地積測量図は重要事項説明の添付書類として使用する以外にも、査定時から必要とされる大切な書類ですが、必ずしも存在していない書類であることは皆様ご存じかと思います。
不動産のミカタでも、過去に【測量図がない土地の売買はどのように進めればよいか】
https://f-mikata.jp/sokuryouzu-tochibaibai/
といった測量図がない場合の取引方法にてついて解説していますが、たとえば「確定測量図」が売主から提示されたのに法務局に保管されていないケースがあります。
このような現象が、なぜ起きるのかについてはご存じでしょうか?
測量図が存在していない場合の売買方法については、上記でご紹介した記事を参照いただければと思いますので、今回の記事では、顧客から地積測量図が存在しない理由を聞かれ困ることがないよう、「いまさら人に聞けない、地積測量図が存在しない理由」について解説します。
測量図が存在しない理由
土地の売主から「昔、隣地所有者も立ち会って測量したから、間違いなく法務局にあるはずだ」と言われ、法務局で確認しても測量図が保管されていないという経験はないでしょうか?
特段の理由がなければ売主が嘘をつく必要もないでしょうから、おそらくは「確定測量図」か「実測図」を作成した記憶があるのでしょう。
「確定測量図」と「実測図」は同義語として使用されがちですが、厳密には異なります。
当該地に接する官・民の立ち合いのうえ境界を確定したものが「確定測量図」で、通常では土地家屋調査士に依頼して作製された図面に、利害関係人の署名捺印がされています。
「実測図」は測量成果としての図面です。
先ほどの売主の主張では、隣地所有者などが立ち会った記憶があるのであれば「確定測量図」を作成しているのかも知れません。
ただし確定測量図が存在するだけで、法務局に地籍測量図が保管される訳ではありません。
そこに間違いがあります。
確定測量の成果として地積測量図が法務局に保管されるためには、地積測量図の基準を満たす図面の作製と併せて、境界の確定成果として地籍を公にするため「地籍更正登記」が必要とされます。
地籍更正には官民確定協議書や筆界確認書、一筆の土地ごとに作成された法務局に保管される地積測量図面も必要とされます。
そのため売買や相続・相隣関係のトラブル解決などで境界確定が必要となり、利害関係人による確定測量図が作成されたとしても、更正登記が申請されなければ、地積測量図は法務局に保管されないことになります(登記簿の地籍も従前のままです)
そもそも地籍更正登記も分筆登記も義務ではありません。
また昭和30年の不動産登記法改正前では、地籍更正登記においても確定測量図の提出が義務とされていなかったので、更正登記申請の年代によっては地積測量図が保管されていないこともあります。
法14条地図が存在すれば、かならず地籍測量図も存在するのか?
法14条地図については日常業務で使用しているでしょうから説明は不要かと思いますが、いまだに「公図」と「法14条地図」を混同しているケースが見受けられます。
法14条地図は、登記法14条の「登記所には地図を備え付けるものとする」とする定めを実現するために、土地の境界を復元することができるほど精度の高い地図です。
ただし昭和26年から作成に着手した「法14条地図」は、70年を経ても全国における進捗率は52%に留まっており、都心部など人口集中地区の進捗率は僅か26%に過ぎません。
実施状況や進捗率は、下記のURLから国土交通省の地籍調査WEBにアクセスして確認することができます。
http://www.chiseki.go.jp/situation/status/index.html
とくに進捗率が低い地域としては京都8%・大阪と三重がそれぞれ10%など、ほぼ14条地図は存在していない地域もあります。
このような状態から、便宜的に14条地図の準ずるものとして用いられているのが「公図」です。
ご存じのように公図は明治時代の地租改正事業により作成された「旧土地付属台帳地図」を引き継いでいますので、測量技術の未熟さもあり精度や正確性は著しく劣ります。
公図には土地の筆ごとに地番が記載されていますが、実際の形状と大きく異なり、まったくといって良いほど整合性が取れていないこともよくあります。
このようなエリアを「公図混乱地域」と呼びますが、不動産のプロが公図と現況図を照らし合わせても辻褄が合わないような地域は、まさに不動産屋泣かせといえるでしょう。
地積測量図が存在しても安心できない場合もある
現行の不動産登記規則77条等で定められている、筆界点間の座標値や平面直角座標などが満たされている近年の地積測量図面であれば安心できますが、年代の古い手書きの測量図面は注意を要することがあります。
実際に、法務局に保管されている手書きの測量図をもとに現在の座標から測量しなおすと寸法が合わないことがあります。
担当した土地家屋調査士の測量技術の未熟さか、それとも起点とする座標を誤ったのか原因は定かではありませんが10数センチ程度の誤差が生じるなどザラにあります。
当然として誤差のある求積計算から導き出された土地㎡数は、現況と合わなくなります。
このような土地の場合には「公簿取引」で契約しても実測による土地面積と誤差が生じることから、売買対象面積の約款内容について取り決めをしておかなければ後々、不要なトラブルに巻き込まれる可能性があります。
また不動産売買契約書の約款には境界の明示義務が盛り込まれますが、前記のような誤った測量により埋設された境界でも、そこを明示すれば、不動産業者としての義務は果たせます(あくまでも境界を明示するところまでが義務ですから)
ただし仮測をして疑義が生じるようであれば、「地籍更正登記」により訂正するのが間違いのない方法です(費用の負担問題もありますので、事前の調整が大切ですが)
先ほど解説したように地籍更正登記は義務ではありませんので、手書きの地積測量図が法務局に保管されている場合には、少々、疑ってかかるぐらいの備えが必要かもしれません。
まとめ
今回の記事では、確定測量図が存在するのに法務局に保管されていない理由について解説しました。
筆者の経験ですが不動産業界に入りたての頃、当時の勤務先の支店長から「地積測量図」を取得してこいと指示され、法務局にいきましたが図面が保管されておらず、「ありませんでした」と帰って報告したら「確定測量図があるのに、地積測量図が保管されていないわけないだろう。図面もまともに取れないのか!!」と、確定測量図の写しで机を叩きながら怒鳴られた経験があるからです。
記事で紹介したように、「確定測量図が存在している=法務局に図面が保管されている」ではないわけですから、保管されていなくてもおかしくありません。
現在でしたら地積測量図が保管されていないケースがあることを説明し、「支店長なのに、そんなことも知らないの?」と冷めた目で見ることでしょうが、当時はそのような知識もなく下を向いて怒鳴られていました。
登記法の定めや各種建築法規などは、少なからず不動産業者に必要な知識ですが、それぞれに専門家が存在していることからも明らかなように、掘り下げて学べば際限がありません。
また法改正により現行法による見解を刷新しなければならないことも多く、常に最新の情報を入手し想定される問題に備えるといった心構えが大切だといえるでしょう。