大手不動産「恒大集団」の破綻が取り沙汰されて以来、中国ではバブル崩壊への懸念が膨らんでいます。中国は基本的に社会主義経済であり、マクロ経済に対する政府の裁量が大きいことから、仮にバブルが崩壊したとしても、場合によっては民間企業は救済せずに一部の国有企業を救済する処理となる可能性が高いとみられています。
画像はYAHOO!JAPANニュースより
恒大集団の資金繰り悪化に伴う経営危機によって、同社の破綻や中国経済全体への警戒感から、世界的な同時株安も発生しました。中国ではこれまでに世界的にもかつてないほどの著しい経済成長を遂げてきましたが、不動産価格はその経済成長をさらに上回るペースで上昇してきました。同社は度を過ぎた積極的な姿勢が裏目に出てしまい過剰債務の状態に陥っています。
さて、中国の不動産バブルは80年代に巻き起こった日本のバブル経済とよく似ています。好景気とそれに伴う株高を背景に不動産向けの融資が拡大し、平均的な賃料に見合わない水準まで不動産価格が高騰しました。かつての日本バブル崩壊の引き金となったのは、土地の総量規制などの政府による引き締め策でしたが、中国当局もまたこれに近い政策を実施しているといえます。
習近平政権は8月、「共同富裕」の方針を示し大企業や一部の富裕層に対して富の再配分を求める制度の強化を強く要請しました。最終的に不動産税や相続税の導入を検討していると考えられており、積極的に不動産取引を抑制する意図を感じます。恒大集団の経営危機も、当局が同社の物件を抵当の対象から外すという方針の報道がきっかけでした。
では、中国のバブル経済はどれほど危険水準にあるのでしょうか。1929年の世界恐慌や1991年の日本バブル崩壊、2008年のリーマン・ショックなど過去の経験則から、同経済圏における総融資残高がGDPの1.7倍を超えると危険水準に入ってくるとされています。中国の中央銀行である中国人民銀行によれば2021年7月時点の社会融資総量は前年同月比10.7%増の約5138兆円でした。この社会融資総量は中国独特の指標ですが、ここから地方政府が抱える債務や株主資本等を除外し、総融資額に近い金額を算出した上でGDPで割ると、2.2倍という数字になります。前述の1.7倍をはるかに超える危険水準であり、政府主導による何らかの処理が必要なのは間違いないといえます。
中国の場合、国有企業と民間企業には当局の対応に大きく差があり、政治利権に大きく作用するような国有企業は政府が全力で救済するとみられています。日本では経済や市場に大きな影響を及ぼすような大胆な政策が選択できず、不良債権処理に時間を要したため経済の長期停滞を招きました。 一方で中国では、国有企業と中核となる民間銀行は政府が全面的に支援する一方で、重要性の低い企業や民間の中小金融機関は放置することも十分あり得ます。このように一部の国民が犠牲になったとしても権力闘争や秩序の維持が優先され、西側諸国とは基本的な価値観や制度が異ります。よってわれわれの感覚でいうところのバブル崩壊は発生しにくいと考えたほうがよいでしょう。