「不動産売買仲介とは何か?」という質問に関して、適切に答えられる方は多くないかと思います。特に、
- 不動産売買仲介と不動産販売の違い
- 売買営業と賃貸営業の特性の違い
- なぜ賃貸よりも売買の方が年収が高いのか
といった点について理解されている方は少ないのではないでしょうか。
今回は不動産売買仲介において理解が難しいポイントに関して、徹底的にわかりやすく解説していきたいと思います。
【図解】不動産売買仲介について徹底解説
不動産売買仲介とは一言でいえば、主に住宅などの不動産の売買取引が行われる際に、売主と買主の間を取り持つことで取引を円滑に進めることを指します。
不動産を売買する際には、売主と買主双方に対して複雑で難しい法的手続きや契約の締結が求められます。
これらを遂行するには高度な専門知識を伴うため、不動産売買仲介業者が両者をサポート及び代行します。
不動産仲介の基礎知識「客付け」と「元付け」の違いとは?
不動産売買は大きく「客付け」と「元付け」の2種類に分けることが出来ます。
この点は不動産売買仲介を理解するにあたって非常に重要な知識となりますので、以下で解説します。
客付け
客付け不動産は土地や住宅を買いたい人すなわち買主を見つけ、購入時に手数料を得るというビジネスモデルになります。買主からのみの手数料を得ることとなるため、この収益化構造のことを「片手取引」といいます。買主をオープンハウスやポータルサイトなどで集客し、希望に合った物件を案内することが主な業務となります。希望の物件が見つかり次第、売主から依頼を受けている「元付け」の不動産会社に案内するまでが一連の流れとなります。
元付け
元付け不動産は、土地や住宅を売りたい人すなわち売主を見つけ、売却時に手数料を得るというビジネスモデルになります。客付け不動産と連係し、売主からのみの手数料を得る場合は「片手取引」、一連の取引を一社で完結させ、売主と買主の両方から手数料を得る場合は「両手取引」と言います。
売買仲介の不動産業界の位置付けは?
売買仲介の不動産業界における位置づけはどのように整理すればよいでしょう。
不動産業界の業態は3つに大別することが出来ます。
- デベロッパー
- 管理会社
- 仲介会社
1つ目が、取得した土地に建物を建てて売却及び運営を行う「デベロッパー」。
2つ目は、デベロッパーを含めた建物を保有する大家やオーナーから委託され、建物まわりの管理を行う「管理会社」です。
そして最後は既存の建物を企業や消費者向けに販売したり賃貸する際の仲介を行う「仲介会社」です。売買仲介はここに含まれています。
土地に建物が建てられてから消費者の元に届くまでのフローとそれに係るステークホルダーを図式化すると、以下の表のようになります。
このように売買仲介会社は、デベロッパーや個人のオーナーから売買仲介業務依頼を受け、法人や個人の消費者に営業をかけながら契約に結び付ける業務を行います。
不動産売買仲介と不動産販売の違いは?
不動産売買仲介とは自社で物件を保有することなく、買主が不動産を見つけたり売主が買い手を見つけることをサポートし、契約の締結を円滑化する仕事です。
一方で不動産販売会社では、自社で所有する物件を買主に売却する仕事を行います。
すなわち、自社で買主が購入する物件を保有しているかしていないかという点が両者の相違点だと考えるのが最もシンプルです。
また、基本的にはデベロッパーやハウスメーカーなどが建てた物件を扱っており、組織としてもデベロッパーの子会社として帰属していたり、一つの事業部として内包されているケースが多く、上記の図では「デベロッパー」の部分に該当します。
図からもわかるように、不動産売買仲介で扱われる物件が中古が多いのに対し、不動産販売では新築物件が多く扱われるといった違いもあります。
不動産売買仲介と不動産販売の代表的な違いを以下の表にまとめました。
不動産売買仲介 | 不動産販売 | |
取り扱い物件の所有者 | 売主(所有しない) | 自社(所有する) |
取り扱い物件の属性 | 主に中古物件 | 主に新築物件 |
収益化構造 | 契約時の手数料 | 自社物件の売却益 |
会社の属性 | 独立していることが多い | デベロッパーの子会社や事業部であることが多い |
不動産売買仲介と不動産賃貸仲介の違いは?
