【初めての立ち退き交渉】立ち退き料の相場と交渉時の注意点

不動産業者には不動産以外にも様々な知識や経験が必要とされますが、どのような能力や経験が必要とされるのかは手掛ける業務内容にもよるでしょう。

そのうち立ち退き交渉については本来であれば弁護士が扱う業務ですが、訴訟を前提とせず打診も含め穏便に立ち退き交渉を行いたい所有者の意向により、私達、不動産業者も少なからず関わりを持つことがあります。

立ち退きに関しての交渉は、どちらかと言えば熟練者向けの業務です。

熟練者向けとした理由ですが、立ち退きを求める理由が賃料未払いなど正当事由を有している場合にはそれほど専門的な知識も必要とされませんが、老朽化した木造アパートを解体して売却を検討した場合など、正当事由が存在せず、それを補完するため立ち退き料の提示を行う場合などの交渉においては法的根拠も含め相応の知識が必要とされるからです。

そもそもですが、所有者から依頼されているからと報酬を目的に代理人として立ち退き交渉を行えば、非弁行為(弁護士のみに認められている行為を、弁護士以外がおこなうこと)に該当します。

非弁行為は報酬の有無のほか、対象が法律事件もしくは法律事務に該当するか、反復継続の意思を有しているかなどにより判断されますので、あくまでも所有者の意見を伝達する立場として助力するというスタンスで行うように注意が必要です。

ではありますが賃貸斡旋や売買に限らず、必要な能力であることに違いはありません。

立ち退き交渉ができるかどうかで、顧客から得られる信頼も違うからです。

今回は注意点も交えながら、正当事由が存在しない場合の立ち退き費用の目安など立ち退き交渉について解説します。

非弁行為に抵触しないためには

立ち退き交渉は、本来であれば当初から弁護士に依頼するのが最も良い選択肢ですが、費用の問題や弁護士に相談する習慣のない個人オーナーなどは何やら敷居が高く感じるのか、馴染みの不動産業者に相談するケースが多いものです。

顔見知りの方から相談があれば、応じないわけにもいかないでしょうが、実際に交渉を行うにあたっては冒頭であげた非弁行為に該当しないよう慎重に行動しなければなりません。

非弁行為とは弁護士法72~74条の定めに対し、弁護士以外のものが行った場合に該当しますが、72条では「弁護士資格のないものが報酬を得る目的で法律事件に関して、鑑定・代理・仲裁もしくは和解等の法律事務を取り扱うこと」とされています。

まず、72条に抵触しないため「報酬を得ないこと」です。

ただし、法律事件(事務)に該当していない「お悩み相談」をおこなうこと、つまりは不動産コンサルティングとして相談に応じ報酬を得る場合には72条に該当しません。

ただしこの場合でも、法律事件と事務のどちらにも該当していないことが求められます。

法律事務の代表的なものとしては法律相談・示談交渉の代理・調停や訴訟代理などですが、これらに抵触しない相談であることが前提です。

弁護士法73条は「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とできない」とされており、立ち退き交渉においては賃貸権だけを譲り受け訴訟を行うなどの場合に該当します。

賃貸権の譲渡や転借は法律で認められてはいますが、そもそも賃借人の同意が必要ですし、立ち退き交渉の当事者となることを目的として移転することは公序良俗に反する行為とされます。

ただし、立ち退き交渉でトラブルになっている物件を購入して所有権移転をおこない、当事者として交渉にあたる分には弁護士法に抵触することはありません。

続いて弁護士法74条ですが、このうち第2項にある「弁護士又は弁護士法人でない者は、利益を得る目的で、法律相談その他法律事務を扱う旨の標示又は記載をしてはならない」に注意する必要があります。

例えばホームページに「立ち退き交渉相談に応じます」など、いかにもといったフレーズを載せれば抵触します。

72または73条に違反すれば「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」とされ、74条違反では「100万円以下の罰金」とされています。

これら非弁行為は一律に判断される訳ではありませんが、原則として非弁行為に該当させないためのポイントは3つです。

●立ち退き交渉に関して報酬を請求しない(受け取らない)
●立ち退き交渉を反復継続して行っていると誤解をまねく勧誘(広告)等をおこなわない。
●交渉経過により裁判等、事件に発展する可能性が高い場合には速やかに弁護士の介入を依頼する。

よく勘違いされているのが、「無報酬」であれば立ち退き交渉を代理しても問題がないという思い込みです。

報酬の有無によらず交渉を代理して行う(示談交渉)は72条に抵触します。

法律事件や事務がどのようなものであるかを正確に理解しておく必要があるでしょう。

立ち位置として、賃借人に賃貸人の意向を伝えるメッセンジャーであるということです。

立ち退き交渉の流れ

一般的に立ち退き交渉は、下記の①から⑤の順で進められます。

実際には立ち退き交渉が揉めて訴訟にまで発展する確率は極めて低いものですから、弁護士に介入してもらったとしても、弁護士名で発する明渡し請求書面の作成・発送だけを依頼することがほとんどです。

ですが一連の流れは覚えておきたいものです。

私達、不動産業者が非弁行為に該当しないよう交渉に入れるのは②まで、それ以降は弁護士に介入して貰う必要があります。

① 立ち退き依頼(転居の打診)

準備期間_お知らせの作成・打診・訪問・説明

② 転居先の提案

相手方の生活環境や状況を勘案し、転居先を提案。
ただし①の訪問時に初回提案を行うので、予め物件を選出しておくとよいでしょう。

③ 明渡し請求

交渉の経緯も踏まえ私達、不動産業者が書面を作成し発送することも可能ですが、ここまでくると事件として発展する可能性が高くなりますので弁護士に介入してもらうのが良いでしょう。

