物価の上昇により生活が困窮するとの悲鳴があちらこちらか聞こえるようになりましたが、実際、どの程度物価は上昇しているのでしょうか?
総務省から令和5年3月24日に公開された「2020年基準消費者物価指数」によれば、総合指数としては前年同月比は3.3%の上昇、前月比では0.6%下落とされています。
物価指数は単月で一喜一憂できる性質のものではありませんが、下記グラフで過去4年における電気代及びガソリン指数の推移を見れば、2021年以降どれだけ価格指数が上昇し、高値水準で推移しているかが確認できます。
燃料費調整額の上限撤廃については大手電力会社の全てが昨年(2022年)12月までに決定し、新電力も相次いで上限を撤廃したことにより、今年の3月には全電力会社が上限撤廃で足並みを揃える形になりました。
これにより一般家庭や店舗向けの「低圧電力」は、発電に必要な調達燃料価格が上昇した場合に直接影響を受けることになります。
筆者が活動する北海道は大手の「北海道電力」が他を圧倒するシェアを誇りますが、「電気代の高さ」は日本一とされています。
もともと高い電気料金が燃料費調整額の上限撤廃でさらに値上がりし、オール電化で30数坪程度の平均的な大きさしかない住宅の月額電気料金が10万円を超えたなどの「声」が聞こえてきます。
それだけが理由ではないのかも知れませんが、筆者のもとに「このままでは生活を維持できないので、売却も含め何か良い方法はないだろうか」との相談が数多く寄せられました。
タイトル通りですが、まさに「オール電化住宅だから手放したい」というのが理由です。
ところで、このような理由からオール電化住宅を手放すという決断をした場合、売却理由理由について告知は必要なのでしょうか?
今回は「電気代」に関しての一般的な認知状況も含め、「告知」について考えたいと思います。
9割以上の人が「昨年より電気代が上がった」と回答
日本トレンドリサーチが2023年3月16日に公開した「電気代に関するアンケート調査」によれば、9割以上の家庭が「電気代が昨年より上がった」と回答しています。
4%の方は「電気代が安くなった」と回答しているようですが、単純に節電を意識して利用を控えたことが理由とされています。
これだけ電気料金の値上げが叫ばれているのですからどの家庭も節電を心がけているようですが、「使用料は減っているのに電気代は上がったと」回答している方が多いようですから、下がったという方はよほどの「節電」を行っているのでしょう。
実際にアンケート結果をみても、71%の方は何らかの工夫をしているのです。
具体的にはエアコンの設定温度を下げるなど室内環境を犠牲にするという努力のほか、こまめに電気を消す・使わない機器のコンセントは抜いておく、省エネ家電を購入するほか電気毛布や毛布を体にまいて寒さをしのぐという涙ぐましい努力も回答にはありました。
筆者が相談を受けた「電気料金10万円超え」の家庭も、そのような努力は可能な限り実施しています。
この場合、電気料金を引き上げている理由は旧型の温水器と蓄熱型暖房機です。
ヒートポンプの普及により最近では採用が少ない蓄熱暖房機ですが、一昔前のオール電化住宅の設備としては一般的でした。構造はいたって単純で、暖房機内部に積まれた蓄熱レンガに、シーズヒーターを寄り添わせ、プランによって割安になる深夜電力を使ってシーズヒーターの発する「熱」をレンガに蓄熱させ日中に放熱するだけの構造です。
この機械は構造も単純で故障しにくいというメリットはありますが、ヒートポンプのように1kwの電力で5倍(COP5)の効率を得られるものではなく、1kwでCOP1、つまり使用した電力分しか「熱」がえられない、つまり電気料金が上がればストレートに電気代に反映されるシステムなのです。
そもそも原発が稼働し、電気を廉価に提供できていたから成り立つシステムだったのですから、原発が停止して火力発電に依存し燃料費が高騰する、つまりは電気代が上がった時点で「生電気を利用しても安い」というコンセプトは破綻するのです。
オール電化住宅には2種類ある
蓄熱暖房機を採用している住宅に限らず「電気代が上がり家計を直撃」などの情報がネット上で溢れています。その影響でしょうか、オール電化であることをキャッチフレーズにする広告をあまり見かけなくなりました。
電気料金の明細を見て悲鳴を上げているのは何も寒冷地だけではありません。
2023年1月24~25日にかけて10年に一度と言われる大寒波が到来し、全国48地点で最低記録が更新されたときには、電気代の請求が跳ね上がった家庭が全国で確認されました。
暖房だけではありません。
2022年においても地球温暖化の影響により世界各地で歴代最高気温が更新されるなど、積極的に冷房を使用しなければ健康被害の可能性がある日も多くなりました。
数年前の電気代と比較すれば「倍」になったと言われる方もおられるのですから、冷暖房費(給湯も忘れてはいけませんが)の上昇は年間を通し家計を直撃しているのです。
このような状況においてオール電化住宅を検討する場合、2種類に分けて判断する必要があります。
COP1つまり「1kwで1kwの仕事しかできない」いわゆる生電気利用の設備を採用している住宅と、ヒートポンプシステムを採用してCOP5などを実現し、かつ断熱性能の高い住宅です。
後者はZEH住宅などが該当しますが、つまるところAIクラウドヘムスによりエネルギーをコントロールしているスマートハウスです。同じオール電化住宅であっても、電気代高騰による影響には格段の違いがあります。
電気料金は告知義務にあたるか
北海道などの寒冷地でCOP1のオール電化住宅を販売する場合、電気代(月)が10万円を超えているとすればそれは告知事項にあたるのでしょうか?
