筆者が不動産会社のミカタを始めとして様々な不動産関連サイトにおいて記事の寄稿や監修などを手掛けているからでしょうか不動産に関しての色々な相談が寄せられます。
最近、とくに増えたのが不動産登記の義務化を前にした遺産分割相談や登記についての相談です。
相談内容によって弁護士や司法書士と連携しながらそのような相談案件に対応しておりますが、筆者の理解している範囲であればその場でお答えるすようにしています。
例えば日本国籍を有してはいるけれども「所有権の登記名義人が国内に住所を有していない場合」の登記についてです。
皆さんは、このような問い合わせがあったときに即答できるでしょうか?
令和3年に不動産登記法が改正され、登記に関しての様々な部分が簡略化されるなどの改正が行われています。
今回ご紹介する登記法の改正は早いものですと本年(2023年)4月1より背施行されますし、遅いものでも翌年(2024年)4月1日から施行されます。
つまるところ時間的な余裕は残されていないということです。
今回はそのような不動産登記法の改正点について解説したいと思います。
外国に住所を有する登記名義人の所在把握の方策
まず相続登記の申請義務化は来年、つまり2024年4月1日から施行されます。
これにより相続を原因として所有権を取得した相続人は、相続の開始があったことを知り、かつその所有権の取得を知った日から3年以内に登記することが義務とされます。
これは遺贈を受けた相続人も同様とされています。
さて登記が義務とされた場合において相続人が海外に在住し日本での住所を有していない場合はどうすれば良いのでしょうか?
ご存じのように相続を原因とする登記の証明書類としては相続人全員の戸籍謄抄本のほか住民票が必要です。住民票は日本の市町村などの各自治体における住民記録ですから、住民基本台帳により管理され、それにより居住関係を証明する公的な書類ですので海外に短期間在住し日本に住民票を残しておく場合を除き、住所登録を残したままであれば医療保険や住民税などについての支払いを負担しなければなりません。
ですから海外で住所登録をしている場合には、両国で負担をしなければならないことから日本の住民票を抹消し、日本のどこにも住所を有していないとするケースが多いのです。
この場合、相続登記に必要な住民票を取得することはできません。
このように所有権の名義人が国内に住所を有していない時には、その代わりとして国内での連絡先となる者の氏名・名称・住所などを登記事項とすれば良いとされました。
この場合、連絡先となる第三者の承諾が必要であることはいうまでもありません。
この「外国に住所を有する登記名義人の所在把握の方策」は2023年4月1日より施行されます。
分割協議が整わない場合の登記
相続が発生すれば遺産分割協議が行われますが、それがすんなり整えば良いのですがなかなかそうはいかないのが現実のようです。
遺言書が存在している(この場合でも遺留分でもめることはありますが)もしくは遺贈(これまた下手をすると遺言がる場合以上にもめる場合もあります)が行われていれば、「故人の遺志を尊重して……」と比較的早くまとまる可能性もありますが、そうではない場合には財産の内容によって時間のかかる場合も多いのです。
とくに現金や株券などと違い、売却して現金化しなければ厳密に分割することができない不動産が相続財産の大半である場合には時間がかかります。
相続税の申告期限は、原則として被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月以内とされていますが相続が「争続化」した場合には期限内で分割協議が整うことはありません。
そこでひとまずは法定遺留分で按分し、共有で登記することが多いでしょう。
不動産を売却するには共有者全員の同意が必要ですし、自己の持ち分だけを売却することは可能ですが、そのような権利を購入するのは同様の持ち分を有している他の相続人を除けば、手練手管に長け他の共有者から持ち分を買い取れるという自信をもつ不動産エキスパート、もしくはアンダーグラウンドな分野の方ぐらいのものです。
