顧客に質問されれば不動産業者はどこまで調査に応じ報告しなければならないか、またそれは義務なのかで悩むことがあります。
例えば税金に関する質問。
不動産取得税や年末の住宅ローン控除のほか、新築時における固定資産税額の目安についてなどです。
取得税については、土地については課税標準額の1/2に税率である3%(特例軽減利用の居住用物件)を乗じれば計算できますし、新築住宅の場合は1200万円の控除、中古住宅においては各都道府県で定められた控除額を確認して税率(3%)を乗じれば計算できますし、ローン控除についても、年末時点の残高のほか契約金額や源泉徴収などの書類があれば、慣れたかたなら難なく計算できるでしょう。
これに限らず相続税についても相談を受けることがあるかもしれませんが、そもそも私たちは税の専門家ではありません。
不動産業者です。
「税の専門家ではありませんので、ご自分でお調べください」とするのもありでしょう。
ですが、そのようにアッサリと言い切ってしまっては「不親切だ」とのそしりを受け、信頼関係に影響を与えますから、分からないことについては必至に調べてから解答する方の方が多いでしょう。
ですが注意したいのは、具体的な計算や詳細なアドバイスは、よほど知識に自信がある場合以外は行わないということです。
また調査報告をする場合にも、「専門ではないのであくまで私が調べた範囲の内容について簡単に……」などと前置きして逃げ道を残しておくことです。
ずるいようですが、どれだけ努力しても知識には限りがあります。
自信たっぷりに誤ったことをレクチャーするよりもはるかに良いでしょう。
つい最近、契約時に説明していなかった(調査も行っていなかった)ゴミステーションが、町内会の定めで輪番制(ゴミステーションを定期的に移動するとの約束事)であることが発覚し、顧客が入居してまもなく当該地と隣地の境にゴミステーションが移動したとのこと。
それにより買主から「予想もしていなかった掃除に追われ辟易している。このようなことは重要事項として説明していなければならない事項であり契約不適合責任だろう!」とクレームが寄せられ困り果てているとの相談を、研修で出会った若手営業から受けました。
両手取引であったようですから、売主からの物件状況報告書にその旨を記載してもらう配慮や、あらかじめ町内会のルールについて調査しておけば、このような問題も回避できていたのでしょうが、上席からはそのようなアドバイスもなく、また町内会についての調査など必要だとは思っていなかったとのこと。
そもそもゴミステーションについての説明は業者の義務なのでしょうか?
今回は不動産業者の調査義務はどこまで必要なのかについて考えてみましょう。
調査は義務と解したほうがよい
戸建住宅で自宅前にゴミステーションがあれば、必然的にゴミ捨てマナーの問題やカラスが悪さするなどの影響でゴミが散乱し、いやが応でも掃除する必要が生じます、また、夏場などは「臭い」の問題もあるでしょう。
必要であると理解はしていても自宅前に設置されるのは避けたいのが人情でしょう。
自宅の目の前が常設のゴミステーションであることから、気にはいっても購入を見合わせるという方がいるほどです。
内見時から自宅前にゴミステーションがあれば、説明するまでもなく顧客も確認できてのでしょうが、町内会で輪番制を定めていたとなれば、調査をせずに気がつくことはありません(売主から告知を受けていれば話は別ですが)
ですがゴミステーションは快適な生活を営むため必要不可欠なものです。
どこかに設置する必要があるのは当然ですが、だからと言って特定の住宅だけが不利益を被る状態では受忍限度を超える可能性があります。
前述した相談ケースでは、特定の住宅が不利益を受けないよう輪番制を採択していることから、恒久的に設置(市区町村によってことなりますが、一度場所を定めた場合、少なくても1年以上はその場所で収集を行うとしている自治体が多く、それにより1年周期で移動する輪番制が採択されている町内会が多いようです)されている訳ではありません。
このような性質や内容などから言えば、顧客が指摘する契約不適合にはあたらないと考えられます。
それでは不動産業者の調査義務についてはどうでしょうか?
