ハウスメーカーでも、支店によっては営業マンが現場にいくことを推奨しない会社はいくらでもあります。
現場チェックや進捗状況などの把握は現場管理者にまかせ、営業マンは「売れ」ということでしょう。
自慢ではないのですが、筆者は32年に及ぶ不動産業遍歴の中で、ハウスメーカーに属していた時代があったこともあり、また現場管理部門を統括し職方への安全衛生指導や、自社基準による施工が正しく行われているかのチェックを行い、時にはJIOなどの住宅性能評価機関による検査に立会、指摘事項に関してのやり取りを行ってきた経歴があります。
現場で作業をしている職方の多くは、スーツを着た営業マンが頻繁に現場に来るのを好みません。
また、現場をチェックする知識がないと判断すれば、露骨に態度を変える職方もいますから営業マンも足を運びにくいということもあるのかも知れません。
ですが、施工マニュアルや標準仕様書などを片手に詳細に現場をみれば、どんなに腕の良い職方が建築している住宅でも指摘事項の1つや2つはみつかります。
職方が集まらず、取りあえず員数合わせした場合などはなおさらです。
施工精度の確認は施工管理者の業務です。
本来であれば指摘事項が存在してはならないのですが、複数の現場を掛け持ちする施工管理者にすべてを確認しろというのも「酷」な話ですし、住宅性能評価機関による検査においても、検査員は時間の制約がある中で一通りの確認をするだけですから、よほど目立っている場合を除き見過ごされることも多いのです。
実際に筆者が検査終了後の住宅を確認した際「よくこれで検査に合格したな」と思えるほど精度が低いものもありました。
このような見過ごされる程度のものは、竣工後ただちに問題が生じるというものではありませんが、長い年月でみれば少なからず弊害が生じます。
2025年4月からは省エネ基準への適合が義務化とされますし、時代は高断熱化へと進んでいます。
これは歓迎すべきことなのですが、高断熱化が進むほどに内外温度差は拡大します。
つまり高断熱住宅であるほど、ちょっとした断熱気密の欠損により「結露」が発生するのです。
この欠損にあたる部分が、前述した指摘事項です。
第三者の瑕疵保険には合格しているのですから、必ずしも問題のある住宅とまではいえません。
ですが、高断熱高気密の住宅だと思い購入した顧客からすれば、「たしかに温かい住宅ではあるけれど、朝起きると窓に結露が大量に生じているのはどういうことなんだ」とのクレームになることもあるでしょう。
このような原因は設計レベルがその原因となることもありますが、ほとんどは断熱や気密の切れ目となる「熱橋」によるもの、つまり隙間についての処理や補修が不充分であることに起因しています。
今回は、高断熱化が進む住宅だからこそ不動産業者が覚えておきたい木造住宅の施工レベルチェックについて解説します。
職方不足にも原因が
職方の高齢化や人員不足については様々なメディアで指摘されていますが、木造住宅建築において中心となる「大工」の減少は著しいものがあります。
総務省の国勢調査によれば現在の大工人数は293,360人と、20年前と比較すればおよそ半数にまで減少しています。
しかもそのうち約30%にあたる8.7万人は65歳以上らしいのです。
本格的な日本家屋や仏閣などを除けば、現在はプレカット(躯体の柱や梁などの継手を、工場の加工機械で行う方法)が中心となっていますから、従来のように墨付けや「きざみ」などの加工技術は不要となりましたが、小口の収めなどの細かい仕事にはとくに技術が必要です。
単純にプレカット材を組み上げるという作業だけであれば、新人でも3年ほど修業をすれば可能かも知れません。
ですが見る人がみれば大工の技量の差はすぐにわかる。それだけ細心に仕事を行うのが腕の良い大工です。
ですが職方の人数が減ってしまえば、そのような技術的に優れた人ばかりを集めるのは難しくなる。
工期があるので、ともかく人を集めねければなりません。
経験の浅い大工でも、建てるだけなら可能ですから、取り合い部の処理が「雑」で、熱橋があちらこちらに存在する隙間だらけの家ができあがるのです。
ありがちな施工不備
内部結露を防止するには、施工レベルで「防風防水層」、「断熱層」、「設備層」について、熱橋が生じないよう処理や補修することが重要です。
ですが口で言うほど簡単ではありません。
各種部材や設備などの「取り合い」部分には、隙間が大量に生じるからです。
時間と手間をかければ全てを処理することはできますが、現場には施工期日がある。
たとえば木造住宅の大工は、一人親方や手下1名程度、つまり1~2人程度で一軒の家を請け負いますが、電気屋・設備屋など進捗にあわせ様々な業者が入りますが、それぞれに取り合い部の処理を行うことがあります。
腕の良い大工でも、他社がやった処理まで確認し補修する余裕はありません。
皆、自分の仕事で精一杯なのです。
不具合の相談件数は増加の一途
公益社団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターは相談窓口として「住まいるダイヤル」を運営していますが、そこに寄せられた相談内容や件数を年度ごとにまとめ、毎年「住宅相談統計年報」を公開していますが、最新の2022年版を見ると寄せられた相談件数は全体で25,675件にも達しており、そのうち新築に関しての相談は18,197件と全体の73.3%を占めているのです。
このように新築に関する相談件数が増加しているのは、口うるさいユーザーが増加したからでしょうか?
