【分譲マンションに反社組織が事務所を開設】排除するにはどんな方法がある?

不動産業に従事していると、一般的な売買相談の他にも相続や離婚、財産分与など、およそ不動産に関連する様々な相談を受けるでしょう。

相隣関係を原因とするトラブル相談も、その一つです。

そのような相談については不動産業者として対応が可能な範囲を逸脱しない限り、真摯に対応すべきですが、非弁護士行為に該当する相談は原則として受任することはできません。

そうは言っても不動産絡みの相談を無下に扱うのも考えどころで、判断の難しいところです。

これからの不動産業者は、不動産にかんする幅広いコンサルティングスキルが必要とされますから、法律の許す範囲で相談に応じることも、経験を積み重ねるうえで大切です。

筆者もそのような考えかたから不動産に関しての様々な相談に対応していますが、数年に一度「反社事務所の排除」にかんする相談が寄せられます。

たとえば

「分譲マンションの区分所有者が反社組織の構成員のようで、どうやら暴力団事務所としても使用されているようだ。どう対応すればいいのか?」

といった内容です。

今回は分譲マンションに存在する反社組織の排除方法に、どのような方法があるかについて解説します。

反社組織とは

購入もしくは賃貸で入居した住宅の近隣に、反社組織の事務所があって喜ぶ人はいません。

むろん重大告知事項として、重要事項説明書や物件状況報告書により契約締結前に説明すべき事項です。

反社組織の事務所が近隣に存在している場合には、売主による告知義務が必要とされるほか、懸念がある場合には私たちも調査をおこなっておく必要があります。

調査に関しての重要性については、過去に執筆した記事がありますのでそちらをご覧ください。

反社会的組織の定義は、「暴力・脅迫や詐欺などの違法行為を組織的におこなう集団」とされていますが、この言葉を聞いて真っ先に思い浮かぶのは「暴力団」でしょう。

ちなみにですが暴力団とは、暴力団対策法の定義で「暴力あるいは暴力的脅迫によって自己の私的な目的を達しようとする反社会的集団」とされており、あくまでも反社会的組織に該当する一つの組織形態です。

またこれらの組織の中でも「暴力団員が集団的に又は常習的に暴力的不当行為をおこなうことを助長するおそれが大きい組織」については「指定暴力団」とされます。

賃貸・分譲を問わず、それら反社組織の資金源となる不動産取引を抑制し、一般市民の平穏な生活を確保するとともに、社会経済活動の健全な発展に寄与することを目的として不動産売買契約書には「反社会的勢力の排除」条項が設けられています。

この条項に反して契約が締結された場合には、催告無しで契約を解除できるほか、当事者はもちろん第三者を通じても活動拠点に供しないことの特約が設けられています。

特約を適用した場合の契約解除は、20%の違約金(損害賠償額)を徴収できるほか、違約金に加え80%の違約罰としての制裁金をかしています。

つまり催告無しで契約解除をして、売買代金の全額相当を請求することができます(回収できるかどうかは別の話として)

ですが、これらはあくまでも契約条項であり、反社組織が先住の場合に適用できるものではありません。

反社事務所が近隣に存在すれば、不動産価値が下がる

近隣、もしくは共同住宅に反社組織の事務所があることによる不動産価格への影響は、裁判においてある程度の判断基準が示されています。

【東京地判平成9・7・7判時1605号・71貢】では、引き渡し後に同一マンション内に反社組織構成員が専有部分を所有していることが発覚しても、錯誤無効・詐欺取り消しの主張は認められないが、隠れたる瑕疵に該当するとして、売主にたいして350万円の支払い義務を認めています。

【東京地判平成7・8・29判時1560・107】では、近隣の反社事務所の存在を「瑕疵」として認定し、その損害を売買金額の2割は下らないとして1820万円の損害賠償を売主に命じています。

このように告知義務は売主にかかせられている訳ですが、反社組織の事務所が存在することは売主の責任ではありません(告知は義務ですが)から気の毒です。

ですが裁判の判例からみても確認できるように、反社組織の事務所が近隣に存在する、もしくは組織の構成員が入居しているだけで不動産の売買価格は影響を受け、その価値が減少してしまうのです。

排除は区分所有法で解決できない

NG,女性

ご存じかとおもいますが、暴排条例の正式名称は「暴力団排除条例」といいます。

この条例は地方公共団体によって施行されている暴力団およびその影響力を排除することを目的とした各条例の総称です。

条例に基づき分譲マンションで反社事務所を排除するには、下記の方法が考えられます。

●区分所有法59条に基づく競売請求
●区分所有法58条に基づく使用禁止請求
●人格権に基づく暴力団組事務所使用差止請求

最初にあげた区分所有法59条、つまり競売請求を適用させるには同法第6条および第57条の要件を満たしている必要があります。

区分所有法第6条とは、「建物の保存に有害な行為その他、建物の管理または使用にかんし区分所有者の共同利益に反する行為」を禁止する事項です。

これは反社事務所が存在しているという事実だけで成立します。

その前提により第57条で「行為がある。もしくは行為をする恐れがある場合に、他の区分所有者の全員または管理組合法人は、区分所有者共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、またはその行為を防止するため必要な処置を講じることができる」としています。

