【金融庁への届け出なしに、ローン申込代行業務を行うのは違法じゃないか!】と糾弾された営業マンの話と、多様化するクレーム対応に必要な照会制度について

先日の週刊文春で、某上場不動産会社の媒介で購入した土地について、自ら融資先を探して手続きを行ったにも拘わらず「ローン代行事務手数料」を請求されたことを糾弾する記事を見つけました。

当人が「代行してもらった訳でもないのに請求される意味が分からない。なぜ必要なのか」と質問したところ、担当者が「融資斡旋だけではなく司法書士の手配など決済までの様々な手続きを代行する費用として、皆さんにご請求しております」と回答されたとのこと。

その後もやりとりを続け、結論としては支払い不要に落ちついたらしいのですが、このようなやり取りは珍しいものではありません。

実際に筆者も、過去に国土交通省にたいし「ローン代行事務手数料」の請求が合法であるか否かについて法令照会を行ったことがありますし、ネット記事などでも同様の照会事例が開陳されています。

国土交通省の見解としては、請求内容や態様次第との前置きはあるものの「処分がなされる可能性がある」としています。

詳しく知りたい方は下記URLから筆者が執筆した昨年(2022年)8月29日掲載の「不動産会社のミカタ」のコラムを読んでいただければと思います。

ローン代行事務手数料、融資取扱手数料など名目は何でも良いのですが、これらの費用請求は直ちに違法とまではされないまでも、費用徴収の目的を顧客に説明して承認を得るなど、正しい手順を踏んで媒介業務とは異なる別途委任事項の要件を成立させなければ、ほとんどのケースで違法と判断されるでしょう。

このような考え方については、不動産関連の様々なサイトでも同様の趣旨で記事などが掲載されていますので、顧客も相応の知識を得ていると考えたほうが良いでしょう。

そのような配慮もせず、会社の定めだからと無計画に請求すればトラブルに発展することになりかねません。

筆者のもとにはそのようなトラブル相談が、顧客と業者、両方から持ち込まれますが、今回相談された事例は興味深いものでした。

そもそもの発端は「ローン代行事務手数料」の支払いについてのトラブルでしたが、顧客から「そもそも金融庁への届け出なしにローン申込代行業務を行うのは違法じゃないか。融資代行業務が合法であるとの根拠も含め、代行手数料を請求できる理由を説明しろ!」と言われたとのこと。

話を聞いて、なかなか鋭い点をついてくると感心しましたが、「御社の判断基準に係る部分だから迂闊に助言できないけど、支店長はどう言っているの?」と聞いたところ「個別の問い合わせに応じられないというのが会社の判断だから、それで通せ」と指示されたとのこと。

「丸投げ」と思える指示内容ですから件の営業マンも気の毒ですが、はたして指摘されたように融資代行業務を行うには金融庁への届けが必要なのでしようか?

今回はその点について説明すると同時に、インターネットの利用による情報格差の減少、それにより高度化するクレームに対応するため必要となる、管轄省などにたいし行う法的な見解調査、いわゆる「照会制度」について解説します。

金融庁の見解は?

金銭の貸借に関しては、金融庁に向け一般的な法令解釈を求めた照会事例が存在しています。

照会にたいする回答書によれば以下のような行為は一般的な法解釈として、貸金業規制法第2条第1項に規定される「金銭貸借の媒介」に該当するとされています。

1. 契約の締結の勧誘
2. 契約の勧誘を目的とした商品説明
3. 契約の締結に向けた条件交渉

もっともこのような行為であっても下記のように金銭の貸借に関する事務処理のうち、一部のみを行う場合には金銭の貸借の媒介に至らない行為といえる場合もあるとしています。

① 商品案内チラシ・パンフレット・契約申込書等の単なる配布・交付。
② 契約申込書及びその添付書類等の受領・回収。
③ 住宅ローン等の説明会における一般的な住宅ローン商品の仕組み・活用法などについ ての説明。

本来であれば、融資を受けたいものと行いたいものとの間に立ち、金銭消費貸借契約の成立に尽力した場合には、どちらのために行われているのかを問わず金銭の貸借の媒介に該当します。

ですから冒頭の「金融庁への届け出なしにローン申込代行業務を行うのは違法」との顧客による指摘は間違ったものではないのです。

ですが、私たちの行う融資取扱業務は、概ね金融庁のあげた一部の行為に該当する範囲内です。

本格的に争った場合には総合的に判断されるのでしょうが、少なくても融資斡旋や貸出先金融機関の比較検討の行為にまで金融庁への届け出が必要だとする顧客の主張にたいして反論する根拠になるでしょう。

クレーム文章にも生成AIが利用されている?

