【相続人が居所不明でも取引できる】土地基本方針変更で検討されている制度を解説

相続絡みの不動産売却等を手掛けると、頭の痛い問題の一つに「共有者の居所不明」問題があります。
所有権の移転理由が相続である場合、共有者として登記名義人が複数いるのは珍しいことでありません。
ただし名義人として名前を連ねているのは通常、法定相続人ですので赤の他人が名前を連ねることはないはず。
親族であるから、当然にそれぞれ居所や連絡先を把握していると考えがちです。

ところが、必ずしもそうではない。
親族であっても疎遠になり、居所不明となっていることがあります。
上記でもじゅうぶんに厄介ですが、さらに問題を複雑にするのは「相続による負の連鎖」が発生しているケースです。

負の連鎖とは、相続により法定相続した人が死亡し、さらに相続が発生して連綿と続いているケースで、どのように権利が移動しているのか当人同士も把握できていない状態を意味しています。
こうなると不動産は完全な「塩漬け」状態となり、売買や賃貸借など不動産の有効活用などできません。
解消しがたい「空き家・放置土地」の原因です。

所有者の一人から、このような放置土地に関して処分をしたいと相談を受けても、権利移動の状態を把握するだけでも難航します。
2024年から施行される相続登記義務化により、居所不明者の調査もいずれはラクになるかと思いますが、定着するまでには施行後、数年間は必要でしょう。
そのような状態でも他の相続人が不利益にならないよう、登記義務化も含めて新しい制度が検討されています。
具体的には以下のような制度の新設です。

1. 相続登記・住所変更登記の義務化
2. 相続人申告登記の新設
3. 職権的な住所変更登記
4. 一定要件で相続取得地を国庫に帰属させる制度
5. 不明共有者が存在する場合、金銭供託により共有関係を解消する方策
6. 所有者不明土地・建物の財産管理制度の強化
7. 長期間経過後に法定相続分で遺産分割をおこなう制度
8. 相隣関係制度の整備
9. 登記手続き費用の負担軽減

制度改正は従来の土地基本法(平成元年法律第84号)に第21条3項を準用させ、令和3年5月28日に変更が閣議決定されたことによります。
この土地基本方針の変更により「所有者不明土地対策の推進に関する基本方針」が令和3年6月7日、関係閣僚会議で可決され実現に向けて動き出しました。
制度改正による措置は、政府が計画する工程表により2023年(令和5年)までに終了するとしています。

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ただし措置内容を勘案すると障壁が多分に見受けられますので、あくまでも筆者の私見として、相続登記が義務化となる2024年頃が一つの目安になるのではないかと考えています。
このような「所有者不明土地」問題に知見があることを世間に周知することにより、単独処分できない不動産売却相談などが集中して、一部の業者に寄せられることが予測されています。
時流に乗り遅れぬよう、措置内容を予め理解して準備しておく必要があるといえるでしょう。
今回は措置内容の中で押さえておきたいポイントについて解説します。

長期間分割されない相続不動産は、強制的に合理分割できるようなる

基本的な話になりますが相続財産は預貯金や有価証券などの金融資産のほか、車や家財などの動産、そして不動産などに分類されますが、税法上では厳格に区分されています。
このうち現金や有価証券などの分割しやすい財産は良いのですが、不動産や一部の動産は時価として評価される性質のものですから、売却して現金化することにより、はじめて適正分割できます。
相続税の支払いは、原則として相続開始(もしくは相続があったことを知ってから)10カ月以内と定められていますから、法定相続分で相続税を計算して納付するなどの手段が用いられています(協議不調の場合には、移転登記が放置されることも多いのですが)

ところが、相続税に期限はあっても遺産分割協議に期限はありません。
あたりまえの話ですが、不動産は単独所有が好ましい。
「活用・売却」など、なにをするにも単独で決めることができます。
ですから、だれしも単独名義で相続したい。

ところが法定相続人の人数が増えるほど難しくなります。
とくに現金に乏しく、相続財産のほとんどが不動産の場合など「金融財産と不動産のバランスが悪い」ケースは単独所有が困難になります。
お互いが権利を主張しますから決着がつきません。
このように相続が争続化して分割されない状態が一定期間を経過した場合に、合理的に分割できる制度が検討されています。

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具体的には、協議分割が整わないなどの理由で相続財産が正しく分割されない場合、あくまでも法定相続分で強制的に分割ができる制度です。
だれしも1円でも多く遺産の欲しいのが心情です。
それでも通常は、故人の遺志や法律を遵守してそれなりに落ち着くのですが、これがモメると際限のない争いへ発展します。

士業から聞いた話ですが、子供時代における小遣い金額の差額を持ち出して、生前贈与として私より多く貰っているのだから、取り決めた配分では納得できないとの話まで出るようです。
当人としては合理的な言い分なのでしょうが、第三者からみれば難癖にもみえます。
この理屈であれば孫への入学祝い金の差額や、お年玉の金額など、すべてが相続財産に影響することになってしまいます。
このような長期間、決着がつかない状態が一定期間経過した場合に、法定相続分により簡明に財産分割ができるようになります。

供託により、所在不明の共有者持ち分を使用可能にする制度

相続による負の連鎖により相続人の一部が居所不明などになった場合、売却や有効活用ができなくなってしまいます。
そのような場合に、他の共有者の合意により不動産を有効に活用できる制度の創設が検討されています。
具体的には以下のようなものです。

●不明共有者にたいして公告したうえで、残りの共有者の同意で土地の利用を可能にする制度の創設。

●共有者が、不明共有者の持ち分を相当額の金銭を供託して取得できるなど、共有関係を解消する制度の創設。

●短期使用権の設定を共有者持ち分の過半数で可能とするルールを明確にする。

●共有者が、代表者としての管理者を選任する制度の創設。

これらの制度が実際に創設されれば、不動産流通の活性化が期待され、私たち不動産業者にとって追い風となるでしょう。

所有者が不明でも、他人地を使用できる制度の創設

囲繞地など、土地の所有者とことなる私道に面している場合に問題となるのが、「通行及び掘削同意」です。
このようにさまざまな問題の温床ともなる私道ですが、私道や隣地所有者が居所不明の場合には、それどころの話ではありません。
所有者の所在が明確であれば、直接、話を持ち込めば良いのですが、居所不明の場合には現行法では打つ手がありません。

他人地,使用
そのような状態により土地が有効活用できない、もしくは売却にあたり障害になることを解決する手段として、ライフラインの導管等設置に関して、隣地所有者が所在不明でも簡易的な方法で権利行使ができる方法などが検討されています。

まとめ

今回解説した内容は、あくまでも土地基本方針の変更に基づき創設に向け準備されている「所有者不明土地対策の推進に関する基本方針」のポイントです。
現行法ではありませんので、ただちに適用できる制度ではありません。
ですが、工程表どおりに計画が進捗するかどうかは別にして、措置の実現に向けて具体的な準備が進められています。

有識者も交えた意見交換の内容や、具体的な決定内容など、経過については続報として解説をしていきますが、修正が必要ではあるものの今回、解説した検討措置はいずれ適用されるものばかりです。
改正ポイントを理解しておき、きたるべき時に備えることで、あらかじめ様々な手を打つことが可能になります。
ビジネスの鉄則は、情報を仕入れ先んじて手を打つ。
つまり「先手必勝」であるといえるでしょう。

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