高層化が進む分譲マンションはもちろん複数階のテナントビルなどを利用するには欠かすことが出来ないエレベーターですが、全国規模で、建築基準法に違反しているエレベーターが全国で2,450台も存在していたのはご存じでしょうか?
していたと表現したのは平成29年2月に「国土交通省が公開した違法設置の疑いのある昇降機に係るフォローアップ調査について」という名目で、下記のように情報提供を呼び掛けた際に公開された件数だからです。
調査対象とされ発覚した件数のほとんどは労働基準監督署の立ち入り検査や、厚生労働省から国土交通省に情報提供されたもので、筆者個人としてはあくまでも氷山の一角であり、雑居ビルや自主管理の賃貸・分譲マンションなどにおいて違法エレベーターはまだまだ存在しているのではないかと思い、是正状況や経過などの情報を注意深く追い続けてきましたが、フォローアップから5年間を経ても最新の情報が確認できません。
エレベーターは日常に不可欠な設備であると同時に、万が一事故が発生すれば惨事になる可能性が高いことから、設置や定期点検には厳しい基準が設けられています。
私たち不動産業者は、例えば分譲マンションの場合には定められた定期点検が実施されているとの前提で、事前の調査や説明をおこないますし、実際に正しく運用されているのがほとんどです。
また普段エレベーターを利用していても、定期点検実施シールなどをあまり意識して乗ることもないでしょう。
ところが建築基準法違反のエレベーターが全国でどれほどあるのか、行政も把握できていないのが現状のようです。
国土交通省の情報の提供依頼ページが、現在においても運用されていることから容易に想像がつきます。
このような実情を知っている不動産業者は多くありません。
そこで今回は、万が一の場合には人命に関わるエレベーターに関連し、違法であると気づいた時の是正報告依頼等も含め解説したいと思います。
エレベーターの法定点検、その周期は?
一般的なエレベーターの耐用年数は、メーカーにより違いはありますが概ね26~30年程度が目安とされています。
ただしこの年数は適切にメンテナンスが実施されていればということが前提の年数ですから、メンテナンスを実施していないなどの場合には、言うまでもなく耐用年数前に不具合が生じる可能性が高まります。
法律で定められている点検は年1回です。
車検と同じと理解してもらえばよいのですが、車検証と同じく、定期点検を実施すれば「完了検査済」と「定期検査報告済」のワッペンが付与されます。
ワッペンの色には種別によりイエロー・ピンク・ブルーなどがありますが、建築に携わっていない方に馴染みのあるのは下記の「定期検査報告済証」でしょう。
完了検査済ワッペンもしくは定期検査報告済証が交付された場合には速やかに操作盤上部付近などの所定の位置に、常に提示されていなければなりません。
ですから操作盤上部に定期検査報告済証のワッペンが提示されているか、そして有効期限内であるかをチェックするクセをつければ、少なくても定期点検が実施されているとの確認をすることができます。
ちなみに有効期限が過ぎているのに気が付き、慌てて定期検査を実施した場合には点検後1年間ではなく、あくまでも有効期限から1年間が有効となることから1年未満となりますので建物管理などを行っている方は注意が必要です。
法定定期点検は当然だが、メーカーによる定期点検は実施されているか?
車検と同じく、法定定期点検はあくまでも法律で定められた箇所、つまり型式により異なるワイヤーロープ部の断裂や破損などの基本項目を点検しているだけですので、それを持って直ちに故障がなく安全であるという保障にはなりません。
車検を行った僅か1週間後に車が故障したなんて話は珍しくもありませんから、定期点検と併せて大切なのがエレベーター販売メーカーなどの保守管理部門による点検です。
メーカーやメンテナンス契約の内容によりことなりますが、1か月に2回などの頻度で行う場合もあれば、月1もしくは2か月に1回など様々です。
人命に関わる器械ですから、最低でも2か月以内に1度の保守点検を実施して欲しいとは思うのですが、実際にはメンテナンス費用を惜しみ法定の「定期検査」だけを実施していれば良いだろうという自主管理マンションや個人オーナー所有のテナントビルなども多いのが実情です。
定期点検は人用だけではない
分譲マンションなど、管理会社が管理している場合にはそれほど心配する必要もないかと思いますが、そうではない場合、つまり自主管理しているテナントビルや賃貸マンション、特に工場などの業務用エレベーターなどは注意が必要でしょう。
工場等においても0.25t以上のものは、建築基準法ではなく労働安全衛生法に該当しますし、かつ一定の高さ等を超えれば建築基準法によるエレベーター構造規定の適用となり「完了検査済」や「定期検査報告済」が必要になります。
土交通省が違法性のあるエレベーターのフォローアップ調査を実施する契機となったのは平成21年に発生した下記の「事故」でした。
●事故発生状況
工場で、荷物を荷物用エレベーターに乗せようとしていた女性パート従業員が、2階の出入口から1階に停止していたかごの上に落下した。
その後、他の従業員がエレベーターを作動させた結果、落下した女性パート従業員は昇降路壁とかごの隙間に挟まれて、死亡した。
事故発生後に建築基準法違反エレベーターが調査されましたが、不適合の内容は下記のようなものでした。
●出入口の施錠装置が外から解錠できないものになっていない
●定期検査を実施していない
違法エレベーターの件数が氷山の一角でしかない理由
冒頭でも触れましたが、下記の建築基準法違反であるとして是正命令が出された調査は、労働基準監督署や厚生労働省から国土交通省に対して寄せられた情報に基づき実施されています。
その後のフォローアップ状況については平成29年を最後として国土交通省のホームページでは更新されておらず、実数が把握できません。
また建築基準法違反や事故・不具合情報の収集を行っていますが、その結果についても公開されていません。
そこで国土交通省に問い合わせをしたところ
「情報提供件数が少なく、まとめられる状況には至ってない。継続して情報提供を呼びかけるとともに、問題があると判断される情報については都道府県を通じ特定行政庁に調査や対応の依頼を実施している」
と回答されました。
筆者個人の印象として、積極的に調査の実施はされていないと感じました。
事故が発生すれば人命に関わる可能性の高いエレベーター事故ですし、私達不動産業者は分譲マンション以外にも工場や、個人管理の賃貸マンションにおいて賃貸や売買の仲介に関与することがあります。
そのような場合には、今回の記事を参考に正しく検査が実施されているかを気の止める他、あきらかに機械が不具合である場合になどには積極的に情報提供する必要があるでしょう。
実際の問い合わせや、不具合情報等の担当窓口は下記となっています。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000002.html
また、情報提供方法については上記の違法エレベーター通報受付URLから、Word方式で入力できます。
提供(入力)する情報も下記のように簡単なものです。
まとめ
売買・賃貸など仲介として関与した場合、対象物件で使用されているエレベーターが建築基準法に違反している場合には予め是正しておくことが必要です。
そのような場合には売り主にたいし是正処置を講じるよう依頼すればよいのですが、そうではない場合、例えば売買等に関与はしていないが明らかに違法性が高いと思慮される場合などにおいては、積極的に情報提供をおこなうよう心がけたいものです。
今回の記事をお読みいただければお分かりになるように、実際に事故が発生した場合の報告はもちろん、開閉不具合等、昇降機自体の問題がある場合や操作盤上部に提示されている「定期検査報告済」のステッカーをチェックするだけのことです。
直接関与する場合はもちろん、常日頃から事故発生の防止に心がけるのは私達、不動産業者にとって必要な心構えではないでしょうか?