マナーによってはゴミの散乱や日々の掃除、悪臭などが相応に負担となりますから広義に解釈すれば嫌悪施設にあたる可能性があります。
そもそも町内会に問い合わせる、もしくは売主にあらかじめ質問しておけば知ることも容易だったのですから、不動産業者の調査や告知義務が必要であったとされる可能性が高いでしょう。
たとえ「売主が故意に告げなかった」と立証できたとしても、調査義務の全てが免責される訳ではありませんから、今後の話の流れによっては損害賠償が請求される可能性はあるでしょう。
裁判になった場合、ゴミステーションが輪番制であることから損害賠償が認められる可能性は低いと思いますが、誠意をもって謝罪し、多少のペナルティーを負うことで和解するのが良いとアドバイスしました。
判例では瑕疵が認められることはないように見受けられるが……
さて今回の相談以外にも、ゴミステーションを巡る判例がいくつか確認できましたので紹介しておきましょう。
まず東京高裁で平成8年2月28日(判時1575号)では、「ゴミステーションの場所を固定し、特定の者にのみ被害を受け続けさせることは受忍限度を超える」として、輪番制などを採用し、利用者全員で被害を分け合うことも容易であると言及したうえで、法的な請求を認めています。
これにたいし、ゴミステーションが媒介業者による売買契約当時に存在しておらず、またその性質及び内容、形状から永続的に固定されるものではないとの前提であるものの、入居してから新たに設置されたケース(ちょうど相談事例に近い状態です)において、宅地建物取引業者の告知義務違反について争われた裁判(神戸地裁尼崎支部平成13年5月29日)では、「本件土地建物が住宅として通常有すべき品質を欠き瑕疵があるというのは相当ではない」として、義務違反にあたらないと判断しています。
これらに類似する判例や、裁判にならないまでも紛争相談として国民生活センターなどが仲裁に入っているケースも多数確認できます。
類似する判例を見る限り「受忍限度」についての見解は、諸条件や裁判官が認識する生活感の程度によって見解も分かれている印象を受けますが、輪番制である場合には受忍限度を超えないと判断されることが多いように感じます。
ゴミ置き場については宅地建物取引業法で定められている重要事項の説明範囲とされていませんから調査や告知が義務であるとまでは言えませんが、新しく生活を始める顧客にとっては日常生活に影響を与える事項ですから大切な情報でしょう。
町内会や近隣の方に聞き取るなど容易に確認できる内容ですから、義務ではないにしても調査して伝達しておく方が良いでしょう。
そもそも町内会への加入は強制されるの?
ゴミステーションは、新設・変更・廃止のいずれについても市区町村の管轄部門への申請が必要です。
一般的には共同住宅で4戸以上の場合は申請と設置を義務とし、戸建住宅が建築されている団地内においては維持管理や環境衛生・収集作業の面などから10戸前後/箇所を目安としているところが多いようです。
このような申請業務については自治会や町内会長が担っているケースが多いのですが、筆者が過去に顧客から相談されたケースでは、自治会や町内会への加入を断ったら「それならゴミを捨てるな!」と言われたというものがありました。
今回取り上げた輪番制を採択しているのが町内会である場合、町内会に加入していなければ約束事として順番を強要することもできませんから、不公平が生じるとしてゴミ捨てを禁止すると言いたくなる気持ちも理解はできます。
ですが自治会や町内会に加入するかどうかの判断は個人の自由です。
このような判断基準について裁判で争われた判例もあり、そのいずれもが「加入義務はない」と判決しています。
そのような自由意志で加入や退会ができるという性質上、不動産業者には自治会や町内会の有無や、具体的な活動内容についての調査や説明が義務とされていません。
もっとも、それは法的な見解であって、居住するかたは地域コミュニティーに少なからず関わりをもつ必要が生じるのですから、可能な限り調査してその結果を提供するのが良いでしょう。
前述したゴミステーションの輪番制によるクレームも、そのような心がけで事前に調査していれば防げたかもしれないからです。
まとめ
不動産業はクレーム産業である。
これについて異論のある方は少ないでしょう。
そうであると自覚し、だからこそ問題が生じないよう心を配り顧客のために尽力するのです。
とはいえ、一体、どこまで要望に応えなければならないのかは悩みどころです。
表現は悪いかも知れませんが、お客様は神様だと美辞麗句を語っても、営業会社である以上、一組の顧客にたいし長時間関わり続けることはできません。
同時に複数の見込み客と折衝しているのが一般的ですし、分業制でなければ調査業務のほか契約書の作成や融資の申込など雑多な業務が山積みです。
ですから良い意味で効率よく、かつ問題が生じないよう詳細に業務をこなしていく必要がある。
そのために必要なのが経験と知識ですが、残念ながら一朝一夕に身につくものではありません。
それにインターネットやアプリを利用すれば、ある程度までは経験や知識の未熟さを補い、ミスのない業務を行うことが可能です。
効率よく業務をこなすには、「不動産会社のミカタ」で提供されている秀逸なアプリなどの利用を検討すると同時に、信頼できる先輩諸氏に教えをこうなどして「知見」を深めていくことが大切だと言えるでしょう。