空家等対策の推進に関する特別措置法施行から6年が経過し、市町村が実施する空き家法にもとづいた措置件数は増加しています。
行政代執行により除却されるケースや売却に出されるケースも増加しており、空き家法の施行状況が広がるにつれ、空き家に係るビジネスも広がりを見せています。
不動産会社にとって空き家ビジネスへの参入はむずかしいものではありません。
ここでは空き家管理からスタートする空き家ビジネスの可能性を考察します。
空家法の施行状況
空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)が施行されて6年、全国の自治体では空き家対策が進んでおり、空家等対策計画の策定は77%にあたる1,332市区町村(令和3年3月31日時点)で実施されています。
令和2年度末までに空家法による措置がおこなわれた実績は下記のとおりです。
・勧告:1,868件
・命令:215件
・行政代執行:92件
・略式代執行:259件
合計:27,322件
さらに管理不全空き家と指定された物件の除却等は下記のとおりです。
・市区町村の空き家対策の取組みにより除却等がなされた空き家:97,274件
出典:国土交通省「空家法施行から6年、全国で空き家対策が進む」
空き家等の譲渡所得3,000万円控除
空き家の増加を防止する施策として設けられたのが「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」です。
自己居住の住宅を譲渡した場合に譲渡所得から3,000万円控除される制度を、相続した住宅の譲渡に対しても適用するようにしたのがこの施策です。
控除に係る確認書の交付は次のような実績となっています。
・平成29年度:6,983件
・平成30年度:7,774件
・令和元年度:9,573件
・令和2年度:9,713件
出典:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除は今のところ、2023年12月31日までが適用期限であり年々増加している動きが見えますが、令和5年が最後になります。
期限が近付くと駆け込み現象が起きることもあり、今後2年間は空き家の売却物件が増えると予想できます。
除却等の代執行が増加
次に代執行による除却措置の状況を見てみます。
令和2年度は新型コロナウイルスの影響で若干落ち込んだものと推測できますが、年々増加していることが見て取れます。
なお「行政代執行」は所有者の確認をおこなったうえで、所有者には特定空家の処分が不可能なため、行政が「行政代執行法」にもとづき代執行したものです。
「略式代執行」は所有者が不明のため「空家対策特別措置法」にもとづき代執行したものです。
略式が2倍強となっており、所有者不明の特定空き家が多いと推測できます。
自治体が特定空き家に該当する物件の調査や所有者確定の作業、空き家対策に係る活動を継続し、空家法の効果が発揮されている表れではないでしょうか。
空き家対策と空き家ビジネスの可能性
相続した実家の3,000万円控除は2023年中に売却しなければならず、インセンティブ効果が期待できるため、今後は売却物件が増加する可能性もあります。
ただし対象物件は昭和56年5月31日以前に建築された住宅で、耐震性能が現行基準に適合するか耐震リフォームをおこなった場合、または耐震性能が基準を満たしておらず取壊しをした後に譲渡した場合になります。
また相続開始の直前まで被相続人が居住していたという要件に加え、相続開始までに老人ホームなどに入所していた場合も適用されるので、対象となる物件は多くなりそうです。
代執行により除却される物件も増加しています。
行政代執行の場合は除却費用は所有者に請求がいくので、特定空家に指定される前に管理不全状態を解消し適切な管理が望まれます。
そのため遠隔地に空き家がある場合に対応してくれる、空き家管理サービスの需要は増えていくと思われます。
空き家管理業務を通じて所有者との人間関係が深まっていくと、なかには大きなビジネスチャンスに恵まれることもあるでしょう。
空き家の再生ビジネス
空き家をリフォーム・リノベーションし賃貸物件にする、あるいは売却物件として仕入して再販する「再生ビジネス」の可能性が広がっています。
資金的な裏付けはクラウドファンディングの活用など、これまで以上に選択肢が広がり可能性が高くなっています。
日本は住宅需要よりも供給量が多く、空き家率は適正値を超えた状態ですが、一方で「多拠点居住」など複数の住宅を所有あるいは借りる人が増加しています。
つまり「1世帯1住居」ではなく、1世帯が複数の住居を利用する時代に変化しています。
「空室」は次の居住者が入居するまでの待機期間であることが多いのです。
住宅には住居用途と宿泊用途が混在しており、ある時は住居ある時は民泊と時期によって用途が変わる物件もあります。
再生した空き家はこのような用途にも利用されます。
また店舗やスタジオなど非居住施設としての利用が生まれる場合もあるでしょう。
人の流れは都会から地方へとダイナミックに動く可能性が高くなっています。
ワーケーションの潜在需要・顕在需要は約1,300万人と想定され、生産年齢人口の17.5%になります。
1,300万人というボリュームは再生した空き家に対する需要として、けして小さなものではありません。
見直したい空き家管理ビジネス
空き家法施行にともない2014年~2015年には「空き家管理」ビジネスが注目されました。
空き家管理をおこなう不動産会社などを、ネットワーク化するプラットフォームが立ち上がり、成長・拡大をつづけている様子も見えるようになりました。
参考 >> NPO法人 空家・空地管理センター
しかし売買仲介・賃貸仲介・賃貸管理などの事業を主とする不動産会社にとって、空き家管理は報酬が少なく魅力のあるビジネスとは捉えられていない傾向があります。
一方前述したように空き家の売却や空き家の再生ビジネスは、今後増加していくことが予想され、これらのビジネスチャンスを捉える入口と考えることもできます。
空き家管理についてこれまであまり積極的ではない事業者にとって、空き家ビジネス参入の機会はあまり多くはなかったと思います。
しかし地方自治体の空き家法にもとづく措置の拡大と、空き家の売却を促進させる施策がおこなわれている今日、空き家管理ビジネスを見直し積極的に参入する時と考えられるのではないでしょうか。
まとめ
空き家対策とは「役割を終えた建物」と「再生可能な建物」とを明確に区分し、役割を終えた建物は除却し土地の再利用を図り、再生可能な建物は新しい役割を与えてあげることです。
この区分が不明瞭な建物が「空き家問題」の対象となるものであり、役割を終えたまま放置されている建物が管理不全物件であり、特定空家と指定される建物にもなります。
不動産業に係る事業者としては社会問題ともなっている空き家の増加を防止する、さまざまな活動に係わっていくことが求められます。