前回から連載としています「事業承継」をテーマに解説している記事。
今回は2回目となる不動産後継者募集の方法について解説します。
前回のおさらいになりますが、廃業を考える経営者の約3割が「後継者がいない」ことを理由としています。
廃業を選択するよりも、後継者がいるのであれば事業を承継したいと考えるのが経営者の本音ですが、従業員が社長を目指して権謀術数の限りをつくし出世競争に明け暮れるのは大手企業やドラマの世界であり、不動産の中小企業や個人事業主の場合には安心して事業を任せられる人材がいない。
また「ゆとり世代」と呼ばれる若手の傾向ですが、役職に興味を示さず責任を嫌うといった傾向が強く、後継者不足に拍車をかけているのか知れません。
優秀であり、後継者と見込んでも本人にその気がない。
さて、困ったものです。
画像_中小企業庁事業承継マニュアルより
専門家の間では「事業承継は10年先を考えて行動する」といわれています。
事業承継は取引先との関係や、経営ノウハウの伝達、従業員を始めとする経営資源への影響などを考えながら5年から10年をかけて後継者教育をおこなうのが適切であり、そのために綿密に長期計画をたて実施していくという考え方です。
突然思い立ち後継者がいないと騒ぎ立てるのは、厳しい言い方になりますが自業自得であるともいえます。
帝国データバンクのアンケート調査によると、40歳代から事業承継の準備を始めている経営者は19.5%、50歳代では33.3%が事業承継に備えて準備をおこなっています。
10年先の事業承継を見据え、早い段階から事業承継の準備を始めましょう。
何から始める?
会社の存続を決め事業承継を思い立ち、気合をいれるただけでは何もはじまりません。
実際に事業承継の準備の大切さは理解していても、多くの方が先送りしているというアンケート結果がでています。
先送りする理由として
② 何から手を付けてよいかわからない。
③ 誰かに相談したいのだが、相談先がない。
画像_中小企業庁事業承継マニュアルより
などがあげられており、事業承継の大切さは理解してはいるけれども、先送りにしているといった実態が伺われます。
実際に事業承継に関するコンサルティングを実施すると、①の「日々の仕事に忙殺されて」というのは出来ない理由を自分に納得させるための言い訳として使われているように見受けられます。
相談を進めていくと「何から始めればよいのかわからず、また相談相手もいない」といった理由が見え隠れします。
後継者募集よりも先に、周りに目を向ける大切さ
通常考えられる後継者候補は、連載第1部でご紹介した通りです。
② 従業者から選択する。
③ 信頼のできる人から紹介してもらい、いったん入社してもらった後に承継する
④ M&Aで承継する。
M&Aは特殊ですので別途に後述しますが、最初は①~③の中で事業を承継することがでると思われる候補を、可能であれば数人、選びます。
あくまでも候補です。
決定ではありません。
「後継者候補がみあたらない」ではなく、探して育てるのです。
親族であれば、時間をかけて「想い」を伝えましょう。
また、日常を通じて後継者候補を探しましょう。
従業員の中で、可能性のある人間がいないかを改めて見てみましょう。
現在において、そこまでの人材ではないと諦めないでください。
私たち中小・個人事業主には、最初から優秀といわれる人材が入社してくると思わないことです。
素質のある人間を、5~10年かけて教育していくという考え方が大切です。
画像_中小企業庁事業承継マニュアルより
経営者といえども一人の「親」であり、可能であれば親族に事業承継したいという気持ちは少なからずお持ちでしょう。
ですが時代の傾向からでしょうか、家業を継いで「社長」になろうと憧れをいだく親族が減っています。
このような風潮から、後継者選びは親族を候補にいれつつ、従業者にも広く目を配り適任者を選択することになります。
画像_中小企業庁事業承継マニュアルより
並行して託すべき要素を決める
画像_中小企業庁事業承継マニュアルより
後継者選びと並行して、後継者教育の準備を進めていきます。
