「住生活基本計画」見直しが不動産売買に与える影響

2016年閣議決定された「住生活基本計画」は中間期を迎え、2021年に見直しがおこなわれます。

住生活基本計画は国が定める住宅政策の方向性を表すもので、今後5年間の住宅関連事業に影響を与えるものです。

不動産業界とりわけ中古住宅売買や賃貸市場では、国の定める方向性に則った動きが生まれ、逆行するような動きにはブレーキがかかります。

住生活基本計画の見直しされるポイントを押えておくことにより、仲介会社が考えるべき経営戦略のヒントを見つけることができます。

「住生活基本計画」の見直し概要

2016年に決定された「住生活基本計画」には3つのポイントが設定されていました。

1. 居住者が安心に暮らせるための住生活の実現
2. 住宅ストックの有効活用
3. 産業や地域の活性化

対して、2020年の見直しでは次の3つの視点から具体的な施策を検討しようとしています。

1. 居住者の視点
2. ストックの視点
3. 地域・まちづくりの視点

タイトルだけを見ると同じようなコンセプトに感じますが、5年経過の間にも社会や経済環境が大きく変わり、今回の見直しでは次のようなポイントがクローズアップされました。

1. 「社会環境に変化」の視点
・新たな日常、DXの推進など
・安全な住宅・住宅地の形成など
2. 「居住者・コミュニティ」の視点
・子供を産み育てやすい住まい
・高齢者などが安心して暮らせるコミュニティなど
・セーフティネット機能の整備
3. 「住宅ストック・産業」の視点」
・住宅循環システムの構築など
・空き家の管理・除却・利活用
・住生活産業の発展

出典:国土交通省「新たな住生活基本計画の概要 (令和3年3月19日閣議決定)」(住生活基本計画ページ)

「新たな日常」やDXの進展に対応した新しい住まい方

新型コロナウィルスの世界的なパンデミックは、今後も現れる感染症対策を前提とした暮らし方・住まい方を示唆しました。

テレワークや在宅学習などが可能になる住まいのあり方を促進させ、増加する空き家の利活用を図る賃貸住宅の提供システムの構築も課題として浮上します。

住宅性能の確保やトラブル防止は良質な中古住宅の流動性を高め、効率的な住宅情報の提供は「多拠点居住」などの新しい住まい方も推進することでしょう。

各分野ですすむDXは住宅の契約・取引プロセスと、住宅の設計~建築~管理までのすべてのプロセスで推進させることが望ましく、令和7年には大手事業者で100%の達成を目差しています。

