コロナ禍の影響を受け、東京では大手企業の自社保有ビル売却が相次ぎました。3000億円規模の売却総額となり、話題を呼んだヒューリックによる電通本社ビル取得はその象徴的な出来事と言えます。
その中でこうした大規模ビル売却の買い手の多くが海外ファンドであることに注目が集まっています。2021年8月末に大手旅行代理店JTBが売却した本社ビルの買い手企業は、イギリスの不動産ファンド「サヴィルズ」であることが東洋経済の取材で分かりました。
画像は東洋経済より
また、アメリカの不動産ファンド大手「ブラックストーン」が近鉄グループが保有するホテル8棟を423億円で買収した他、カナダの不動産ファンド「ベントール・グリーンオーク」がエイベックスの南青山に位置する本社ビルを720億円で取得したことが明らかになりました。
このように海外不動産ファンドが日本でリスクを恐れず積極的な投資を行う背景には、コロナ禍で経済や社会が混乱した欧米の代替市場として、相対的に影響が軽微なアジア地域に注目が集まっていることがあります。中でもシンガポールやオーストラリアなどは不動産市場が小さいこともあり、投資対象となりうる不動産が豊富で人口も多い日本の存在感が高まったのです。
その他にも、日本の金融機関からの調達金利の低さも魅力の一つとなっています。不動産ファンドは投資家から集めた出資金によって不動産を取得しますが、多くのケースでは元手の半分以上を銀行などの融資で賄うメザニンローンを組みます。三井住友トラスト基礎研究所の調査では、日本の不動産を投資対象とする私募ファンドの平均LTV(不動産価格に対する借入金の割合)はで平均52%となっており、取得する不動産の利回りが低くても、それ以上に金融機関からの調達金利が低ければ利ざやを取ることが出来るのです。
調達条件はファンドや金融機関により異なりますが、日本の不動産に対してはおおむね0.5~1%弱の水準でシニアローンを調達できています。「シンガポールの金融機関から調達した場合、金利は1.5%前後。香港は1.7%、ソウルなら3%だ」(JLLの内藤氏)とされ、日本の金利の低さが際立つ。