台風や地震などが発生した場合に一気に増加する損害保険を利用した工事。
損害保険は「転ばぬ先の杖」として備えることが目的の保険ですから、適正に工事内容や費用を確認し、請求する分には問題ありません。
保険金は掛け捨てですから、損害が生じた場合には適正であるかぎりにおいて請求すべきでしょう。
ただし保険契約に定められている免責分も見積もりに上乗せし「自己負担0円」とする保険請求は、当然のことながら違法行為です。
褒められたことではありませんが、その動機が顧客の自己負担を可能な限り軽減したいという想いにかられての行動であれば、容認はできないものの「必要悪」といった部分もあるかも知れません。
ですがそうではない場合、つまり「この工事、全て損害保険でまかなえます」と写真入りで広告掲載し、どのような工事でも損害保険で持ち出し「0円」であると喧伝している業者の多くは、自社の利益を追求することだけが動機であり、そのために顧客を巻き込んでのトラブルが絶えません。
自己資金を拠出せず、全てのリフォーム工事が保険金でまかなえるなら消費者にとっても有り難い話です。
ただし、そのような業者は本来であれば保険適用外となる経年変化などについても写真や見積書を改竄し、辻褄を合わせて作成する確信犯です。
工事が適切に実施されるかどうかも怪しいものです。なんせ、見積内容と工事内容が違うのですから。
そのようなリフォーム業者によるトラブルは独立行政法人_国民生活センターが全国の消費生活センター等をオンラインネットワークで結び、消費生活に関する相談情報を蓄積しているPIO_NETによる件数だけでも増加の一途です。
消費者のためにと口でいいながら、その実態は自社が「暴利」を得ることが目的ですから、販売手法も強引ですし、本来であれば説明が必要な内容も、都合の悪い部分は全て伏せた状態で行われているでしょう。
「当社が保険申請手続きも含め、全て代行して行いますから安心してください。それに全額を保険でカバーしますから大丈夫です」など、保険会社による適用金額が確定もしていないのに、どんな工事でも全てが保険金でまかなえると強調しています。
この場合に消費者は「お金がかからないのなら、ま、いっか」と考える方と「不必要な工事まで行って保険金請求するのは詐欺だろう。私はそんな詐欺的工事に加担したくない」と考える方に分かれるでしょう。
ですが専門知識も持たない消費者ですから、あまり深く考えず「ま、いっか」と考える人の割合が多いかもしれません。
ですが最近、マスコミでも話題になっているように悪質リフォーム会社の摘発件数が増加しています。
私達、不動産業者も知らずのうち詐欺的行為に加担している可能性があります。
解説するまでもないことですがこれら悪徳リフォーム業者の行為は、保険会社にたいしての「保険金詐欺」になります。
私達がこのような悪徳リフォーム業者であると知らずに加担した場合はもちろん、顧客自体が「なんかおかしいな?」と疑問を抱きつつ、それでも「ま、いっか」と共謀した場合には、情状酌量の余地はありますが同罪とされる危険性があります。
保険金詐欺は「保険金が受け取れる条件を満たすために虚偽の申し出をしたり、わざと事故をおこしたりして不正に保険金を騙し取る詐欺的行為」ですが、刑法に保険金詐欺という罪名が存在している訳ではありません。
刑法第246条に規定されている「詐欺罪」が援用されており、有罪となれば10年以下の懲役刑となります。
不動産業者である私達が、共謀共同正犯とされるほど加担して刑事罰を受ければ宅地建物取引業者免許の欠格事項に該当します。
このような詐欺的行為に加担しないのはもちろんですが、そのような悪質業者の手口、そして詐欺行為の被害者となる保険会社がどのような対策を講じているかを知ることにより、未然に防ぐための知識を得ることにつながるでしょう。
今回は、そのようなトラブルを未然に防ぐために知っておくべき情報について解説します。
持ち込まれている相談事例
まず独立行政法人_国民生活センターなどに寄せられている相談事例を幾つかご紹介して、業者の勧誘方法や手口、問題点や消費者の不安などについて考察してみましょう。
事例1は典型的なパターンです。
ポイントは
●損傷箇所の状況は定かではないが、400万円の工事はあきらかに高額であると懸念される。
●違約金についての説明がなく、かつ「工事を実施しない場合には保険金額の5割を違約金」としている。
