リノベマンショの売れ行きが好調です。
解説するまでなく、リノベとはリノベーションの略でスペルは「Renovation」と記載します。
もともと「性能向上や付加価値を高める大規模な改修工事」を意味しており、単なるリフォームとは異なる概念ですが最近の不動産広告では浴室やキッチン交換など、ある程度の規模でリフォーム工事を実施したマンションをリノベーション済みとして表記しているのを見かけます。
間仕切り壁を解体して3LDKを2LDKに変更し居住空間を広くする、または浴室やキッチンを交換する工事は性能向上を伴っていないことから、本来はリフォーム工事と表記しなければなりません。
ただし一定規模の工事は、リノベーションの定義である「付加価値を高める」という部分も包括しており、世間的にも大規模なリフォーム工事をリノベーションとして認知していることから、今回の記事では便宜上それらをリノベーションと表記して解説をすすめていきます。
リノベマンションの市場動向
リノベマンション好調の背景には資材高騰による新築マンション供給価格の値上がりと、ライフスタイルの変化という2つの理由があります。
コロナ禍による在宅勤務の推奨からテレワークが加速度的に広がり、業種により異なりますがオフィスへ出勤しなくても業務実績に遜色がない企業は早々に家賃の高い地域から移動を開始しました。
これは個人の労働者も同じで、テレワークで働く知的労働階級は都心を離れ地方へと「居」の移動を開始しました。
子供の教育環境などの理由により都心から移動できないテレワーカーも、専用のワークスペースは欲しいという需要が生まれます。
最近ではそのような需要に応えるべく、設計段階からテレワークスペースを設けた賃貸マンションが好評です。
ですが居住中の賃貸マンションで専用ワークスペースを造作するようなリノベ工事はできず、さりとて都心部の新築マンションは一般サラリーマンの所得で購入するには躊躇する価格設定になっています。
先ほどご紹介した資材価格高騰による新築マンションの値上がりは、首都圏だけではなく全国に及んでいます。
(株)不動産経済研究所の企画調査部による2020年《首都圏マンション市場動向》レポートによると、2014年以降の調査でも毎年、供給価格は値上がりを続けています。
このような状況下では立地条件の良い中古マンションを手ごろな価格で購入し、リノベーションしてワークスペースや書斎を確保すれば良いとの需要が活性化するのも当然であり、実際に中古マンション市場はじりじりと値を上げつつも活性化しています。
国交省土地情報総合システムで東京都千代田区中古マンション成約事例データの一部を確認しても、直近の令和2年10月~12月期の成約物件では20件中8件(40%)が改装済となっています。
年間集計としてのデータは公開されていませんが、地域的なデータをランダムに確認しても同様であることから全国的な傾向ではないかと推察されます。
これら改装済物件の大半は、不動産買取業者が売主です。
時勢に機敏に反応して中古マンションの買取を強化し、リノベーションしての再販で実績をあげています。
リノベーション工事のトラブルが増加している理由
この傾向は分譲マンションの特徴でもある躯体寿命の長さといった部分もありますが、木造住宅と比較して、躯体強度は柱や梁などの外周部によって保たれており、中間仕切りなどの解体による間取り変更が容易である点があげられます。
築年数が経過していても、立地が良く新築よりも取得額が低くなることから優先順位を「室内の快適性と立地、そして価格」という点で重視するユーザーにとっては魅力があるのでしょう。
このようにリノベーションを視野に入れての取引が活性化する中古マンション市場ですが、実際に工事にかかろうとして配管の経路や管理規約、法令制限などで目的とする工事を実施することが出来ないとの理由によるトラブルが増加しています。
マンションの管理規約はまだしも、既存マンションの配管経路は重要事項説明の事項には該当せず、一般的には調査も説明もおこないません。
ですが顧客から「私は当初から、水回りの移動も含めたリノベーション工事を目的としてマンションを購入したが、管理規約や既存配管の経路から希望する工事を実施することが出来ない。これは動機の錯誤にあたり契約不適合だ。契約を解除したい」と言われたらどうでしょうか?
