【IT全盛時代の弊害か?】内見無しでの契約トラブルは増加傾向。防止対策について考えてみた

令和4年3月に賃貸借トラブルに係る相談対応研究会が公開した、再改訂版となる「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」を見ると、オンライン内見のみで契約し、入居後に室内の色合いが思っていたものと異なるなどの理由で、トラブルになるケースが増加しているようです。

東京都住宅政策本部による最近の不動産相談事例においても、賃貸トラブルに「内見をしないでの契約」が上位に紹介されているところを見ると、増加は間違いないようです。

東京,不動産業課,賃貸,トラブル

重要事項説明に留まらず、賃貸・売買によらず契約の締結もオンラインで完結できるようになったのですから、オンライン内見が増加するのも自然な流れです。

さすがに売買の場合、一度も現地を確認せず契約に至るケースは少なく、トラブルもそれほど多く確認できませんが、賃貸の場合、とくに転勤などで遠隔地に移動する際には時間や距離の制約もありオンライン内見のみで契約する方が増加しています。

テクノロジーの進化によるDXの普及は不動産業界において様々な可能性をもたらし、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の活用は一般的になりました。

物理的に現地に行かずともリアルに体験できるという革命をもたらされたのです。

これにより先進的にシステムを導入している会社は、エリアによらず世界を相手にビジネスが展開できるようになりました。

それ自体は素晴らしいことです。

ですがそれに伴うトラブルが増加しているとなれば、防止するための対策については充分に検討する必要があります。

今回は内見しで契約したことによるトラブル事例を紹介するとともに、防止対策について考えてみたいと思います。

オンライン会議による商談はそれほど普及していない?

賃貸・売買によらず物件探しにインターネットが利用されています。

国土交通省による「住宅市場動向調査」においても、インターネットを通じての情報収集が、新築・中古・賃貸などリフォームを除き70%以上となっているのですから疑う余地はないでしょう。

インターネット等の活用,住宅市場動向調査

ただし活用方法を見ると、情報収集・内見申込などと比較してオンライン会議システム(Zoomなど)を利用した物件説明や商談、電子署名による電子契約やオンライン重説の比率はそれほど高くありません。

最も多いのは分譲集合住宅の12.2%(以下は注文住宅11.5%・分譲戸建住宅3.3%)で、賃貸におけるオンライン会議システム利用は2.1%にしか過ぎません。

数あるアンケート調査の中で、調査規模や対象人数などによるもっとも信頼のおける「住宅市場動向調査」ではありますが、実態との誤差は少なからずありますから結果だけを見て言及することはできませんが、思いのほか少ないのは事実なのでしょう。

ですがその少ない事例に関わらず国土交通省などが注意喚起を行っているということは、内見を伴わない契約締結がどれだけトラブルに直結する可能性があるのかを示唆しているのでしょう。

寄せられている相談事例

オンライン内見によるトラブル相談は公益社団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターが運営する「住まいるダイヤル」のほか国民生活センター・各地域の宅建協会などに寄せられています。

それらの相談事例をつぶさに見ていくと、トラブルにはある種の傾向が見られます。

ズバリ「過度な思い込みと期待」です。

具体的には近隣環境・建物全体のイメージ・部屋の内装やデザインのほか色合い・バルコニーからの景観などにたいし「思っていたのと違う!」というギャップです。

さらに受け取り方に個人差のある「匂い」や「騒音」などについてはオンラインで理解してもらうことはできませんし、住環境の感じ方も個人差があります。

私たち不動産業者がオンライン内見を実施した場合、画面越しに顧客とコミュニケーションを取り、画像だけでは表現しにくい様々な部分については口頭による説明で補足を試みます。

ですが空気感や臭い、窓から漏れ聞こえる自動車の走行音などは実際に現地に足を運ばなければ実感できないものですし、それを口頭で説明しようにも自ずから限界があります。

顧客の思い込みが処分対象となる可能性は低いが……

相談にたいしての窓口回答を見ると、実際の部屋や近隣情況など主観的に受け取った内容について、宅地建物取引業者の説明と異なっていたとしても、誤った説明がされていることを立証できない場合に契約を解除することは困難だとしています。

