2022年9月1日時点の住民基本台帳に基づく100歳以上の高齢者の数は、前年より4016人増加し、9万526人となりました。
その一方で、世界一の高齢化率でありながら65歳以上の4人に1人が賃貸住宅への入居を断られた経験があるなど、その住環境は必ずしも充実しているとは言えないようです。
そこで今回は、人生100年時代の住まい探しニーズを検証・分析しつつ、媒介獲得のポイントについて考えてみたいと思います。
4社に1社が「高齢者の入居可能な賃貸住宅が『全くない(0%)』」と回答
(株)R65不動産の調査「高齢者向け賃貸に関する実態調査」によれば、約25%の不動産会社が、高齢者の入居可能な賃貸住宅が「全くない(0%)」と回答したことが分かりました(グラフ①参照)。
グラフ①(引用元:(株)R65不動産の調査「高齢者向け賃貸に関する実態調査」)
また、28.3%が「直近1年間で、年齢を理由に高齢者の入居を断ったことがある」とも回答しており、高齢者の賃貸住宅探しを取り巻く環境は引き続き厳しい状況が続いていると言えそうです。
グラフ②(引用元:(株)R65不動産の調査「高齢者向け賃貸に関する実態調査」)
60歳以上の持ち家所有者の45%が「住み替える予定が立っていない」
SBIエステートファイナンス株式会社が行った60歳以上の持ち家所有者で「自宅を住み替えたいと考えている人」を対象に行った調査によれば、約半数が「(住み替えの)予定は立っていない」と回答しています(グラフ③参照)。
グラフ③実際に住み替える予定はいつですか?(引用元:SBIエステートファイナンス(株)「住み替え」に関するアンケート調査)
「住み替える予定が立っていない」理由として一番多いのが「希望にかなう住み替え先がない」で47%を占めており、「住み替え資金が用意できていない」が次いで36%となっています(グラフ④参照)。
グラフ④ 住み替える予定が立っていないのはなぜですか?(引用元:SBIエステートファイナンス(株)「住み替え」に関するアンケート調査)
希望の住み替え先については、「買い物・交通・病院などの生活利便性」が41%で最多となりました。2位「維持・管理のしやすさ」(16%)以下の結果を大きく引き離す結果となっています(グラフ⑤参照)。
グラフ⑤住み替えで最も重要視するのはどこですか?(引用元:SBIエステートファイナンス(株)「住み替え」に関するアンケート調査)
相続税法改正の目玉「配偶者居住権」とは?
賃貸/購入共に老後の住まいとして選択の余地が狭まる中、2020年の改正民法施行の目玉として注目された「配偶者居住権」への関心が高まっています。
「配偶者居住権」とは、住宅の所有者が亡くなった場合、遺された配偶者(同居していなくても可)がその自宅に無償で住み続ける権利を保証するというものです。
制定の背景
改正前の相続法では、故人の持ち家に同居していた配偶者が住み続けるには、配偶者が自宅を相続する=「所有権」を取得するという形が一般的でした。
しかし、多くの場合、不動産評価額が高額となることから、配偶者が自宅を相続することで預貯金の相続分が減り、生活費が不足してしまうことがしばしば見られ、最終的に自宅を手放すというケースも少なくありませんでした。
そこで、「所有権」に比べて、より廉価に見積もることができる「居住権」を取得することで、住まいと生活費に充てる十分な預貯金のバランス良い取得を法定相続の範囲内で実現することを可能にしたのは「配偶者居住権」です。
※相続例
<改正前>
夫の遺産(住宅2,000万円、預貯金3,000万円)
→妻2,500万円(住宅2,000万円、預貯金500万円)、子2,500万円(預貯金2,500万円)
<改正後>
夫の遺産(住宅2,000万円、預貯金3,000万円)
→妻2,500万円(住宅【配偶者居住権】1,000万円、預貯金1,500万円)、子2,500万円(住宅【所有権】1,000万円、預貯金1,500万円)
配偶者居住権のメリット・デメリット
<メリット>
配偶者居住権のメリットは上でも述べたように、配偶者に先立たれた場合、住まいに住み続けられること、住宅以外の遺産を獲得しやすいことなどです。
他にも、代償金の支払いが不要なこと、相続税の節税対策なども挙げられます。
<デメリット>
配偶者居住権では、無断での賃貸、増改築が認められていないため、実施する場合は所有者の許可が必要となります。
他にも譲渡・売却なども自由に行うことができないことも注意が必要です。
高齢者が高齢者施設などに入所する場合に、住まいの売却や賃借することによる費用捻出が難しくなることが考えられます。
令和2年4月に施行された同制度ですが、同年の申請件数は128件にとどまりましたが、認知の浸透によって、翌令和3年は880件まで増加し、令和4年も6月までで432件とほぼ同じペースで申請件数を積み上げています(データ出典:法務省登記統計)。
高齢者の住み替え、媒介獲得のポイントとは?
