賃貸マンションの経営を考えた場合、ターゲットである顧客層が求める “住宅像” を的確に把握することが重要です。
そのためにはアンケート調査・意識調査などの結果から、具体的な姿をイメージすることも有効です。
ここではシングルライフのための暮らし・住まいの研究所がおこなった、単身男女のマンション志向性とライフスタイルについての定点調査(4回目)の結果から、単身世帯の賃貸ニーズの変化を分析し望まれる住宅タイプを考察します。
単身世帯の増加
単身世帯の増加は今後もつづき2040年には40%の割合まで達すると予想されています。
引用:総務省「単独世帯の増加」
一方住宅の所有別・建て方別における単身世帯の割合は以下のごとくです。
共同住宅で単身割合が多いのは当然なことですが、60歳代を超えた年齢層で世帯割合と賃貸共同住宅の居住割合が一致しており、年齢が若くなるほど単身世帯割合が増加しています。
2040年には借家の共同住宅における単身者割合はもっと増加し、傾斜はよりゆるやかになり高齢世代の単身者割合も高くなると考えられます。
賃貸事業においては単身世帯のニーズを的確に把握し、ニーズに適合した住宅の提供が求められるでしょう。
単身者が求めるライフスタイルの変化
単身者のための暮らしと住まいを研究する「リビオライフデザイン総研」は、2017年度から年に1回実施する「単身者のマンション志向性とライフスタイル」について定点調査をおこなっています。
2021年度は4回目の調査であり、この4年間の変化から単身世帯が望むライフスタイルについてみていきます。
参照:PR Times「単身男女のマンション志向性とライフスタイル「+ONE LIFE LAB」にて第4回定点調査を実施」
収納に対するニーズ
ウォーキングクローゼットのニーズは高いのですが、注目したいのはリビングから入るウォーキングクローゼットの人気です。
一般的にウォーキングクローゼットは寝室から入る動線を考えますが、リビングから入り着替えてからそのまま外出する、そのようなニーズがあると言えるでしょう。
またシューズインクローゼットのニーズも高く、収納スペースの充実は望ましいライフスタイルの重要な要素になります。
また男女差でみると、ウォーキングクローゼットニーズは女性に多い点を指摘しておく必要があります。
キッチンに対するニーズ
もっとも望まれているタイプは「セミオープン型」であり、次いで「壁付型」が多いという結果になりました。
キッチンとリビングの動線やリビングとの一体感を求めていることが理解できます。
さらに優先したいものとしては「作業スペースの広さ」や「収納スペースの広さ」など、スペースに関するニーズが高く男女とも同様の結果であり、コロナ禍のすごもり生活の影響も考えられます。
また「コンロの数」へのこだわりもみられ、 “単身者=1口コンロ” といった図式は成り立たず、機能面での充実も求められることがわかります。
設備やサービスに対するニーズ
付いていてほしい設備やサービスでは、宅配ロッカーに加え「24時間ゴミステーション」が高いニーズになっています。そのほか
・備え付きキッチン収納棚
・フルオートバス
・5GBのネット環境
・食器洗い乾燥機
またこの調査は分譲マンションを想定しているため「リビングにエアコン」が上位にくることは特筆すべきことでしょう。
マンションニーズから読み解く賃貸ニーズ
2020年度調査よりも変化のあった項目について、リポートされた結果を拾い出しましたが、スペースや設備が充実したものにしたいというニーズは、分譲マンションに限ったことではなく賃貸でも同様です。
投資コストを考慮すると必要最低限のスペースや設備にシフトしがちですが、供給過多の賃貸市場の状況からは「ミニマムな仕様」であれば低額家賃設定とせざるを得ません。
ボリュームゾーンに対応した仕様を考えると、ある程度リッチな仕様にシフトする必要があります。
今後は単身世帯の増加と併せて『持ち家志向と賃貸志向どちらが多いか住宅意識を考察する』に記載されているように、30歳代の賃貸志向が増加していきます。
また高齢者が終の棲家として賃貸マンションを求めるケースも増加するでしょう。
そのような観点から単身用賃貸マンションの居住性向上は避けられない流れになると思われるのです。
賃貸マンション市場の状況
賃貸マンションの質が向上する流れは、現在の賃貸マンション市場の状況を知ると理解できます。
ここではニッセイ基礎研究所が2021年7月30日に公開したWebページ「賃貸マンション市場の動向-収益性安定で着工増、数年後の需給バランスには注意が必要か」を参考に、現状分析と今後の見とおしを考えてみます。
日本の賃貸市場には国内資本に加え海外からの資本が増加しています。
とくに海外資本についてみると、2020年は2019年の倍以上の6,000億円近くに及んでいます。
背景にはコロナ禍でありながらも、家賃の延滞がすくないことと家賃水準が横ばいで推移しており、安定した市場であると評価されていることがあげられます。
そのため賃貸マンションの売買取引は増加し、収益性の安定が着工戸数の増加現象を生んでいます。
新築物件に関しては相対的に数のすくない高級賃貸マンションにシフトしている傾向があり、家賃水準を押し上げるとともに質の高い賃貸住宅の供給に寄与しているともいえます。
前述したように「定点調査」の結果からは良質なマンションへの志向が現れており、大都市圏の賃貸マンションにおいては “充実した住まいの提供” が求められるのです。
まとめ
賃貸経営は投資額と家賃収益のバランスが重要です。
投資額だけに注目するとできるだけ抑えようとする意識が生まれます。
しかし投資額を抑えたために入居率が下がり、収益性が悪化するケースもあります。
投資額を抑えることができなくとも、投資に見合った入居率が確保できると経営は安定します。
立地条件に合致したマーケティングにもとづきおこなう良質な賃貸マンションの提供は、高い入居率を維持する重要な経営戦略となるでしょう