不動産取引は対象となる物件や所有者の特定を公的な証明にもとづきおこない、買主への間違いのない所有権移転も公的な証明にもとづきおこなわれます。
このような公的証明はすべて「公簿」であり、物件調査では公簿の調査が基本中の基本です。
ここでは、不動産取引に関わる公簿の種類や役割について解説します。
公簿とは何か?調査の対象となる公簿の種類一覧
公簿とは「官公署が法令にもとづき作成した帳簿」のことで、不動産取引で調査対象となる公簿は次のとおりです。
市区町村で取得する公簿 | 法務局で取得する公簿 | |
---|---|---|
対象不動産に係る公簿 | 固定資産評価証明書 | 不動産登記事項証明書・要約書 |
地積測量図 | ||
公図 | ||
建物図面 | ||
共同担保目録* | ||
権利関係の公簿 | 住民票(個人) | 商業登記事項証明書(法人) |
戸籍謄本、戸籍附票(個人) | 印鑑証明書(法人) | |
印鑑証明書(個人) | 後見登記等に関する証明書(個人)* | |
身分証明書(個人)* | 登記されていないことの証明書(個人)* |
*がついた公簿は必要のある場合に調査するもの
不動産に係る公簿は次章で説明するので、それ以外の公簿の概要や用途を解説します。
- 固定資産評価証明書
買主に対し評価額の一種である「固定資産評価額」を示す目的と、所有権移転登記の登録免許税算出のため
- 住民票(個人)
売主の住所確認と本人確認のため
- 戸籍謄本、戸籍附票(個人)
相続権の確認や買主の住所移転登記未了の場合におこなう住所変更登記に使用
- 印鑑証明書(個人)
所有権移転登記に使用
- 身分証明書(個人)
制限行為能力者などでないことの証明
- 商業登記事項証明書(法人)
売主および買主が法人の場合の本人確認のため
- 印鑑証明書(法人)
売主が法人の場合の所有権移転登記に使用
- 後見登記等に関する証明書(個人)
制限行為能力者に代わって取引をおこなう成年後見人等であることの証明
9. 登記されていないことの証明書(個人)
制限行為能力者などでないことの証明
不動産登記簿とは?登記簿の見方
不動産登記簿は不動産に関する事項を記録した帳簿ですが、現在はコンピューターシステム化により、過去情報が記載された「閉鎖登記簿」以外は電子化データとして保存されるようになりました。
そのため以前は登記簿をコピーした “登記簿謄本” により、登記内容を確認していましたが、現在は登記事項証明書および概要をまとめた「要約書」により確認するようになっています。
登記簿に記録する内容は【表題部】【権利部】に区分され、さらに権利部は【甲区】【乙区】に区分して、記録内容を分類します。
表題部 | 不動産の所在および地番 | |
---|---|---|
土地の地目および面積 | ||
建物の種類および面積と構造 | ||
権利部 | 甲区 | 所有権に関する事項 |
(所有権・所有権移転仮登記・差押・買戻特約など) | ||
乙区 | 所有権以外に関する事項 | |
(抵当権・地上権・賃借権・質権など) |
実際に登記事項証明書を請求すると下図のような書面が交付されます。
登記簿にはさまざまな権利が記録されますが、 “登記の優先順位は登記した順” というルールがあります。甲区と乙区にそれぞれ記録された権利は、登記した日付のもっとも新しい権利が優先され、甲区と乙区との間では「受付順」に新しい権利が優先されるのです。
抵当権が抹消されるなど無効になった権利については、「下線」が引かれ区別できるようになっています。
不動産登記簿の種類
不動産登記簿に記録される権利には、現在は無効になっている権利も記録されていますが、証明書にすべての記録を記載する必要がない場合があります。
登記事項証明書には以下の3種類があります。
- 全部事項証明書
コンピューター化されて以降のすべての記録を記載した証明書
- 現在事項証明書
現在有効な権利のみ記載された証明書
- 閉鎖事項証明書
閉鎖謄本に記録された事項の証明書
所有権の移転履歴やさまざまな権利設定履歴、あるいは新築・増築などの履歴から過去の利用状況が推測できるため、全部事項証明書を確認して調査するのが一般的です。
さらに地歴調査をするさいには閉鎖事項証明書を取得し、以前建っていた建物の用途から土壌汚染や地下埋設物の可能性を調査することが必要になります。
公図・地積測量図・建物図面とは?
法務局に保管されている図面は土地と建物の2種類あり、土地の図面に関しては「公図」と「地積測量図」があります。
公図は「法14条地図」が整備されるまでの代替手段として備え付けられているもので、「地図に準ずる図面」とされています。
地積測量図は1筆ごとに寸法の入った図面ですが、公図は寸法の記載がなく1筆ごとの土地の位置がわかる図面。地積測量図をみても対象の土地の位置が特定できない場合が多く、公図により位置を確認できるのです。
「法14条地図」の整備率は進んでおらず、大都市ほど非常に低い整備率になっており、公図の利用はまだまだつづくと思われます。
地積測量図はすべての土地の図面があるわけではありません。分筆や合筆がおこなわれるたびに作成されていますが、変更のない土地に関しては昔の不正確な図面のままですし、昭和35年以前に分筆された土地には地積測量図すらありません。
不動産取引で地積測量図の存在しない土地がある場合は、確定測量をおこなうか現況測量により、測量図を作成しなければならない可能性があります。
登記事項証明書や図面はオンラインでも取得できるようになっています。しかし分筆や合筆を繰り返した土地の地積測量図には寸法が記載されていない図面があり、閉鎖された地積測量図まで遡って調べなければ寸法がわからないケースもあるでしょう。
閉鎖された地積測量図は保管されている法務局で取得する必要があり、取得できても現況測量図の作成が必要になる場合もあるでしょう。
まとめ
登記簿調査は物件調査におけるもっとも基本的なものです。客付け業務でも必要な物件資料であり、媒介業者間での情報伝達にも必須です。
登記事項証明書の甲区や乙区がきわめてシンプルなものあれば、抵当権者が複数記載され各種の「仮登記」が設定されているような複雑な物件もあります。
不動産取引はこのような複雑な権利関係を整理して買主に所有権を移転しますが、登記されていない権利が所有権移転の障害になることもあります。
登記されていない権利関係についても調査し、安全な取引がおこなわれるよう正確な物件調査に留意しましょう。