聞かれなければ説明する必要はないと思われる方が大半でしょう。
確かに重要事項説明における告知事項にランニングコストの説明などは含まれていませんから、それを根拠として説明義務はないと考えてしまいがちですが、それはいささか早計です。
そもそも売主に求められる説明義務は2種類あり、それぞれ違反のケースが考えられます。
1つ目が「積極的な説明義務」です。
「冬場、月々の電気代は幾らぐらいですか?」と質問され、本当は10万円に届く金額であるのに「4~5万円ぐらいかな」などと誤った情報を積極的に説明すれば違反することになります。
2つ目が「消極的な説明義務違反」です。
誤った情報を積極的に提供する訳ではありませんが、質問にたいし「カードで支払っているのであまり把握していなくて……」などとはぐらかす、もしくは回答しない場合は違反を問われる可能性があります。いわゆる「有責の黙秘」と言われる対応です。
不動産取引を巡る裁判では、説明義務を根拠に「信義則違反」を争う場合が多く、そこで引き合いに出されるのが消費者契約法第4条2項の「不利益事実の告知」です。
消費者契約法は情報格差のある事業者と消費者間における情報の量・質・交渉力の格差を踏まえ、事業者の一定の行為により誤認して申込みまたはその意思表示をしたときに取り消すことができることを規定しています。
個人間の売買において直接規定される法律でありませんが、援用して考えた場合、物件売主が不動産業者である場合はもちろん、媒介業者が知っていた場合にも責任を追及される可能性があるでしょう。
そもそも買主は、「そのような高額な電気代が必要であると知っていたら、購入したいなかった」との思いがつのります。
この場合、宅地建物取引業法47条1項に規定された「重要な事項について故意に事実を告げず、または不実なことを告げる行為をしてはならない」に抵触する可能性も否定できません。
宅地建物取引業法35条書面、つまり重要事項説明では「飲用水・電気及ガスの供給並びに排水のための設備の整備状況」の説明が義務付けられています。
その場合、媒介業者の調査・説明範囲はどの程度まで必要かについては様々な意見もあるのですが、この項目が定められた趣旨は「設備の状況如何により買主がその目的を達することができない可能性がある」ことを防止するためです。
そのような観点から考えれば、売主へのヒアリングや電気料金の明細を見せてもらって実情を把握している場合(これらを行っていない場合にも調査不足を追求される可能性もあります)、買主から質問された際には「あくまで外部要因や利用方法により金額も変わる」という前提で説明する必要はあるとも考えられます。
なんとも判断が難しいところではありますが、月々の住宅ローンを支払い、さらに高額な電気代を負担すれば買主の資金計画が破綻する可能性も高くなるのですから、積極的な説明はまだしも、質問された場合には正確に事実を告知する必要があるのではないでしょうか。
まとめ
今回は「高額な電気料金が必要とされるオール電化住宅の電気料金」について、買主に告知する必要があるかについて解説しました。
実際に今回のコラムを執筆するにあたり関係機関などに問い合わせても「これは」という解決策を見いだすことはできませんでした。
ですが見解として、「義務とまでは言い切れないが、そのような高額な電気代の支払いが必要であるという事実について認識しているのなら、売主・媒介業者双方に説明責任が求められる可能性は否定できない」とのことでした。
なんとも決着がつかない問題ではありますが、オール電化住宅である(つまり電気料金の負担が原因)ことが売却理由である場合、知り得た事実については必要に応じて告知し、少しでも電気料金を安くするための対応法をレクチャーするほか、設備機器を交換するもしくは省エネリフォームを提案する意識が必要だと言えるのでしょう。