そこでいったんは法定遺留分として登記をして(相続税はこの時点でいったん納付する)から時間をかけて分割協議をおこない、遺産分割が完了した時点でその協議内容に基づき登記をするといった2段階登記を行う場合が多いでしょう。
このような二段階登記は、相続人による簡易な報告的登記とされることが2024年4月1日より施行される「相続登記の義務化」に併せて新設されました。
ご存じのように相続登記の義務化により違反者には過料が定められましたが、現在において遺産分割で係争中の場合や、公図が現況と一致しないことから地積更正のため測量を行っているなどの場合などにおいては正当事由が認められ、法施行日より3年以内に登記すれば良いとされています。
所有不動産記録証明制度
昨年のことですが、筆者のもとに「父親がなくなり遺産分割協議をしていたら、どうやら遠方の山林を所有しているらしいことが発覚した。原野商法かなにかで騙され購入したらしく、母親も初耳であり兄弟たちも誰一人その存在を知らなかった。土地が売れるものかどうか調査をお願いできないだろうか」という相談が寄せられました。
よくある「原野商法アルアル」ですが、当人が騙されたことを自覚しており後ろめたい気持ちもあることから家族には黙っているというパターンです。
同様のケースは珍しくもない話ですが、前述したケースでは遺品整理で権利証が見つかったことから発覚しただけで、そうではない場合、その存在すら把握されず所有者不明地のままとなってしまいます。
このような場合の措置として「所有不動産記録証明制度」が2026年(令和8年)4月までに施行されます。
具体的には登記官が、故人(法人も含む)の名前で所有者として記録されている登記の一覧表をリスト化し提供してくれるものです。
相続における取りこぼし措置であると理解しておけば良いでしょう。
それ以外にも管理や隣地使用権の緩和など目白押しの改正法
上記までに解説したものが登記法改正の主なポイントですが、そもそもこれらの改正は増加を続ける所有者不明地や建物などの管理不全を防止し、近隣に悪影響を与えるゴミ屋敷などを抑制しようという狙いがあります。
そのような目的から、本年(2023年)4月1から「所有者不明土地建物管理制度・管理不全土地建物管理制度」が強化され、所有者が把握できるかどうかを問わず利害関係人の請求により、地方裁判所に所有者不明土地建物管理人を専任する権限が与えられ、これにより専任された者には利用改良行為権限が付与されます。
所有者不明土地建物管理人は不利益を被る隣地所有者のほか共有持分を有するうちの一部が居所不明などに場合における他の共有者、適切な管理を目的として土地の取得を求める公共事業の実施者などが該当するとされており、裁判所の許可が得られれば売却をする権限も与えられるとされています。
それ以外でも隣地所有者が居所不明である場合などにおいては、境界の確定調査、擁壁の修繕、工作物の築造や収去・修繕、越境も含む枝の伐採などを目的として隣地に立ち入る場合、所有者の居所が把握できている場合にはあらかじめ目的・日時・侵入を要する場所・方法などを通知して必要な範囲内で隣地に立ち入ることができるとされました。
また居所不明の場合には、その所在が判明した時点で事後に通知すればよくまた隣地の擁壁が倒壊したなど緊急性が高い場合には、居所不明を問わず使用後の通知で足りるとされました。
これら隣地使用の請求権は、通常の不動産調査などにおいても頻繁に遭遇する内容ですから、正しく理解して業務円滑化に役立てたいものです。
まとめ
今回は管理不全地や空家の増加を防止するため、早いものであれば目前に迫った法律の改正ポイントをできる限り分かりやすく解説させていただきました。
とくに私たち不動産業者が悩むことが多かった、管理不全の隣地にたいする立ち入り手順が簡素化されたのは特筆すべき点であると言えるでしょう。
それ以外でも相続登記の義務化や住所移転時の登記義務化は翌年に迫っていますから、これまではのんびり構えていた相続人が重たい腰を上げ、相談にくるケースも予測されます。
改正ポイントを正しく理解して、自身の不動産ビジネスにつなげていきたいものです。