売買仲介と賃貸仲介では、文字通り扱う契約内容に差異があります。またそのため取り扱う物件も異なっており、売買仲介では分譲住宅や中古の戸建て物件、賃貸仲介では賃貸用物件を中心に扱うことになります。
また、取引額とそれに伴う手数料にも大きな違いがあります。売買仲介は取引物件価格は一般的に数百万を超え、取引物件価格の最大5%の手数料を得られることから1度の仲介手数料が数十万円に上ります。一方の賃貸仲介についてですが、家賃相場は高くても10万円という規模の中、仲介手数の相場が家賃の0.5~1か月分となるため、1度の仲介手数料は多くて10万円というところでしょう。
以上のように売買仲介業では1度に得られる手数料の金額が高いことがわかります。その分優秀な営業マンが集まり、ハイレベルな競争が繰り広げられます。より多くの売上を立てるべく無理な働き方をする風潮は未だ抜けず、ワークライフバランスを重視する方には向かない業界と言えるかもしれません。
また営業スタイルにも差があり、反響営業(インバウンド営業)を主とする賃貸仲介にく比べ、売買仲介では自社から積極的に営業を仕掛けるアウトバウンド営業を行うことが多いです。
売買仲介と賃貸仲介の業務における代表的な違いを以下の表にまとめました。
業務内容 | 売買仲介業務 | 賃貸仲介業務 |
契約内容 | 売買契約 | 賃貸契約 |
主な取り扱い物件 | 分譲住宅、中古戸建物件 | 賃貸用物件 |
収益化構造(手数料) | 取引物件価格(税抜)×3%+6万円+消費税(取引物件価格が400万円超の場合) | 家賃の0.5~1か月分+消費税 |
営業スタイルの傾向 | アウトバウンド営業(能動的) | インバウンド営業(受動的) |
【不動産売買仲介】一日のスケジュールについて
不動産売買の業務内容は、物件情報の掲載や空室確認、契約書作成といったいわゆる「事務作業」と、電話や来客対応、内覧者案内などお客様とかかわる「営業活動」の2種類に大別することが出来ます。
売れている営業マンであるほど後者の営業活動の比重が高く、忙しいことが多いです。また一般的にお客さんと接する機会が多くなる週末は、平日よりも忙しくなります。また売買営業では賃貸営業などと比べお客様と接する時間が長くなっており、平日と週末において事務作業と営業活動の比率が売れる営業マンとそうでない営業マンとで全く違うというケースもあります。
1年間を通してみてみると、転勤や卒業・入学などのが多い3~4月などは繁忙期であり、既定の出社時間をはるかに上回る労働時間となることも珍しくありません。一方、年間を通して最も落ち着く時期が7~8月であり、比較的働き方に余裕が出てくると言えます。
このように、季節や曜日によって繁忙具合が異なったり業務内容に差が生まれることは事実ですが、以下に売買仲介業の平均的な1日のスケジュールをまとめてみました。
9時半出社19時退社とする不動産会社が多いですが、繁忙期には顧客が多くなかなか事務処理が追付かず残業となる場合もあります。
なお、このスケジュールには記載しておりませんが、契約の締結があると時間がかかります。また突発的な問題も発生するので、売買仲介の一日の行動は忙しいといえるでしょう。
なぜ不動産売買の営業は辛いと言われるのか?
理由1. 勤務時間が長く、休みを取りづらい
不動産売買営業マンはイメージだけでなく、実際に非常に忙しい仕事と言えます。他業種の営業マンと比べ、一体なぜ忙しくなってしまうのでしょうか。
その答えは扱う商材にあります。不動産というのは個人が消費する財としては最も高額なものの1つであり、売買取引時に伴う作業が非常に煩雑になっています。不動産営業マンは営業をかけるだけでなく、契約を締結して必要書類をまとめるといったところまで一気通貫で行うため、一度契約まで結びつけるとそれに伴い多くの作業が発生するのです。
さらに不動産の売買を行う多くの消費者は世帯主となるため、平日に仕事をしているケースがほとんどです。よって売主や買主が仕事をしていない時間に合わせる必要があり、夕方以降や休日も営業活動を行わなければならない場合が多いのです。
理由2. 商材が高額で成約しづらい
上述の通り不動産という商材は非常に高額なため、購入時に売主は慎重な判断をします。そのためそう簡単には売れづらく、多様な営業施策を試みても成果に結びつかないというケースが多分に起こります。
日用品や保険などの売れやすい商材の場合成功体験を積み上げやすくモチベーションを保ちやすいですが、高額な商材を扱う場合は売れない時期が続くことも多く、プレッシャーを感じたり仕事そのものをつらいと思ってしまうことも少なくないでしょう。
理由3. ノルマが多い
不動産業界に限らず、多くの企業の営業職では売り上げ達成のためのノルマが設定されています。
不動産業界では個人の力量差が成果に如実に現れるため、ノルマが個人に帰属することが多いです。さらに全体的な売上を向上させるためには上位層にノルマの設定を合わせることになるため、営業力の乏しい営業マンからすれば個人に課せられたノルマは非常に厳しいものになります。
ノルマを達成できないと、「自分の居場所がない」「自分には価値がない」といった自己嫌悪に陥いり、強いストレスを感じるものです。
売買営業の魅力は!?
