地震災害などにより地盤が沈下して住宅が傾いているニュースを、少なくても一度はご覧になったことがあるでしょう。
このようなニュースを見た顧客に、土地の紹介などをすると「この辺は地盤ってどうなの?」と質問され、「それは私たち仲介業者に調査義務はありませんので分かりません」と答えている営業マンも多いようです。
ハザードマップの提示と説明については、2020年7月から義務化されていますので、当然として皆さんご存じだと思いますが、あくまでも水防法に基づき作製された洪水・雨水出水・高潮に関して対象物件について概ねの位置を示すのに留まります。
地盤等に関しての説明責任としては、重要事項の説明において土砂災害防止対策推進法に基づく造成宅地防災区域内に該当するかどうかだけで、対象地の地盤に関して説明が義務ではないと思われている方が大半でしょう。
あくまでも土地や中古住宅の仲介に限定してではありますが、売買契約は対象物(不動産)を譲渡することが主ではありますが、引渡しを受けてからの不同沈下などに関しての判例では、売買契約に付随する形で、土地の地盤に関して一定の調査・説明義務が存在すると解されています。
では一定の調査とはどの程度の範囲でしょうか?
今回は地盤調査に関して、裁判の判例により必要と解される調査の範囲や、多少は専門的になりますが具体的な地盤調査の方法やデータの読み方、地層により変化する地耐力など、地盤の基本ついて解説します。
求められる調査範囲は?
説明範囲については、大阪地方裁判所平成8年(ワ)第2267号_損害賠償請求事件の判例が参考になります。
裁判所の見解として、仲介業者の調査責任の範囲は以下のようにあると判断されました。
●安全性について独自に調査する必要はない。
上記の内容だけを見れば、公的機関等による検査実施の有無だけを確認すれば良いと受け取れます。
ですが売主や仲介業者があらかじめ土地の柱状(軟弱地盤であるなど)に関して、その状態を把握していた場合、もしくは冒頭にあげた「この辺は地盤ってどうなの?」と、購入検討者から質問されていた場合には見解がことなるようです。
質問された場合に「地盤に関しての専門知識がないので、説明は省略させて戴きます」という、不正確な知識で説明ができないとの理由で説明責任が否定されることはないとの判断が、判例で示されていました。
仲介業者には一定の範囲を調べて報告する義務があるとの見解です。
具体的には下記の裁判で、同様の判断がされています。
東京地方裁判所平成19年(ワ)第7620号損害賠償請求事件平成21年10月9日
判例を要約すると、仲介業者には以下のような義務があるとされています。
●地盤にたいして専門知識がないことで告知義務は否定されない。
争いが生じた場合の判断ポイント
例えば中古住宅を購入して引き渡したあと、地震などにより不同沈下が発生して家が傾いたり、庭の一部が陥没したりしても、「地盤に関しての調査不足だ」とクレームになることはあっても、当初から家が傾いていたり、売主がそのような趣旨を物件状況報告書に記載していない限り、当然に予見できたとは判断されず、あくまで地震などの不可抗力によるものだと判断される可能性が高いでしょう。
上記のケースが裁判に発展しても沈下と説明責任の因果関係について、立証責任は原告(所有者)にありますから、仲介業者による説明責任の範囲を勘案すれば、調査不足を論理的に証明することは難しいでしょう。
筆者も不動産コンサル業として被害者(原告側)から相談を受け、地盤調査会社に調査と意見書の作成を依頼することがあります。
その経験から言っても、当初から傾いていた中古住宅を瑕疵として立証するのは容易ですが、相当規模の地震などが原因であると推定される不同沈下の場合には、売主や仲介業者の責任を立証することは、ほとんど不可能だと考えられます(小さな地震による沈下はその限りではありません)
相当程度の地震の判断基準ですが、過去の判例を見ると震度4が一つの目安になっているようです。
つまり震度4以下の地震で不同沈下が発生した場合には、瑕疵であると判断される可能性が高く、それ以上の震度の場合には不可抗力であるとされる可能性が高まるといった目安です。
とはいえ日本は地震大国ですから、震度4程度の地震は珍しいものではありません。
不可抗力であるから責任は追及されない、もしくは調査義務がないから調べる必要はないと言われればその通りなのですが、高額な財産を斡旋する不動産業者としては道義的にいかがなものかと思います。
以降で地盤調査に関して、多少は専門的になりますが具体的な地盤調査の方法やデータの読み方、地層により変化する地耐力など、地盤の基本ついて解説します。