インターネットの普及により情報格差が低くなったと言われますが、実際には情報の入手経路や理解力の問題もあります。

つまり理解が及んでいなければクレーム文章も作成できない。

ですが最近ではChatGPTに代表される生成AIを利用してクレーム文章を作成する事例が確認されています。

これを利用すれば、一見して理路整然としたクレーム文章が生成されます。

例えばChatGPTに「当初受けていた説明と違う状態であったことについてその責任を問うクレーム文章を作成してください」と指示してみました。

ChatGPT,クレーム文章

指示してからわずか数秒で、上記のような文章が生成されました。

具体的な問題点などを加筆すれば、このままメールなどで送付できます。

最近、主観的に受ける印象として筆者が不動産業者から、「顧客からこのようなクレームがきて弱り果てている」と相談を受けた場合に開示された内容を見ると、論点などについて、それは見事にまとめられている傾向が高いように感じます。

内容証明や訴状などに慣れ親しんでいても、思わず身構えてしまうような文章です。

皆が皆とまでは言いませんが、クレーム文章の作成にも生成AIが活用されているのでしょうか?

最近では顧客からの相談やクレームに24時間対応でき、それが顧客満足につながるとして生成AIが対応するシステムも数多く開発され実際の導入事例も確認されますが、人間と生成AIがやりとりをした場合、質問などに潜む微妙なニュアンスを理解できないことから、返答した内容が必ずしも論理的に展開されていないことがよくあります。

いずれそのように微妙なニュアンスにも対応し、より精度の高い文章の生成も可能になるのでしょう。

ですが過去のデータから学習し常に論理的であろうとする生成AIにたいし、人間は感情的な側面により時に非論理的な言動が起こりえます。

とくにクレーム対応などについては自ずから限界が生じるでしょう。

クレーム処理には人間同士の対話が重要であると理解し、自ら正確な情報を入手して対応することが大切です。

覚えておきたいノーアクションレター制度

不動産事業の管轄省はご存じ国土交通省ですが、例えば前例のない新たな発想の事業展開を行おうと考えた場合、その行為が法律に抵触しないか悩むことがあるでしょう。

そのような場合、事前にお伺いを立てられれば安心できるというものです。

政府は平成12年12月に「経済行動の変革と創造のための行動計画」を閣議決定したことにより、各省庁において法令適用について事前確認を行うことができる「日本版ノーアクションレター制度」の運用が開始されました。

ちなみに不動産を管轄する国土交通省においては平成14年3月29日から行われています。

これにより以下のような行為についての照会ができるようになりました。

1. 法令(条項)に基づく不利益処分の適用の可能性
2. 法令(条項)に基づく許認可等を受ける必要性
3. 法令(条項)に基づく届出・登録・検査・報告書の提出等を受ける必要性

照会についてはメールによる提出も可能で、法令を特定したうえで照会書に必要事項を記載し、法令毎に設けられた照会窓口にたいして行います。

また代理人による照会も可能です。

法令適用事前確認手続

記載は至って簡単で、照会者名と住所のほかは法令名及び条項・将来自らが行おうとする行為に係る個別具体的な事実・当該法令の条項の適用に関する照会者の見解及び根拠・公表の延期の希望・連絡先を記載するだけです。

この制度は全ての省庁はもとより市区町村などの行政機関も含め導入されている制度です。

もっとも法令適用に関する事前確認という建前がありますので、一般的な法令解釈の問い合わせに対応するものではありません。ですから、一般的な法令解釈について知りたい場合には別途書面照会を行います。

照会する場合には、事前に以下のような注意事項に抵触していないかを確認する必要があります。

1. 特定の事業者の個別の取引等に対する法令適用の有無を照会するものではない、一般的な 法令解釈に係るものであること(ノーアクションレター制度の利用が可能ではないこと)

2. 事実関係の認定を伴う照会でないこと。

3. 直接の適用を受ける事業者(照会者が団体である場合はその団体の構成事業者)に共通する取引等に係る照会であって、多くの事業者からの照会が予想される事項であること。

4. 過去に公表された事務ガイドライン等を踏まえれば明らかになっているものでないこと。

ちなみに照会書式について特段の定めはありません。

前述した法令適用事前照会手続書面を参考にして作成し、下記の内容を漏れなく記載すれば良いでしょう。

1. 照会の対象となる法令の条項及び具体的な論点
2. 照会に関する紹介者の見解及び根拠
3. 照会及び回答内容が公表されることに関する同意

ノーアクションレター制度が個別事案に関しての法令適用の有無に関しての回答を求めるに対し、書面照会手続きは一般的な解釈を求めるものです。

両者の違いや特性を理解して使い分ければ良いでしょう。

まとめ

コラムでも言及しましたが、SNSやメールなど文章によるクレームは従前と比較して専門用語の使用の適切で論理構成も整然としており、一見すれば相応の法律知識を有す有識者による問題提起であると見紛うばかりの物が増えているような気がします。

顧客要求の高度化そして多様化傾向に関しては、不動産業界に限らず全業種共通の認識です。

そのような顧客動向の変化に対応するためにも、私たちは学び続ける必要があるのでしょう。

日本においては「苦情」と理解されることの多いクレームですが、英語圏では「正当な要求」と認識されています。

なぜ日本では理不尽な言いがかりまで含めクレームと一括りにされているのか定かではありませんが、多様化するクレームに対応するのはサービス業全般の定めです。

ただし、どのようなクレームにたいしても「是」とする必要はありません。

正当な要求であれば真摯に対応する必要はありますが、誤った解釈で無理難題を主張してくる場合には、調査により裏付けられた正しい見解を提示すると同時に、受け入れるべきは受け入れる寛容さを持ち対応する必要があるのでしょう。

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