空室対策の有力な方法として、入居者によるDIYを認めるケースがあります。
このようなカスタマイズ賃貸の普及は築古の戸建住宅だけでなく、アパート・マンションにも広がりをみせています。
国土交通省も住宅ストックの有効活用を図るため、ガイドブックを作成しDIYによる賃貸需要を後押ししています。
ここでは空室対策として導入しようとするさいに、管理会社が押えておきたい「カスタマイズ賃貸」の特徴と契約上の注意点について解説します。
カスタマイズ賃貸とは?
賃貸物件は借りた物件に傷を生じさせた場合、退去時に元の状態に戻して賃貸人に返すことを原則としています。
傷が生じる原因としては、過失によるものや故意におこなったもののほか、リフォームや修繕工事を自らおこなう場合も該当します。
賃貸物件の修繕やリフォームは賃貸人がおこなうことを原則としており、それ以外は原状回復義務が適用されるケースがほとんどといっていいでしょう。
しかしこれまでの考え方を逆転させ、賃借人の希望に沿うような形でリフォームをおこない、退去時には原状回復を負担させない「カスタマイズ賃貸」の実施例がみられるようになってきました。
カスタマイズ賃貸の目的
カスタマイズ賃貸は、築古物件の「空室対策」として行われるようになったのがはじまりです。
すでに存在する物件に合わせて生活するスタイルから、自身の好みに合わせて物件を変えるスタイルへの変化、これを「プロダクトアウトからマーケットイン」への変化ととらえることもできます。
しかしカスタマイズ賃貸はオーナーが受け身になるのではなく、積極的に「カスタマイズしてもらおう」という姿勢が重要で、むしろ「プロダクトアウト」といえるマーケティングとも考えられます。
入居者が好みに合わせて物件をリフォームする、このスタイルが “当たり前” という発想です。
カスタマイズすることにより入居者は使いやすい空間を手に入れ、さらに工事費の負担もすることになると、退去しづらくなるのが自然な流れといえるでしょう。
・愛着があるので大事に使ってくれる
・入居者は友だちに自慢したくなりアナウンス効果が生まれる
などとオーナーにとってはメリットが多くなるといえるでしょう。
カスタマイズ賃貸のバリエーション
カスタマイズ賃貸にはいくつかのバリエーションが考えられます。
対象物件は次の2種類として
2. アパート・MS
工事の規模と工事の方法により次のようなバリエーションを考えることができます。
戸建 | DIY | 簡易工事 |
リフォーム工事 | ||
提携工務店 | 簡易工事 | |
リフォーム工事 | ||
リノベーション工事 | ||
アパート・MS | DIY | 簡易工事 |
提携工務店 | 簡易工事 | |
リフォーム工事 |
簡易工事とは簡単に取り付けできる棚用の部材などを取付けるようなもので、現在はホームセンターで容易に手に入れることができ、工具のレンタルもあるので入居者が自ら工事をおこなえる環境は整っています。
専門的な技能が必要になる種類の工事は、入居者が専門工事業者に依頼するケースもあるでしょう。
またアパートやマンションでは共用部分への影響もあり、オーナーや管理会社が提携する工務店を紹介するケースも考えられます。
入居希望者へのアピール方法
DIY賃貸について、実際にDIYによるリフォームをおこない、満足したという人は8割を超えたというアンケート結果があるように、需要は大きなものがあると考えられます。
賃貸住宅を探す入居希望者は次のように2つに区分できます。
2. 自分好みの設備や生活空間を望み、その為には自己負担があってもかまわないというDIYユーザー
DIY賃貸は[1]のタイプの人にはまったく対応できず、[2]のタイプの人が対象になりマーケットが狭くなると考えられます。
望ましいのは[1]と[2]のどちらにも対応できることですが、実際の運用においてはかなりむずかしいことと思われます。
そのためオーソドックスな賃貸ユーザーを対象としても、入居率が好転しない場合に用いる手法と位置づけなければなりません。
対象顧客層が異なるので入居者募集では、明確に「DIY賃貸」をアピールする必要があります。
集客ツールとしてはポータルサイトにおいて、DIY可能物件の特集ページを設置している例が多く、すでに市場ではDIY賃貸は特殊なものではないことがわかります。
仲介不動産会社においてのアピール方法は仲介店舗任せになってしまいますが、DIY賃貸の実施例をパンフレットにまとめるなど、定期的な訪問により仲介店舗担当者の意識付けを図ることが必要でしょう。
国土交通省が勧めるDIY賃貸
国土交通省は平成27年度に「DIY型賃貸借のすすめ」を公表し、さらに平成30年度には「DIY型賃貸借実務の手引き-家主向け」を公表しています。
ここでは、これらパンフレットの内容にもとづき、DIY賃貸の導入と契約上の注意点について解説します。
DIY賃貸借の注意点
DIY賃貸はリフォーム工事を入居者が主体となっておこなうのが大きな特徴です。
そのため工事中や工事後の、工事対象であった資材や部位の所有権が通常とは異なるところです。
通常は物件所有者が工事の発注者にもなるので、工事途中の資材関係は工事業者との支払い条件にもよりますが、原則的に物件所有者の所有となります。
しかし入居者のDIYでは、工事中および工事完了後の対象工事範囲の資材などの所有権は入居者になるのが原則です。
ただし既存の壁や天井などに施工した塗装などは、オーナーの所有部分の表面だけに施工したもので、所有権を分離することができないので、DIYであっても所有権はオーナーになります。
したがってDIY賃貸では所有権をオーナーと入居者とに分離する部分があり、賃貸借契約上もこの所有権の分離を明確にしなければなりません。
さらに修繕の必要がでた場合は、その部分の所有者に修繕の義務が生まれます。
つまり部位によってオーナーに修繕義務がある場合と、入居者に修繕義務がある場合があるのです。
原状回復や費用償還請求などは民法にも定めのあることなので、これについても契約において明確にしておく必要があります。
・入居者がおこなった工事の費用清算請求権の放棄
・退去時に存在する対象工事部分の不具合に対する修繕
以上のようなことについては、賃貸借契約書のほかに合意書を作成し、適用する範囲や部分などを細かく明記することを推奨しています。
また入居者がおこなうリフォーム・修繕工事は賃貸人の承諾が前提になっているので、書類上の形式も整えておく必要があります。
具体的には「DIY工事の申請書」と「DIY工事の承認書」をセットにして作成・保管することも推奨しています。
「DIY型賃貸借に関する契約書式例とガイドブックについて」には、DIY型賃貸借に関する契約書式例が掲載されていますので参考にしてください。
まとめ
DIY賃貸は欧米ではあたり前といわれます。
住宅の耐用年数も長く住宅に対する考え方も違っていますが、ストック活用へと大きく流れが変わってきた日本において、将来はDIY賃貸に対する需要が高まってくるかもしれません。
空室対策のひとつの手法としてよりも、居住する人にとっての生活環境を最適にする手法として、定着する可能性もでてくる期待もあるのです。
オーナーにも興味をもってもらい、試験的な運用からはじめてみるのもよいのではないでしょうか。