顧客から将来的に値上がりするエリアについて質問され物件紹介する場合、私たちが提案する根拠にも色々な考え方があると思います。
分かりやすいところでは新駅の誘致や大型スーパーの出店情報などですが、そのような情報が計画段階から一般に出回ることはありません。
情報が流布されるころには水面下で近隣物件が収用され、周辺価格も上昇し「時遅し」です。
もっともそれらを原因として近隣地域が開発され、街並や資産価値・住環境も影響を受け受けますから、どの時点までが採算ラインであるかの判断は難しいものです。
それ以外を理由として提案する場合、何を根拠として当該地が発展エリアになる可能性を持つと証明できるでしょう。
「不動産業○○年ベテランのカン!!」などは、嘲笑の一つは得られますが根拠にはなりえません。
そのような場合における根拠の一つとして「集住率」を意識したことはあるでしょうか?
少子高齢化が叫ばれる昨今では不動産価格の推移について予断を許さない部分も多く、確実とは言えないまでも価格が安定、もしくは値上がりする地域について紹介する場合には明確な根拠により提案する必要性が増すでしょう。
そこで今回は地域活性化の指標である「集住率」や、それに影響を与える「スマートシティ構想」そしてスマートシティ化によりなぜ不動産価格が安定するかについて解説します。
不動産価格が安定・上昇するにはコンパクトシティ化が必須
「住みやすい街や地域」は個人の価値観により変化します。
個人がライフスタイルで重視する項目、つまり交通利便性や駅までの距離、希望する学校区や買い物利便性など「○○だから」の理由が一律ではないからです。
そのような個人の嗜好性は個々にヒアリングして要望に合致するエリアを紹介するしかないのですが、不特定多数が選ぶ基準は住環境まで含めた生活利便性です。
不特定多数が住みやすいと認識できる住環境であれば、必然的に住民は増加していきます。
不動産価格が安定するには継続的に地域が発展し持続していくことが必要です。
不動産価格が需要と供給のバランスで変動することは解説するまでもありませんが、需要はそのエリアにおける利便性、そして将来的な発展性の有無により変化します。
そのような発展性については、行政が『地域共生社会・地域経済循環社会・脱炭素社会』のバランス配置をどのように考えているのか予測することが必要であり、不動産業者として「先読み」の基本です。
私たちが提案する場合にも、そのような持続可能性を加味することにより「他社とは違う不動産業者」として差別化を図ることができるでしょう。
そのためのキーワードが先に挙げた「集住率」であり「スマートシティ」で、それらが適切に配置されている状態が「コンパクトシティ」だからです。
コンパクトシティって?
コンパクトシティの概念は、街の空洞化現象(ドーナツ現象)の対極です。
都市中心部の住人が郊外へ移住する現象が後者(空洞化)ですが、反対に小さくまとまった地域に生活圏を集中した状態がコンパクトシティです。
この両者の概念は対極に位置していますが、原因には共通して「少子高齢化」が存在しています。
少子高齢化の問題点は様々にありますが、その影響による都心の空洞化は「働く世代が減り、支えるべき高齢者が増加している」状態であると理解すれば良いでしょう。
この原因として多いのが「スプロール化」によるものです。
このスプロールという言葉、学術的に定義は曖昧ですが「無秩序にコミュニティを拡大したことによる、持続不可能な無計画な都市成長」のことです。
私たち不動産業者は研究者ではありませんから「スプロール化」という用語と定義だけを念頭に置き、そのような状態が放置されていれば今後の発展が見込まれず、当然に不動産価格の上昇も見込めないとだけ理解しておけばよいでしょう。
このようなスプロール化した市街地を再生するため行政が都市機能を集約する取り組み、つまり「コンパクトシティ化」に向けどのように計画しているかを知ることが、私たちにとって重要です。
図_街なか居住研究会HPより
キーワードとして、下記の用語は覚えておきましょう。
●コンパクトシティ
コンパクトシティとは既存ストックを有効に活用しながらスプロール化により補えない都市機能を集約させることです。
●スプロール
スプロールは集約的に施設を配置することができず街路形成や上下水道、学校や病院など一般生活に必要なインフラが未整備のままの状態で、都市機能が機能せず低下している状態です。
●都市空洞化
未整備の住宅街が増加することにより、都市機能が低下して都心から郊外へと人口が流出している状態が「都市空洞化(ドーナツ現象)」ですから、インフラ整備が追い付いていない無秩序な都市化現象であるスプロールとは異なります。
いずれにしても都市機能が停滞している状態は効率的に行政サービスが配分されず、そのまま放置すれば状態が悪化します。
行政も回避したいのですが、働く世代が減少すれば税収も減り、高齢者の増加による福祉・介護サービスの提供でお金は出ていく状態になりますから財政的に均衡が取れません。
そのような財政状態で新たな行政サービスへの投資などは望むべくもなく、結局のところ住環境が悪化していくでしょう。
行政として対処が計画されておらず、スプロールもしくは空洞化が進んでいるエリアの不動産は「不動産価格の安定や将来的な値上がり」など望むべくもありません。
少子化の状況も理解しておこう
高齢化と併せての問題が少子化です。
ご存じのように少子化は近年だけの傾向ではありませんが、1971年(昭和46年)~1974年(昭和49年)の第二次ベビーブームを頂点として、以降の出生率は減少の一途をたどっています。
