【この記事のポイント】
- ウィズコロナ/アフターコロナにおける中古マンション(首都圏)の成約数、新規登録件数、在庫件数、築年帯別成約率の動向
- 消費者の不動産購入・売却意欲の変化
- 不動産市況と消費者動向を踏まえた媒介獲得のポイント
(公財)東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch」(2023年7月度)によると、当月の首都圏中古マンションの成約単価は1㎡あたり71万9,200万円(前年同月比5.0%上昇)となり、2020年5月から39ヵ月連続で前年同月比増となりました。
成約価格も4,563万円(同4.9%上昇)で38ヵ月連続上昇しています。
一方の物件数ですが、新規登録件数は1万7,131件(同14.3%増)、在庫件数も4万6,235戸(同21.5%増)でこちらも18ヵ月連続の増加となっています。
2023年7月の首都圏中古マンションの成約件数は3,236件(前年同月比4.3%増)で、2ヵ月連続の前年同月比増となりましたが、それを上回るペースで物件数が増加しています。
不動産価格の高騰が続く中で成約数の伸びが鈍化し、在庫物件数が伸びていることが窺えるデータとなっています。
そこで今回の記事では、首都圏中古マンションの成約率および消費者のマインドを確認し、マーケットの現状を踏まえた「媒介獲得のポイント」について考えてみたいと思います。
【1】成約率の低下
以下のグラフ①は、2021年7月から23年7月における中古マンション(首都圏)の成約数・新規登録件数・在庫件数の前年同月比率をまとめたものです。
<グラフ①>直近3年間の首都圏中古マンションの成約数・新規登録件数・在庫件数(単位:%)
引用:(公財)東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch」のデータから筆者が作成
成約件数は、2022年の1月以降前年同月比マイナス基調で推移する一方、新規登録件数・在庫件数は終始プラスで推移していることが分かります。
中古マンションの売出から成約まではタイムラグがありますので一概に言うことはできませんが、2022年1月以前と以降で比較した場合、成約率が低下していることが窺える結果と言えそうです。
【2】築年帯別の成約率
次に(公財)東日本不動産流通機構が公開しているデータから、中古マンションの築年帯別成約率を見ていきたいと思います。
以下のグラフ②は、2019年から2022年における首都圏中古マンションの成約率(成約件数/新規登録件数)を表にまとめたものです。
<グラフ②>首都圏中古マンションの築年帯別成約率(2019年~22年)
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
新築~5年 | 23.3% | 26.3% | 30.5% | 28.6% |
築6年~10年 | 31.9% | 36.4% | 40.7% | 35.2% |
築11年~15年 | 26.1% | 28.0% | 35.3% | 30.9% |
築16年~20年 | 25.8% | 28.4% | 34.9% | 28.1% |
築21年~25年 | 18.6% | 20.7% | 28.3% | 22.2% |
築26年~30年 | 13.5% | 14.1% | 19.9% | 17.5% |
築31年~ | 12.6% | 12.5% | 16.4% | 13.9% |
引用元:(公財)東日本不動産流通機構「REINS TOPIC 築年数から見た首都圏の不動産流通市場」
築浅・築古物件共に成約率は2021年に向けてピークに達し、2022年は21年比で下落傾向が窺える結果となっています。
特に背景色黄色の「築6年〜10年」「築16年〜20年」「築21年〜25年」は、成約率の下落幅が5〜6ポイントとなり、他の築年帯よりも大きくなっていることが分かります。
2023年の成約率はまだ公表されていないものの、グラフ①の結果と照らし合わせると22年並みもしくは下回る結果になることが予測されます。
【3】売出価格と成約価格の比較
今度は、売出価格と成約価格の変化を築年帯別に見てみたいと思います。
