筆者は売買実務も勿論ですが、お読みいただいている不動産関係コラムの執筆のほかコンサルティングや各種不動産関連セミナー講師などを手掛けています。
コンサルティングにおいては最近、話題となっている家族信託など一連の相続問題相談のほか、不動産に関するトラブル、任意相談など、必要に応じ各士業と連携をとりながら様々な相談に応じています。
実際に寄せられる相談は多種多様で「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったものです。
そのように寄せられた相談がコラムの「ネタ」になっているのですから、ある意味で一石二鳥だと言えるのでしょう、
そこで今回も、寄せられた相談をネタにコラムを展開しましょう。
概要は「競売代行の手数料って、正規媒介報酬なのですか?」ということ、もっともこれは相談というより、質問と表現した方が良いと思いますが、相談は知己の不動産業者からです。
ひところと違い「競落金額が上昇して、以前ほどウマ味がなくなった」と言われる競売ですが、不動産業者の競売離れを尻目に、一般投資家や、少しでも安く不動産を購入したい方が入札をしているケースが多いようです。
入札者の素性などは公開されませんが、開札期日に裁判所の開札場に並んでいる顔ぶれを見ると、不動産業者より一般の方が多いのではないかという印象を受けるほどです(一昔前は、いかにもという顔ぶれが並んでいました)
もっとも競売は三点セットの情報だけを頼りに物件を選択し、確度の高い金額で入札しようと思えばそれなりの経験が必要です。
経験のない方であれば裁判所で入札用紙を入手し、その内容を不備なく書き込むだけの作業でも戸惑うかも知れません。
ご存じのように競売三点セット(物件明細書・現況調査報告書・評価書)はBITS(不動産競売物件情報サイト)から誰でも入手できますが、不動産の素人では公開された情報だけで物件状態などを判断し、適正な入札金額を決めるだけでも難しいでしょう。
そこで私たち不動産業者に「競売の入札代行をお願いできないか」という相談が寄せられることになります。
前述した不動産業者は専門として入札代行業務を手掛けている訳でもなく、また自身で競売を扱った経験が乏しかったことから筆者に相談してきた訳ですが「競売の代行業務を受任する場合には『購入』として媒介契約を締結しておけば宅建業法に抵触しないのか?」から始まり、競落額の傾向から見た入札額の予想方法など多岐に渡ったのですが、最後に相談されたのが運良く競落できた場合の報酬についてです。
同様の相談が皆様に寄せられることもあるでしょうから、今回は「競売代行業務」について解説したいと思います。
競売件数や競落金額の推移はどうなの?
解説を始める前に、最近の競売の傾向を理解しておきましょう。
裁判所から公開されている司法統計でも競売件数データを入手することは可能ですが、それをグラフで表したものが一般社団法人 FKR(不動産競売流通協会)から公開されています。
競売物件公告数の推移を表したグラフでも一目瞭然ですが、みごとに競売件数は減少しています。
一説では緊急事態宣言による裁判所の機能停止や、支払い猶予や見直推奨などの効果により一時的に減少しただけで、すぐに増加に転じると考えた方が多かったのですが、23年度においても増加に転じておらず、1,000~2,000件/月前後で推移しています。
ですが競売物件数は低調でも、それに反し増加を続けているのが入札件数です。
背景には昨今の不動産価格上昇があり、少しでも安く購入したいという一般層がオークション感覚で競売に参加していると分析されています。入札件数が増加すればそれに伴い入札額が上昇するのも当然で、戸建てはもちろんですが、構造を気にせず内部状態だけで判断できるマンションの入札者はとくに増加が著しく、それに伴い競落額も上昇しています。
そのような状況を見越してか、裁判所も市場調整率を高めに設定し最低入札額を引き上げています。
これらのことから、もはや私たち不動産業者が再販を目的として競売に参加するメリットは少ないというのが最近の競売市場なのです(まれに不動産素人では正確に判断できない掘り出し物もでますから、期間入札情報はこまめに確認する必要はありますが……)
競売に直接参加するメリットは減少しているが、入札代行は増加傾向
競売件数の減少により「住宅ローンなどの支払に困窮する人(企業)が減少したのか」と考える方もおられますが、それは少々、短絡的な考えです。
住宅ローンなどの返済に困窮している方は確実に増加しています。
長期化する新型コロナウイルスの影響により、金融庁は債務者からの相談が寄せられた場合には返済条件の見直しに応じるよう金融機関に通達をだしましたが、そのような制度を知らず複数回の延滞をして分割の期限の利益を喪失した方や、見直しをしたけれども所得が回復せず困窮状態が継続(場合により悪化)している方が増加しているからです。
