指定流通機構レインズを運営する公益社団法人不動産流通センターから、2021年指定流通機構活用状況が公開されました。
このデータは毎月集計されると同時に、毎年4月に1年間の振り返りとしての状況をまとめ公開されています。
推移状況を見ることにより今後の不動産市況や対策を検討する上での指標として活用できるでしょう。
そのような観点から、今回は公開されたデータをもとに物件登録状況などについて解説します。
全体としては売買流通量が減少している
ご存じのように一定の媒介契約を締結した場合、宅地建物取引業法により国土交通大臣指定の不動産流通機構へ物件登録が義務付けされています。
一般媒介での登録が義務ではなく、専属専任等においても登録期限までに売却されるケースもありますので誤差はあるものの、目安として中古・土地流通物件の総数と考えても差し支えないでしょう。
そのような観点から公開データを確認すると2021年度新規登録件数は全体で4,626,934件(前年同比1.3%増)でした。
全体として微増しているのですが、内訳は下記のような内容です。
●賃貸物件3,362,666件(前年同比8.6%増)
売買物件については減少しているのです。
最近ではウクライナショックによりインフレ状態が加速し、円安の影響や原材料等の枯渇により木材に留まらず鉄・アルミ・コンクリートなど、ほぼ全ての建築資材が値上げしている状況が顕著になり、新築需要が比較的安価な中古市場へ流れているようなイメージがありますがデータはあくまでも2021年の流通量等ですから前述したような影響がデータに表れるのはこれからになるでしょう。
地域別の動きはどうか?
レインズ新規登録件数を地域別に見ると増加しているのは中部4県地域のみでした。
首都圏では14.3%も減少しています。
もっとも首都圏と近畿圏の合計数だけで全体の51.5%を締めていますから、これらの登録件数の減少は特に都心部における緊急事態宣言の影響も色濃いだろうと推測されます。
これを建物種別ごとに見るとマンション・一戸建・土地・住宅以外すべてが前年度比で減少していますが、マンションが8.8%減少であるのにたいして一戸建が15.4%も減少しているところを見ると、前述した影響も、特に戸建てに対して強く表れているのではないかとも考えられます。
売り物件の状況はどうか
2021年の売り物件減少については前項までの解説どおりですが、これを過去に遡り比較すると不動産業者としては「ゾッ」とする傾向が見て取れます。
グラフを見れば一目瞭然ですが、種別によらず年を追うごとに減少を続けています。
ところでこの物件種別ごとのグラフを見てお気づきになることはないでしょうか?
全体として減少はしているものの、戸建てや住宅以外の減少と比較しマンションの振り幅はそれ程に激しくなく、全体が低下した2021年だけで見ればマンションの売り物件新規登録件数が全体の55.09%に達しています。
中古市場についてはマンション取扱を主として、そこに戸建てや土地等を絡めていくといった展開が理想なのでしょうか。
媒介契約方式はどうなっている?
「囲い込みの温床である」などと一面だけが過大に喧伝されたことによりイメージの悪くなった専属専任・専任媒介契約ですが、2021年においても全体の46.7%(前年度比3.7ポイント増)となっています。
コラムをお読みいただいている善良な不動産業者の皆様であればご存じのように負の側面があるのは事実ですが、それは扱う業者のモラル次第です。
媒介契約における信義則を遵守し、不動産業者としてより早い成約に努め活動していくにあたり専属専任・専任による媒介契約が適しています。
顧客に媒介契約ごとの違いを正しく説明して理解を得られれば、必然として専任媒介契約の比率が高まっていくでしょう。
とくに2021年は専任媒介契約が頭一つ抜け突出している傾向が見て取れるのは、そのような説明が正しくなされている現れではないでしょうか。
成約報告の傾向は?
2021年の成約報告件数は186,084件(前年度比0.8%増)でした。
新規物件登録件数は減少しているのですが、それに反して成約登録件数が増加しているのですから、単純に考えれば中古市場活性化の傾向が見受けられます。
もっとも新築物件等も一部はレインズに登録されていますから、単純にこのデータから中古市場が活性化していると言い切れるものではありません。
また成約報告が必ず実行されているかどうかも不明ですので、そのような点も念頭に置いておく必要があるでしょう。
ただし成約報告が正しく行われていると仮定した場合、同年度の新規登録件数から成約報告を除した数字である「成約報告率」を見れば、違った側面から検討に値する数字となります。
特に注目したいのが専属専任・専任の成約報告率の高さです。
一般媒介の場合には売主が各業者に成約の連絡をせず、業者も物件管理が出来ずにいるケースも多いことから信憑性にも疑問が残るものの専属専任24.1%・専任22.3%それぞれあり、「顧客への縛りと同様に業者に対しても縛りの多い」媒介方式が成約に貢献しているといった実情が結実した成果であるとも言えるでしょう。
それでも宅建業者は増加している‼
解説で触れたように円安の影響によりインフレは加速化しており、同時に輸入制限や原油高により輸送費は高騰、さらに建築資材の原材料が枯渇している状況です。
ウクライナショックにより、とくにロシア産の垂木・合板などに使用するアカマツが木材市場から姿を消しつつあります。
木材に限らず鉄・アルミ・コンクリートなど、ほぼ全ての建築資材が値上げしています。
実際に各設備メーカーは足並みを揃えるように、値上げを発表しています。
このような建築資材高騰の影響により、マンション・戸建てなどの種別によらず新築価格が上昇を続けており、結果ローコスト住宅を全国展開するハウスメーカーは株価を下げています。
もっともこの影響は新築市場に限らず、リフォーム業界も多大な影響を受けています。
ですがリフォームの場合には工事内容等を調整することによりある程度まで金額を抑え込むことも可能でしょうから、新築市場ほどではないでしょう。
このような激動の時代に関わらず指定流通機構の会員数は増加しています。
2021年末における会員数は142,221会員で、これは前年度末比でプラス2.1%と微増ですが9年連続の上昇です。
コンビニの数より多いと言われる宅地建物取引業者ですが、更に毎年のように増加を続けている。
それに対し物件総流通量は減少している。
単純に考えれば1社あたりの取扱件数が低下するということですが、実際にはそのような単純なものではありません。
結局のところ「勝ち組」と「負け組」の差が顕著に表れることになります。
潤沢な広告資金やネームバリューを持つ大手を除き、一般的な中・小の仲介業者は何らかの「強み」がなければ経営自体が覚束なくなる可能性があるでしょう。
まとめ
筆者は「不動産会社のミカタ」コラムでも常々「知識拡充の重要性と、自ら考えることの大切さ」を標榜して記事を書いていますが、不動産業界を取り巻く外部環境は安穏と出来る状態ではありません。
とくにコラムで触れた部分も含め念頭に置きたいキーワードは
●省エネ法改正により、業者によって更に値上げ
●長期金利上昇の可能性
●中古物件総数の減少
●宅地建物取引業者数の増加
まだ他にもありますが、このような環境下においても私たちは生き残りをかけて「戦い」続けなければなりません。
そのためにどのような手段を講じていくか、それは皆様の考え方しだいでしょう。
開業から僅か数年で約85%は廃業している厳しい業界であるのに、年々、業者数が増加しているといった現状は新旧入れ替わりの構図が背景にあるのです。
徹底した情報収集と知識の拡充、そして自らが考え時代に即した手段を講じていくことが、唯一の生き残り戦略であるのかも知れません。