激甚化する災害に対する安全な住宅・住宅地の形成

ハザードマップの整備と周知の徹底により、不動産取引における災害リスクの提供を充実させ、災害危険性の高いエリアでの住宅立地を抑制させます。

さらに地域防災計画と立地適正化計画等により、住宅を安全な立地に誘導し加えて既存住宅の移転も誘導する施策をおこないます。

住宅そのものの耐震化や耐風性能の向上も課題となります。

災害時には既存住宅ストックの活用のため、公営住宅や賃貸住宅の応急的提供なども施策とします。

既存ストックの少ない場合には、応急住宅を迅速に建設可能な方法についても施策とするようです。

子供を産み育てやすい住まいの実現

子供を産み育てる視点で住宅のあり方を模索しようとする施策です。

背景には平均年収の低下や非正規雇用の増加により、住宅取得がむずかしくなっている状況があります。

引用:厚生労働省「図表1-8-2 平均給与(実質)の推移(1年を通じて勤務した給与所得者)」

子育て世代の賃貸住宅ニーズは低下することはなく、むしろ住宅性能や周辺環境の面で、より住みやすい住宅の実現が求められるようになります。

・低廉な家賃
・住替えの容易さ
・良質で長期居住が可能
・防音性や省エネルギー性能が高い
・防犯性が高く、医療・教育施設へのアクセスがよい

などの条件を満たす民間賃貸住宅の拡充と、公営住宅の建替えなどによる環境整備がすすめられるでしょう。

高齢者などが安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり

高齢者や障害者などが健康で安心して暮らせる住まいを確保するため、総合的に住まい選びの相談ができる体制を構築します。

既存住宅のエレベーター設置やバリアフリー化、ヒートショック防止のための温熱環境の向上など、リフォームを促進させる施策をすすめます。

見守りなどが可能となるIoT活用により、単身世帯のフォロー体制を整備する施策を講じる必要性にも言及しています。

サービス付き高齢者向け住宅に関しては、地方公共団体との関わり方を整備し情報開示を推進させます。

住宅団地での建替えにおいてはコミュニティスペースの整備などにより、地域のなかで高齢者が住みやすくなる環境の整備を図ります。

また三世代同居・近居などが可能になるような住替えの推進も図ります。

住宅確保要配慮者にとってのセーフティネット機能の整備

住宅セーフティネットの中心的役割は公営住宅であり、その建替えやバリアフリー化および長寿命化によって、住宅ストックを改善させる施策をおこないます。

またセーフティネット住宅の登録制度を推進させ、UR賃貸住宅をその中心的役割を担うストックとして整備します。

地方公共団体との連携が欠かせず「居住支援協議会」の設置をすすめ、市町村ベースで現在25%の人口カバー率を50%まで向上させます。

とくに孤独・孤立対策は重要であり、入居中の見守りや緊急対応に関する支援体制を構築する施策をすすめます。

さらに賃借人死亡時の残置物処理について、契約条項でしっかりと明記することを普及させる必要がでてきます。

脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と住宅ストック形成

ミニチュアハウス ,庭

良質な既存住宅の流通を促進するため、安心R住宅や長期優良住宅に関する情報の整備と普及を図り、購入者の安心感を高める施策をおこないます。

既存住宅瑕疵保険の充実と紛争処理体制を拡充し、リフォーム履歴の整備により既存住宅流通システムの環境整備を推進させます。

住宅の長寿命化を図り長期優良住宅の維持保全計画の実施と、各種性能の向上を目差すリフォームや、建て替えにより温熱環境の優れた住宅ストックを実現させます。

マンション管理の適正化と長寿命化の視点による、再生方法の基準策定もおこないます。

2050年カーボンニュートラル実現に向けて、長期優良住宅やZEHのストックを拡充させるため、住宅ストックの省エネルギー基準適合割合の目標を追加します。

空き家の管理・除却・利活用の一体的推進

所有者に適切な管理を促すとともに、管理に不適切な空き家の除却など対策を強化します。

そのため、地方公共団体と地域団体などの連携により、空き家の発生を防ぎ要除却空き家の除却も推進します。

空き家対策の障害となる所有者不明空き家について、財産管理制度の活用など取組を拡大させます。

空き家・空き地バンクの活用と空き家の改修をすすめ、多拠点居住やシェアハウスなどの新しいニーズに対応する施策を推進します。

中心市街地などの空き家・空き店舗対策として、地方創生やコンパクトシティ施策の面から、除却および敷地整序などの方向性にもとづいた総合的整備計画を推進します。

居住者の利便性や豊かさの向上につながる住生活産業の発展

大工技能者などの確保や育成と職業能力の開発を連携させ、地域材の利用や建築技術の伝承を図りながら、省力化施工やDX活用による生産性の向上を図ります。

木造中高層住宅などの部材や工法の開発・普及と、新技術にもとづく設計者の育成を図ります。

AIによる設計支援やロボットによる施工の省力化など、設計・施工分野における生産性と安全性の向上を目差す技術の開発を促進します。

センサーやドローンを活用した遠隔化検査により、生産性や安全性の高い住宅の維持管理水準を高めます。

新たな「住生活基本計画」から見えてくる望まれる中古住宅像

住生活基本計画で重視するのは良質な中古住宅の流通促進です。

・築年数だけでは評価できない住宅の質の確認
・客観的な数値表示による評価方法の確立
・新築時からの履歴を正確に蓄積し活用できるシステムづくり
・買取再販物件の質向上と適正な流通システムの確立
・災害危険エリアに立地する物件の移転政策
・利活用可能空き家と危険空き家のデータベース化

上記に掲げる施策や手法の整備により、良質な物件ほど流通が活性化し適正価格で取引され、低質な物件はじょじょに市場からの退場を余儀なくされるでしょう。

そして更地として新たな市場にふたたびリリースされ、不動産のリサイクルがおこなわれるような市場メカニズムが生まれるのではないかと思います。

まとめ

住生活基本計画見直しのポイントには、新しいビジネスチャンスを創りだす “種” があります。

国の政策には補助金などの予算措置がおこなわれる例も多く、有効に活用すると大きく成長できる可能性もあります。

逆に政策としてスポットのあたらない分野は市場からの撤退を促され、やがて廃れるビジネスへと追いやられていきます。

延びる可能性のある分野と延びない分野の見きわめはビジネスにおいて大切なこと、住生活基本計画の見直しを、現在の経営戦略見直しの機会にしてみてはいかがでしょう。

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