インターネットの普及により知識格差が減少したといった側面は否定できませんが、原因はそればかりでもないでしょう。
前述したように大工などの人数減少により、技量の劣った大工が施工したことが原因となる場合もあるでしょうし、現場が忙しすぎて必要な手間がかけられなかったせいかもしれません。
いずれにしても、そのような原因が複合的に派生することにより相談件数が増加したと考えるのが妥当なのかもしれません。
新築クレームは大掛かりになる
新築住宅にたいしてのクレームはそのまま施工業者に回せばよいと考えがちですが、そんことはありません。
「住宅相談統計年報2022」によれば、苦情の相手方の約60%は施工業者ですが、残りのうち26.3%は「不動産業者」をクレーム対象としているからです。
しかも相談者の解決希望内容は「修補」と同時に「損害賠償」を求めるケースが62.6%を占めるのです。
この場合、不動産業者の取引態様が「売主」なのか「媒介」であるかまでは分類されていませんので不明ですが、施工の程度を感知せず媒介した場合には、本来であれば不要なトラブルに巻き込まれる可能性があるのでしょう。
「住まいるダイヤル」は初期相談の窓口として機能しており、可能な範囲で和解の推奨も行いますが、専門的な知見が必要とされる場合や、電話相談だけで解決できないようなケースでは連携する弁護士や法テラス、建築設計や行政庁などの関連団体に相談するよう助言しています。
つまりクレームの相手方により、大掛かりな問題に発展する可能性を秘めているということです。
欠陥を防止するための方法と注目ポイント
新築住宅の施工不良、いわば「欠陥」を見抜くには要所要所の建築中と、竣工後の状態を確認する必要があります。
とはいえ、不動産営業が基礎工事の段階から現場にはりつき、鉄筋工事や生コンかぶり厚などのチェックをするのは無理がありますし、そのような検査は住宅瑕疵保険の検査員に「おまかせ」で問題はないと思います。
確認したいのは壁ボードの納まり状態や防水・防湿シートなどの施工状況のほか、配管回りなどの気密テープ処理状況です。
施工現場でしか確認するこができません。
実際に現場に行くことができなければ施工現場写真などで確認するしかありませんが、ハウスメーカーを始めとして施主に渡される施工現場写真は「見栄えの良い」写真のみが掲載されていると考えた方が良いでしょう。
現場で重点的に確認したいのは透湿防水シートの取り合いや収まりや、サッシ回りや電気引き込みなどの貫通部について防水テープによる処理が正しく行われているかです。
防水テープは「横貼りを原則」として、さらに「下から張り上げる」ことが基本です。
透湿防水シートと開口部に隙間を持たせず、雨水等の侵入を防止するのが目的ですからこの基本は忠実に守らなければなりません。
また同時に透湿防水シートのたわみや破れには注意しましょう。
また雨漏りの発生原因となる下記のような「取り合い部」の処理状況も確認しておきましょう。
瑕疵保険などの躯体検査時に指摘されることが多い防水処理なのですが、時間に限りのある検査員は全てを細かく確認できている訳ではありません。
必ずと言ってよいほど見落としがあります。
外壁を張ってしまえば見えない部分だからこそ、入念な確認が必要なのです。
また内部においては「防湿気密シートに切れ目」がないか、あわせて「気密テープ」による処理状況を入念に確認しましょう。
配管や電気の貫通部、室内側に張られた防湿気密シートに隙間が生じていないか、隙間が生じる場合、気密テープにより充分な処理がされているか。
このようなポイントが正しく施工されていれば、壁内に充填された断熱材が切れ目なく断熱層を構築し高気密高断熱の家ができあがるからです。
まとめ
「新築だから安心」という考え方は素人考えに過ぎません。
無論、瑕疵報奨やメーカー保証がありますから不具合があれば対応してもらえるのですが、解説した大工をはじめとする職方の人数は減少傾向にありますから、不具合があったからといってすぐに対応してもらえるとは限りません。
放置されれば顧客に不満が蓄積され、時には「声」を荒らげるクレームに発展することもあるでしょう。
施工に直接関与していない営業マンが、そのはけ口とされるケースも多いものです。
会社の方針や現場への遠慮で、あまり頻繁には足を運ぶことはできなくても躯体検査の時期を見計らい、解説したポイントを確認するのは難しいことではありません。
透湿防水シート・防水テープ・気密テープなどの処理が適切であるか、隙間が生じて熱橋が発生する懸念はないかを確認し、そのような箇所があれば職方に「あの部分、ちょっと隙間ができているようだから処理をお願いしますね」と言えばよいだけです。
それだけのことで将来的に発生する問題を予防できるのであれば、やるだけの価値があると言えるでしょう。