ここまで高齢者の住宅事情について、その住み替えニーズを中心に関連するトピックを取り上げてきました。
ポイントを以下にまとめます。
・不動産会社の4社に1社が「高齢者の入居可能な賃貸住宅が『全くない(0%)』」と回答するなど、高齢者の賃貸住宅探しを取り巻く環境は依然として厳しい状況にある
・住み替え希望のシニアのうち、約半数が「(住み替えの)予定は立っていない」と回答。その主な理由は「希望にかなう住み替え先がない」「住み替え資金が用意できていない」。
・民法改正によって令和2年4月に施行された「配偶者居住」は、配偶者に先立たれた場合、住まいに住み続けられ、住宅以外の遺産を獲得しやすいことがメリット。その一方で、自由な増改築・賃借・売却・譲渡などができないことがデメリットとなっている。
・配偶者居住権は少しずつ認知が浸透しており、申請件数が増加傾向にある。
これらのポイントを踏まえると、シニアの住み替えにおいては、「希望にかなう住み替え先」を探しているものの、不動産価格の高騰もあり「住み替え資金」の不安があり、住み替えに二の足を踏んでいることが伺えます。
老後の住まいについては、「配偶者居住権」は一つの新しい選択肢となっているものの、上述のようなメリットとデメリットがあります。
新しい制度ということもあって事例が少ないこともあり、配偶者居住権を設定された不動産は、売却が難しくなる傾向にあるようです。
シニアへの訴求のポイント
上で取り上げたSBIエステートファイナンス株式会社が行った同じ調査によると、住み替えの不安で最多は「資金面」(38%)となりましたが、「荷物の整理・処分」(35%)「生活環境の変化」(30%)「住み替え後の今の自宅の対処」(28%)となり、住み替えにあたって多種多様な不安・懸念を抱えていることが分かります(グラフ⑥参照)。
グラフ⑥ 住み替えにあたって不安に感じることはありますか?(引用元:SBIエステートファイナンス(株)「住み替え」に関するアンケート調査)
こういった懸念に応えるため、シニア層の住み替え支援として、貴社のサービスを通じてどういったサポートができるのかを的確に訴求する必要がありそうです。
住み替え先の提案(購入・賃貸、シニア向けローンなど)はもとより、現住居(持ち家)のサポート(売却、売却に関連する家財整理、不用品回収など)や相続サポートなど、シニアだけでなく、そのご家族も含めた幅広いサポートが求められていると言えそうです。
不動産関連の情報収集はwebが中心。48%が「YouTubeで情報収集したい」
SBIエステートファイナンス株式会社が行った「YouTube利用に関する実態」調査によれば、不動産関連の情報収集は「webサイト」から行っている割合が38%で最多となりました。
中でもyoutubeの視聴経験は87%に達し、46%が「YouTubeで情報収集したい」と回答しています(グラフ⑦参照)。YouTubeで視聴するコンテンツは「音楽」(35%)「映画」(31%)などが上位を占めていますが、「金融・不動産」(19%)関連のコンテンツも一定数が視聴しているようです。
グラフ⑦今後、YouTubeで情報収集したいと思いますか?(引用元:SBIエステートファイナンス(株)「YouTube利用に関する実態」調査)
グラフ⑧では、同じ内容の記事と動画の比較において、「動画」の方が分かりやすいと回答した人が53%となりました。
その理由として、「情報が目で見て分かりやすく、必要な情報がコンパクトにまとめられている」「自然と内容が頭に入ってくるから」など、「百聞は一見に如かず」とも言うべき回答が散見されました。
グラフ⑧住み替えの情報に関する動画と記事があります。どちらがわかりやすかったですか?(引用元:SBIエステートファイナンス(株)「YouTube利用に関する実態」調査)
高齢者の情報源は紙、特にオールドメディアを好むと考えがちですが、不動産関連の情報収集の手段はデジタルに軸足を映していることが分かる結果をご紹介しました。
高齢者においてもメディアそれぞれの特性を踏まえて最適な情報収集を行っており、発信する情報と伝え方、そして受け手の属性やニーズによって、適切なメディアを選ぶことの重要性が高まっている結果と言えそうです。
■(株)R65高齢者向け賃貸に関する実態調査概要
調査実施期間:2022年 8月10日〜8月10日
調査対象:全国の賃貸業を行う不動産管理会社に勤務、もしくは経営する方
有効回答数:860名
調査方法:インターネット上でのアンケート調査
■SBIエステートファイナンス(株)「住み替え」に関するアンケート調査概要
・調査期間 2022年5月18日~2022年5月30日
・調査機関(調査主体)調査委託先 株式会社マイナビ
・調査対象 一都三県に持ち家がある60歳以上の男女104名
・有効回答数 104名
・調査方法 インターネット調査
■SBIエステートファイナンス(株)「YouTube利用に関する実態」調査概要
アンケート回答者:一都三県に持ち家がある60歳以上の男女257名(有効回答数232名)
アンケート回答期間:2022年4月19日~2022年4月28日