そのような方の受け皿になっているのが「リースバック」や「任売」です。
ですが今回は任売などについての解説をすることが目的ではありませんのでこれ以上の説明は割愛しますが、不動産業者は収益力改善のため単純売買に固執せず任売やリースバックなど、自社が得意とするノウハウを提供してビジネスを展開する気概が大切で、そのような観点から直接競落して転売をするウマ味がなくても、競売代行を「売り」にするのも一つの方法だと言えるでしょう。
競売代行の報酬について
ホームページで「競売代行」と検索すれば、日本全国で競売代行を「売り」にしている企業が数多くヒットします。
一般的な競売代行業務は、1.物件調査 2.入札額の提案 3.入札代行(開札立会も含む) 4.競落後の立ち退き交渉をワンセットとしています。
そこで気になるのが報酬についてです。
まず基本として理解していただきたいのですが、競売代行は媒介業務に該当しません。
まず私たちが通常行っている「媒介」業務ですが、媒介業務については「宅建業者が不動産の媒介をした時には報酬について特段の約定をしていいなくても、委託者にたいして商法512条に基づく報酬請求権がある(最高裁判例昭和38年2月12日による見解)」とされ、宅地建物取引業法により国土交通大臣が告知で定めた報酬額を上限として請求権があります。
媒介業務には売買・交換のほか「代理契約」も含まれていますが、ここでいう代理契約とは「売主または貸主の代理人として取引をおこなう」ことであって、競売の入札代行業務は含まれません。
それではどのような業務に分類されるかというと、不動産コンサルティングになります。
これには明確な根拠があり、それが岡谷地裁(現在は簡裁)で昭和54年9月27日に競売代行の報酬について争われた事件の判決です。
この裁判において裁判所は「競売手続きにおいて、競落物件を委託者に競落させるために尽力する活動、すなわち、競売物件の情報提供、物件調査、案内ないし競売手続きの補佐あるいは受任などという意味での媒介の余地があるとしてもそれは普通の不動産売買における媒介とはその意味が全くことなり、本来不動産仲介契約及び報酬の基準である建設省告知が予定する媒介行為とは類型的に異質な行為であると言わざるを得ない」として、競売代行と媒介業務は全く別のものであるという判断を示しています。
ですから不動産コンサルティング業務を受任する場合には「不動産コンサルタント業務契約書」の締結が必要であると同様に、目的を「競売代行」とする業務契約書を作成し締結する必要があるのです。
もちろん競売代行業務は商行為にあたり違法性はなく、また業務が宅建業法に反するものでもありません。
また前述した裁判所の判断により、競売代行業務は「準委任契約として任意の約定により報酬が定めることができる」つまり競落に寄与した割合に応じての報酬額を業務契約書であらかじめ定めておく必要があり、目的を達した場合には報酬請求権が発生すると考えられます。
委任内容は当事者により自由に定めることができますから、約定報酬額も委任者と受託者の双方が納得していれば自由に定めることができるのです。
もっとも私たち不動産のプロが入札しても、確実に競落できるかどうかは分かりません。
競落は確実ではありませんが、物件調査や入札立会にも些少なり経費と時間が必要です。
そこで任売代行を行っている会社の多くは、調査代行費用などの名目で10,000~20,000円の費用を請求(競落できなくても返却しない費用)していることが多いようです。
また競落できた場合には入札金額×3%(消費税別)など、あくまでも媒介による正規報酬の上限額を目安として成果報酬にしているところが多いようです。
まとめ
今回のコラムで解説したように、競落しなければならない具体的な理由が存在しない限り、私たちが転売目的で競売に参加するメリットは少なくなりました。
ですが逆転の発想で、一般の方からすれば割安感のある競売は魅力的なのでしょう。
競落額を読み切れば、相場よりも安く購入できる可能性はあるのですから。
私たちにメリットはなくても、一般の方には充分にある。
けれど競売に入札するのは不安だという方は多い。
そこで出番となるのが私たち不動産業者です。
比較的若い不動産業者の方と話をすると「いまは競売なんかメリットないですよね」と言う方を数多く見かけますが、それでは競売を入札した経験がどれくらいあるのかを聞くと、一度も参加したことがないかたがほとんどです。
情報過多の時代ですから、入札経験はなくてもネット情報などで競売の基本や流れは理解しているのでしょうが「食わず嫌い」はいただけません。
確かに私たちが直接入札に参加するメリットは少なくなりましたが、確実に入札件数は増加している。
そこにビジネスチャンスがあると考える発想は大切でしょう。