後継者教育には運営ノウハウや、技術・技能などの「知的資産」や経営権の分散や譲渡、取引先への顔つなぎなど様々な実務面での教育もありますが、もっとも大切なのは経営理念である「想い」の承継です。
画像_中小企業庁事業承継マニュアルより
これは何度も繰り返し、教育していく必要があります。
中小企業は社長が「顔」であり、社長の人徳に惹かれ取引を継続してくれている取引先が多くいるものです。
社長交代により、考えのことなる後継者が会社の指揮をとりはじめた途端、長年の取引先が離れてしまい一気に業績が悪化する事例は数多くあります。
そうならないためにも後継者に伝えるべき内容をまとめておく必要があります。
現場たたき上げの社長などでよくあるケースですが、厳しさが教育であると思い込み、問題が発生するたびに後継者をどなりちらすなど、都度、厳しく注意するのが後継者教育だと勘違いされている方も多いいのですが、それでは人は育ちません。
怒鳴られているほうからすれば、なぜ叱られているのか理解ができないからです。
自分自身の企業理念を、第三者が見て理解できるまで掘り下げ、
「なぜそのような考え方をするのか」
「理念に基づき行動する場合、その案件にたいする対応は何が最適であるのか」
ケースごとに対話を重ね、時間をかけて承継していく。
これが後継者教育の根幹であり、いわゆる「守破離」です。
2. 型を応用し、または改良する
3. 型から独立し、自身の型へと変化させていく
画像_中小企業庁事業承継マニュアルより
まず時間をかけ創業当時を思い出し、現在までの「想い」が腹落ちするまで、とことん考えて明文化しましょう。
画像_中小企業庁事業承継マニュアルより
それさえ出来上がれば、後継者教育の大半は終了したのも同然です。
その想いを、何度も対話を重ねながら教育していくだけなのですから。
中小機構資料利用はお勧め
中小機構は国の中小企業政策の中核的実施期間として創業から成長期・成熟期までの様々な段階におけるサポートや支援メニューを提供しています。
「事業承継計画表記入様式」は、下記URLからエクセルデータとしてダウンロードし使用できます。
https://www.smrj.go.jp/tool/supporter/succession1/index.html
事業継承を考えるにあたり、基本的に抑えておかなければならない事項を視覚的に一覧できることから、活用をお勧めします。
画像_中小企業庁事業承継マニュアルより
最後の手段はM&A
中小企業におけるM&Aは、株式譲渡か事業譲渡を選択するのが一般的です。
画像_中小企業庁事業承継マニュアルより
株式譲渡は、株主が変更になるだけですから図で記載されているように従業員や銀行などとの関係は変化しにくいと言われています。
ですがM&A契約の多くは経営権のほとんどを委譲することになりますから、純粋な事業承継といえるのか疑問が残ります。
屋号や従業員がそのままであれば、広義には承継といえますが線引きが微妙なところです。
基本的にM&Aを実施する場合には、M&A仲介会社に依頼する場合が多いのですが買い手企業が見つからない場合も多いようです。
とくに不動産業者の場合には、購入を検討する先もある程度絞られてきますので、すんなりと進むかどうかといった問題もあります。
経営権をある程度残した場合にも、経営方針・目標利益額・予算配分・社内人事などの広範囲に購入会社が強い権限をもちますので、それをきっかけに優秀な社員が離職してしまうほかにも、取引先との関係が悪化する危険性があります。
また事業の将来性を低く評価され買いたたかれる可能性があるなど、M&A特有の難しさがあります。
これらの問題は株式譲渡だけではなく、一部事業譲渡などM&A全般にいえることですので、M&Aを検討される場合にはじっくりと仲介業者を吟味して比較検討し、信頼のおける会社と二人三脚で計画を進めるようにしたほうが良いでしょう。
まとめ
今回は第2回目として、事業承継の後継者選定や教育の重要性について解説しました。
私たち不動産業者は高額な商品を取り扱うといった関係上、個人としての判断力や知識が重要とされます。
それだけに他業種と比較して、社長には事業全体を掌握する責任が生じます。
後継者に対する教育訓練を万全にして事業承継するためにも、早い段階で計画することが大切です。