ベビーブーム当時の出生率は2.14でしたが、最も新しい2021年の出生率は1.34でした。
ご存じかと思いますが出生率とは、一定人口にたいする年度ごとの出生数の割合ですがその単位をパーミル(‰)で表します。
出生率は普通出生率と、15歳~49歳までの年齢別出生率を合計した合計特殊出生率とに分けられますが、先ほどご紹介した数字は後者のものです。
最新版である2019年の世界合計特殊出生率ランキングで日本は191位でした。
言うまでもなく出生率の低い国です。
近年では日本出生率が最も低かったのは2005年の1.26ですから、2021年は多少持ち直してはいるのですが、それにしても……という数字です。
国内において最も出生率の高いのが沖縄の1.86で、低いのが東京の1.13です。
出生率低下の原因は様々にありますが要因として
●未婚率の増加
●晩婚化
●結婚・出産にたいする価値観の変化
●女性の社会進出
●出産・育児環境の未整備
●金銭的負担
などが挙げられており「確かに……」と頷ける内容です。
完全に達成できているかは別として、性差による職場環境差別も表面上は沈静化の傾向で、かつ草食系男子とは裏腹に能力がありスキルアップを目指す肉食系女子は増加しています(個人の感想ですが……)
子どもが生まれてからの金銭的負担も理解できますが、何よりも自己実現のために頑張る女性の足かせになるのが育児環境の未整備でしょう。
「子供は好きだから生みたい。でも……」という気持ちは痛いほど分かります。
育児と仕事を両立させるためには託児所などの整備事業が不可欠です。
ニュースでは自治体が認可した保育施設の待機児童数は、厚労省報道の発表によると1万人を切り、5634人であるとされ、これは過去最高に良い数字であるとされていますが地域格差などの思慮に欠けているとしか思えません。
実際に私の周りを見ても、苦労されている方が大勢おられます。
そもそもコロナ禍による離職率の増加や、在宅ワーク推奨により一時的に減少しただけでありコロナの沈静化傾向により待機児童が増加していくのはあきらかです。
この少子化問題を解消するためには子育て・福祉部門における官民共同で構築されたコミュニティネットワークが必須だと思います。
SNSの普及により「子育て」や「働くママたち」などによるコミュニティは活性化していますが、それらのグループの情報量は、ご覧になったことがあるかたならご存じのように様々な情報が公開されています。
結果的に出生率を引き上げるためには、民間だけではなく公的な支援をどこまでおこなえるかが「鍵」でもあり、そのために公園なども含めた子育てに適した自然環境と保育施設などの支援施設、そして勤務先へのアクセスが良い意味でバランスを保っている必要があるでしょう。
集住率と行政の動きから発展を予測する
環境整備のためには、地域ごとにおける施設最大効率運用のため「集住率」の把握が不可欠です。
この行政も注目する「集住率」について、私たち不動産業者の多くは着目していません。
ちなみに「集住率」とは市区町村ごとに「人口集中地区に住む人口」を「全人口」で割って計算した数字です。
「人口集中地区」とは、総務省が5年ごとに公表する「国勢調査」で設定される地区のことですが、全国を約106万に分けた調査区ごとに人口密度を計算します。
①1㎢当たり4000人以上の調査区が隣り合わせで存在する
②その調査区の合計で人口が5000人以上になる
計算により、上記2件の条件を満たす地域が人口集中地区とされます。
これらは日本経済新聞ビジュアルデータ「地図で見るコンパクトシティ化」でも確認することができます。
https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/regional-regeneration/population-density-map/
「集住」により公共投資や行政サービスの集中配分をすることが可能になることから、生産性向上の計画には不可欠です。
商業施設・行政サービスを集住率の高さに応じて適正に分配することにより、生活の質が安定するからです(結果的に、さらに集住率が増加して公共サービスや住環境が充実する)
この集住率の増加はコンパクトシティ化が行政の計画通りに進捗しているかを図る目安となるのですが、10年間でこの集住率が上昇したのは日本全体の3割(542市町村)しかありません。
私たち不動産業者はこの集住率の変化を機敏に読み取り、行政のスマートシティ計画の状況等を勘案することにより先んじて、発展する街を予測することができるのです。
まとめ
勤務する会社の規模により、情報や入手できる時期は異なります。
都市開発などをおこなう上場不動産会社には、早期に良質な情報が集まります。
ですがそのような会社に勤務していなければ情報が入手できないのかと言えば、そんなことはありません。
解説したような一般的に公開されている情報を組み合わせることにより、将来的な変動を予測することは充分に可能です。
逆説的になりますが本人の情報に関しての意識が高くない限り、有益な情報を得ることはできないということです。
「不動産会社のミカタ」でも、さまざまな情報の発信や業務に役立つコンテンツの配布、セミナー開催などをしていますが、そのような有益な情報を取り入れ「糧」にするのも結局は本人次第かも知れません。
氾濫する情報を選択し、自ら考えて活用する。
継続してそのような行動ができる営業マンが、どの時代においても活躍できる「不動産スペシャリスト」なのでしょう。