後ほど詳しく説明しますが、このような明らかに暴利である工事見積もりにたいしては保険会社もインスペクターなどの鑑定人を派遣しますから、保険請求した金額が満額で認められる可能性は限りなく低いでしょう。
事例2もよくあるケースです。
気になるのは「ハウスメーカーの下請け工務店」と記載があり、ハウスメーカーが派遣したのか、下請け工事を受注している工務店が自らの利益確保のために動いたのか、それとも全てが虚偽なのか不明な点です。
それ以外のポイントは
●保険会社の鑑定人が来た際には「家から出るな」と指示して直接のヒアリングによる漏洩を防止するとともに、立ち会い台として¥180,000円もの金額を請求している。
●保険金は工務店により代理受領されているが、工事が杜撰であったことから金額に納得できず、一部の返金を要望している。
詐欺的行為に一部加担しているとの自覚を消費者が持っておらず、相談の趣旨が「工務店から金を取り返してくれ」とあるのが、何とも人間らしいと言える事例です。
この場合、消費者の相談により保険金詐欺事案として保険会社の知るところとなり、保険会社から告訴される可能性もあるでしょう。
またハウスメーカーが業者を派遣したのかどうかは別にして、少なからずこのメーカーも影響を受ける可能性があります。
これを原因として、風評被害などに発展した場合「下請け会社が勝手にやった行為である」と弁明しても、すんなりと世間に受け入れられるか疑問です。
下請け業者などが自社の名前を用いて暴利を得ようと画策していないか、また得られた個人情報悪用していないか監視することも、元請業者の責任であるとみなされるからです。
続いて事例3ですが【事例1】と同様、リフォーム業者は「保険を利用して無償で補修できます」と勧誘しています。
消費者に口止めをしていないだけ事例2よりも多少はマシです。
ポイントは
見積もりを作成するための調査ですから予め何らかの約定を締結していない限り、本来であれば支払い義務は存在しません。
ところがこのような業者はしたたかで、単なる請負工事契約ではなく「保険金サポートと請負工事」を一体とした契約を締結しています。
保険金サポートの内容は様々ですが、多くの場合、申請サポート料・特別依頼調査費用・保険申請手数料などが請負契約と別個に記載されており、保険給付が降りず工事を実施できないなどの理由を問わず、工事をキャンセルした場合には、請負金額の3~5割を違約金として支払うといった約款が記載されています。
コンサルティングの報酬額は当事者により自由に設定できる性質のものですから、保険金サポートの名目で違約金請求をしても直ちに違法であるとまでは言えません。
ただしトラブルに発生している事例は例外なく、消費者により「コンサルティング料や違約に関しての説明がされていない」と主張されています。
「説明した・聞いていない」のやり取りは水掛け論ですから当事者にしか「真実」の確認はできませんが、主観的には説明されていない可能性が高いと思います。
問題の本質は「説明されているかいないか」では無く、契約書の約款内容を確認もせずに署名・捺印をしていることでしょう。
契約書に署名・捺印をしている場合、説明されていないと主張し、それを裏付けることは困難です。
もっともそれに気付かれないよう契約を締結してしまうのが業者の手口ですが。
事例4は【事例2】と似通っていますが、建築した事業者からの直接勧誘です。
経年変化部分も全て火災保険工事を適用できると、具体的な根拠のないまま約300万円の契約を締結させています。
契約締結まで3時間にわたりキャンペーンの有効期限をチラつかせ食い下がっています。
ある意味で仕事熱心だといえますが、容認できる内容ではありません。
また建築した事業者を信用しての発言でしょうか、消費者からの相談趣旨は
ということです。
ずいぶんと都合のよい内容ですが、保険会社の調査員の診断結果から勘案すると工事見積もりに記載された内容は全て経年変化によるものですので、工事を実施したいのなら全額自己負担でお願いすれば良いだけでしょう。
相談事例から見る悪質業者の特徴
「火災保険を使って自己資金無しで住宅の修理ができる」と勧誘しているのが特徴です。
調査を実施して「これなら保険金である程度カバーできますね」と段階を踏んで説明するのとは違い、現地調査もせずにすべて保険適用できるとしています。
このような業者の多くは、ホームページで根拠なく施工実績件を誇らしげにかかげ、また「こんな状態でも保険適用で、無償工事ができました」などと写真つきで掲載しています。