魅力1. 営業力が身につく
不動産売買営業は各業界における営業の中でも、その業務内容、ノルマ、忙しさに関してトップレベルにあると言えます。高単価の商材を扱うため会社としてもリスクが高く、営業職には厳しい環境を設けていることが多いのです。
また流動性の高い物件を扱う賃貸営業などと比べ、消費者に対して積極的に営業を仕掛ける必要があります。賃貸営業などで多いインバウンド営業では学べない「積極的」な姿勢は、不動産業界に限らず多くの業界で通用する重要な提供価値になるでしょう。
また、不動産売買営業から独立する人が多いのも事実で、手に職をつけ個人で活躍しやすいこともポイントの1つでしょう。
魅力2. 顧客の人生に大きくかかわれる
この点を見落とす人が多いのですが、不動産売買の仲介をするということは人の人生を左右する非常に重大な役割を担うということです。
多くの人にとって人生の最大の買い物である不動産の購入には、多くの情報量と効果的なアドバイスを必要とします。そのため買主との接点も必然的に多くなり、個人の努力次第によってお互いの信頼関係を構築しやすい環境であると言えます。
成約に至った際は多くの達成感を味わえますし、顧客から心からの感謝をもらえることも多い仕事です。
魅力3. 年収が高い
不動産売買仲介の年収は個人の成果に対する報酬の割合が高いため、全営業マンの年収が総じて高いわけではありません。しかしながらインセンティブの割合が高いということは、成果を出せば出すほどお金をもらえるということであり、個人の活躍によってはかなりの年収を稼ぐことが可能です。
さらに次の項目でも触れますが、ビジネスモデルの特性上不動産売買仲介の売り上げ単価は非常に高く、他業界や賃貸仲介の営業などと比べても高水準な年収を達成することが出来ます。
よって自身の頑張りに応じて多くの成果が挙げられるという点で、不動産売買仲介は非常に魅力的な仕事と言えます。
- 不動産売買仲介には売主を集める「元付け」と買主を集める「客付け」がある
- 商材の単価が高いため、営業の成果が出づらいがかなりの高年収を狙える
- 手に職が就きやすく、顧客の人生に大きくかかわれることが魅力
【売買仲介】年収は高いのか?
まず不動産仲介業全体でみてみましょう。
不動産仲介業に勤める給与所得者(正社員、非正社員、役員)の平均年収は約435万円です。
国税庁が2021年9月に公表した調査結果によれば、日本の民間企業で働く給与所得者の平均年収は433万円ですので、同等の水準ということになります。
また、以下の表に取扱高の多い不動産賃貸上位10社の年収ランキングをまとめました。なお、インセンティブ等を含めた額で表すため、同データの平均年収は口コミサイトから引用した値になります。
順位 | 会社名 | 平均年収 |
1 | 野村不動産グループ | 813万円 |
2 | 住友不動産販売 | 685万円 |
3 | 三菱地所リアルエステートサービス | 678万円 |
4 | オープンハウス | 669万円 |
5 | 積水ハウスグループ | 613万円 |
6 | 三井住友トラスト不動産 | 571万円 |
7 | 東急リバブル | 539万円 |
8 | 三菱UFJ不動産販売 | 539万円 |
9 | 三井不動産リアルティグループ | 518万円 |
10 | みずほ不動産販売 | 472万円 |
取扱高が上位10社の平均年収を見てみると、すべての会社が仲介業界全体の平均年収を上回っていることがわかります。不動産業界全体の中でも不動産売買仲介会社の平均年収は高水準であると推測できます。
売買と賃貸ではどちらの年収が高いか?
では、不動産の売買仲介業は賃貸仲介業と比べてどのくらいの給与水準といえるのでしょうか。以下のグラフに売買・賃貸それぞれの大手10社をまとめてみました。
以上のように上位5社は売買仲介、逆に下位6社は賃貸仲介となっており、売買仲介は賃貸仲介に比べて給与水準が高いことがわかります。
これは先ほども触れたビジネスモデルが起因した結果で、売買契約の手数料が不動産取得価格の数パーセントであるのに対し、賃貸契約の手数料が家賃1~2か月分となっており、契約1回当たりの手数料に大きな差があるためです。
まとめ
今回は「不動産売買の魅力とは?仕事内容や年収を徹底解説」というテーマでご紹介いたしました。
話がいろいろと横道にそれた部分もありますので最後にまとめたいと思います。
- 売買仲介業者は売買取引に伴う高度な専門知識を用いて仕事をする
- 売買仲介の1日の行動は忙しい
- 営業スタイルはアウトバウンド営業で、辛いことも多いが手に職が就く
- 不動産売買仲介業の平均年収は全産業と比べ高水準
- 個人の頑張り次第ではかなりの高年収を目指せる