クレーム産業と揶揄されることもある不動産業ですが、仲介売買から始まり新築・賃貸・リフォーム・投資のほか相続物件や任売・競売など、知識と経験が必要な多岐に渡る業務を扱いますが、それらには様々なトラブルの「種」が内在しています。
筆者も不動産業務を通じて様々なトラブルを経験し、その処理のために奮闘してきた経験を持ちますが、振り返ってみればそのようなトラブルは起こるべくして起きたと思うことがあります。
単純な調査不足や勘違いにより大きなトラブルに発展することも多いのですが、調査中などに「オヤッ?」と、心に引っかかったものをないがしろにした場合に、綻びが大きくなるような気がします。
「社会通念上、起こりうる可能性の高い事象が具現化した」とでも表現すれば良いのでしょうか?
また自分自身のミスというよりも顧客の思い違いや不可抗力が理由でトラブルに発展することも珍しくありません。
ご存じのようにクレームやトラブルを完全に防ぐことはできません。
自分自身の力ではどうにもならないことが、その原因である場合も多いからです。
とはいえ、備えを怠らず日頃から準備をしておけば最小限の「ボヤ」で済む可能性は高いでしょう。
そのために必要なのが「知識」と「経験」です。
ただこれらは『一朝一夕』に身につく訳でもありませんから、相応の時間が必要です。
ですが、人間には想像力があります。
営業力強化のためにおこなうロールプレイングではありませんが、実際の事例を参照し『処理方法・根本原因の理由・防止するための手段』を考えることにより、経験値が堆積されていきます。
実戦経験でなくても、少なからずトラブルを防止する判断基準として活用できるでしょう。
そのような具体的なトラブルを知るサイトとして今回は、独立行政法人国民生活センターのなどでも公開されている消費者庁情報データバンクから、不動産関連のトラブル相談事例をピックアップして解説します。
事故情報を活用する目的
『不動産会社のミカタ』に掲載されているコラムの中には、知識を正しく持っていただき余計なトラブルを回避することを目的としている記事が数多くあります。
そのようなコラムを意識して読んで知見を増やし、それをもとに実務で経験を積み重ねることが大切です。
情報は大切ですが、鮮度が「命」です。
情報と知識はどちらが欠けてもなりませんが、情報は時代と共に変化していくものですが「知識」は即効性には欠けるものの、色あせることはありません。
仕事で最も大切なのはマニュアル化できない「暗黙知」であると言われていますが、情報を得ると同時に考えて実践し、さらにクレーム相談の傾向や内容を確認することにより感覚は研ぎ澄まされていくことでしょう。
事故情報を確認する
事故情報データバンクへは下記のリンク先から確認することができます。
https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/
データは不動産に限らず、相談件数が全てデータ化されていますが、平成21年9月以降から執筆時点(2021年12月)で、総数として307,490件もの情報がデータ登録されています。
不動産関連のデータを検索するには、フリーワード検索欄に「不動産」と打ち込んでいただければ、検索をすることができます。
不動産に関連するデータは229件存在しています。
図_事故情報データバンクシステムより
相談内容の概要が端的に表現されているので、興味深い相談内容を確認して消費者が持つ不満の内容を確認することができます。
但し大切なのは、
「同様のクレームが寄せられた場合、対応方法にはどのようなものがあるのか」
などについて考えることです。
不動産業者は販売活動などを通じて「利益」を上げることが何よりも優先されますが、そこに不動産業を通じて顧客満足を追求し、ひいては社会に貢献するといった根本精神を持つことは大切です。
具体的な事例から解決策を検討する
システムでは相談内容が確認できるのに留まり、具体的な解決策や回答結果が掲載されていません。
相談に対する法的な見解を調べるには質問事項をそのままコピー&ペーストしてネットの検索エンジンで調べるほか、下記図のように番号の横にある部分をクリックすれば、同様の相談事例が何件あるかなどの詳細情報も確認できますので、検索するキーワードを選択しやすくなります。
