「国土調査」という言葉はお聞きになったことがあるかと思いますが、「どのような内容の調査を行っているのかご存じですか?」と質問すると、不動産業者でもあまり詳しく知らないことが多くあります。
国土調査は「国調」と短縮されて表現されることも多く、国土調査の結果は「国調成果」と呼ばれていますが、代表的な成果として有名なのが法17条地図でしょう。
ですが国土調査で行われているのは「地積に関する調査」だけではありません。
目的が国土を合理的かつ有効に利用するため、地形、地質、土壌など土地の自然条件やその利用現況等を国土調査法に基づき調査し、地図や説明書等にとりまとめる調査とされているからです。
調査は国土調査法制定直後、つまり昭和20年代から実施されており、社会情勢の変化に応じ、刷新されながら調査が進められています。
平成22年度からは、災害の多発により土地に対する安全性の意識が高まっていること等を踏まえ、「土地履歴調査」にも力を入れ、こちらについては国が主体となって調査が進められています。
先程、解説したように「成果」として馴染み深いのは法17条地図ですが、こちらは昭和26年から実施されていますからコラム執筆の令和4年で、すでに71年もの歳月がかけられているわけです。
ですが実務で法17条地図を申請しても取得できないケースがよくあります。
とくにその傾向は都市部で多く、代わりに公図を取得していることでしょう。
法17条地図が取得できないのは国調(地積)未実施だからですが、都心部では権利関係の複雑さから調査が難航するケースも多く、令和2年の進捗率として公開されたデータでも調査対象地域全体では52%(優先実施地域は79%)までしか進んでいません。
国土調査事業計画は10年を単位として進められていますが現在は第7次(令和2~11年)として調査が進められています。
目標どおり進捗しても、令和11年で調査対象地域全体の57%で、終盤になるほど難しい地域が多くなりますから、実際にいつ終わるのか誰にも分からないのが実情のようです。
随分と時間を掛け「一体、何をやっているんだ!」と思うかも知れませんが、さきほど解説したように「国土調査」の範囲は地積だけではありません。
今回は、国土調査についての調査範囲と、知っていれば役に立つ土地分類・水調査結果の活用になどついても解説したいと思います。
国土調査は地積だけではない
先ほど「国土調査は地積だけではない」と書きましたが、調査は下記のように地積・土地分類関係・水調査関係の3つに大別されます。
ですから地積調査と言っても、それ以外に基本調査や基準点測量も同時に行われています。
「公図と現況が合わない」と感じることは多いものですが、その中でも都心部の公図を取得すると当該地番と現況に大きな隔たりが生じていることが多く、これは公図が明治時代に作成された旧土地付属台帳地図が基になっているからです。
そもそも公図は「字限図(あざぎりず)」と呼ばれる江戸時代の検地が基で、1873年(明治6年)から僅か5年で作成された地籍図です。
急いで作成されたという背景もあるのでしょうが、測量技術の未熟な時代であり、かつ「土地の大きさを過少申告して税金を減らしたい」などの様々な私利私欲も介在したことから、ご存じの通り境界や位置が正確ではありません。
このような不正確さを正すため国土調査により地積関係の調査を行っているのですが、冒頭で解説したように所有者不明など権利関係の問題もあり、その調査は困難を極めているのが現状です。
今後は登記義務化により、所有者の調査も少しは「楽」になってはいくのでしょうが、一気に調査が終わるとまではいえません。
それ以外にも、土地分類調査や水調査関係も同時に実施されているのですから、進捗が遅いのも止むを得ないところもあるのです。
土地分類調査地図を無償で確認できる
国土調査の成果は地積だけではないと解説しましたが、その中でも土地分類図はなかなかに使える資料です。
公図の取得は「有償」ですが、それ以外は無料でデータ公開されているのですから、利用しない手はありません。
当該地の浸水に関する危険性等についてはハザードマップ情報を利用されると思いますが、内見などの現地案内時、「この辺りの土質ってどうなの?」と聞かれたことはないでしょうか?
かなりマニアな質問ではありますが、ハザードマップで土質の確認はできません。
国土調査ではこのような土質に関する調査も実施して、下記URLで公開されています。
https://nlftp.mlit.go.jp/kokjo/inspect/landclassification/land/dojyou.html
地図の縮尺は5万分の1・20万分の1・50万分の1で公開されており、目的に応じて使い分けることができます。
また土壌の他に地形・表層地質などの地図も公開されており、用途によって使い分けることができます。
本格的な地図ですから、査定書や調査報告書に盛り込めば「一味違う」資料の作成に役たつでしょう。
自然環境や災害履歴も地図で確認できる
先程、紹介したURLから、昭和40年代以降のデータとなりますが、都道府県が主体となって全国を対象に行なっている自然環境や災害履歴図も確認することができます。
これらのデータは地震、火山、台風、地すべり等、土地の保全や防災を考慮した土地利用のあり方を検討するための基礎資料として調査されており、自然環境図・災害履歴図・土地利用動向図としてまとめられ、縮尺20万分の1の地図として公開されています。
このうち土地利用動向図については、北海道のほぼ全域と本州の山間部の一部が除かれ、全体としても約30万km2までしか実施されていません。
災害履歴図は作成年度により多少、情報が古い部分もありますが、一般的なハザードマップとは違う切り口で過去からの災害履歴が表示されます。
土地分類図と同様、査定書などに添付するとひと味違う資料になるでしょう。
地下水・地表水の情報も確認できる
地下水・地表水の適正な利用を目的として、全国地下水資料台帳のデータを基に地下水分布状況のデータも確認することが出来ます。
これらは地質状況のほか地盤沈下等の地下構造を分析されていますから、「地下水が流れ沈下の恐れがあるのでは?」と、土地購入に消極的な方に提示する調査資料として有効でしょう。
これらの情報は地下水に関する情報を地図上に表した「地下水マップ」としてまとめられています。
残念ながらこちらも伊勢湾周辺地域、筑後・佐賀平野地域、関東平野、新潟地域など10地域のみでの実施とされています。
全国地下水資料台帳調査は、深井戸(概ね30m以深)が対象とされ、井戸掘削時に得られた地質情報、揚水試験で得られた帯水層情報と水質検査結果等の情報を全国規模で集約しまとめた情報です。
1952年(昭和27年)から収集が開始され、現在においては全国約6.7万件の井戸に関するデータがベースとされています。
新規で得られた井戸の情報についても、継続的に情報の累積を行われています。
まとめ
如何でしょうか?
国土調査と一言で済まされる調査も、実際には今回、解説したように様々に分類で調査が実施されているのですから、国を挙げての一大事業です。
年月が相応に必要なのも、うなずけるでしょう。
また、紹介した国土交通省のページからは地理情報システムであるGISデータもダウンロードすることができます。
GISは(Geographic Information System)の略であり、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術として、その発端は平成7年7月1日の阪神・淡路大震災における反省から政府による取り組みが進められた、国土空間基盤となるデータです。
不動産業者でGISデータを利用している方は多くないでしょうが、大本のデータをダウンロードして、埼玉大学の谷研究室ウェブサイトから無料で公開されている下記URLからGISソフト「MANDARA」を利用すれば、必要なGISデータのみをビジュアル化して、オリジナル地図などを作製することができます。
多少の知識と「慣れ」は必要ですが、国土交通省から公開されているデータを基にオリジナルで作成した地図は、他社との差別化を図る上でかなり目を引く物になるでしょう。
興味があれば、ぜひ活用してい戴きたいシステムです。