ここで注意して戴きたいのは、「除去」のまえに「停止」がきているという点です。
第59条でも、その前提条件は明確に示されています。

「区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保、その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員または管理組合法人は、集会の決議に基づき訴えをもって、当該行為に係る区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる」

つまり、反社事務所として使用されていることが明らかでも、いきなり競売請求はできないということです。

法的には第6条から段階を経て「共同利益背反行為の要件」を構成するのですが、構成員が頻繁に出入りしていることが目撃され、共用部まで聞こえる怒声などが繰り返されれば、要件を満たすことは間違いありません。

また事務所と特定できなくても、反復継続して構成員らしき人間が頻繁に出入りすることをもって「共同利益背反行為による共同生活上の障害が著しいこと」と推定はできます。

ところが、この区分所有法第59条を適用させるためには「他の方法によってはその障害を除去し」とあることから、先んじて他の方法、つまり使用指し止めが不可能であるという条件をクリアしなければなりません。

区分所有法第58条で定める使用禁止請求を実施しているのかが問われます。

「他の区分所有者の全員または管理組合法人は区分所有者議決権の3/4をもって使用の禁止を請求することができる」としている規定です。

実務として、これが難しい。

なんせ反社事務所として使用されているかどうかは、外部から伺うことができません。

よしんば内部に招き入れられたとしても(お勧めはしませんが)昔の映画やテレビドラマのように、壁の端まで提灯を並べてられているお洒落な事務所は皆無で、デカデカと組織のエンブレムを掲げている事務所など、こんにちでは存在していません(私の知る限りですが)

せいぜい室内の大きさと釣り合わない大型の応接セットが設置されているか、事務用の机が並んでいるといった程度で、決め手にかけます。

実際に裁判を提訴しても、共同利益背反行為および補充性の要件として、口頭弁論終結時まで事務所が存在することが必要とされており、反社組織側もよく熟知していることから、様々な方法で回避してしまいます。

また排除のためには原告側として立ち上がらなければなりませんが、報復を恐れて、なり手がいないという問題もあります。

筆者の経験ですが、その昔、自己所有分譲マンションに反社組織が事務所を構えており、管理組合から依頼され、交渉代表者として区分所有法を適用させようと動いた結果、拉致監禁されて山奥に連れていかれた経験があります(おかげさまで何事もなく無事ではありましたが)

ここまで解説しておいてなんですが、区分所有法とはそのようなものだと理解して戴き、実際に使用禁止や競売まで持ち込むには困難が伴うと理解してください。

そこで、人格権に基づく暴力団組事務所使用差止請求の出番です。

暴力団排除命令はこのようにする

暴力団組事務所使用差止請求には全国暴力追放運動推進センターへの相談がお薦めです。

全国暴力追放運動推進センター

https://www.zenboutsui.jp/index.html
この組織は国家公安委員会が全国組織として指定し、各都道府県公安委員会が都道府県ごとに暴力追放運動推進センターを指定しています。

たんてきに表現すれば、公安委員会を後ろ盾とした暴力団排除活動支援組織です。

都道府県によって相談員構成はことなりますが、基本的に警察OBのほか弁護士・少年指導員・保護士などで構成されています。

具体的に話を持ち込むと、相談員である警察OBを経由して組織犯罪対策部を紹介してくれますし、暴排に知見のある弁護士の斡旋もしてくれます。

管理組合で協議し、やみくもに弁護士に相談にいっても難色を示されるケースがよくあります。

「できれば関わりたくない」という人情が先行するのでしょうか。

そのような無駄な労力を使うぐらいなら、反社事務所が存在し、実際に「共同利益背反行為による共同生活上の障害が著しい」との具体的な証拠を準備し、相談に赴くと話がはやくすみます。

とくに「指定暴力団」の場合、公安委員会や組織犯罪対策部は反社事務所の所在をほぼ正確に把握しており、排除するタイミングを伺っています。

市民から提示される具体的な証拠や協力要請があれば、組織的にも動きを取りやすくなります。

まとめ

今回ご紹介したように、反社事務所が分譲マンションにある場合には区分所有法で決着がつけられることはほぼありません。

ご存じのように、私たち不動産業者は「暴排条例」により反社組織構成員との不動産売買や賃貸借契約が禁じられています。

ですが、すでに所有権を取得してしまっている場合、彼らはありとあらゆる手段で権利を手放さないように画策してきます。

区分所有法により提訴しても、口頭弁論終結時までの間に第三者に便宜的に賃貸借するなどのほか、買付証明書や架空の売買契約書を提示して、あたかも売買契約予定がある、もしくは成立したように見せかけることがあります。

一度手放してしまえば、彼らが合法的に不動産を取得できる機会はそうそうありませんから必死です。

分譲マンションに限らずではありますが、全国暴力追放運動推進センターに相談しながら、法律的な対処を検討して外堀を埋めていくのが正解だと言えるでしょう。

【今すぐ視聴可能】実践で役立つノウハウセミナー

不動産会社のミカタでは、他社に負けないためのノウハウを動画形式で公開しています。

Twitterでフォローしよう

売買
賃貸
工務店
集客・マーケ
業界NEWS