(株)リクルートの住まい領域の調査研究機関「SUUMOリサーチセンター」が実施した『住宅購入・建築検討者』調査 (2022年)によると、2022年に住宅購入を検討した人のうち、24%が「将来的に売却を検討」、26%が「まだ分からない」と回答しました。
とりわけマンション検討層(新築/中古)は、戸建て検討層に比べて売却を検討する割合が高くなっています。
そこで今回は、各種調査の結果を元に、住宅購入検討層の売却ニーズを深堀りしながら媒介獲得のポイントについて考えてみたいと思います。
【1】新築マンション購入検討層の32%が「将来的に売却を検討している」
以下のグラフ①は『住宅購入・建築検討者』調査 (2022年)から、検討している物件の永住・売却・賃借意向について聞いた調査結果をまとめたものです。
<グラフ①>検討物件の永住・売却・賃貸意向(全体/単一回答)
引用元:(株)リクルート『住宅購入・建築検討者』調査 (2022年)
検討している物件に「永住する」と考えている割合は全体で45%となり、「将来的に売却を検討している」(24%)、「将来的に賃貸を検討している」(5%)、「まだわからない」(26%)となりました。
検討している物件種目別に見ていくと、「将来的に売却を検討している」割合が高いのは新築マンション検討層で32%となり、「中古一戸建て」(27%)、「中古マンション」(26%)が続く結果となっています。
「将来的に売却を検討している」割合が高いのは、新築よりも中古、一戸建てよりもマンション検討層に多いことが分かる結果となっています。
【2】中古マンション検討層の32%「欲しい物件が出たら売却・賃借する」
以下のグラフ②は、購入検討物件を売却・賃貸に出すタイミングについて聞いたものです。
<グラフ②>購入検討物件を売却・賃貸に出すタイミング(売却・賃貸を考えている人/単一回答)
引用元:(株)リクルート『住宅購入・建築検討者』調査 (2022年)
全体では「定年退職」が25%で最も多く、「土地や不動産の価格が上がったら」「子どもの独立」が24%で続いています。
物件種目別で見ると、新築マンションおよび中古一戸建て検討層では「子どもの独立」が最多(新築マンション33%、中古一戸建て32%)となる一方で、中古マンション検討層では「他に欲しい物件が出たら」(32%)が最多となりました。
数年~数十年単位で時間がかかる「子どもの独立」に比べると、「他に欲しい物件が出たら」は住み替えニーズが短期的なスパンで発生すると考えられます。
媒介獲得のポイントとして、中古マンション購入者との継続的なコミュニケーションが重要であることが分かる調査結果と言えそうです。
【3】中古マンション検討層の住み替えニーズとは?
ここからは、中古マンション検討層の住み替えニーズについて、さらに深堀りしたいと思います。
グラフ③は、住宅購入検討者層に「解決したい現住居の課題」について聞いた結果をまとめたものです。
<グラフ③>新居で解決したい元の住まいの課題(全体/複数回答)
引用元:(株)リクルート『住宅購入・建築検討者』調査 (2022年)
中古マンション検討層(赤枠内)で見ると、「住宅費がもったいない」が28%で最多となったほか、「住宅費・家賃・ローン支払いが高い」が19%を占めるなど、住宅のランニングコストに関するものが上位に散見されます。
加えて、「住戸が狭い(専有面積)」(21%)、「収納が狭い」(19%)など、居住スペースの狭さにも課題を抱えているようです。
以下のグラフ④では、住まいを探す際の重視条件(大事にしたこと)について聞いています。
<グラフ④> 住まいを探す際の重視条件(大事にしたこと)(全体/複数回答)
引用元:(株)リクルート『住宅購入・建築検討者』調査 (2022年)
中古マンション検討層(赤枠内)で見ると、「価格」(56%)以外で重視した項目として、「近隣の生活利便性」が48%で最多となり、「周辺環境(街並み・公園・自然など)」が46%で続く結果となりました。
他の物件種目に比べると「建物のコンディション管理」「階数」などへのこだわりが強いことも特徴と言えるでしょう。
【4】中古マンション購入時の不安とその払拭
中古マンションの建物・設備のコンディションについては、LIFULLが実施した「中古住宅に関する意識調査」の結果についても併せて見ていきたいと思います。
以下のグラフ⑤は、中古マンションの購入者に購入前と購入後の印象の変化について聞いています。
<グラフ⑤>
引用元:LIFULL HOME'S「中古住宅に関する意識調査」
「設備が壊れていそう」「設備が古そう」「家に隠れた欠陥がありそう」「断熱性や省エネ性が低そう」といった設備や性能に対して「今は不安を感じない(「今は不安を感じない」、「今はあまり不安を感じない」の合計)」が過半数となりました。
その一方で、「管理費や修繕積立金」については購入後も「今も不安を感じる(「今も不安を感じる」、「今もやや不安を感じる」の合計)」と回答した人が76.3%となっています。
