今回は、LIFULL HOME'S が実施した「不動産売却に関する調査」から不動産売却において、売主が感じる「お困りごと」についてご紹介いたします。
同社では、同様の調査を2019年にも行っており、両調査の結果を比較することで、コロナ前後の売主における不動産売却のニーズとマインドの変化を分析します。
その結果を踏まえて、選ばれる不動産会社になるためのポイントについて考えてみたいと思います。
【1】中古マンション売却の傾向「売却金額の相場感が分からなかった」
まず、中古マンション売却経験者の「お困りごと」について見ていきましょう。
以下の<表1>は、2022年調査の結果をまとめたもので、2019年の当該項目との回答率の差分も表記しました。
2022年の調査の結果(背景色:青色)で最も多かったのは「売却金額の相場感が分からなかった」(20.0%)で、「買い手がなかなか見つからなかった」(17.8%)「法律に対する知識が足りなかった」(17.0%)が続く結果となりました。
<表2>の2019年調査結果(背景色:黄色)と比較すると、上位項目はいずれも回答率が上昇しており、特に「売却金額の相場感が分からなかった」「法律に関する知識が足りなかった」などの上昇率が高くなっていることが分かります。
コロナ禍を経て不動産価格の高騰、住まい探しトレンドの変化によって中古マンション市況が活性化し、売却意向を持つ生活者が増えたことが一因だと考えられます。
<表1>マンション売却経験者の「売却で困った点」ランキング(複数回答)
2022年調査 | 回答率差分
(2019年調査) |
||
1 | 売却金額の相場感が分からなかった | 20.00% | 6.80% |
2 | 買い手がなかなか見つからなかった | 17.80% | 3.10% |
3 | 法律に関する知識が足りなかった | 17.00% | 8.20% |
4 | 何から始めればよいか分からなかった | 14.60% | 3.80% |
5 | お金に関する知識が足りなかった | 14.30% | - |
6 | 何をすればよいか分からなかった | 13.30% | 2.50% |
7 | 不動産会社とのやり取りが面倒だった | 12.10% | 3.70% |
8 | 分からないことをどこに相談すればよいか
分からなかった |
11.70% | - |
9 | 不動産会社からの営業電話が掛かってきた | 11.10% | - |
10 | 信頼できる不動産会社が分からなかった | 10.90% | - |
引用元:(株)LIFULL『不動産売却における「困りごと」ランキング』『住まいの売却データファイル』を参考に筆者が作成
<表2>マンションを売るときに困ったことランキング
2019年調査 |
||
1 | 買い手がなかなか見つからなかった | 14.70% |
2 | 売却金額の相場感が分からなかった | 13.20% |
3 | 何から始めればよいか分からなかった | 10.80% |
4 | 法律に関する知識が足りなかった | 8.80% |
5 | 不動産会社とのやり取りが面倒だった | 8.40% |
引用元:(株)LIFULL『住まいの売却データファイル』
【2】中古戸建て売却の傾向「何から始めればよいか分からなかった」
<表3>は戸建て売主のお困りごとについて、2022年調査の結果をまとめたもので、2019年調査(表4)の当該項目との回答率の差分も表記しています。
戸建ての売却では「何から始めればよいか分からなかった」(19.1%)が最も多く、「売却金額の相場感が分からなかった」(19.0%)、「買い手がなかなか見つからなかった」(17.9%)が続く結果となりました。
<表3>一戸建て売却経験者の「売却で困った点」ランキング(複数回答)
2022年調査 | 回答率差分
(2019年調査) |
||
1 | 何から始めればよいか分からなかった | 19.10% | 8.90% |
2 | 売却金額の相場感が分からなかった | 19.00% | -0.40% |
3 | 買い手がなかなか見つからなかった | 17.90% | 2.20% |
4 | 何をすればよいか分からなかった | 16.20% | 6.80% |
5 | 法律に関する知識が足りなかった | 15.00% | 1.70% |
6 | 分からないことをどこに相談すればよいか分からなかった | 10.00% | - |