そもそも「地盤」とは
土地の表層を表現する場合に「地盤」と言う方はおられません。
通常は「地面」と呼ぶでしょう。
「地盤」は土地の表層では無く地層、つまり表面から伺えない地中の「層」であり、建物を建築する場合にどれだけその建物が沈下しないように支えることができるかの「支持力」をさします。
ですから「地盤強度」もしくは「地耐力」という表現が使われるのです。
図_地盤審査保証事業HPより
地盤調査の方法も知っておこう
ビルを建築する場合には本格的なボーリング試験の実施が必要とされますが、一般住宅の場合には下記2種類のうち、どちらかの試験が採用されます。
SWS試験(スクリューウエイトサウンディング試験)
ロッドの先端にかかる荷重(もしくは回転数)から、地盤の強度を測定します。
土質は音や感触を頼りに推定しています。25cm毎の測定数は1点のみです。
詳細なデータを得る検査としては不向きですが、検査金額が安く、一般的な住宅建築で、もっとも採用率が高い試験方法です。
SDS試験(スクリュードライバーサウンディング試験)
荷重や回転トルク、1回転の貫入量を計測できます。
ロッドの周辺摩擦も考慮して、深度ごとの地盤強度と数値・地形データから土質を高精度に分析できます。
25cm毎の測点数は1~7点です。
SWS検査よりも費用は割高になりますが調査の精度が高く、またボーリング調査と比較すれば低料金でボーリング調査並みの試験結果が得られるのが特徴です。
調査データの読み方
下記に、調査結果のデータ例を掲載しています。
見慣れていなければ難解に見えますが、ポイントは用語の理解と「換算N値」もしくは「N値」の読み取りだけです。
用語解説と重複しますが「N値」とは、前項の測定器を用いて先端が30㎝掘り進むのに必要な打撃回数です。
単純に「打撃回数が多い=地盤が固い」ということです。
ちなみに「N値」と「換算N値」との違いですが、前者は標準貫入試験によって算出された実データであるのにたいして、後者は標準貫入試験以外の試験結果により、換算式によって得られた数値です。
まれに換算N値が不安だと言う声も聞かれますが、現在は精度の高い情報が得られますので気にするほどではありません。
建築会社によって多少「支持力」にたいする考え方はことなりますが、通常は「平均でN値10~」が得られる層を、支持基盤としています(下記の掲載データでは14m以上でしょうか)
支持基盤とは、地盤が一定以上強固である層のことで、軟弱地盤で住宅を建築する場合にはこの支持基盤に達する形で杭工事など、柱状改良工事を実施して不同沈下を防止します。
【その他、理解しておきたい用語】●標尺:調査の基準とされる長さで1m単位の主となる目盛りと10㎝単位の補助目盛で表示される。
●深度:地表面からの深さ
●層厚:各層(土質区分)の厚み
●柱状図:土の種類を記号で表したもの
●土質区分:土の種類を名称で表したもの
●坑内水位:孔口(地表面)から地下水位までの深さ(水位測定日に留意)
●標準貫入試験及び深度:土の総体的な硬さや締り具合を表す。N値を求めるための必要
●打撃回数:63.5㎏の重りを地表面から76㎝の高さから落下させたときの、10㎝ごとの打撃回数。
●貫入率:打撃回数により生じたSPTサンプラー(ボーリングロッドの先端に取り付ける測定用装置)の貫入深さ。
●N値:SPTサンプラーを30㎝打ち込むのに必要な打撃回数(地盤の強度を表す値で、もっとも重要)
まとめ
今回は、仲介業者には地盤について説明責任が存在するという判例からの見解と、基本ではありますが地盤データの読み方について解説しました。
建設に直接関わらないのであれば、説明責任を果たす程度の知識を持つだけでも大丈夫ですが、きちんと覚えたければ今回の基本的な解説だけではなく、専門的な内容も含めて学習することをお勧めします。
基本的な話ですが、将来的なトラブルを防止する意味で予め「この土地は軟弱地盤の可能性があります」と伝えておけば、もし震災などが原因で家が傾くなどの不同沈下が生じても、契約不適合責任が追及されることはないと考えられます。
契約不適合責任は原則として「あらかじめ買主が知っていた場合には責任が否定される」からです。
上記はあくまでも、仲介業者の場合における契約不適合に関しての説明責任を果たしていることに過ぎないため、建築会社の場合は異なりますが、いずれにしても時間を浪費する不要なトラブルを回避する意味合いからも、地盤にかんして説明をするよう心がけるのが良いでしょう。