グラフ③は、2019年〜2022年における首都圏中古マンションの売出価格と成約価格を比較(成約価格/売出価格)したものです。
<グラフ③>築年帯別新規登録価格と成約価格の比較(成約価格÷新規登録価格で算出。赤字は成約価格が新規登録価格を超えたケース)
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
新築~5年 | 90.94% | 94.84% | 98.35% | 97.95% |
築6年~10年 | 100.51% | 101.66% | 101.39% | 102.31% |
築11年~15年 | 101.08% | 103.80% | 104.27% | 98.70% |
築16年~20年 | 91.00% | 92.06% | 92.46% | 94.12% |
築21年~25年 | 89.22% | 95.01% | 94.14% | 87.66% |
築26年~30年 | 87.21% | 89.42% | 94.05% | 87.25% |
築31年~ | 81.05% | 83.69% | 86.51% | 84.31% |
引用元:(公財)東日本不動産流通機構「REINS TOPIC 築年数から見た首都圏の不動産流通市場」から筆者が算出して作成
2019年から2021年にかけて、売出価格と成約価格が接近する傾向が見られ、中でも「築6年〜10年」「築11年〜15年」では成約価格が売出価格を超えるケースが占めています。
その一方で、21年・22年比で見ると全般的に売出価格と成約価格が乖離する方向に転じており、特に「築16年〜20年」「築21年〜25年」(背景色黄色)では約7ポイント拡大しています。
「築11年〜15年」も、過去4年間で唯一成約価格が売出価格を下回るという結果となりました。
グラフ②③のデータを踏まえると、特に「築21年」以降の物件は、成約率の低下、売出価格と成約価格の乖離が顕著となっており、売れる物件と売れない物件の二極化がより進んでいることが読み取れます。
築浅であっても「築11年〜15年」などは、21年比で成約率の低下と売出価格と成約価格の乖離拡大傾向が見られます。
築年数の条件だけ成約動向のすべてが決まるわけではありませんが、これらのデータを踏まえると、築年帯ごとの売出価格と成約率の関連性をこれまで以上に注視していく必要が高まっていると言えるでしょう。
【4】消費者の不動産購入・売却マインド
ここでは、不動産の売却・購入に関する消費者のマインドについて、野村不動産ソリューションズ(株)が実施した「住宅購入に関する意識調査アンケート」を参照しながら考えてみたいと思います。
<グラフ④>Q.今、不動産は買い時だと思いますか?
買い時だと思う | どちらかと言えば買い時だと思う | 買い時だと思わない | 分からない | |
2021年1月 | 5.6% | 19.4% | 30.9% | 44.0% |
8月 | 6.8% | 17.4% | 36.1% | 39.7% |
2022年1月 | 8.7% | 23.7% | 49.0% | 18.6% |
7月 | 9.3% | 22.1% | 49.4% | 19.2% |
2023年1月 | 8.4% | 22.2% | 52.5% | 16.9% |
7月 | 8.8% | 24.3% | 48.1% | 18.8% |
引用元:野村不動産ソリューションズ「住宅購入に関する意識調査アンケート」
「買い時だと思う」と回答した割合(背景色黄色+赤)割合は2023年7月調査で33.1%となりました。
2022年1月以降は「買い時だと思う」割合が増加し、その傾向が続いていることが分かります。
買い時だと思う理由については、「住宅ローンの金利が低水準」が60.5%で最も多く、2023年1月の前回調査から9.2ポイント増加しています。
2023年4月の日銀総裁の交代によって、金利政策が変更される可能性がメディアを賑わせていました。
しかし、植田新総裁が金融緩和を維持する旨の発表をしたことで、懸念が一旦払拭されたことが一因になっていると考えられます。
<グラフ⑤>Q.今、不動産は売り時だと思いますか?