工事の実施ができないことは契約不適合ではない
まずリノベーションを目的としてマンションを購入した顧客の立場から考えて見ましょう。
購入後に理想とするリノベーションを実施する目的があるとすれば、それは購入の「動機」となります。
当人からすれば、理想とする工事が管理規約やその他の要因で実施できない場合には、動機の錯誤が生じることになります。
つまり「思っていたのと違う!!」ということです。
さてこの動機の錯誤を契約不適合とできるかについてですが、予め具体的な工事内容を説明せず漠然としたイメージによる契約不適合の適用は「出来ません」との回答になります。
法的な見解になりますが、「契約不適合」と「動機の錯誤」は異なる問題です。
令和2年4月1日の債権法改正により、従来の「瑕疵担保責任」から「契約不適合」に転換されましたが、その際に瑕疵担保責任の「法的責任説」を否定して「契約責任説」を採用した形になりました。
この「契約責任説」を援用すれば、あらかじめ買主より告知されていない工事内容に関して、重要事項説明書における記載事項に含まれない部分についての調査義務が仲介業者にあるとまでは言えません。
ただし販売図面などに詳細に書き込まれたリノベーションの計画を提示され、「私はこのマンションを購入して、こんな感じでリノベーションをする予定です」と聞いていれば話が変わります。
「リノベーション工事を実施して快適に住むこと」という購入動機について予め知っていたと判断されることから、要望している工事が管理規約や関連法規、マンションの構造を勘案して実施が可能かどうかの調査を行い説明する義務が生じます。
実際にあったケースですが「リフォーム工事においてフロアを変更する場合、遮音等級L45以上である防音カーペット以外の物を使用してはならない」と管理規約で定められているのに、仲介業者が斡旋したリフォーム業者が管理組合に相談もせずに独断で、「遮音等級が同等であれば何も問題はありません」と、顧客に説明をして工事を受注しました。
顧客も「プロが言っているのだからと安心」と、好みのマンション用の防音フローリングを選びました。
その後、資材を現場搬入したところ近隣住民に見とがめられ管理会社や組合も巻き込んでトラブルに発展しました。
コンサル案件として私のところへ「何とかならないか」との相談がありましたが、状況を聞いても手の打ちようがないケースです。
リフォーム業者が、予めの確認を怠ったことが原因なのでそのままの施工は無理でしょうと返答しましたが、「それでも一度、対応してもらえないか」との要望でしたので組合長や管理会社との交渉を行いましたが、結果は駄目でした。
あたりまえといえばあたりまえの話ですが、組合として使用を許可するには管理規約の変更が必要です。
依頼者は気が収まらず「それでは業者を斡旋した仲介業者の責任はどうなんだ」といいましたが売買契約前に具体的な工事内容も聞いておらず、リフォーム業者を斡旋したものの打ち合わせには一切、タッチしていませんので責任追及は難しいでしょうと答えました。
このケースでは事前の確認を怠ったリフォーム業者に原因がありますので、管理規約の要件を満たすフロアを選びなおして工事を継続するか、請負契約を解除して別の業者に依頼するかを提案しました。
いずれの選択をおこなってもリフォーム業者に対する相応のペナルティは必要です。
斡旋をしたにも関わらず工事内容に関してタッチしていなかった仲介業者は、道義的な責任や顧客の思いは別として「予め工事内容を聞いていなかった」という1点により難を逃れました。
契約不適合にはあたらないが……
最近「契約不適合」という言葉が正確に理解されず独り歩きしている傾向が見受けられます。
契約不適合は「取引対象の種類・数量・品質に関して適合しない」ということであり、契約不適合該当する場合の請求範囲も下記の4つに集約されます。
②損害賠償の請求
③追完請求(売主に帰責事由がない場合も可能_改正⺠法第 562 条第 1項)
④代金減額請求(売主に帰責事由がない場合も可能)
このうち③と④は買主の無過失が条件とされていますから、リノベーション工事の内容を予め伝達しない場合には否定されます。
また②の損害賠償請求の場合にも、買主に過失があった場合には過失相殺の問題が生じます。
ただし先ほど解説したように具体的な工事内容が予め購入希望者から発せられ、私たち仲介業者や売主が、工事を実施できるという条件が購入動機であると認識している場合には見解が異なります。
購入目的と動機が関連性を持つことになるからです。
法的な表現をすれば、リノベーション工事が実施できない場合には「購入と動機の錯誤」(民法95条1項2号)であると解され、錯誤が法律行為の重要な要素であると認定された場合には、「売買契約の無効」が認められることもあります。
法律では「表意者が法律行為の基礎した事情についてその認識が真実に反する錯誤」とされ、工事が実施できないことは「法律要件を構成する重要な要素の錯誤」となります。
この場合には「取引対象に種類・数量・品質に関して適合しない」とする契約不適合ではなく、リノベーション工事を当初から希望していた顧客に対して、工事内容が管理規約に抵触するとの説明を怠ったことによる宅地建物取引業法の説明不備、つまり「債務不履行責任」となります。
まとめ
築浅物件やリフォーム済物件を除き、相応の築年数である居住中物件は購入後、クロス張替えなどの軽微なものから水回り交換などの大掛かりなものまで含め、買主が購入後に何らかの工事を行う可能性が高いでしょう。
売買契約前にリノベーション工事の内容が定まっており、顧客からその内容を聞いた時には管理規約も含め要望する工事が実施可能かどうかを確認し説明する義務が生じます。
施工図面の読みとりや建築知識に自信がない場合には、契約前の段階で業者を帯同して確認するなど判断を仰いだ方がよいでしょう。
計画が定まっていない場合にも、リノベーション工事をする際には予め業者に詳細な調査を依頼し、計画に支障が出ないように注意するようアドバイスする徹底したいものです。