2023年以降の工務店経営は、ますます厳しさを増す状況になります。
特に新築住宅をメイン事業としている工務店の場合、建築資材高騰やウクライナショックなど、原価高騰が避けられない状況にあります。
既存ストックの中古住宅流通も活性化していることも影響し、特に都心に近いエリアでは、駅近や利便性の良い場所に建てられた良質な中古住宅のリフォームが競合先として台頭してきています。
また、人口と世帯数の減少、職人の高齢化による人材不足にも対応していく必要があります。
これに対応するべく、競合他社に先駆けて、現状の分析を行い、その結果を元に具体的な戦略を立てて更なる発展へとつなげていくことが必須となります。
今回の記事では、年間10〜20棟の工務店経営において必要となる戦略策定の流れと実施例について解説します。
経営方針を設定する
小さな工務店にとって、経営戦略を立て、実行をするという一連の動きを行っているところは少ないかと思います。
まず最初に取り掛かるべきこととして「自社の経営方針や成長方針を明確」にすることからスタートします。
その上で、短期的戦略、中期的戦略、長期的戦略に分けてそれぞれの目標を設定し実行方法を検討します。
その中でも、長期的戦略は「自社の未来の姿」を決定する重要な戦略となります。
実施方法は、下記の分析結果や市場の状況に応じて、随時見直して最も効果のある方法を探っていくことが重要です。
【最も重要】自社の徹底分析を行う
戦略を立てるためには、自社の商品やサービスの強みや弱みを分析して把握することが大切です。
しかし、普段の業務が忙しい営業も兼ねている社長にとって、なかなか戦略を立てる時間を作るのが難しいのも現状です。
この場合は、外部の力(コンサルタント)を使い、短時間で戦略を策定することも一つの手です。
また、自身で戦略を立てる場合は、事業分析ツールであるSWOT分析を利用すると、強みや得意分野を最大限生かして成果を出すための戦略、現状の改善点、将来的なリスクを洗い出しといった内容を明確にすることができます。
SWOT(スウォット)分析とは?
自社の状況を、内部環境と外部環境から客観的に観察して、下記の4つの項目に分類整理する分析方法です。
・外部環境・・・プラス要因Opportunity(機会)、マイナス要因Threat(脅威)
それぞれの頭文字をとってSWOT分析といわれています。
内部環境とは、以下の要素を指します。
・ブランド力
・商品の認知度といったブランディング要素
・オーナーの声
・営業活動で得たデータの分析結果やノウハウ
・品質や性能といったハード面の要素
・人材や職人の技術力など
また、外部環境とは以下の要素を指します。
・今後の市場の成長性
・世間の流行や話題
・周辺環境
・競合のブランド力や技術力
・経済の状況といった自社の努力では変えることのできない要因
SWOT分析の進め方
内部環境や外部環境について理解したところで、具体的な分析の進め方を解説します。
1:自社の現況分析
初めに、自社の現況を思いつく限り箇条書きで書き出します。
この作業は社長一人で行うよりもディスカッション的に意見が言いやすい環境をつくり、社員全員で行う方が効果的です。
ホワイトボードや壁にポストイットなどで、なんでも思いつく限り書いていくのがコツです。
変なことを言わないようにとか、しっかりとした意見を言わないと上司に叱られるとか、固定概念を払しょくすることが社長や上司の役割となります。
現在の事業内容の中での問題点を書き出していくだけでも、見落としを発見したり、改善の糸口とすることができます。
また、今は小さな要素であっても、今後発展できるポイントとなる可能性もあるので、大小に関わらず気づいた点は全て書き出すようにしましょう。
2:書き出した事柄を分ける作業
次に、書き出した事柄が、4つの項目のどこに当てはまるかを分類します。
同じ事柄でも、見方によってはプラス要素(SとO)にもマイナス要素(WとT)にも分類できるものもありますが、SWOT分析では、必ずどちらかに分類することが必要です。
このような項目は、マイナス要素をどのように強みに変換していくかを検討する際の参考とすることができます。
3:実行可能な戦略を立てる
最後に、実行可能な戦略を決定し、実施方法を検討します。
クロスSWOT分析を用いて4つの項目それぞれの組み合わせに分けて分析することで自社が取るべき戦略を見極めることができます。
・Strength(強み)×Opportunity(機会)
競合他社に追随を許さないポイントにおいて、大きな成長を掴みにいく積極的な戦略を組み立てます。
金額以外の点において「選ばれる」企業を目指すことができるポイントのため利益増加も見込むことも可能です。
・Weakness(弱み)×Opportunity(機会)