売り時だと思う | どちらかと言えば売り時だと思う | どちらかと言えば売り時だと思わない | 売り時だと思わない | |
2021年1月 | 12.8% | 42.3% | 28.6% | 16.3% |
8月 | 20.9% | 49.7% | 17.9% | 11.5% |
2022年1月 | 23.9% | 54.7% | 13.8% | 7.6% |
7月 | 24.3% | 57.1% | 11.5% | 7.1% |
2023年1月 | 21.3% | 57.5% | 14.5% | 6.7% |
7月 | 22.6% | 59.6% | 12.0% | 5.8% |
引用元:野村不動産ソリューションズ「住宅購入に関する意識調査アンケート」
「売り時だと思う」「どちらかと言えば売り時だと思う」を合わせた割合(背景色黄色+赤)は、2023年7月調査で82.2%となりました。
こちらも2022年1月調査で80%を超えて以来高い水準を維持しています。
売り時だと思う理由については「不動産価格が上がったため」が2023年1月調査から引き続き最も多く、77.4%を占める結果となっています。
不動産価格の高騰、成約率の低下といった状況はあるものの、消費者の不動産購入・売却の意欲は旺盛な状況が続いていると言えそうです。
【5】まとめ「媒介獲得のポイント」
ここまでのポイントを以下にまとめます。
- 首都圏の中古マンション市況においては、2021年頃までは成約率の上昇、売出価格と成約価格の幅が縮小する傾向が見られる。しかし、22年以降は成約率の下落、売出価格と成約価格の幅の拡大傾向が見られ、23年もその傾向は続くものと考えられる。
- 築年帯別成約率および売出価格と成約価格の値引率を比較すると、「築21年」を境目に相違が見られ、売れる物件と売れない物件の二極化がより進んでいるものと考えられる。
- 築浅物件においては、「築11年〜15年」の物件で成約率の低下と売出価格と成約価格の乖離拡大傾向が見られる。
- 消費者においては、不動産の購入・売却ともに意欲が旺盛な状況が続いており、不動産価格の高騰や住宅ローンの低金利がその一因となっていることが窺える。
<媒介獲得のポイント>
ここまでの結果を踏まえると、①成約までの期間の長期化②売出価格の最適化への対応が媒介獲得のためにより重要になっていくと考えられます。
①成約までの期間の長期化
成約率が低下している一方、消費者における不動産購入・売却については、需要が引き続き旺盛であることから、見込み客に対しては「不動産価格の踊り場」が近いことの訴求が有効になりそうです。
その一方で、上での述べた「二極化」が進むことで、成約にはなかなか至らない「歩留まりの悪化」が発生することが予想されます。
前回の記事「【媒介獲得のポイント】「先に購入」「後から売却」の住み替えが増加中!」でも触れましたが、住み替えにおいては「買い先行」のケースが増加傾向にあるため、購入の成約期間が長期化することは売却にも影響がおよぶ可能性が高くなりますので、対策を講じる必要がありそうです。
昨今では、不動産DXを活用した追客の自動化やインサイドセールスの導入など、営業活動の効率化を推進する不動産会社さまが増加しています。
これらは営業活動を細分化し、業務分掌を明確にすることで効率化を図る取り組みですが、歩留まりの改善にも効果が期待できます。
②売出価格の最適化
「買い先行」の住み替えが増加傾向にあり、新居の購入/現住居の売却の円滑化ニーズが高まっていることは、上で述べた前回の記事でもお伝えした通りです。
売主とのコミュニケーションにおいては、築浅であっても必ずしも高く・早く売却できるわけではないことをこれまで以上に丁寧で細やかに行う必要がありそうです。
築年数も含めた物件の「競争力」に応じて適切な価格戦略を提示し、長期化リスクを避けることが求められるでしょう。
高すぎる価格設定をしないことはもとより、値引きの仕方や最低売却価格などについても事前にしっかりとコミュニケーションを取り、スムーズに購入/売却を進められる体制を整えておくことの重要性がより一層高まっていくでしょう。
【野村不動産ソリューションズ(株)「住宅購入に関する意識調査アンケート」概要】
調査時期 : 2023年7月3日(月)~7月16日(日)
有効回答数: 1,964
調査対象 : 不動産情報サイト「ノムコム」会員
調査方法: インターネット上でのアンケート回答