7 | 不動産会社とのやり取りが面倒だった | 8.10% | - |
8 | お金に関する知識が足りなかった | 7.90% | - |
9 | 信頼できる不動産会社が分からなかった | 7.70% | - |
10 | 売却損が出た | 6.70% | - |
引用元:(株)LIFULL『不動産売却における「困りごと」ランキング』『住まいの売却データファイル』を参考に筆者が作成
戸建ての売主は、マンションの売主と比較して「何から始めればよいか分からなかった」の割合が高くなっています。
コロナ禍で戸建てのニーズが高まったことで、所有する戸建ての売却を検討する売主が増加したことに加えて、戸建ては「終の棲家」とする人が多く、マンションに比べて日常的な売却への備えが進んでいなかったことが背景にあると考えられます。結果として「何から始めればよいか分からなかった」人が多くなったのかもしれません。
<表4>一戸建てを売るときに困ったことランキング
2019年調査 |
||
1 | 売却金額の相場感が分からなかった | 19.40% |
2 | 買い手がなかなか見つからなかった | 15.70% |
3 | 法律に関する知識が足りなかった | 13.30% |
4 | 何から始めればよいか分からなかった | 10.20% |
5 | 何をすればよいか分からなかった | 9.40% |
引用元:(株)LIFULL『住まいの売却データファイル』
【3】不動産会社を選んだ理由「担当者がよかったから」
以下の<表5>は、不動産売却において不動産会社を選んだ理由について聞いた調査結果をまとめたものです。
最も多かったのは「担当者が良かったから(31.8%)」で、「会社が信頼できたから(28.0%)」。「査定価格が納得のいくものだったから(27.5%)」が続いています。
<表5>不動産会社を選んだ理由(複数回答)
2022年調査 |
回答率差分 (2019年調査) |
||
1 | 担当者が良かったから | 31.80% | 2.80% |
2 | 会社が信頼できたから | 28.00% | 3.10% |
3 | 査定価格が納得のいくものだったから | 27.50% | 3.80% |
4 | 地元の不動産事情に詳しかったから | 26.50% | 1.20% |
5 | 物件の販売力がありそうだったから | 19.60% | 1.20% |
6 | 早く売却できそうだったから | 17.40% | 2.10% |
7 | 有名な会社だから | 15.90% | 3.70% |
8 | 近くに店舗があったから | 15.30% | -0.60% |
9 | 連絡が早かったから | 14.90% | -0.40% |
10 | 友人・知人だったから/
友人・知人・家族の紹介だったから |
13.90% | -0.90% |
11 | 過去に付き合いがある会社だったから | 13.60% | -3.30% |
12 | 会社の規模が大きかったから | 13.30% | 1.00% |
13 | 取引実績が多いから | 13.20% | 0.10% |
14 | サービスが充実していたから | 8.00% | 1.40% |
15 | 保証が充実していたから | 6.40% | -0.60% |
16 | その他 | 4.30% | - |
17 | 次の住まいを契約・購入した不動産会社だったから | 3.40% | - |
引用元:(株)LIFULL『不動産売却における「困りごと」ランキング』『住まいの売却データファイル』を参考に筆者が作成
2022年と2019年の調査結果を比較すると上位項目に大きな変化はありませんでしたが、いずれの項目も19年に比べて回答率が上昇しています。
特に「担当者が良かったから」「会社が信頼できたから」「査定価格が納得のいくものだったから」「有名な会社だから」など、不動産売却における納得感・安心感につながる項目はコロナ禍を通じて重視する割合がさらに高まってきているようです。
その一方で、「近くに店舗があったから」「友人・知人だったから/友人・知人・家族の紹介だったから」「過去に付き合いがある会社だったから」など、地縁・血縁などによって不動産会社を選ぶ割合は減少傾向にあります。
【4】担当者の良し悪しとは?
では、<表5>の「担当者が良かった」とは、具体的に何を指しているのでしょうか?