実際にどのような説明が行われたのかは当事者同士しか知り得ぬことですから、それをもって直ちに処分されることはないでしょう。

ただし少なからず顧客との間に遺恨は残りますし、SNSへの書き込みなど風評被害に繋がる可能性も否定できません。

いやが応でも増加が予想されるオンライン内見

筆者の個人的な意見ではありますが、時代の趨勢に併せオンライン内見は積極的に行うべし、ただし可能な限り現地に足を運んでの内見を進めるべきであると考えています。

オンライン内見はあくまでも資料上で気になる物件を絞り込むための手段だとの割り切りです。

トラブルの多くが「思っていたのと違う!」という主観に原因があるのですから、前述したスタンスで対応することが必要でしょう。

このようなトラブルが発生する原因であるのなら、いっそのことオンライン内見には対応しないという考えにいたりそうな気もしますが、それは早計です。

賃貸・売買によらず今後、オンライン内見を希望する顧客は増加の一途をたどると予想されているからです。

少年法が改正され成人年齢は18歳に引き下げられましたが、これにより高校を卒業して就職・進学で部屋を探す方は親権者の許可なく自ら契約ができるようになりました(私たちに相応の配慮は必要とされますが、売買契約も可能です)

先述したように、物件探しはインターネットを利用している方が70%以上を占めていますが、なかでも25歳以下、いわゆる「Z世代」のSNSを利用しての情報収集比率は他の世代と比較して高くなっています。

部屋選び,利用,メディア

You TubeやInstagram、Twitterなどを利用しての情報収集です。

コラムをお読みの方の中には実際にYou Tubeに物件紹介の動画をアップしてその効果を実感されているかたも多いでしょう。

このように動画などを利用して情報収集している世代が、賃貸を借りるもしくは住宅を購入する場合にSNSを利用する方が今後も増加していくであろうことは想像に難くなく、そのような環境に慣れ親しんだ方々は現地内覧よりもオンライン内見を希望する方が増加していくだろうと推測されます。

自社の売上を安定させるためには、時代を先読みし対応していくことが求められますが、ユーザーの変化に伴いオンライン内見や電子契約は増加の一途になるでしょう。

そこで大切なのは、トラブルを発生させないための方法を模索することでしょう。

トラブルを防止するため心がけたいこと

オンライン内見によるトラブルを防止するには、問題の本質を捉え対応していくことが望まれます。

まず思い違いの防止です。

物件の詳細な情報、とくに室内の色合いや設備の状態・使用感などについては可能な限り具体的に伝達することです。

こちらで利用しているカメラ性能や、相手方のモニター精度などにより画像に映し出されている画像が正確に反映されているとは限りません。

そのようなことを念頭に置き、必要に応じ補足説明を行う必要があるでしょう。

またオンライン内見はリアルタイムコミュニケーションですから、スピードが求められます。

質問や要望にたいし迅速に回答するのはもちろん、どのように信頼関係を構築するかについても検討が必要です。

筆者の知己である某不動産業者では、オンライン内見に特化したロープレを社内教育訓練に導入しており、その実践的なトレーニングにより営業技術に磨きをかけています。

そもそも不動産業者の役割は。購入もしくは賃貸入居希望者にたいし適切な情報提供とアドバイスをことです。

そのためにも、視覚や情報入手、近隣環境の確認などオンラインの性質上入手しづらい情報についていかに提供できるかを検討する必要があるでしょう。

可能であれば、イメージが違ったなどと言われないために、契約前までに現地内覧を実施するのが理想ですが、それがどうしてもムリな場合には物件情況報告書や契約書のそのた事項記載欄などに、写真や詳細な説明を記載して可能な限り色合いや設備情況などが明確になるようにしておきたいものです。

まとめ

今後ますます増加が予想されるオンライン内見。それにより予想もできないトラブルの発生も懸念されます。

オンライン内見に応じないのも一つのスタンスですが、結果せっかくのビジネスチャンスを放棄することになりかねません。

不動産DX全般についてはいまだ懐疑的な方も多い不動産業界ではありますが、時代の趨勢に逆らうのは困難です。

興味本位で何もかも取り入れる必要はないですが、次から次へと新しく提供されるDX関連サービスと、自社の親和性などを考慮して、必要に応じて取り入れていくことは大切なことでしょう。

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