最近、筆者が活動拠点としている北海道札幌市で、このような悪徳リフォーム業者が摘発されました。興味本位でその業者のHPや口コミ情報を見ましたが自画自賛のオンパレードでした。
掲載されている「お客様の声」は業者賛美の感謝の言葉で溢れかえり、アンケートによる点数評価でほとんどが「100点満点」です。
そこまで顧客満足度が高ければ摘発の代わりに感謝状が贈られているでしょう。
そこで全国に点在している同じ「臭い」のする業者のホームページを閲覧してみると、かなりの部分で共通点がありました。
それらのページに掲載されている写真は「これ、経年変化だから保険対応じゃないだろう!」というものが誇らしげにのせられています。
不動産業者の私達であれば業者のホームページを見るだけで、胡散臭いと感じるでしょうが一般の、とくに老人世帯の場合にはなかなかそうは行きません。
そこで独立行政法人_国民生活センターでも、下記のような注意喚起をおこなっています。
保険関連外社の役員に聞いた、悪徳業者への対抗策
筆者と長年の付き合いがある保険関連会社の取締役に、今回のコラムを執筆するにあたり「不正請求を繰り返す悪徳リフォーム業者」について意見を求めました。
保険業界の裏事情を聞くこともでき有意義な時間を共有することができたのですが、あきらかに不正が常態化しているリフォーム会社を明確に区分するため「優良業者」などと呼ぶそうです。
万が一、外部に流出しても「優良会社」と呼ばれ「馬鹿にしやがって‼」などと怒るわけにはいかないでしょう。
保険会社によって「VIP」や「特A」なんて呼ばれているかも知れません。
もちろん本当に「優良」な訳ではありません。
このような優良業者などと呼ばれている業者は「要注意」ですから、そのような業者から保険請求があった場合には、高確率で保険会社の依頼を受けインスペクションなどの調査会社が現況確認をおこないます。
提出された見積に記載されている工事内容が妥当か、また本当に損害なのか経年変化なのかを診断します。
またケースによって保険会社から人員を派遣し、インスペクションに立ち会い、見積内容や業者とのやり取り、また「口止め」されていないかなどをヒアリングします。
やんわりと「場合によっては保険金詐欺に該当してしまいますが…………」と、ニッコリ微笑むこともあるようです。
ほとんどの場合、何の義理もない業者を庇うようなことをせず「だって………業者が口裏を合わせろといったから」などと簡単に、真実を話してくれるようです。
後はどうなるのか、懸命な皆さんならお分かりになるでしょう。
損害保険協会は悪徳リフォーム業者から消費者を守り、万が一にも「保険金詐欺」に加担することがないよう下記のようなパンフレットを配布して啓蒙活動に尽力しています。
まとめ
自社が建築または仲介した顧客と、引き渡し後も良好な人間関係が継続されているならば「リフォーム工事」の受注は簡単です。
ただしそれには引き渡した顧客と一定の人間関係が継続しているという条件があります。
信頼関係があるのなら前述したようにリフォーム工事の受注は簡単です。
ですが引き渡した顧客を継続的にフォローアップせず、疎遠になっていることから解説したような悪徳業者が入り込む余地を与えているのです。
筆者は不動産コンサルが主業であることから、解説した業者とのトラブル相談や自信が仲介した顧客からの相談が頻繁に入ります。
業者から提示された見積内容の精査や、明らかに暴利である場合には業者との交渉に臨むこともあります。
不動産関連法規は当然ですが、建築や資材価格なども一通りは把握していますし、工事に必要な人区計算や廃材処理費なども速算できますので、リフォーム営業がどのように言い繕い誤魔化そうとしても無駄です。
余談はさておき、自身の顧客がそのようなトラブルに巻き込まれないようにするには、日頃から意識して疎遠にならないよう声がけをすることです。
もちろんメールや手紙でも構いません。
そのような行動をルーティン化することにより引き渡し後であっても顧客との人間関係がある程度継続されますし、住み替え・リフォーム工事の相談はもちろん、知人が不動産購入を検討しているなどの紹介が増加することでしょう。
結果的に自社の利益につながるのです。
そのような意味合いからも悪徳リフォーム業者の手口を理解して、トラブルに関しての相談があった場合には適切に助言するための知識拡充が必要だといえるでしょう。