図_事故情報データバンクシステムより
相談内容を統計的に分析した訳ではありませんが、ある程度まで傾向を分類することができます。
全体として賃貸住宅に関しての相談件数が多く、かつ築年数が相応に経過している物件であるほど相談されている傾向が高いようです。
ついで中古住宅が多く、新築住宅についてはほとんど見受けられません。
もっとも新築住宅についてのトラブルが発生していない訳ではなく、相談先がことなっていると推察されます。
「住宅の品質の確保の促進等に関する法律」の定めにより、業者のほとんどが住宅瑕疵担保責任保険に加入(一部の大手業者は供託金を積み、自社保証で対応しています)しているので、保険引受先が持つ部門にたいして相談が寄せられていると考えられるからです。
おおまかな分類ではありますが、多くの相談が寄せられていたのが下記の4つにたいしてです。
●室内環境(湿気・カビ・結露・臭い等)による健康被害の主張
●害虫等の発生_駆除に関する問題
●賃貸住宅における設備機器の不具合
以降は、下記のような相談が重複して見受けられました。
●近隣住戸等の「音」の問題
●雨漏り
●不動産業者に対しての告知義務違反
●近隣住戸等との生活慣習の違いによるクレーム
●賃貸住戸における敷金返還に関して
いかがでしょうか?
築年相応であると思われる建物に関しての相談が多いのですが、賃料と建物の「質」は多くの場合には比例しますので、家賃相応であると言えなくもありません。
ただし建物の状態がどうであれ、賃貸人には民法606条に規定されている「賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務」が存在します。
賃貸人と賃借人の間を取り持つのが管理会社や仲介業者ですが、相談をみると「相談をしても、不動産業者から返答がない」もしくは「業者には責任がないといわれた」などの記載が随所に見受けられます。
確かに築年数が経過していれば建物自体が劣化している訳ですから、隙間が生じているので「害虫」の侵入はあるでしょうし、換気システムについても壁の上部に穴が開いているだけの自然換気がほとんどでしょうから、換気回数が足りずに「結露」もするでしょうし、また床下等の湿気上がりを防止する処置もされていないでしょうから、室内湿度が上がりカビが発生しやすい状況が出来上がっていることだと思います。
賃料=建物状況(経年劣化によるもの)として考えた場合には、築年相応である場合には害虫の侵入や結露の原因が増している可能性が否定できませんから、使用・収益上必要な修繕をほどこせば建て替えに近い状態まで必要とされる場合もあるでしょうから、その費用も著しく高額になると予想されます。
賃貸人もおいそれと手を付けられない事情があるのかも知れません。
このような建物性能上の問題が根本原因である場合、売買は別として、賃貸を斡旋した不動産業者の責任はありません。
ですが「賃借人が快適に日常生活を送ることができる」状態であることを前提として、事前に知りうる「住宅の経年変化等による状態や周辺環境等」については、説明をすることが義務であると考えられます。
事前にその説明がおこなわれていないと仮定すれば「契約不適合」の要件を満たしているとも考えられるでしょう。
もっとも入居前の立ち合い確認で書類上「原状渡し」として「家賃が○○円ですから、こんなもの」として説明していれば契約不適合責任もボヤけてしまうものですが、道義的にはいかがなものでしょうか?
まとめ
クレームは可能であれば避けたいものですし、関りにならずに済むのであればそれに越したことはありません。
好き好んでクレームに身を投じる人は多くないでしょう。
とはいえ不動産業がクレーム産業であることは間違いがなく、逃げ回っていて自然に解決するといった類のものではありません。
放置して時間が経過すると、相談の連絡が来なくなり一見して鎮火したように見えても種火は燃えており、何かを切っ掛けとして再燃し大事になることが少
なくありません。
不可避のトラブルは避けようありませんが、予め対策を講じることにより最小限に影響を留めることが可能になるでしょう。
そのためにも今回、解説した相談事例や裁判判例などを日頃から確認する習慣をもち、対策を考えておくことが必要だと言えるでしょう。