を解消するために、一般社団法人不動産有料引取業協議会を筆頭とする任意団体が設立されたのです。

しかし、不動産有料引取業協議会の加盟業者は2026年3月時点で5社にとどまっており、その数は決して多いとは言えない状況です。
おそらくは団体に所属しなくても、さらには免許不要でも参入できるといった点が結果として業界の組織化を進みにくくしている側面もあるのでしょう。
このため、事業者には自らを律し、利益を追及するだけでなく健全な取引慣行を自ら確立していく姿勢が求められるのです。
このように、不動産有料引取ビジネスには様々なリスクが存在します。
しかし、これらのリスクは決して特別なものではなく、不動産事業全般に共通する要素も含まれています。
重要なのは、こうしたリスクを十分に理解したうえで、適切な案件選別と事業管理を行うことです。
実務的な観点から整理すると、有料引取サービスの導入を検討する際には少なくとも次の三点を確認しておくことが重要だと分かります。
第一に「出口戦略が存在するか」です。再販売、利活用、あるいは整理処分など、引取後の処理方針が具体的に描けない案件は、長期保有リスクが極めて高くなります。
第二に「想定外コストの余地」です。解体費用、測量費用、境界問題、土壌問題など調査段階で完全に把握できないコストが発生する可能性をどこまで織り込めるかが重要となります。
第三に「管理体制」です。引き取った不動産が短期間で処理できるとは限らない以上、一定期間の維持管理を前提とした体制を構築できるかどうかが事業の安定性を左右します。
そのため、管理体制が構築できるまでは自社で直接管理できる範囲に留め、安易に手を広げない配慮が必要です。
つまり、不動産の将来価値を見極めながらリスクを管理していく高度な投資型ビジネスが、不動産有料引取業の本質だと言えるのです。
まとめ
本稿では、不動産有料引取サービスという新しいビジネスモデルについて、市場背景、事業モデル、さらには事業リスクという観点から整理してきました。
空家や管理不全土地は相続の拡大に伴い、従来の「売却」や「保有」といった選択肢では解決できない事例が増えています。
こうした状況の中で、所有者が費用を負担してでも不動産を手放したいというニーズが高まりを見せているのです。
そして、それに応える形で不動産有料引取サービスという新たな市場が形成されつつあるのです。
一方で、このビジネスは単に費用を徴収して不動産を引き取るだけでは成立しません。
事業者が不動産を取得することで発生するリスクは、本稿で詳述したとおりです。
そのため、引取後の出口戦略やコスト管理、適切な案件選別といった実務能力が、事業の成否を大きく左右することになるのです。
また、業界としてのルールや慣行が十分に確立されているとは言えない現状において、事業者自身が健全な取引姿勢を維持し、透明性の高い契約や適切な管理を実践していくことも重要な課題です。
空家問題が深刻化する中で、この分野はさらに注目される可能性があります。
ですが、不動産事業者にとって新たな事業機会となり得る一方で、慎重な判断と十分な準備が求められる領域でもあるのです。
本稿が、不動産有料引取サービスの導入を検討される一助となれば幸いです。




