東京都は3回目となる「東京リフォームモデルハウス事業」の参加事業者の募集を開始しました。
この事業は良質な既存住宅の流通促進を図る目的で、モデルハウス運営費に補助金を提供するものです。
また東京都は「既存住宅流通に係わる事業者向けの指針」を出しており、既存住宅流通に関して積極的な政策をおこなっています。
ここでは同事業の概要と東京都の指針についてご紹介します。
東京リフォームモデルハウス事業とは
東京都は2021年、次のとおりの補助事業をおこなうこととしました。
事業名:東京リフォームモデルハウス事業
補助額:上限1か月あたり100万円
受付期間:令和3年9月24日~令和4年1月14日
【応募対象】
1. 昭和56年6月以降に建築された木造一戸建て住宅(新耐震基準適合住宅)
2. 建物状況調査(インスペクション)を実施し、既存住宅売買瑕疵保険の検査基準に適合する住宅
3. 宅地建物取引業者または建設業者で適切にモデルハウスを運営できる能力がある
4. 推奨として、省エネルギーやバリアフリーなどの性能向上をおこなうリフォームである
東京都のリフォームモデルハウス事業は令和元年からはじめており、今年が3年目になります。
リフォーム後の住宅は「安心R住宅」と同等の品質があり、良質な既存住宅の流通促進に寄与する住宅として公的に認められる意味を持ちます。
既存住宅流通促進のために必要な施策
東京都はリフォームモデルハウス事業を実施する前年に、既存住宅流通に係わる事業者に向けた指針を定めています。
その内容は、東京都ばかりでなく日本全国においても参考になることであり、その概要をお伝えします。
既存住宅市場の整備
既存住宅を安心して売買できる市場の形成が求められ、そのためには売買対象である既存住宅の品質・性能について、客観的な評価ができることと担保するしくみをつくるよう求めています。
2. 既存住宅売買瑕疵保険の活用
3. 住宅履歴情報の蓄積と活用
これら具体的な施策についてとくに宅地建物取引業者が、その必要性と効果について認識し、売主や買主に積極的な実施や活用をすすめることが重要です。
次にとくに買主に対する適切な情報提供と、相談に応じる体制づくりを指針では求めています。
1. 「安心して既存住宅を売買するためのガイドブック(戸建住宅編)」の活用を図り、売買全体の流れや既存住宅の取り引きに関する確認事項について情報提供する
2. インスペクションや瑕疵保険などに加え、リフォームや融資に関する相談をワンストップでできる体制づくり
3. 広告にあたっては、安心R住宅で求められる情報と同等程度の情報を収集し、品質・性能面が把握できるよう努め、維持管理の履歴や現況写真などによりわかりやすい情報提供をおこなう
4. 査定においては築20~25年程度での市場価値がゼロとなる慣行にしたがうことなく「安心して既存住宅を売買するためのガイドブック」を踏まえて適切な評価をおこなう
次に既存住宅の売買に関する相談に対応できるよう、インスペクションや瑕疵保険などの不動産取引以外の知識を習得し、リフォーム内容にもとづいた補助金など幅広い知識の習得に努めるよう求めています。
良質なストックの形成
良質なストック形成については建設事業者にとくに求めるものですが、分譲住宅の売買を仲介または代理する宅建業者にも求めています。
2. 計画的な維持管理
3. 適切なリフォーム
これら3つの目標に対して具体的な施策としては、長期優良住宅の認定や住宅性能表示などの制度を活用するよう住宅ユーザーにすすめるとともに、良質な住宅ほど将来的な価値の下落を抑えるメリットがあることを認識してもらうことが重要です。
住宅性能表示制度の活用は必然的に、耐震性や耐久性そして省エネルギー性能の高い水準を担保しますが、設計図書などでの丁寧な説明を求められます。
住宅は完成した時点から劣化がはじまります。
建築資材や住宅設備には耐用年数がありますが、計画的な維持管理は耐久性を引き延ばすことにつながります。
建設事業者は有償のアフターサービスプランの提示や、住宅金融支援機構の「マイホーム維持管理の目安」の活用を図る必要があるでしょう。
築年数を経過した住宅ではリフォーム需要が増加しますが、リフォーム工事の内容においては耐震性や耐久性そして省エネルギー性能やバリアフリー化など、性能向上を目指したリフォームの提案を積極的におこなうことが求められます。
住宅リフォームは新築工事よりも多様なバリエーションが考えられ、既存の状態に応じた工法や材料の組み合わせの選択肢は多くなりがちです。
そのため継続的な知識・技術力の向上が必要であり、技術者の養成も重要なことになってきます。
事業者間の連携
既存住宅の売買は宅建業者や建設業者、とくにリフォーム業者との連携が重要ですが、加えて建築士事務所、金融機関、瑕疵保険会社などとの連携を図りつつ、対応窓口ではワンストップ体制となるような方式が望まれます。
とくに建築士事務所は建物状況調査(インスペクション)と、リフォーム工事におけるデザイン・工法選択・目標性能値設定など重要な役割を担います。
ワンストップ対応窓口は宅建業者の担当者が担うことになると考えられますが、リフォーム業者と建築士事務所とのパートナーシップをしっかり形成することが求められます。
事業者間の連携については既存住宅のイメージ向上につながる取り組みが必要とされ、消費者が積極的に既存住宅に関心を持つようなPR方法も大切です。
また東京都がまとめた「既存戸建住宅 購入ガイド-新築にとらわれない住まい選び-」の活用も1つの方法と言えそうです。
既存住宅流通促進と地方自治体
東京都のように地方自治体が補助金を設定し、リフォーム工事に対する補助金以外に既存住宅流通促進を図る事業をおこなっている事例は少ない状況です。
リフォーム関連事業の団体は「一般社団法人住宅リフォーム推進協議会」に参加し、住宅リフォーム推進協議会の下部組織として「地域住宅リフォーム推進協議会」が組織されています。
地方自治体は都道府県単位で協議会を設置し参加していますが、未設置の都道府県があることやあくまでも「リフォーム」がテーマであり、既存住宅流通を促進するものとは意味合いが異なります。
既存住宅流通促進の別のアプローチとしては「空き家バンク」がありますが、掲載される物件はいろいろあり、必ずしも良質な既存住宅の流通を図るものではありません。
良質な既存住宅流通促進のための制度「安心R住宅」は、2018年運用開始以来の流通累積件数が3,300件を超える程度(2020年11月現在)であり、まだまだ広がりは少ない現状と言えます。
まとめ
良質な既存住宅流通を促進することは、建築ストック活用にとって重要なテーマですが、安心R住宅の流通実績はまだまだ少なく今後の普及に期待せざるを得ません。
東京都の取組みは首都圏における影響を期待できますが、財政上の問題もあり他の県においても取組みがおこなわれるかは疑問もあります。
一方買取再販住宅のシェア増加についてみると、業界1位のカチタスにおいて大都市圏住宅を扱う、リプライスの年間販売件数の伸び率は毎年10%を超えています。
うち「安心R住宅」基準に適合する物件がどの程度あるのか不明ですが、今後も増えると予想される再販住宅の品質を「視える化」するような取組みの必要性が問われるように思います。