どのように弱みを克服して強みへと変換していくか、弱みを補強する戦略を立てます。
市場状況は整っているので、補強が成功すれば認知度アップや利益の拡大といった大きなビジネスチャンスとなる可能性もあります。
・Strength(強み)×Threat(脅威)
脅威を避けたり、脅威の影響を最小限に抑えるための守備的な戦略が必要です。
業界全体へ影響がある脅威は、強みを生かして、他社と差別化を進めるチャンスとすることもできます。
差別化に成功するとThreat(脅威)をOpportunity(機会)に変換することも可能です。
・Weakness(弱み)×Threat(脅威)
内部、外部ともにマイナス要素となる事柄については、リスク回避の戦略となります。
場合によっては、これ以上の損失を避けるために、方針転換、事業縮小、撤退といった決断が必要となることも視野に入れる必要があります。
具体的な実施例
ここまで、SWOT分析で自社の分析手法について解説しましたが、ここでは具体的な分析の結果によって考えられる戦略のうち5つの実施例について解説します。
① 集客の場合
分析結果より、ターゲットとなる“ペルソナ”を設定して、集客方法を検討します。
“ペルソナ”のライフスタイルをシミュレーションして、自社を見つけてもらう方法を考える必要があります。
一般的に、一次取得層はWEBで情報収集を行うことが多いので、従来のアナログの広告宣伝と併用して取り組んでいきましょう。
WEB集客で効果を上げるためには、自社の情報に繰り返し触れてもらう必要があります。
施工例やオーナーインタビューなど、身近に感じられる話題やお役立ち情報などの後から見返したくなる話題を高頻度で配信していきましょう。
②ブランディングの場合
分析によって明確となった強みをアピールしていきましょう。
また、自社の弱みについても明確にしたことで、強み部分に共感を示し、弱み部分を気にしない顧客にターゲットを絞ることも可能です。
ターゲットを絞ることで、集客数を減らしてしまうと躊躇することもあるかと思います。
確かに集客数だけを比べると数字が減ってしまう可能性もあります。
しかし、ターゲットを絞ることで、自社のコンセプトやブランディングに共感する顧客へピンポイントでのアプローチが可能になります。
その結果、ファン度の高い顧客、競合相手のいない顧客の割合を大幅に増やすことができます。
③ 顧客満足度アップ
地域密着型の工務店では、地元での知名度や既存オーナーからの紹介や口コミはとても重要です。
近年Googleマップの口コミを見て、来店や資料請求に繋がる可能性が高まっています。
また、顧客が情報収集をする段階で、オーナーインタビューなどは必ず確認するコンテンツです。
商談中〜入居後にわたって、顧客とのつながりを大切にして、いつでも声掛けしてもらえる関係を続けていきましょう。
④ 人材の確保
大工の人数は2015年の35万人から、2030年には21万人まで減少すると予想されています。
新築住宅の着工数も今後減少傾向の見込みですが、それ以上に大工の減少率は大きくなり大工の取り合いとなる事態が予測されています。
技術を習得するまでには長い年月が必要なため、今以上に職人不足が大きな問題となることは明白です。
自社の大工を守るためには、賃金アップ、休日の確保、年間を通して安定した仕事量といった労働条件の改善に早急に取り組んでいく必要があります。
出典:建設業及び建設工事従事者の現状 - 国土交通省 2030年までの不動産・住宅業界の構造的変化 - 野村総研
⑤ 利益の確保
広告宣伝にもブランディングを周知するためにも費用は必要です。
最終粗利を最低25%。可能な限り30%を目指していきましょう。
粗利確保のために考えられる方法は下記の通りです。
・顧客満足度を高める工夫やブランディングによって価格以外で選ばれること
・無償対応と有償対応の線引きをきちんと顧客へ説明すること
・打合せツールを準備して早期着工を目指すこと
・ITツールを用いて、施工管理を効率化すること
・施工中のタイムラグを極力減らした工程管理を行うこと
また、値引き合戦に巻き込まれないことやサービス工事の範囲を決めることのほか、早期着工、早期引き渡しを実現すると人件費や現場経費を削減することができます。
まとめ
工務店の経営戦略を策定するための、自社の分析方法や実施例について解説しました。
自社の強みや市場における優位な点を理解してアピールすること、外的要因の流れを掴んでビジネスチャンスとすること、顧客が重要視していることは何かを理解することは戦略を組み立てる上で重要です。
住宅業界は今後も厳しい状況が続いていく見込みですが、競合他社よりも早く、経営戦略対策を行うことで発展へ繋げていく参考としていただければと思います。