下記に裁判所から公開されている明け渡し請求の訴状を見本として掲載していますが、訴訟に発展した場合に齟齬(そご)が生じないよう期日や、請求を行うに至った経緯も簡潔に記載しておくとよいでしょう(裁判に発展した場合、証拠書類になります)

立ち退き,明渡し請求

④ 訴訟

明渡し請求をおこなっても立ち退きに応じてもらえない場合、訴訟に発展することになります。

裁判により正当事由を補完する立ち退き料は高額になる判例が多く、概ね賃料の10倍以上です。

当然、弁護士費用等も加算されますので、私達としては出来るかぎり訴訟にまで発展することがないように立ち回りたいものです。

⑤ 判決

最終的に立ち退き料の算定がメインとなります。

賃借権は強い権利ですから正当事由を補完するだけの金額となれば、賃貸人・賃借人双方における居住や建物売却の必要性、これまでの賃貸借に関しての従前の経緯や利用状況や現在の賃料などを参考として総合的に判断されます。

裁判においては途中で示談とされる確率が高いのですが、いずれにしても立ち退き料が高額になると覚えておいた方が良いでしょう。

立ち退き費用の目安

今回は正当事由がない場合における立ち退きについての解説ですので、原則として「立ち退き料」が必要になります。

気になるのは立ち退き料の相場ですが、厳密に言えば相場は存在しません。

相手方(賃借人)の状況により、正当事由を補完するために合意できる金額がことなるからです。

ただし何らかの目安は必要でしょうから、一般的なケースにおける金額を下記で解説します。

1.アパート・マンション・戸建てなど、賃借人の立ち退き料

移転先の敷金や礼金・また荷物量によりことなる引越し費用も加算して、賃料の6~12ヶ月が目安になります。

老地区化した木造アパートなどの場合には、賃料1~2ヶ月+引越し代実費程度で合意を得られるケースもありますが、条件によりことなります。

2.店舗・各種テナントなどの立ち退き料

販売拠点として実績を積み重ねた経緯もありますから、移転交渉がもっとも難航するのがテナント等の立ち退きです。

引越し費用や移転先の確保のほか、移転により売上の変動がどの程度にあるかにより金額も変動します。

初回相談を起点として移転まで1~2年程度必要になるなど、長期化する傾向が高いのも特徴です。

あくまでも筆者の経験ですが、テナントの賃貸期間にもよりますが賃料の1~3年程度が目安になるでしょう。

3.事務所・オフィスからの立ち退き料

来客型店舗(テナント)よりも多少は難易度も下がりますが、移転となれば名刺や社用便箋、取引先への連絡など手間が必要であることは間違いありません。

このような手間ひまも立ち退き料に上乗せする必要がありますから、事務所やオフィスの規模にもよりますが、賃料6ヶ月~程度が一つの目安になるでしょう。

4.土地の立ち退き料

建物が建築されていない土地の立ち退きは、もっとも簡単なケースです。

もっとも重機置き場として活用しているなど、土地の利用状況により難易度も変動しますが、代替地を見つけるなどの条件を満たしていれば地代の1~2ヶ月程度が目安と言えるでしょう(月極駐車場の場合も同様です)

立ち退き料の算出根拠

前項では筆者の経験を踏まえ、一般的な立ち退き料の目安について解説しました。

これらの金額は経験やカンに頼って算出している訳ではありません。

それぞれに具体的な根拠が存在しています。

賃借人の状況により全てに該当するものではありませんが、下記の条件をそれぞれ精査して金額を算出します。

賃借人に立ち退き料を提示する場合には、下記項目等を盛り込んだ明細書(計算書)を提示できるように準備しておくとよいでしょう。

1.賃借権の買い取り
正当事由を補完する費用です。

2.移転費用
移転先の仲介手数料・敷金・礼金のほか引っ越し用などです。

3.営業保証
店舗・オフィスなどの場合において、移転により集客に影響を受ける費用を算出するほか、電話番号の変更や名刺・封筒等、新たに準備が必要とされるものまで含めます。

4.造作買取費用
店舗の場合に該当することが多い名目ですが、店のイメージを演出するためや利便性向上のため行われている造作費用を算出します。

5.慰謝料
移転に伴う迷惑料としての意味合いが強いのですが、慰謝料相当分も計上しておくとよいでしょう。具体的な金額としては個々のケースにより様々ですが、個人・法人・事務所・店舗の順で金額があがります。

立ち退き費用の目安と、立ち退き料の算出根拠を参考に、どの程度、相手方に負担を生じさせるかを加味して適切な金額を算出するようにしましょう。

まとめ

正当事由が存在していても裁判では立ち退き料の支払いが命じられる場合もありますから、賃借人の権利はやはり強いものであると言えるでしょう。

賃貸人はできる限り「安く」、賃借人は少しでも「多く」を望むのが立ち退き料ですから、窓口として関与する私達、不動産業者は交渉を通じ機敏に意向を察し、うまく立ち回る必要があります。

私達が立ち退き交渉に関与するのは、立ち退きが完了した後の恩恵(売却等)があるからです。

非弁行為に抵触するので報酬の受領はできませんが、ボランティアとして応じるほど立ち退き交渉は簡単でもありません。

問題なく処理することにより所有者からの信頼を得られ、その後のビジネスにも影響するのですから、今回、解説した立ち退き交渉に関する注意点については正しく理解しておく必要があると言えるでしょう。

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