空き家ビジネススキーム構築に向けた全国の動き

空き家問題がクローズアップされるようになり、空き家対策特別措置法が2015年に施行されましたが、空き家の利活用に関わるビジネススキームはまだ確立されていません。

不動産業界においては試行錯誤的な取組が見られますが、まだはっきりと先が見える状態とはいえません。

ここでは最近の国および民間における空き家ビジネスに関わる、試験的な手法などに着目し、現状をお伝えします。

空き家ビジネス活性化に向けた国の取組

国土交通省は全国の空き家対策加速化のため、空き家対策の担い手強化・連携モデル事業において、以下のような取組をおこなっています。

・空き家に関する相談窓口の整備と専門家による連携体制の構築
・空き家発生を抑制し、空き家の利活用や除却などにおける全国的な共通課題の解決を図る取組への支援

これまで採択された事業は以下のとおりです。

1. 平成30年度
人材育成と相談体制の整備:35団体
全国共通課題解決:20団体
2. 令和元年度
人材育成と相談体制の整備:37団体
全国共通課題解決:23団体
3. 令和2年度
人材育成と相談体制の整備:24団体
全国共通課題解決:35団体

事業主体の多くは自治体や宅建協会などの社団法人、新規に設立したNPO法人などですが、少ないながらも不動産会社が取組んだ事例もあり紹介します。

商店街の空き店舗と事業承継実態調査(岐阜県高山市)

事業主体:すみれリビング株式会社
事業年度:平成30年度
事業報告書:https://www.mlit.go.jp/common/001308598.pdf

事業主体は高山市に本社を置き、売買仲介、賃貸仲介、賃貸管理をおこなう不動産会社で、2003年に設立し現在はグループ会社に、信託業、アセットマネジメント、賃貸保証会社を擁する、従業員総数51名という地域における中核企業です。

飛騨高山は日本でも有数の「伝統的建造物保存地区」ですが、中心市街地商店街の空き店舗化が顕在化しており、高齢化や後継者不足が深刻となっています。

本事業では約半年間にわたり「空き店舗と事業承継」に関する実態調査をおこないました。

岐阜県立飛騨高山高等学校の生徒が、商店街にインキュベーション施設を開設し、開発商品の販売・交流・調査をおこないました。

この活動と連携するかたちで、すみれリビングが主体となり「空き店舗と事業承継」に関する実態調査を実施、その結果にもとづき専門家を交えた講演会を開催しました。

今後の展開としては商店街組合との協力により、出店希望者のデータベースを作成し、商店街とのマッチング事業に取り組むとしています。

空き家利活用成果データの調査分析(長野県長野市)

事業主体:ストックリノベーション研究会
事業年度:令和元年度
事業報告書:https://www.mlit.go.jp/common/001379021.pdf

事業主体は株式会社MYROOMが中心となった任意団体で、連携先は長野県・信州大学・長野信用金庫・いとぐちで構成されました。

長野善光寺門前エリアでは、民間主導による空き家の利活用が約100件おこなわれてきました。

空き家のリフォームや賃貸紹介といった、実質的な業務は不動産業・建設業・設計業を営むMYROOMが担ってきたものです。

本事業ではMYROOMが実施してきた空き家利活用手法を、可視化したデータに落とし込み、空き家事業のプロセスを客観的に評価する指標を提供する目的としておこなわれました。

空き家ビジネスの将来性

空き家対策の担い手強化・連携モデル事業は、まだスタートして3年ほどであり、試行錯誤の段階といえそうです。

事業終了後には事業結果が公開されていたウェブサイトが閉鎖されているものもあり、空き家ビジネスのむずかしさを感じさせる一面もあります。

空き家の利活用は需要をどう掘り起こすかが重要であり、存在する空き家物件の利活用方法の開発を先行させることは、あまり意味のないものと思います。

空き家対策の担い手強化・連携モデル事業は、もっと需要の再発見にシフトした基礎研究を重視してはと思いますが、今後は官民での相互的な情報交換が必要となるでしょう。

その他実施されている国の取組としては、空き家バンクがありますが、空き家物件の情報発信がメインであり、積極的な需要開発といった面ではまだ期待できそうもありません。

民間での取り組み事例

民間において空き家ビジネスに関連する取り組みを見てみましょう。

ハロー!RENOVATION
空き家物件の活用方法を募集し、クラウドファンディングによる資金も募集するサイト、運営主体は不動産特定共同事業許可を受けた株式会社エンジョイワークス(神奈川県知事 第9号)
カリアゲJAPAN
空き家物件を借上げサブリースによる運用を図るサイト
NPO法人 空家・空地管理センター
空き家の管理や活用方法についての相談サイト

需要の掘起しを効果的におこなうには、事業主体が積極的に空き家物件を取得し、自ら需要開発に取り組む必要があると考えられます。

そのような面で注目したいのが、クラウドファンディングを活用した空き家ビジネスです。

クラウドファンディングによる投資資金を集めるにはこれまで許可が必要でしたが、次に述べる「小規模不動産特定共同事業」は小規模な不動産会社でも可能となった手法です。

小規模不動産特定共同事業

空き家の増加は地域社会における生活環境を悪化させる原因ともなり、対策が全国的に必要になった面があります。

空き家をどのように扱うかは一義的には所有者の問題です。

しかし少子化による相続の不連続性や、所有者の高齢化により健全な承継がおこなわれず放置されるなど、空き家の増加が社会問題となったわけです。

所有者あるいは相続人では解決できない空き家を、ビジネスとしての資産に変換できるのは不動産業者です。

・リフォームして新たな機能を付加し売却する
・新たな需要に応えた賃貸物件として再生する

このような事業をおこなうにあたり、ハードルとなるのが「資金」でした。

2017年(平成29年)に創設された「小規模不動産特定共同事業」は、このハードルを取り払い中小の不動産業者に空き家ビジネス参入の機会を作ることになったのです。

参考:価値総合研究所「小規模不動産特定共同事業パンフレット」

参考:国土交通省「不動産特定共同事業等について」

小規模不動産特定共同事業者として登録すると、クラウドファンディングなどで不特定多数からの投資資金を受けることができます。

これまでは「不動産特定共同事業」をおこなうには、不動産特定共同事業法にもとづく許可が必要であり、中小の不動産業者が参入することはできませんでした。

平成29年の改正により資本金1,000万円以上であれば参入が可能になり、さらに許可から登録へと大きく要件が緩和されました。

令和3年1月31日現在、登録事業者は26社ありすそ野の広がりは、少しずつ進んでいると感じられます。

参考:国土交通省「小規模不動産特定共同事業者登録一覧」

まとめ

空き家ビジネスにはまだ確立した手法がないのが現状です。

事業者には資金面でのバックアップが必要であり、可能性として大きくなってきたのが「クラウドファンディング」の活用です。

クラウドファンディングは出資法に関わる部分もあり、法的な仕組みづくりが必須でしたが、小規模不動産特定共同事業の創設により中小の不動産業者にも道が拓けてきました。

空き家ビジネスはまだ始まったばかり、不動産仲介や賃貸管理をおこなう地域密着の事業者にとって、先行者優位のビジネスチャンスといえるでしょう。

【今すぐ視聴可能】実践で役立つノウハウセミナー

不動産会社のミカタでは、他社に負けないためのノウハウを動画形式で公開しています。

Twitterでフォローしよう

売買
賃貸
工務店
集客・マーケ
業界NEWS