売出価格を決めるうえで重要な査定は「不動産評価」のひとつの方法です。
似たような言葉に不動産鑑定がありますが、鑑定は厳格なルールにもとづき客観的な不動産の評価額を計算します。
査定は “3ヶ月間で売れる価格” を目差し、しかもできるだけ高く売れると考えられる価格を算出します。計算方法は “鑑定” でもおこなわれる手法を用いるので、正確性や客観性の面では変わりありません。
物件種別毎の査定方法
不動産を査定する方法には3種類あります。
- 原価法
- 収益還元法
- 取引事例比較法
不動産には戸建住宅のような生活の拠点としてつかわれるものや、賃貸物件のように収益を生みだす目的のものがあり、物件種別によって適した査定方法があります。
原価法
原価法は「再調達原価」をもとに不動産の現在価値を評価する方法です。土地と建物どちらも原価法による評価は可能ですが、一般的には建物の価格を査定するときにつかわれる手法です。
算定式は以下のようなもの。
原価法による評価額=総面積×単価÷耐用年数×残存年数
それぞれの用語には意味があります。
- 総面積:建物の場合は延べ床面積
- 単価:評価額を求める時点で同じグレードの建物を建てるための建設工事単価
- 耐用年数:一般的には「法定耐用年数」を用いるが物件状況により変更する場合もある
- 残存年数:耐用年数から経過年数を差し引いた年数
たとえば築10年経過した建物の価値を計算してみましょう。
面積 | 200㎡ |
再調達単価 | 20万円/㎡ |
耐用年数 | 27年 |
経過年数 | 10年 |
査定価格 | 200×20万円÷27×10=1,481万円 |
建物は新築した時点から劣化が進み、年数を経るごとに価値が下がると考えるのが一般的。この考えかたにもとづいて算出するのが「原価法」なのです。
原価法にもとづく査定は戸建住宅に非常に適しています。
収益還元法
不動産を活用することにより収益が生まれる物件は、収益から逆算して価格を求める方法が使えます。
具体的にはアパートや賃貸マンション、投資用区分所有物件でおこなわれる査定方法が「収益還元法」です。
収益=収入-経費
で算定される収益を「還元利回り」で割り戻し不動産の価格を評価します。
モデルケースを設定して査定してみましょう。
年間家賃収入 | 500万円 |
経費 | 100万円 |
還元利回り | 5% |
査定価格 | (500万円-100万円)÷0.05=8,000万円 |
還元利回りは決まった定数というものはなく、経済状況や地域性など非常に複雑な要因により変化するものです。
実務においては不動産鑑定会社が公開している「還元利回りデータベース」などを参考にしてください。
参考:評価先例(平成30年4月から平成31年3月)の地域別・築年数別平均還元利回り|株式会社二十一鑑定
取引事例比較法
対象不動産と同じような種類・立地条件の売買事例との比較により評価する方法が「取引事例比較法」です。土地や区分所有物件をはじめ多くの不動産査定で用いられています。
不動産取引がひんぱんにおこなわれている都市部では、ほとんどこの方法によって査定が可能ですが、郊外や都市計画区域外など売買事例の少ないエリアではむずかしい場合もあるのです。
算定方法はきわめて簡単で、取引事例の比較から単価を求め物件の面積に乗じるだけです。
査定価格=面積×単価
気をつけなければならないのは、取引事例は「成約事例」であり「販売中事例」ではありません。
事例の選び方
前述したように不動産査定では「取引事例比較法」が多くつかわれているのですが、査定の正確性は選択する取引事例に左右されます。
取引事例を選択するときに注意したいことが以下です。
- できるだけ直近の事例により比較する、古くても半年以内
- 立地条件がほぼ同じ事例とする
・最寄り駅が同一で方向が同じ
・最寄駅からの距離がほぼ同じ
・用途地域が同一 - グレードや規模と築年数が近い
- 接道条件が似ている(方位や幅員)
- 売り急ぎや買い急ぎの事例があることも、極端な乖離のある事例は省く
以上のように条件ができるだけ近い事例により比較するようにしましょう。
取引事例はレインズの検索画面で、対象区分を「成約」にして検索します。
引用:東日本レインズ
レインズ以外で売買事例を探す方法もあるのでご紹介します。レインズでのデータでは足りないときなど参考になる場合もあるでしょう。
引用:土地総合情報システム
まとめ
3種類の査定方法は物件種別により使いわけされることがありますが、組み合せて用いることが一般的です。
- 原価法と取引事例法
- 収益還元法と取引事例法
- 原価法と収益還元法と取引事例法
どの組み合わせでも必ず用いられるのが「取引事例法」です。
手法の違いにより異なった査定結果がでるので、手法を組み合せることにより「価格に幅を持たせる」ことができます。
売出価格は最終的に売主の判断によるので、限定的な価格提示よりも幅のある価格提示のほうが判断しやすいものです。しかも多角的な視点での結果なので説得力も増します。
査定結果報告では、自信をもって説明できる査定を心がけてください。