上でも触れましたが、中古マンションを購入することで解決したい課題が「住宅費がもったいない」であることも踏まえると、購入前/購入後に発生する費用のシミュレーションなど、費用面の情報共有の重要性が高いと言えそうです。
【5】媒介獲得のポイント「中長期的な接点を維持し続けることの重要性」
ここまでのポイントを以下にまとめます。
- 「将来的に売却を検討している」割合が高いのは「新築よりも中古」、「一戸建てよりもマンション」検討層に多い
- とりわけ中古マンション検討層の売却のタイミングで最も多かったのが「他に欲しい物件が出たら」で32%を占めた
- 中古マンション検討層が改善したいと考えている住まいの課題は、「住宅費がもったいない」「住宅費・家賃・ローン支払いが高い」など、住宅関連のランニング費用関連が多い
- 中古マンション検討層が住まいを探す際に重視する条件では、「近隣の生活利便性」「周辺環境(街並み・公園・自然など)」のほか、「建物のコンディション管理」などへのこだわりが強い
- 中古マンション購入者のうち、設備や性能については実際に住み始めると不安が解消されるケースが多い。その一方で、「管理費や修繕積立金」については購入後も不安を感じる割合が高い
中古マンション検討層の住み替えニーズについて、「他に欲しい物件が出たら」売却を検討すると回答していることから、検討・購入から購入後の長期的な追客の重要性が分かる調査結果と言えるでしょう。
購入時のコミュニケーションを通じて、中古マンション検討層のニーズに即した最適な提案(特にランニング費用関連)による信頼を獲得することはもとより、どのような物件に興味・関心があるのかを把握し、購入後も定期的かつ継続的に物件情報を送り続けることはニーズに適っていると言えそうです。
今回取り上げたsuumo調査によれば、中古マンション検討層は「住まいの買い時感」が他種目に比べて低くなっており、その要因として価格の高騰と物件数の減少が読み取れます。
不動産価格などの市況動向について、金利や補助金などと併せて最新状況を共有するのも後押しになりそうです。
その一方で、「検討期間の長い顧客」「購入/売却の意思はあるが、それがいつなのかはっきりと見えていない顧客」への追客について、「継続追客にかけるリソースが無い」というケースも多いことと思います。
ミカタ株式会社をはじめとする不動産テック5社が実施した「ITツールを活用した営業業務の効率化についての調査」によれば、「継続顧客にかけるリソースが無い」という課題に対して、ITツールを活用して業務効率化を実現している不動産事業者様が多いことが分かります。
<グラフ⑥>
引用元:ミカタ(株)ほか4社「ITツールを活用した営業業務の効率化についての調査」
グラフ⑥は、ITツールの活用によって効率化が実現された営業業務内容について聞いたもので、「見込み客へのアプローチ」については、およそ3社に2社がIT化による業務効率化を図っていることが分かります。
なお、同調査ではITツールの活用による営業稼働率についても聞いており、約8割の企業が「上がった」と回答しています。
「見込み客へのアプローチ」にITツールを導入することで、リソースをコア業務に集約できている不動産事業者様が多いことが分かる調査結果と言えるでしょう。
■SUUMOリサーチセンター「住宅購入・建築検討者」調査概要
調査対象:2022年12月調査は、下記条件を満たすマクロミルモニタの20歳~69歳の男女を対象に調査を実施した
住宅の購入・建築検討者:
過去1年以内に住宅の購入・建築、リフォームについて「具体的に物件を検索した。もしくは建築・リフォーム会社の情報収集をした、している」「資料請求をした」「モデルルームや住宅展示場、モデルハウスを見学した」「不動産会社、建築、リフォーム会社を訪問した」「購入する物件や、建築・リフォームの依頼先と契約した」のいずれかの行動をしており、検討に関与している(リフォーム・その他のみの検討者は除く)
居住地:首都圏(東京都/千葉県/埼玉県/神奈川県)、関西(大阪府/京都府/奈良県/兵庫県/和歌山県/滋賀県)、東海(愛知県/岐阜県/三重県)、札幌市、仙台市、広島市、福岡市在住
調査時期:2022年12月16日(金)~12月27日(火) 有効回答数:5,335人(集計対象:3,475人)
■LIFULL HOME'S「中古住宅に関する意識調査」概要
調査実施期間:2023年3月28日(火)~3月31日(金)
調査対象者:過去5年以内に中古マンションもしくは中古一戸建てを購入し、検討に一定関与した20~69歳の男女(学生を除く)
調査方法:インターネット調査
有効回答数:中古マンション317人、中古一戸建て315人
■ミカタ(株)ほか4社「ITツールを活用した営業業務の効率化についての調査」概要
実施期間:2022年11月24日(木)~12月14日(水)
回答数:476名
調査対象:不動産関連事業者
実施方法:インターネットによる調査