以下の<表6><表7>では、マンション・戸建ての売却経験者が考える「担当者の良さ」について聞いた結果をまとめています。
マンション・戸建ての売主のいずれも「連絡や対応が早かった」「人柄が良かった」「資料・説明が分かりやすい/丁寧だった」を上位に挙げています。
<表6>
引用元:(株)LIFULL『不動産売却における「困りごと」ランキング』
<表7>
引用元:(株)LIFULL『不動産売却における「困りごと」ランキング』
これらの結果から、接客マナーなどはもとより、不動産・住まい・地域などについて、売却だけでなく売却後の住み替えに至るまで、消費者のお困りごとに幅広い知識と行動力で解決できること、プランニングを分かりやすく定量的に説明できることなどが「担当者」に求められていると言えそうです。
【5】売主に選ばれる不動産会社になるためのポイント
ここまで、LIFULL HOME'S が実施した「不動産売却に関する調査」からコロナ前後の売主における不動産売却ニーズとマインドの変化について分析してきました。
ポイントを以下にまとめます。
①不動産価格の高騰、住まい探しトレンドの変化によって中古不動産市況が活性化したことで、不動産売却に関連する相場感や法律に関する十分な知識を持たない売主が増加しており、売主の「お困りごと」は全体的に増加傾向にある。
②不動産会社の決め手は、担当者・査定価格・会社の信頼度・知名度などが前回と比べて伸びている。一方で、地縁・血縁などを決め手とする回答は減少傾向にあり、都度インターネットで検索し、その時々で最善の不動産会社を選んでいる様子が窺える。
③担当者には「連絡や対応の早さ」「人柄の良さ」「資料・説明が分かりやすい/丁寧」を求めており、不動産・住まい・地域などに関する幅広い知識と行動力で売主が抱える課題の解決を期待している。
媒介獲得のポイント
以下の<表8>は、LIFULL HOME'Sが不動産会社を対象に行った調査を元に作られた2022年の業界トレンド(「LIFULL HOME'S住まいのヒットワード番付2022」)です。
<表8>
引用元:(株)LIFULL「LIFULL HOME'S住まいのヒットワード番付2022」
営業力の向上については、すでにさまざまな取り組みがされていると思いますが、それを上回るスピード感で社会・経済情勢・政策・生活者のトレンドが移り変わっており、不動産売買仲介業を取り巻く環境は常に変化し続けていると言えるでしょう。
これらを踏まえると、2023年も引き続き「ライフスタイルマーケティング」の重要性が高まり続けていくと考えられます。
「ライフスタイルマーケティング」とは、顧客(売主)それぞれのライフスタイル・価値観・人生観を基準に、それぞれの悩み・課題に寄り添いつつ、アフターケアまで行き届いた施策によってコミュニケーションを深め、成約つなげていく手法です。
常に最新の情報にアンテナを張り、情報をアップデートしていくことでコミュニケーションの引き出しを増やしていくことが求められます。
■『不動産売却における「困りごと」ランキング』調査概要
調査実施期間:2022年6月10日(金)~6月17日(金)
対象者:過去2年以内に以下いずれかの不動産を売却したことがある
・売却時に1都3県+大阪府・兵庫県に住んでいた(売却物件がある都道府県は不問)
・25歳~84歳の男性・女性
調査方法:インターネット調査
有効回答数:3,302人
■「住まいの売却データファイル」調査概要
調査日2019/9/19
調査対象者:過去2年以内に不動産の売却をした方
調査方法:インターネット調査
有効回答数:3,000票
調査主体:LIFULL HOME'S
■「LIFULL HOME'S住まいのヒットワード番付2022」調査概要
調査実施期間:2022年11月1日 ~ 2022年11月6日
対象者:LIFULL HOME'S に加盟する全国の不動産事業者
有効回答数:62件(LIFULL HOME'S加盟店従業者※加盟店の所在地により東日本/西日本に区分)
調査方法: インターネット調査